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~第14話 漢の決意、そして小悪魔な彼女


 俺、乱堂毅は戸惑っていた。
 先程出会った転校生の白神大地という男。
 アイツは、俺に『足掻け』と言った。
 そして、一枚の紙切れを置いて去っていった。
 この紙に書かれている場所――そこで、白神は待っているという。
 俺は、丁寧に折り畳まれた紙を開く。
 そこには、『2日目23時にて港にて待つ』――そう書かれていた。
「罠……じゃないだろうな」
 直感的に思う。
 白神という男は、少々気に食わないやつだったが、悪意は感じられなかったからだ。
 俺は腕時計を見る。
 今の時間は、午前10時だった。
 少なくともこの場所で、あの男と出会うには、あと丸1日と13時間を生き延びなければならない。

――生きる。

 俺が、玲花を失った俺が、生きるのか……。
「フッ……」
 そうだ、俺は生きなければならない。
 生きて玲花を殺した西川のヤツを殺し、あの世で玲花にワビを入れさせる。
 そうしなければ、アイツが浮かばれない。
 だが、玲花……お前ひとりに寂しい思いはさせない。
 西川を殺したら、俺もお前のもとへ逝く。
 その為には、生きなければならない。
 俺は、白神に貰った紙切れを乱暴にズボンのポケットへ押し込むと、デイバッグのジッパーを開けた。
 中から出てきたのは、全長70センチばかりの杖だった。
 不自然な取っ手を回すと、刀身が露わになる。
 俗にいう『仕込杖』というやつらしい。
「玲花……仇はとってやるからな」
 細身の剣の柄を力を込めて握る。
「ひっ……!」
 工場の入口の方から女の子のか細い悲鳴が聞こえた。
「誰だッ!!」
 俺は、思わず身構える。
 次に聞こえたのは、遠ざかっていく駆け足。
「ちっ……ま、待ってくれ! 俺は進んで殺し合いなんてしない!!」
 もしかしたら、怖がらせてしまったのかもしれないと思い、俺は剣を納めると、誰かも分からぬ女の子を追い駆けた。
 だが、逃走劇は、すぐさま収束する。
 派手な音と共に彼女はこけて、持ち物をぶちまけていた。
「だ、だいじょうぶか?」
 俺は、恐る恐る後姿の女の子に声を掛けた。
「こ、来ないで!!」
 それは、クラスメイトの中でも特に一番小柄で病弱な篠原百花だった。
 あまり話した事はないが、病弱な背景などものともせず明るく振る舞う女の子である。
 子犬のように震えるその姿は、とてもではないが、殺し合いに乗っているようには見えない。
「落ち着け、俺は殺し合いには乗ってないっ、篠原さんはどうなんだっ!?」
「あ、私も……殺し合いなんて、とんでもないです!」
 彼女は、必死になって否定する。
「そっか」
 俺は、ほっと溜息を吐くと、彼女の手を取り起き上がらせる。
「あの、玲花ちゃんの事は残念だったと思うけど……」
 篠原さんは、言葉を探すように俺に気遣いの言葉を投げてくれる。
 だが、俺はそれを遮るように掌を突き出した。
「だいじょうぶ、今は落ち着いている……今はやるべき事も出来たしな」
「や、やるべき事?」
 篠原さんの問い掛けに俺は、力を込めて答えた。
「ああ、このゲームを打っ壊して、西川の野郎を地獄に叩き落とす事だ」



 乱堂が決意を新たにしてる反面、百花は、心の中で舌を出してほくそ笑んでいた。
(暫くは、この単純な天才クンに守って貰おうかな……)
 そんな事を考えながら、彼女は、乱堂と行動を共にしようと考える。



【乱堂毅】《所持品》仕込杖《場所》8-D
【篠原百花】《所持品》日本刀
最終更新:2015年01月30日 11:16