第2話「上陸」
中国地方〇〇県彼方市 東霞町駅前にふたりの男女が立ち尽くしていた。
1人は16歳くらいの小柄な少女。黒いセミロングにアロハシャツにGパンというラフ過ぎる格好。
もう一人は2メートルを超える中年の大男だった。
東霞町は霞町より一駅の場所にあるベッドタウンだ。
平日の昼間だけあって、人どおりは少ない。
時折通りかかる人々は、人並み外れた体格の男をチラリと見て通り過ぎるといった風だ。
「ここは何処か……地図を見てもサッパリだわ~。
いや~、ここン十年でだいぶかわったよ日本は。
ね~え、ランサーは分かる?」
くしゃくしゃの地図を隣の大男に差し出す少女。
大男は、その地図を覗き込む。
『ヨウコ、これは一体いつの地図だ……。
私は、この霞町の聖杯戦争のサーヴァントとして召喚された。
その際に、この時代の大まかな常識、またはこの地での土地勘も得ている。
だが、この地図は明らかにおかしいんじゃないか?』
「まあ、30年くらい前の地図だからね~。
いや~、この町もだいぶ都市開発が進んでるね。まいったよまいった。
仕方ないから、携帯電話で連絡を取る事にするわ。雇主と」
『ならばそうしろ……まったくお前はズボラだ……』
「なはは……メンゴメンゴ~。あたしってば、こういうデジタル?
っていうか、機械とかどうも苦手でさ~……ありゃ?
携帯のナンバー、メモっといたんだけど、どこやったかな~?」
『尻のポケットに紙切れがはさまっとるぞ』
「おお、ムサイおっさんのクセに気がきくぅ~♪」
『英霊をムサイおっさんなんて呼ぶんじゃない……やれやれ』
片手で頭を抱えるランサーを尻目にヨウコと呼ばれた少女は不慣れな手つきで携帯のボタンを操作していく。
『携帯電話には電話番号とやらを記憶させておく機能があるらしい。
電話番号を知ったら即座に記憶させておいた方がおヨウコには向いてるぞ」
「え!? 携帯ってそんな便利な機能があんの!?
じゃあ、後でやっといてよ! ランサー」
『何で、わしが……』
「え~~。じゃあ、令呪使えば、やってくれんの?」
『3つしかない貴重な令呪をそんな下らぬ事に使うな。
仕方ない、後でやってやるから、雇主とやらにとっとと連絡を取れ』
「わぁ~った、わぁ~った! ピポパの発信っと!」
番号を押し終えたヨウコは、携帯を耳元へと持っていく。
「……あ? もしもし、お久しぶりね。あたし、ヨウコだけど?
相変わらず物々しい喋り方ねぇ~。え? そりゃ、あたしは老化対策バッチ来い、だもん!」
電話先の相手と流暢に会話をしていくヨウコ。
電話越しの相手との会話にもかかわらず、大げさな身振り手振りで話してるヨウコを尻目にランサーは駅前のベンチに腰掛ける
。
その巨体の所為か、ベンチはミシミシと悲鳴を上げていた。
「あ、終わったわよ。待たせたわね。ランサー」
『いや、構わん……時にヨウコ、これは単なる好奇心なのだが、お前の雇主とはどんなヤツなんだ?』
「厭な奴よ。400年以上生きてるクソババア。無駄に長く生きてるから性格も捻くれてるし。まぁ、あたしからしたら小娘みたいなもんなんだけどね」
『小娘のような外見のお前に、小娘呼ばわりされるババアとは背筋が寒くなる発言だが……まあよい。
時にヨウコ、聖杯戦争までは未だ幾ばくかの時間があると思っていたが……』
溜息をつきながら巨体を揺らすランサー。
ヨウコもまたランサーの発言の意図を察し、口元に笑みを浮かべる。
駅前だというのに既に周囲に人影はいない。
だが、そんな異様な風景だというのに二人はたじろいだ様子はない。
ライダーは威風堂々、ヨウコは今の状況に興味津々といった風だ。
「そうね。人払いの魔術かしら……随分と大げさなヤツね。
ここで仕掛けてくるなら、余程のせっかちさんね~」
『どうする。我がマスターよ。戦いになるとは限らぬが、このまま相手を待つか……』
「いや、あんまし堅気の人に迷惑をかけるのは主義じゃないんだよね。
ランサー、この辺の地理は多分あなたの方が詳しいと思う」
『分かっている。駅の裏へ周ろう。暫く行けばそこに放棄された廃工場がある筈だ』
「さっすがランサー! 少ない言葉で主人の意図を読めるなんて優秀ね。貴方は優秀な付き人になれると思うわ!」
『ふっ、慇懃無礼な娘だ。褒め言葉として受け取っておこう。
我が背中に捕まっておれ。一気にかっとぶぞ』
ランサーは腰を落とし、ヨウコに向かって背を差し出す。
彼女は、ランサーの背中に飛び乗ると同時にランサーが跳躍する。
15メートルはある駅を飛び越え、風に流されるようにふわりふわりと飛んでいく。
最終更新:2015年10月12日 23:06