第14話「七体目の英霊」



 かん、かん、かん、と木を打ち鳴らす音が聞こえた。
 次の瞬間、書庫の壁が轟音と共に大破し、そこからド派手な着物を着た男?が姿を現した。
 腰までの長さの真っ赤な髪、派手な女物の着物を羽織り、顔には派手なメイク。

『日本一の伊達男―――石川五右衛門とはオレのことよ!』

 歌舞伎役者のような喋りと動きで石川五右衛門が自己紹介を始める。
 手には真っ赤な和傘を肩に担いで差しており、とにかく派手なヤツだった。

「来たか、俺のサーヴァント! しかし、このキセルを召喚の触媒にすれば、織田信長というこの国最強の英霊を召喚できると聞いたのだが」

『嗚呼、たわけた事をぬかすな。それはオレの愛用品の煙管じゃ。よく見よ。ちゃんとオレの名、五右衛門の(五)の字が彫っておろう。そんなもんで信長公を呼び出せるワケなかろうが!』

 五右衛門は松崎からキセルを奪うと、ぷかぷかと喫煙を始めた。
 何なんだこの茶番は……。

「クラスはアサシンだな?」

『嗚呼、如何にも! オレのクラスはアサシン! お前が我があるじか?』

「その通り! 俺の名はエンジェル松崎!」

 名乗り終わったと同時に突然、松崎がアサシンに殴り掛かった。
 それをアサシンは、軽々と片手で受け止める。
 って事は、あのアサシンこと石川五右衛門ってのは、俺の玉ちゃんよりも強いって事かよ。

『嗚呼、我があるじよ、殴るのは構わんが顔だけはやめろ。
 オレのハンサム顔が傷つくと世の中のおなごどもが悲しむじゃろう』

「すまん! ただの八つ当たりだ!
 そのキセルを用意したのは東郷という男が行方不明でな!
 俺の怒りはお前にぶつけるしかないのだ! 仕方ないだろ!」

 今度は、アサシンの方が空いた拳で松崎に殴り掛かった。
 松崎もまた空いた手のひらで、アサシンの拳を受け止めた。
 お互いがお互いの拳を握る形で汗びっしょりになりながら拮抗していた。
 オッサン二人で取っ組み合って何やってんだ、こいつら……暑苦しいぜ。

『とんだ茶番だな……だが、やるならば、今だぞ』

「そうね」

 ランサーとヨーコちゃんが取っ組み合いをしているアサシンと松崎に攻撃を仕掛ける。

『嗚呼、争いなど下らぬというのにアホウが仕掛けてくる……』

 アサシンは呟くと、ランサーの攻撃を傘で受け止める。
 そして、アサシンはカウンター気味に左張り手を放った。
 ランサーは、十分に距離を取るように後ろに跳んだ。

『またもや、わしの攻撃を止めるとは……此度の聖杯戦争は化け物揃いだな』

『嗚呼、ランサーよ、ぬしの図体ではここでは窮屈かろう。
 オレもまた久方ぶりに娑婆の空気を吸いたいのだ。オレについてこい』

 アサシンは目一杯跳びあがると、天井をぶち抜きながら地上へと跳んでいった。
 ランサーもまた、天上をぶち破って消えていった。


「俺は別に怒っているわけではない。
 ただ東郷のいい加減な仕事っぷりが我慢できんのだ」

「東郷って誰さ。まあいい。こっちから行くよ、大天使さん!」

「小娘が生意気な! テメェが俺に勝てるわけがねぇだろうが!!」

 今度は松崎のオッサンとヨーコちゃんが殴り合いを始めた。
 ヨーコちゃんは小柄な割に滅茶苦茶強い。
 オッサンとほぼ互角に戦っている。



「うーーん……何かヤベェな……俺とか、すげぇ場違い過ぎる」

 何かバトルものの漫画みたいな戦いが目の前で始まってる。
 いやー、魔術師ってすげぇな。

『コーン……』

「……え? こーん? 何だ、どこの畜生だ?」

 俺は足元にいた小狐を抱き上げる。

『……ごめん、こんなになっちゃった』

「……ハァ? 玉ちゃん!?」

 狐が喋った。
 しかも玉ちゃんの声で。
 どういう状況何だこれは……。
最終更新:2015年10月12日 23:57