第四話「時代を越えて」
着物姿の男がふたり、互いに睨み合う。
片方は、幕末に活躍した長州藩の攘夷志士。
奇兵隊の高杉晋作が鷹のような鋭い眼光を目の前の男に向ける。
もう一方は、江戸幕府中期の蘭学医者、解体新書で知られる杉田玄白である。
「…………」
「…………」
互いに無言。
柳生新陰流剣術を修めた高杉にとって、枯れ枝のような体躯の玄白など敵にならない。
だが、彼の支給品は、もみじ饅頭。
ただの美味しいもみじ饅頭なのだ。
高杉は、おもむろに懐から取り出したもみじ饅頭を頬張る。
それを見て、玄白はにやりと笑う。
「――解体してやるぜぇぇぁぁぁ!!!」
先に仕掛けたのは杉田玄白。
支給品の小太刀を片手に奇声と共に飛び掛かっていく。
次の瞬間、目にも止まらぬ動きで玄白の懐に入り込んだ高杉が一瞬にして小太刀を取り上げた。
何が起きたか分からないといった表情を浮かべる間もなく、玄白の首が掻っ切られた。
それは、柳生新陰流剣術の極意――無刀取りである。
だが、剣術の世界など欠片すら知らぬ玄白には、不可解な出来事である。
ばたりと倒れる玄白など気に留める間もなく、高杉は2つめのもみじ饅頭を頬張った。
「……美味でござる」
高杉は饅頭の味に満足しながら、先へと進む。
出席番号 11 番 杉田玄白 ――死亡 残り12人
最終更新:2015年01月27日 17:19