第25話 「再会」
「誰か知り合いが?」
「ええ、知っている男の子が、ね……」
死者発表にて網井海人の名前を聞いてしまったシェリーは少しさびしく思った。
キース・ハーディンフォードの襲撃から助けてくれた少年。
100年以上生きているシェリーだったが、やはり知り合いが死ぬのは良い気のしないものだ、と思った。
「あの男の子には助けて貰ったきりだったんだけどね……」
「そう」
シェリー・ウォッカと風間 姫子は定時放送を聞き終わると、森の中を進む。
ふたりが身を隠すように移動していると、前方からライフルを肩に担いだガリガリに痩せた大男がドスドスと走ってきた。
「ひぃぃぃぃめぇぇぇぇこぉぉぉぉちゅわわわわわあああああぁぁぁぁぁん!!!!」
鼻水によだれ、涙というありとあらゆる汁を撒き散らしながら、駆けてくるのは人造人間ジェフ・デッドマン。
人を殺す為だけに、姫子の父により作られた哀れな男である。
だが、それと同時に自分の父を殺したのもまたジェフであった。
そんなジェフに対し、姫子は嫌悪感を露わに言う。
「げ、ジェフ、あんたも来てたの……」
「あら、姫子の知り合い? にしては、何か事情のありそうな仲のようね」
シェリーは、姫子の表情から、二人の間の関係に何かあるな、と思った。
「う、嬉しいよ! ま、また姫子ちゃんと会えるなんて!!」
肩で息をしながら、笑う事に慣れていないジェフは引き攣ったような歪な笑顔を浮かべる。
だが、その嬉しそうな感情は、嘘偽りのない彼の感情であった。
「ジェフ……よくもまた、いけしゃあしゃあと私の前に顔を出せるものね」
「ごめんよ。姫子ちゃん……僕がいたから母さ……翔子さんは殺されたし、君の父さんも僕が殺しちゃったんだ。
君の事を殺しちゃった事はとても悪いと思っているし、そんな僕が君の父さんの後釜になって、六芒星のひとりになっちゃった事も姫子ちゃんは面白くないと思うよ。
ねぇ、どうしたら、僕の事を許してくれるの? 姫子ちゃん……うぐっ……ぐすぅ…………うえぇ…………」
嗚咽しながら、どうしていいか分からず、泣き出してしまった。
戦闘用人造人間として生を受けた彼は、生まれた時に既に大人の肉体を持っていた。
更に、人を殺す事しかプログラムされてない彼は、道徳だとかいう一般人が持っているだろう常識が完全に抜け落ちていた。
「ねぇ、姫子、ちょっと可哀そうじゃない?」
助け船を出すシェリーに対し、姫子は激昂する。
「何言ってるのよ! 今ジェフが言ったでしょ! 私殺されてるのよ!? こいつに! 父も!」
「で……でも、姫子ちゃんだってその後、僕の事、殺したじゃないか……あの惑星で……」
ボソリと言うジェフ。
「うぐっ……で、でもそれは殺されても仕方ない事を貴方がしたからじゃない!!」
姫子は一瞬言葉につまるものも、尚も噛みつく。
「で、でもでも、姫子ちゃんこそ僕の事失敗作なんて言ったじゃない! 滅茶苦茶傷付いたんだよ僕はぁ!!」
互いに怒鳴り合う間に、シェリーがやれやれとばかりに割って入る。
「まあまあ、それならケンカ両成敗って事でいいんじゃない?
取り敢えず、こんな所で騒ぐのはよしましょう。話すなら人が来ないところまで移動しない?
こんな往来の場じゃ殺し合いに乗った人が寄ってくるかもだし、携帯電話?の充電もしたいし……」
(痴話喧嘩かしら……殺した殺されたとかした仲の割には面白い関係ね)
「そ、それなら、この先の住宅街の方に行こうよ……僕も水と食料が欲しくて、向かっている途中だったんだ」
「仕方ないわね……いいこと、ジェフ!
変な事をしたら、今度こそ生き返れないくらいにぶち殺しますわよッ!!」
「う……うん、もちろんしないよ……。
ひ、ひ、姫子ちゃんと一緒に行動できるなんて……すごく、う、嬉しいなぁ……」
(まるで彼氏の浮気を許しちゃう駄目な彼女みたいなやり取りね……)
シェリーは心の中でこっそりと思った。
「ぼ……僕、今度は守るよ! 姫子ちゃんと……あとそっちの……えと」
ジェフはもじもじと、姫子の隣にいたシェリーに視線を向けた。
「シェリー・ウォッカです、はじめましてジェフさん」
年相応の少女のように微笑みかけるシェリー。
「あ……ぼ、僕はジェフ……デッドマン……はじめまして……シェリー……ちゃん?
ふたりとも僕が守るからね!!」
頬を赤らめながら、歪に笑うジェフ。
最終更新:2015年01月26日 23:15