第五話「漁夫の利の利」
ちびまる子ちゃんのクラスメイト、大食いの小杉 太(こすぎ ふとし)は腹の虫を鳴らしながら、山道を歩いていた。
「ちっくしょ~……腹が減ってしょうがないぜ……。
支給された飯なんかじゃ足りないぜ……こうなったら、誰かを襲って食いモン奪うしかねぇな……」
太は邪悪に笑うと、支給品のレミントンショットガンを肩に担いだ。
ずっ。
それは、山道の土を踏みしめた音だった。
音の出所は、太の背後である。
「誰だぁぁぁ!!!」
怒号と共にレミントンを音の出所に向け構える太。
そこにいたのは、熟女の色気を漂わせた杉本彩であった。
「……オバサン、カバンの中の食い物を寄越しな! 死にたくなかったらな!!」
「……分かったわ」
絶体絶命のピンチに素直に言う事を聞く彩。
支給品の入ったカバンへと手を入れる。
だが、その行動に言いようもない不安感を煽られた太は舌打ちをした。
「動くな!! ……カバンごと寄越せ!!」
警戒心を剥き出しに、怒鳴りつける太に対して、彩は、ゆっくりとカバンから手を出すと、太の方へと放り投げた。
「へへへ……もうオバサンには用はないや。死にたくないなら、とっととどっかに行け」
銃口を彩に向け、カバンを足下に寄せながら叫ぶ太。
彩は憎々しげな顔をしながら、その場から立ち去った。
その後ろ姿を見送った太は、素早くカバンの中身をぶちまけて菓子パンを手にとった。
「ん……何だ食いかけかよ……意地汚いババアだぜ……まあいいや早速いただきま――」
次の瞬間、太は気付いた。
何か、カチカチと音を立てる奇妙な機械の存在に。
次の瞬間、周囲は爆発した。
彩の仕掛けた時限爆弾のせいだ。
「馬鹿な子ね……」
彩は背後から巻き起こる爆発音を聞き呟いた。
だが、彩もまた銃撃の音と共に倒れた。
30メートル離れた崖の上からライフル銃で狙撃されたからだ。
それは、若手俳優、杉浦太陽であった。
「杉本さん……すみませんね。
だが俺も希美……あいつの為に負けれないんだ。
この戦いに勝ったら、夫婦二人で24時間テレビの司会だ!
待ってろよ、希美!! 愛してるぜぇぇぇ!!」
カチャリ。
太陽の背後には天才小学生――出木杉がいた。
出木杉は支給品のデリンジャーの銃口を太陽の後頭部に向ける。
「チェックメイドだよ……お兄さん」
「……待ってくれ、俺には愛する3人の子供と妻が――」
「じゃあ、お兄さんを生かしてて僕に何の利益があるか教えてよ」
「そ、それは……まだ結構人数残ってるだろ……君ひとりで勝ち残るつもり?
俺がいれば、だいぶ人数を減らす事ができ――」
「う~ん……余り魅力的な提案じゃないなぁ……。
だって、それってそのライフルがあれば僕だって出来るでしょ?」
「くっ……」
「それにお兄さんは愛する妻子がいるんでしょ……なら、いずれは僕を殺さないといけない……僕が見逃す理由は無いよ」
「ま、待ってくれ! 頼む!」
「待たないよ」
パァン!
出木杉は杉浦を殺した。
「...Fuck you!」
低い声だった。
それは、ボンデージルックに身を包んだヴァン・ダークホームことTDNコスギであった。
彼は、不機嫌そうな表情で太の遺品であるレミントンを手に取り出木杉に向かって引き金を引いた。
だが、射程距離の短い散弾銃では出木杉に届くことはない。
そのことを理解したTDNは、きびすを返して逃げ出した。
「チッ……逃がさないよ……!」
だが、出木杉が狙撃銃を拾い上げ、スコープを覗き込んだ時、既にTDNの姿はなかった。
出席番号 02 番 小杉太
出席番号 15 番 杉本彩
出席番号 08 番 杉浦太陽 ――死亡 残り9人
最終更新:2015年01月27日 17:20