~第15話 可愛い顔して……



 【飛鳥新一】は、彼の支給品である鎌を手に不機嫌そうに山道を歩く。
「クッソォーー……何でオレが……」
 その口調はどこか力無い。
 彼は、思いついたようにポケットから携帯電話を取り出し、液晶画面を覗く。
 しかし、何処に行っても電波が届かない。
 彼は、所謂ケータイ依存人間で、携帯電話を弄ってないと不安で仕方ないタイプだった。
 命の危険にさらされてるのは、彼自身も承知はしていたし、ここが圏外である事も感じていた。
 だが、ケータイが無くては生きてはいけない彼は、何処かしらケータイに電波が入らないか。
 そう考えた彼は、山の上、つまりは高い場所を目指す事にした。

「むっ……もうちょっと行ったら、てっぺんか。電波マジで立たないのかなー」
 携帯電話をいじりながら、木々に囲まれた山道を抜けると、開けた山道に出る。
 そうこうするに間に、向こうからひとりの女性とがやってくるのに気付いた。
「あっ、飛鳥……くん?」
「澤井……」
 それは同じクラスの【澤井可憐】って女だった。
 クラスの中は割と、いや、結構可愛く、元気な子で、男子の中では人気の高い女だ。
 かく言う俺も、割と好みであったりもする。
 流石に殺し合いの最中という事もあり、いつもの元気はなく、顔色が悪い。
 俺は多少よこしまな気持ちもあり、彼女に走り寄り、肩を抱きかかえる。
「お前、大丈夫かよ?」
「ううん……大丈夫じゃないかも」
 澤井は力無く笑うと、俺に身体を預けてきた。
 うは、すげぇ可愛いし、滅茶苦茶良いにほい。
 心の中で、ガッツポーズを取りながら、俺は言葉を続ける。
「ったく、冗談じゃないよな、殺しあえなんてよォ」
「そうね」
 それは、至極普通で、でも何処かこちらを嘲笑うかのような声だった。
 そして、全身に走る衝撃、気付いた時には足元から崩れおちていた。
 身体が痙攣している。
 痺れて上手く身体を動かせない。
 澤井はひょいと俺のカマを拾い上げると、にこりと笑う。
 その女の手には、バチバチとスパークを撒き散らす――スタンガンが握られていた。
「ねぇ、飛鳥くん、生きたまま首を切断すると楽しそうじゃない?」
 ゾッとした。
 こいつ、なんて言いやがった?
「ば、じょ、冗談はやめろ……っ!」
「ふふっ、私嘘つきだけど、冗談は余り言わないの。あっ涙目、か~わい~~♪」
 澤井は、笑いながら、俺の首に鎌の刃をあてがう。
「や、やめて……うっ――あ゛っ!!」
「だ~め!」
 皮膚が切り裂かれ、喉に刃を付き立てられる。
 言葉にならない。
 だが、意識がある。

 あまりもの痛みと死への恐怖とどす黒い何かが飛鳥を侵食していき、彼の意識は崩壊した。

 ひゅーひゅーと息を漏らす眼の焦点の定まらない飛鳥を見て、可憐は思い切り鎌を横に引いた。
 ぶちりと厭な音を立て、飛鳥の首が地面を転がる。
「弱いなぁ、んふふ、まったくもぅ……血でべとべと」
 可憐は上機嫌に笑うと、血のついた制服に顔をしかめる。
「シャワー浴びたいな……水道は通ってるのかな」
 彼女が立ち去ったあとには、首と胴体の分離した哀れな死骸が転がっていた。


【澤井可憐】《所持品》スタンガン、首狩り鎌《場所》6-F


 ~男子2番 飛鳥新一  死亡  残り22人
最終更新:2015年01月30日 15:32