第24話 「ときすでにお寿司」
「いきなり攻撃とは随分と焦っているじゃないか!」
「……俺は修羅の道を歩むことにした。
眼の前に立つ者は全て薙ぎ倒す!!」
夕闇の住宅街、二つの影が交差している。
一方の無骨な上半身裸の男は片腕を喪失していた。
にも関わらず、その拳ににごりはなかった。
最初から、そういうスタイルであったかのような流れるような動きで、隻腕の拳法家、杉村弘樹は拳を振るう。
対峙する学生服の少女、戸波美沙は鞘に入った日本刀で攻撃を受け流す。
彼女もまた剣道部に所属しており、腕っぷしには自信ありといった少女だ。
「女ながらにやるじゃないか……ならば、せめて奥義で葬ってやろう」
そう言った杉村の身体から闘気が放出される。
黄金色の光に包まれていく彼を見て、美沙は驚愕の表情を浮かべる。
そして、彼女は杉村の意識を奪う為に鞘入りの日本刀を振るうも杉村の流れるような動きを捉えられずにいた。
「全くもってデタラメなヤツだ……」
美沙は肩で息をしていた。
額に浮いた汗を拭い、彼女はどんどん身体中の光を増している杉村に対し恐怖すら抱いていた。
そんな時に陽気なBGMと共に定時放送が流れる。
『みんなお疲れ^0^
ただいま午後6時^-^
約束の18時になったので、定期放送タイムがやって参りました^^
それでは、まず禁止エリアの発表をおこなうゾ^0^』
「………………」
「……何……だと?」
死亡者発表が終わった辺りで、杉村の表情が変わった。
棒立ちのまま、まるで顔面蒼白、身体中を震わせ涙すら流していた。
自らの恋人を殺し、更には自らも一度殺した宿敵、倉元洋二が死んでしまった事に絶望していたのだ。
杉村は、倉元を殺す為だけにいきていたのだから。
「何だ……誰か知り合いでも死んだのか?」
今までと打って変わった態度に美沙もまた狼狽していた。
その美沙を見据えたまま、杉村は口を開く。
「女、お前を俺を殺せるか?」
「何を……私は殺し合いをするつもりはない!」
きっぱりと言い放つ美沙に対し、杉村はどこまでも冷淡な目を向けた。
まるで失望した、とばかりに。
「そうか……ならば、用はない」
残像を残しながら、一瞬にして美沙の背後に回り込む杉村。
振り向きざまに剣を振るうも杉村はそれを避ける事すらせず、額で受け止めた。
杉村の額が血に滲む。
だが、関係ないとばかりに杉村は片手から、謎の気功波を放った。
「あああああああああああああああああああ」
人間が手から気功波を撃つなどという意味不明な状況に遭遇し動転している美沙が杉村の闘気の渦に飲み込まれていく。
そして、そこには既に絶命して横たわる美沙がいた。
杉村はおもむろに、自分のデイバッグから自らの支給武器である”高級寿司セット”を喰らう。
それは彼にとっては、最後の晩餐のつもりなのだろうか、その心中を知る者はいない。
「……ぐふぉっ!? 何だこの寿司……消費期限切れとるやんけ……腹が……!!」
ぐぎゅるるるる……杉村の腹が大きな音を立てる。
杉村は突然の腹痛に悶える。
彼はもっと早くに期限を確認すれば良かったのだ。
だが、時すでにお寿司。
「べべべべんじょーーー!!!」
杉村は駆ける。
疾風の如く駆ける。
最終更新:2015年01月26日 23:15