第3話「傍観するもの、狂うもの」



 ランサーとヨウコが飛び立った彼方を見つね、駅前を見渡せるとあるビルの屋上に一つの人影があった。
 ヨーロッパ系の金髪の美しい女だった。
 涼しげな白いワンピースに麦わら帽子という阿呆らしい程に夏らしい格好である。

『……マジやばくない? こんな場所でまだサーヴァントが出揃ってない状況で始める気? 絶対やばいって!』

 女の横から、低くハスキーな声が漏れた。
 その声に対し頷きながら、麦わら帽子の女が笑う。

「人払いの魔術をこれ程広範囲にかけるなんてね。
 お姫様も迂闊ね。サーヴァントを常時実体化させてるなんて……まあ噂通りの女だといえばそうだろうけど」

『様子見でいいのよね? マスター』

「勿論。無駄な戦いは避けたいわ。東洋では勝てば官軍って言葉があるのよ。知ってる? アーチャー」

『知らない』



  ☆          ☆         ☆          ☆




 私は死にたくない。
 早く殺さないとこちらが死んでしまう。
 6回でいい。
 6回だけアイツを実体化させるだけでいい。
 早く殺さないとダメだ。
 殺さないと死んじゃう。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 殺すしかない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 殺すしかない。

 殺すしかない。
 殺すしかない。

 殺すしかない。


「やっと出会えた。そんな堂々としてる貴方が悪いんだからね。
 でも嬉しいすぐ殺せるから! 殺してあげる!! 殺せ殺せよねえバーサーカー!?」

 私の言葉に応え、徐々に人のカタチをかたどった”鉄の塊”が姿を…………。

「ああああああああああああああああああああああああああああもういやああああああああ」 

『コォ――…………………………………………』

「コォーじゃないわよお願いおねがいおねがいバーサーカーはやくあいつ等を殺して」

 身体中が悲鳴を上げる。
 痛い頭が痛くて立ってるのが辛い吐き気が止まらない視界がぼやける。

「うっ……」

 思わず出た嘔吐物。
 違う、臭い、鉄臭い。
 血だ。私は血を吐いたのだ。
 私では魔力が足りないのだ。
 燃費の悪いバーサーカーを維持するには私の力では無理なんだ。
 無理でもやらないと死んじゃう。
 死にたくない。
 お願いだよ早く殺してよ。
最終更新:2015年10月12日 23:07