~第13話 脱プログラムへのロード 第一章



「まさかタカやんに会えるとは思ってなかったぜー」
 そんな風に少し陽気に喋るのは、親友の宮嶋博和だった。
 彼が左手に持っているのは伸縮式特殊警棒、彼の支給された武器だそうだ。
「僕もヒロに会えて心強いさ」
 僕――御巫貴史は、同じ新聞部であり、クラスの中でも取り分け仲が良い【宮嶋博和】ことをヒロ
と呼ぶ。
 同様に、博和は僕の事をタカやんと呼ぶ。
 僕はあれから、考えををメモ帳にまとめると、地図を南下した。
 そして、もしヤバイ奴に会った時に、逃げやすいようにと山を抜けるトンネルを避け、山道を使い人や物が集まりそうな島北東の町を目指す事にした。
 そういった場所には、ゲームに乗った奴等に出くわす可能性が高いが、虎穴に入らずんば虎児を得ず。
 そういうように、世の中は大きなリターンを望むには、ハイリスクを背負う必要があるものだ。
 だが、そのお陰でこうやって信用のおける仲間を得る事もできたのだ。
 木陰に隠れて恐怖に震えているよりも、遥かに有益であることが実証できた。
 今の僕には、それが満足だった。
「しかし、教室で君が圭介を止めるために西川に割って入っていった時は心臓が止まるかと思ったよ」
 そう、博和は、あの自分が殺されてしまうかもしれない瞬間に他者を助けるという行為に及んだ。
「うん……あのままじゃ圭介まで殺されちまうと思ったらさ……勝手に口が開いたんだよね」
 博和はあの時の事を思い出したのだろうか、身震いすると、冷や汗を浮かべ苦笑いをしながら答える。
 ――俺なら、まず出来ない。
 博和は根っからのお人好しである……世の中ではこういった性質の事を美徳であり、弱点であるという。
 だが、こういった騙し騙されの場では彼のような存在は重要なファクターであると俺は信じる。
 だからこそ、まずは博和に……俺の脱出計画について伝える必要があった。
 しかし、この首輪がある限り口に出す訳にはいかない。
 だからといい、僕等が脱出計画を企んでるからといって、そう簡単に首輪は爆破されないと思うが――。
 何しろ、教官の西川は既にランド―の妹を殺している。
 ランド―妹は、クラスの中でも取り分け運動神経が高い。
 それに天才肌だが、やや性格的に間の抜けている兄と違い要領のいい女子だった。
 彼女の事はあまり詳しくはないが、タイプ的にランド―兄の為にクラスメイトを殺して回る可能性も低くはないと思う。
 そう考えると、このプログラムが政府のジジイ共のトトカルチョである以上、彼女に賭けていた者もいたと思う。
 競馬の倍率で言うと、3~4倍くらいの(単なる主観だが)。
 更に主観で語ると、俺やヒロなんて配当50倍以上の大穴馬であると胸を張って言える。
 自慢ではないが……いや、本当に。
 だけど、西川には、もしかしたらランド―兄も殺してたかもしれないという事実もある。
 そういった本命馬を殺したとなると、西川の奴は上司から大目玉を喰らっている可能性が低くない。
 ならば、僕等が拙い脱出計画を練ろうと、これ以上は簡単には殺せない――と思う。
 そう考えると、下手にコソコソやるよりは盗聴器の事なんて気づいてないフリをしておいた方がいいかもしれない。
 本当に大事な情報だけは隠すことにして――。
 僕は、山道で隣を歩く博和の顔を見た。
 割と、安心した表情をしてる。
 おそらく、僕を信用してくれてるんだろう。
 そう思い、僕は口を開いた。

「なあ、ヒロ……大事な話があるんだ」
「ん? なんだよ? タカやん」
「僕、この島を出たい」
「え――」
 ヒロの顔が強張る。
 構わず俺は言葉を続ける。
「ああ、僕は君と、他に圭介とか桑田とか……信用出来そうな奴を誘って、このゲームをぶち壊してやりたいと思う」
 ヒロは立ち止まり、僕の言葉に黙って耳を傾けてくれてる。
「その為には、島北東の町へ行こうと思うんだ。勿論そこには危険な奴がいるかもしれない。だけど、手に入るものも大きい筈だ。現に僕は行動を開始し、ヒロという心強い味方を得る事が出来た。無論、危険な目に遭遇したからといって君だけを置いて逃げたりはしないと誓う」
 そこまで言って、俺は下を向いた。
 ヒロは元来気の弱い男だ。
 危険な目や、争い事は好まぬ男だ。
 拒否されるかもしれない。
 だけど、俺にはヒロの力が必要だと感じている。
 そうして、俺は静かにヒロの瞳を見た――彼の返事を待った。
「いいよ――正直、どうしようか途方に暮れてたんだ。俺、殺し合いもしたくないし、死にたくもない、けど、おまえみたいに頭が回るわけでもない。てか、プログラムの破壊なんて考えつきもしなかった……けど、出来るなら、またタカやんや皆と馬鹿な事やりながら笑いあえたら、楽しいと思う」
「ヒロ……」
「おれ……帰りてぇよォ…………殺し合いなんて真っ平だ」
 ヒロは、声を押し殺し咽び泣いた。
 僕は彼の肩に手を置くと、ハンカチを渡した。
「生きて帰ろう……一緒に、な」
「ああ……」
 絶対にぼくたちは生きて帰る。


【御巫貴史】《所持品》アイアンネイル《場所》6-F
【宮嶋博和】《所持品》伸縮式特殊警棒
最終更新:2015年01月30日 11:16