第32話 不幸な女


「とととと、取り敢えず隠れてやり過ごそう」

 不幸な女パンドラは、そう決め、スタート地点近くの民家に立て篭もった。
 パンドラが根城に決めた民家は水も食料の備蓄もあり、篭城には持って来いであった。
 彼女の支給品は、空気砲という名の筒。
 「ドカン」と言えば、空気の砲弾が発射できるという優れもので、弾切れの心配もない。
 また島の中心部の為、禁止地区から逃げ回る必要もないので、パンドラは自分の幸運を喜んだ。

「18人かあ……全然知らない名前ばかりだし、殺し合いなんて実感わかないなあ」

 パンドラは定期放送を聞き終えると、ベッドにごろんと転がった。

 次の瞬間、パンドラの立っていた空間が横一文字に切り裂かれた。

「……へ?」

 倒壊する建物。
 何が起きたのか分からないといった風にパンドラは混乱した。

「ふ……今のを避けるとは中々やるようだな。
 俺は正義の戦士アドレイ・スティーブンソン。
 この何でも一刀両断可能な聖剣フルゴールの錆になるがいい」

「ドカアアアン!!」

 偶然に避けれた幸運に酔いしれる暇もなく、パンドラはすぐさま空気砲を掛け声と共に撃った。
 不可視の圧縮された空気の砲弾が不意打ち気味にアドレイの胴体に直撃する。

「ごふっ!?」

 アドレイは剣を落とし血を吐いて動きを止める。
 内臓へのダメージは彼の動きを鈍らせた。

「やった! 効いてる!? もう一回!」

 アドレイの耳にその声は届いていた。
 だが、足が震えて動けなかった。

「いっけー! ドカ―――」

 パンドラは「ドカン」のフレーズを言い終わる前に動きが止まった。
 それは一発の銃声だった。
 銃弾はパンドラの胸を撃ち抜いていた。

「ちょっと!ジェフ!ちゃんと急所を外したんでしょうね!?」

 遠くから女の声が聞こえてくる。

「えーー、あの女の人は殺し合いに乗ってるし、躊躇わず他人を殺すよ?
 生かしといても、得な事なんてないし、も、もう殺しちゃったよー」

 今度は間の抜けた男の声だった。
 ジェフと呼ばれた男は自らの支給品であるライフル銃を担ぎながら、女に弁解していた。

「まあまあ、ジェフの言う事にも一理あるし、戦士風の男に事情を聞いてみましょうよ」

(……仕掛けてきたのは……向こうなのに……)

 パンドラは納得できないと言った風に小声で呟くと倒れた。


 パンドラ@英雄戦争 -Battle royale for Ragnarok-     死亡    残り24人
最終更新:2015年01月27日 15:28