~第4話 狂犬と猟犬
大男は、デイバッグから自分の支給品を取り出すと、ソレが外れだと悟り舌打ちした。
彼は転校生、伊集院 秋貴(いじゅういん あきたか)。
赤髪で身長180cmを越える長身に程よく筋肉と脂肪の付いたレスラーのような身体が特徴的だ。
彼は前年度プログラム優勝者だったが、その際に快楽殺人の気に目覚めたのがキッカケでプログラムに再び志願したのだった。
秋貴は右手に持ったフルフェイスメットを被ろうとする。
しかし、秋貴の頭がでか過ぎて入らない。
「馬鹿にしやがって!」
メットを地面に叩きつけ、これからどうしようかと考えをめぐらせる。
「やっぱ武器がねぇ事には誰もバラせねぇ…。
西川のクソッタレめ。
少しくらい気を使いやがれ。
俺様を誰だと思ってやがる…」
愚痴るも誰もそれに対する答えを出してはくれない。
秋貴は痰を吐くと、ヘルメットを拾い上げる。
「こんなもんでも鈍器ぐらいにゃなるか……っと!?」
そして、今まで自分の頭がある所に風を切る音が駆け抜けていく。
身の危険を感じた秋貴は、そのまま横っ飛びに草陰に隠れた。
すると、今まで自分がいた場所の地面がえぐられる。
秋貴は、その凶器である鎖を手繰り寄せる銀髪の男を睨みつけた。
「…チッ、運のいいやつめ」
姿を見せた銀髪の男――秋貴と同じ転校生の氷室 玲人(ひむろ れいと)は、毒づくと、鎌の付いた鎖を構えた。
そして、鎖の先に備え付けられた分銅を秋貴に向け発射する。
秋貴は、反射的にフルフェイスメットを顔面を守るように掲げた。
鈍い音と共にメットに亀裂が走る。
狙いは正確だった。
今防御しないでいたら、脳髄が飛び散っていただろう。
「忍者かよ!」
秋貴は、玲人が鎖を手繰り寄せる隙を狙い、渾身の力でフルフェイスメットを投げつける。
玲人は不意に放たれたメットを辛くも避ける。
だが、メットは直ぐ後ろの木にぶち当たり、バラバラに砕ける。
その破片が玲人に降り注ぎ、玲人の行動を遅らせる。
同時に秋貴は巨体に似合わぬスピードで脱兎の如く逃げ出した。
「…なんて馬鹿力だ……追うか?」
玲人は、駆け出そうとして思いとどまる。
ああいう力自慢に下手に傷を負わし、死に物狂いで掛かって来られたら危険だ。
あの男は、人を躊躇わず殺すタイプの人間だろう。
教室で直ぐそばで見ていて解ったが、あの男は愉快そうにこの状況を楽しんでいるかのようだった。
不意打ちで排除してしまえれば良かったのだが、そう簡単に始末できる相手では無い事がわかった。
自分には、やるべき事がある。
プログラムの完全破壊…それを成すまでは死ぬわけにはいかない。
玲人から逃げ、追跡も無い事が解った秋貴は苛立ちを隠せずにいた。
「クソッタレめ、名前なんつったっけ。…んなこたぁどうでもいい!」
しかし、あの男、自分と同じような身の上かと思ったが、違うのか。
あんなマニアックな武器を器用に扱い、自分を追い詰めた野郎が普通の中・高校生には思えない。
「何モンだ…?」
まあいい…。
彼は細かい事は気にしない。
あるのは、楽に殺せるか、殺せないかだけだ。
「あのクサリガマ野郎、今度見つけたら、ぶっ殺してやるぜ…その為にも…」
まず、武器が必要だった。
秋貴は、地図を取り出すと、武器が得られそうな場所を探す。
その中で武器らしきものが得られそうなのは、町エリアだった。
自分は西の辺りでクサリガマ野郎に襲われ、逃げてきた。
だから、北東にある町を目指す。
包丁でも、鋏でもいい。
町なら、他の参加者も集まってくるだろうし、そいつらから力ずくで奪い取ってもいい。
「ぐひひひひひっ」
不気味な笑い声を上げると、秋貴は辺りを警戒しつつ、早足で目的地を目指すのだった。
【伊集院秋貴】《所持品》なし
【氷室玲人】《所持品》鎖鎌
最終更新:2015年01月30日 11:08