第八話「芸人ふたり」
午後六時過ぎ、周囲は夕焼け色に染まっていた。
「スギちゃん、殺し合いなんて余りやりたくないぜぇ……」
お笑い芸人スギちゃんは、放送を聞いて落ち込んでいた。
同じ芸能界を生きる仲間たちが大勢死んだ。
そして、同じ芸人のブラマヨ小杉やケイン・コスギといった先輩達も人殺しに手を染めている。
その事がとても悲しいのだ。
加えて、何よりも悲しいのは、人を笑わす筈の自分が人殺しになってしまった事である。
「でも、スギちゃん、死にたくもないんだぜぇ……」
スギちゃんは、自分の性格から司会には向いてない事を理解していた。
故に死にもの狂いで司会の座を手に入れたいわけではない。
だが、自分の命を奪われるのならば、それは全力で抗うつもりでいた。
しかし、よくよく考えてみれば、今生き残っているのは皆、人殺しなのだ。
受け身でいて、生き残れる可能性は少ない。
ケインはかなりの実力者だろうし、司会の仕事が入るようになってきたブラマヨ小杉などは、24時間テレビの司会の座は喉から手が出る程ほしがるだろう。
やはり、受け身では駄目だ――そう思い、スギちゃんは杉村太蔵から奪った拳銃ベレッタを握りしめる。
「お前、スギちゃんやろ?」
突然、背中から声を掛けられたスギちゃんは、ビクリと震えた。
そして、振り返る。
そこには、返り血に身を染めたブラマヨ小杉がいた。
「やっぱなぁ……スギちゃん、お前、誰殺した?
ちなみに、俺は、おすぎさんやったったわ……コイツでぐしゃぐしゃにな……」
赤く染まった金属バットを掲げてブラマヨ小杉が歪に笑った。
その表情にスギちゃんの背中に悪寒が走る。
「……スギちゃんは………杉村太蔵さんを……殺したぜぇ……」
震える声で絞り出す。
そして、涙を流しながら、拳銃ベレッタを構えた。
「銃を構えたスギちゃん……まるでダーティーハリーみたいに……ワイルドだろォ……」
銃口を向けられたブラマヨ小杉の興奮が最高潮に達した。
「お前!!」
右手に金属バット、左手に鉈を持ってスギちゃん目掛けて駆けていくブラマヨ小杉の胸が撃ち抜かれる。
だが、走り続ける。
今度は肩、腹部、腕――次々に撃たれていく。
だが、気力で走り続けた。
そして、スギちゃんの眼前に迫る。
「杉山ぁぁ!!」
怒号と共に鉈が振り下ろされた。
力任せに振り下ろされた極太の刃がスギちゃんの胴体を切り裂く。
「……今度は外さないぜぇ」
パァン!
スギちゃんのベレッタはゼロ距離からブラマヨ小杉の脳天を撃ち抜いた。
ブラマヨ小杉は死んだ。
「……くぅ、防刃チョッキじゃないから痛いぜぇ……でも着てないよりはマシだぜぇ……」
切り裂かれた防弾チョッキを脱ぎ捨てながら、スギちゃんは傷口を飲料水で洗った。
「血が止まらないぜぇ……」
血が止まらない。
死んだブラマヨ小杉に手を合わせ、衣服をはぎ取って包帯代わりに使えないかと試行錯誤する。
出席番号 19 番 ブラマヨ小杉 ――死亡 残り6人
最終更新:2015年01月27日 17:21