第10話「聖堂教会」



「という訳で来てみた訳だが……」

 教会に到着したが、流石に人気はないな……。
 俺は乗ってきたママチャリを教会の敷地に止めた。
 薄暗い外灯の下を進み、俺は教会の戸を開けてみた。
 時刻は午後11時、こりゃもう明日のバイトは無理かもしれんね。
 親父の紹介のバイトだけど、まあ、親父にどやされることもない。
 つか、あの頑丈さだけは誰にも負けないマッチョな親父が殺されたなんて今でも信じられんが……。

「カギは掛かってない……か」

 教会の中はやはり薄暗かった。
 そしてまた、人の気配はない。
 俺は礼拝堂の中へと進む。

「……何ぞ用かぁ、少年ンン?」

 突然背中から声を掛けられる。
 とても低い男の声だった。
 俺は振り返る。
 列席の長椅子で雑魚寝していた男がのっそりと起き上がる。
 無精ひげを生やしたセンター分けの色黒の大柄な中年の男だった。
 神父服を着ているおり銀のロザリオのペンダントをぶらさげている。
 教会の関係者なのは間違いないだろう。

「あの……貴方が東郷さんですか?」

「……東郷? 知らんなぁ……はて、どこへ行ってしまったのか。
 チッ、まあいい。ところで少年は何しにきたんだ?
 神への懺悔か? それとも日々の祈りを捧げにきたんか?
 ここは教会。こんな夜更けでも迷える子羊ちゃんに対して閉ざす門はない。
 どれ、神父のおいちゃんが少年の悩みを聞いてやろう。何でも言ってみな?」

 眼の前のオッサンは東郷とかいう男じゃないらしい。
 こういう時はどうすりゃいいんだ?
 携帯持ってるけど、神谷の番号しらねーし。
 まあいいや。
 言葉もフランクで楽しみやすいし、悪い人じゃなさそうだしな。
 ってか、むしろ神谷が頭のおかしいヤツで成敗?戦争とかの話を目の前の神父さんにして俺のこと馬鹿だと思われる方が心配だわ。

「あのー……俺、何か聖杯戦争ってののマスターってのになったらしいんスけど。
 んで、その事でクラスメイトに相談に乗って貰ったら、教会に行ったらいいんじゃね?て言われちゃって……」

 俺は一体何を言ってるんだろう。
 自分で自分に思わず突っ込みを入れたくなるが、きっと大したことではない。
 そう自分にフォローを入れてないと挫けそうだが、多分、眼の前の神父に頭の病気だと憐れまれて、俺は寂しい気持ちで家に帰り、家で親父に説教とかされるんだろうな。

「なるほど! よく分かったが、残念だったな! 少年!」

 オッサンは何か納得したらしい。

「え?」

 神父のオッサンはゆっくりと立ち上がる。
 そして、俺の眼前に立つように立ち止まった。
 デケェな……親父と同じくらい……180? いや、190近くあるんじゃねぇか。
 っていうか、残念ってどういう事だよ……?

「残念ながら、今回、教会は聖杯を欲しているらしくてな!
 中立というのは真っ赤なウソ! 我々は君を保護する事はできない!
 そして、俺はお前と同じく聖杯戦争のマスター!」

「何を言ってるんだ、オッサン……」

 俺は目の前のオッサンの言う事が理解できないでいた。
 つーか、聖杯戦争とかマジかよ……っていうか、何かやばい気がするぞ。
 神谷の馬鹿野郎が……何が教会に行けだコラ。

「俺は魔術師界隈では、大天使の異名を持つ!
 聖堂教会では、エンジェル松崎と呼ばれている!」

 松崎は、大きく両足を広げると、腰を下ろし張り裂けるような雄叫びを上げた。

「ムンッッ!!」

 辺りに熱気が巻き起こる。
 松崎の気合と共に、背中に羽のように二対の火柱が上る。
 何なんだよおい……。
 何で身体中から炎が上がってんだ、このオッサン!
 松崎のオッサンは両の拳を叩きつけると、それがまるで火打ち石のように両の拳が炎に包まれた。

「浄化の炎だ。全力で掛かってこい!!
 お前の持ち得るあらゆる魔術、武術、武器を用いて掛かってこい!!!」

「無理!」

 俺は即答すると踵を返して、駆けだした。
 教会の奥に行くしかねぇのが不安だが、構ってられるかよ!

「わははは! 面白いやつだ!」

 高笑いと共に松崎が追いかけてきた。
 何が面白いのかサッパリわからんって。
最終更新:2015年10月12日 23:35