プロローグ
暑い。
いつもの通学路、周りには俺と同様に同校の学生達が我らが美作高校の学び舎目指して歩いている。
照りつける夏の日差しが学生服から露出した肌を焼く。
「ったく、こんな朝早いってのにこの日差しかよ……」
時刻は、8時5分。
嫌気がさしてくるようなこの暑さである。
だが、俺もこの暑さに耐えるのも今日までと思うと、俺の心の中は晴れやかであった。
「いよう! 森本ォ! 明日から夏休みだなァ!!」
勢いよく俺の隣で急ブレーキをかけるチャリンコ。
その乗り主である俺の親友、中島がチャリから降りて笑顔で挨拶してきた。
「まずは、自己紹介しよう。
俺の名は、森本いさ夫。
高校2年生、恋に勉強にクラブ活動にと忙しい今時の若者だ」
「そして、俺は中島輝義、森本の親友であり、野球部のエース!
ポジションはキャッチャーだが、別にデブって訳じゃないぜ?
キャッチャーやドラマー=デブってのは、俺は偏見だと思う。
全くもってひどい話だよな!?」
どうでもいいが、俺達は誰に向かって話しているんだろう。
まあ、いいか。
「ところで、森本ォ。
夏休みの予定は決まっているのか!?」
「ああ、俺は明日から早速、海の家に行ってバイトする事に決めてる」
「おお、そういえばそんな事言っていたな!」
「その通り。そして、バイト先で出会った女の子と一夏のアバンチュールを過ごす」
「それは羨ましい限りだな! 俺なんて甲子園出場が決まってるから暫くは遊べないぜ!」
「だが、それもまた一興だろう?」
「おお! 野球は楽しいぜ! よぉし! 素振り1000回やるぜ! ふん! ふん! ふんっ!」
学校の敷地内に入った瞬間、中島は愛用のバットで素振りを始める。
「うおおお!! 中島先輩熱いッス!! 先輩のやる気が熱過ぎるッス!! おれらも素振りヤルッス!!」
中島の周りに野球部の連中が集まり、素振りやらピッチングの練習が始まる。
まったくもって野球バカなヤツらだ。
学生達の喧噪で溢れかえる美作高校。
時刻は8時20分。
校舎屋上から校庭を見下ろす生徒の影があった。
サラサラの黒髪、知性を感じさせる端正な顔立ちの細身の少年。
その隣に、中華風の衣装を着た中肉中背の青年が姿を何処からともなく姿を現す。
何も存在しない空間から、突然、青年は現れたのだ。
『……あの素振りしとる小僧がおめぇの言ってたガキか?
あんなんが魔術師~? ただのバカじゃねぇ~か? のぉ~? あんちゃん』
青年は、ひょうひょうとした立ち振る舞いで、顎の無精ひげをなでると校庭にいる野球少年に値踏みの視線を向けた。
対して、少年は小さな溜息をつき、隣に現れた青年を見る。
「疑問符を4つもつけるな、ライダー。
あの野球馬鹿は違う。その隣にいる男が森本、いさ夫……。
正確にいえば魔術師ではない。あの男の父親が魔術師だった。
だが、あの男は父親の魔術回路を受け継いでいない。あの男が小さい頃に、父親は死んでいる。
魔術師の素養はあるが、魔術師ではない。
もしかして……あの男も聖杯戦争のマスターになるかも、と思ったが」
ライダーと呼ばれた青年の問い掛けに対し、マスターと呼ばれた少年がぼんやりと答える。
ライダーは、あぐらを組んであごの無精ひげを撫でながら、くしゃくしゃに笑って口を開いた。
『そうかい。だがよ、ああいうのほほんした野郎はやべぇぜ。
ああいう初心者がいきなり意外と強力なサーヴァントを引きやがる。
俺もどっちかっていうと運の良い方だから分かる』
「まるであいつが強力なサーヴァントをひくマスターである事が確定している。
そんな物言いをするんだな。ライダー。それは勘か?」
『あぁ、勘だよ。俺の勘は当たるぜぇ?』
不敵に笑うライダー。
彼は、これから始まる殺し合いをまるで楽しんでるかのような態度を取る。
そんなライダーを見て、ライダーのマスターは溜息を吐いた。
『そんなに溜息つくなよ。
気苦労の多いヤツだなぁ、おめぇはよ。
まぁ、安心しなよ。やるからには最後に必ず勝つ。俺っちはそういう男なんだぜ?』
「君は僕の呼び出した英霊だからな。当然の事だ」
『ああ』
最終更新:2015年10月12日 22:49