~プロローグ2 野球部の面々
「スポーツマンがタバコなんぞ吸っちゃいかんぞ」
野球部部室内で、部員の如月 進(きさらぎ しん)が呆れたように言う。
彼は、長髪でさわやか系の顔立ちで背も高めの一塁手だった。
「うるせえなあ、俺の勝手だろーがよ…」
苛ついたように答えるのは、坊主頭にワイルドな顔立ちの鷹島 龍光(たかしま たつみつ)だった。
彼は野球部のエースで、高いバッティングセンスと足の速さ、鉄壁の守備を誇る三塁手である。
「勝手なのはいいけどさ、見つかって出場停止になったりすると俺が困るんだよね」
「ちっ、めんどくせえ野郎だな…ほら、これでいいんだろ?」
龍光は大柄な身体を起こし、投げやりにタバコの火をコーヒーの空き缶に押し付けて消した。
ガチャとドアが開き、黒縁の四角い眼鏡に無精ひげを生やしたツンツン頭の男が入ってきて、大げさに嫌な顔を作る。
「ヤニくせーよ!ほらほら換気しろよ!」
男の名は、河鹿 将(かじか しょう)。
無骨そうな見た目に反し、マメで綺麗好きな男である。
彼は窓を開けると、せわしなく散らかったゴミをポリ袋に入れていく。
「将、お前って結構マメだよね」
進がそう言うと
「お前らがだらしないんだよ!」
将が豪快に進の言葉を切り捨てると、パンパンに膨らんだポリ袋の口を結ぶ。
「ほら、進、これ焼却炉に捨ててきてくれ」
将がホレと言わんばかりに進にポリ袋を手渡そうとすると
「そんなもん一年にやらせなよ」
進は嫌そうな顔をする。
「一年二年は、しごきの真っ最中だろ。俺が片付けたんだから、お前捨てて来い」
「ちぇ、仕方ないな…」
渋々といった風に進はポリ袋を担ぐと、部室をあとにした。
そんな二人のやり取りをボーっと眺めていた龍光に将が真面目な顔で声を掛けた。
「龍光、旅行から帰ったら直ぐ試合だな」
「ああ」
「また乱堂に助っ人を頼む事になるだろうが」
「乱堂か…俺はあいつは好かん」
そう言うと、龍光は再びタバコに火を付けようとして将の方を見る。
「吸えって」
その言葉を聞くと、龍光はタバコに火をつけた。
~プロローグ3 校舎裏で
「あっ、サンタさんだープレゼントちょうだい」
大きなポリ袋を肩に担いだ進が小柄な少女、湯崎 凛(ゆざき りん)に呼び止められる。
二人は、幼馴染であった。
「空き缶とカップ麺の容器でよければ」
うんざりとした面持ちで、凛の方へ顔を向けると、進は背負ったポリ袋を揺らした。
「凛、お前なぁ…言ってて何とも思わないのか」
「うん、ちょっと恥ずかしかった」
一方、凛は進と会えたのが嬉しかったのか、にこりと笑う。
「これからバイトか?」
(凛は、身内の手伝いという事で知り合いのペットショップでバイトをしている)
「うん、今日新しいワンちゃんが来るんだ。見に行くって言ったら、シフト入れられちゃってて」
「そうか、明日修学旅行だぞ。程々にな」
そう言って、背を向け立ち去ろうとする。
「あの、進くん」
凛は、緊張した面持ちで進を呼び止め、進は振り返る。
「修学旅行の自由行動の予定って入ってる?」
凛の問いに進は
「悪いな、入ってる」
と即答すると、続けざまに
「お前も俺ばかりに構わず他にも目を向けな」
そう言って去っていった。
凛は、暫く俯いたまま立ち尽くしていた。
辺りは、夕焼けが夕闇に変わろうとしていた。
最終更新:2015年01月30日 11:01