~第17話 うそつき
「町か……何だか殺風景だな」
「そりゃあ無人島だもん、こんなもんじゃない?」
鷹島龍光と綾崎楓は北東にある住宅街エリアを訪れていた。
二人の仲は、それ程悪くない。
特に険悪では無いし、互いに寝首を掻こうという訳ではない。
龍光がライフルを担ぎ、ボウガンの入ったバッグを背負う。
楓は、ウージーサブマシンガンの紐を肩に下げ、いつでも撃てる構えをとっている。
恐らくこの島内の生徒達の中では、トップクラスの火力の保持者であるといえよう。
そんな二人は、人が多く集まるであろう北東の町へ到着していた。
表面の目的は仲間を集める為であった。
だが、ただ志願者であり、ただ一人生き残るのが目的である楓には別の目的があったのだ。
「ところで楓さん……さっきの……その」
(脱出の方法ってを知りたいんだが)
龍光の筆談のその内容に楓は内心ほくそえむ。
「そうですね……正直私も理由もなく殺し合いをするなんて気が進みません」
(私がこのバトルロワイアルに志願したのはある理由があるんです)
二人は意味を持たない空言の会話を続けながら互いにペンを走らせる。
「理由だって?」
(ええ、この参加者の中に私の異母兄弟の弟がいるんです)
「何だって……!」
(私はもともと施設で育った天涯孤独の身だったんだけど、運がよく政府の高官であり、資産家のおうちに養子として貰われました)
龍光が自分の話を真剣に聞いてくれている……後は、彼がどう転ぶかが問題ではあるが。
だが、楓は彼を丸め込む自信があった。
天涯孤独というのは嘘であるが、彼女は欲望渦巻く芸能界で、したたかに生きてきた。
大人達を相手に多くの修羅場を潜ってきているし、彼女にとって甘っちょろい中学生を丸め込むの等容易だと思っていた。
(だけど、昨年、実の母の遺言書が出てきて、普通の家庭で暮らしている弟がいる事を知りました。
私は何とかして弟に会えないかと思い、試行錯誤してるうちに養父の書斎で弟のクラスがプログラムに選ばれている事を知りました。
それで、私はいてもたってもいれずに志願したという訳です)
「何てこった……」
楓の話にショックを受け、龍光は溜息を吐いた。
勿論彼女の言った言葉は、ほとんどが真っ赤な嘘だ。
真っ直ぐ、悪く言えば馬鹿正直な性格の龍光の同情を買おうと、楓が適当に考えた嘘である。
(それで、あんたの親御さんは、あんたがプログラムに志願した事を知ってるのか?)
(いいえ、黙って参加しました。弟に会いたいという気持ちは、それ程強いとお分かりでしょ?)
再び、龍光は深い溜息をつく。
楓は、それが一種の呆れだと感じたと同時に、彼が自分の話を信じているのだろうと予感した。
(言葉は悪いですが、世の中には金さえ払えば何でもしてくれる人がいます。
私は弟と、意思を同じく――殺し合いなんてしたくない人間を集めて脱出を考えています。
その為に私は、逃がし屋を雇いました。私がある合図をすれば、彼らと合流できる手筈になっています)
「なるほど……」
龍光は、ゆっくりと頷いた。
そして、楓の方はというと、よくぞここまでの大嘘を思い付きだけで並べられたものだと思う。
多少、荒唐無稽な話ではあるが、情に訴えれば何とかならないかと彼女は思う。
「それで……」
(その弟ってのは誰だ?)
楓は考えた。
というよりも彼女が知っているクラスメイトの名前と言えば数える程しかいない。
クラスの生徒の事前情報は転校生に与えられていない為、一番最初の教室での対面での情報が全てであった。
「……遠山、圭介」
彼女は乱堂という生徒はアクが強すぎると思った。
「……遠山のヤツか」
龍光は考え込む仕草を見せる。
楓はサイを投げてしまった。
後は、ゴールを目指して突き進むしかない。
「確かに思い込みの激しいヤツだからな……あいつは。こんな所に乗り込んでくる無茶なアンタと似通った所があるかもしれない」
龍光は人の腹の内を探ったり、会話の駆け引きでカマをかけてきたりはしないような人間だ。
確信とまではいかないが、楓は彼と一緒にいた短い時間の間でそう感じ取っていた。
「よし、遠山を探すのを手伝おう。アイツは馬鹿だが、悪いヤツじゃないしな。ゲームに乗るようなヤツじゃないと思う」
楓は、心の中でガッツポーズをとる。
遠山圭介という男も単純馬鹿、腹違いの姉弟と言われてそう簡単に納得はしないだろうが、別に遠山を丸め込む必要は無い。
運がよければ、勝手に誰かに殺されているかもしれない。
そうすれば、悲劇の姉として更に同情を受けれるかもしれない。
「龍光くん、ありがとう……」
楓は、目元に大粒の涙を浮かべて言う。
殺し騙されのゲームは続く。
【鷹島龍光】《所持品》ボウガン、ライフル《場所》3-H
【綾崎楓】《所持品》ボウガン、ウージー
最終更新:2015年01月30日 15:50