第5話「報告」



「東郷神父、マスターは今現在で何人揃いましたか?」

「恐れ入ります。我が聖堂教会にて確認できたマスターは4人でございます」

「ほう。続けなさい」

「はい、わざわざ挨拶に来たのが二人。
 神谷の子息がライダーを。
 魔術師協会の白い魔女がアーチャーを召喚したそうです」

「ふむ」

「街中にてジャクソンの御令嬢がバーサーカーを用い、ランサー陣営を襲撃しました。
 ランサーのマスターは悪名高き”人魚”だそうです。
 人魚は上手く襲撃をかわし、また一般への被害は問題御座いません」

「……まだマスターの出揃ってない状況で、ジャクソンの御令嬢は随分と気の早い人なのですね」

「まだ若く未熟なマスターですからね。一応注意勧告を送っておきましょう」

「そうですか、ではお願いしますよ」

「そして、マスター候補となりうるのが残り3人ですね。
 まず現在は中東の方におります聖堂教会所属、異端審問官のエンジェル松崎。
 聖杯戦争開始前日には現地入りする。との連絡を受けております」

「……松崎。あの狂犬ですか」

「……次に、彼方市御三家の残り、森本。
 情報は特にありません。現当主も余り乗り気ではないようですし積極的に参加する意志はないようですね」

「……ほう」

「最後に陰陽師……と呼ばれる東洋の魔術師が先週より西霞のホテルに滞在しております。
 何者かに雇われた可能性もありますが、陰陽師本人も欲深い人間で私欲の聖杯目当てという可能性も否定できません」

「余りぱっとしない二人ですね。
 まあ良いでしょう。引き続き、報告をお願いしますよ。東郷神父」

「お任せ下さい」




 上司との通信を切ると、辺りが静寂に包まれる。
 ここは、彼方市聖堂教会の執務室だ。
 ツン、と酒の匂いが漂う。

 私がこの地に赴任になって幾年が過ぎただろうか。
 一見、穏やかで退屈な日々に見えるが、この地の聖杯の監視。
 魔術師や人外への抑止など、面倒な事が多い。
 今年は、聖杯戦争がある為か、私自身もかなりナーバスになっているようだ。
 執務室内に転がる空きの酒瓶を拾い集める。

 上司も上司である。
 そもそも私達、監督官の仕事は聖杯の見極めにある。
 どんなマスターでどんなサーヴァントか。
 どの陣営が負け、どの陣営が有利か。
 そんな報告が必要だろうか?

 聖堂教会……それもこの極東支部の上は腐ってるのさ。
 私の上司はトトカルチョ――つまり、どのサーヴァントが勝つかを同僚と賭けているのだ。
 全くもってフザけてる。
 こんなフザけた仕事など馬鹿らしくてやってられるか。

 不貞腐れていると、呼び鈴を鳴らす音が聞こえた。

「……客? 懺悔希望者か……」

 私は少し急かされるように椅子から立ち上がる。

「おっと」

 思わず手が卓上の空きグラスに触れ、落下。
 グラスは無残にも割れてしまった。

「あちゃ……お気に入りのグラスだったのにな……」

 私はしまったなぁ、と惜しい気持ちを抱きつつも懺悔室へと向かうにした。
最終更新:2015年10月12日 23:16