第17話「老紳士」



 ……糞。
 まさか、ジャクソンが強硬手段に出るとはな……。
 俺が迂闊だった……。

 ――………。

 いや、一先ずは大丈夫だ。
 今すぐにいさ夫をどうにかするという事はないだろう。

 ――……。

 安心しろ。
 俺が今から助けに行く。
 俺は死なん。あいつも無事に連れ帰る。




「……ッ!」

 俺は目を覚ました。
 はて、何かの夢を見てた気がするが思い出せない。
 それにしても、ここは何処だ。
 俺は、車の後部座席に寝かされていた。
 外の景色はただ暗闇……まだ夜のようであった。
 世のあける気配はまだない。

「おや、目を覚ましたようですな」

 運転席から声が聞こえた。
 白髪の……ガタイのいい爺さんだった。
 ミラー越しに見えた爺さんは、黒のスーツを着ており、サングラス……怪しい爺さんといった印象だった。

「運転しながらの御無礼、お許し下さい。
 初めまして、ですかな。私はジャクソン家執事長、ヨハン・セバスチャンと申します。
 どうぞ宜しくお願いいたします。森本いさ夫様」

 爺さんはハンドルを片手に、サングラスを取って素敵な笑顔で挨拶してきた。
 執事だから、セバスチャン……うーむ。
 いや、そんな事はどうでもいいか。

「御気分が優れませんかな?」

 爺さんはサングラスをかけ直すと、気遣いの言葉をかけてきた。
 俺が黙っていたからだろうか。

「いや、ていうか、何て反応すりゃいいのか分からん。
 爺さんは誰なんだ。爺さんも聖杯戦争のマスターの魔術師なのか?」

「いいえ、私は魔術師ではございません。
 聖杯戦争のマスターであらせられるお嬢様、いえ、リュカ=ジャクソン様の身の回りのお世話をさせていただいております」

「そっか……俺はバーサーカーとかいうのにさらわれたんだったな」

 そういや何か黒い鎧着たでかいのに捕まったんだったな。
 うーむ、どういう状況なんだろうか。
 そういや、玉ちゃんは、俺が玉ちゃんを召喚したって事がバレたらやべぇとか言ってたな。

「ああ……あの、バーサーカーの肩にしがみ付いてたのがお嬢様って訳か」

「はっはっは、お嬢様は少々気が触れてらっしゃいますからな」

「で、そのお嬢様は何処に?」

「申し訳ありませんが、その質問には答えかねますな」

 爺さんは勿体ぶった風に俺の質問を突っぱねた。

「……そうか」

 まあ、あのイカレ娘なんてどうでもいいや。
 この場にいないみたいだし、取り敢えずは安心か。

「んで、爺さんは俺をどうするつもりなんだよ」

「お嬢様の御命令で、いさ夫様を大切な客人として屋敷に招待せよ、と仰せつかっております」

 爺さんはそう言うと神妙な面持ちで、左手を伸ばし、ミラーを弄る。

「どうしたんだ?」

「……ふむ、つけられてしまったようですな」

 俺は思わず後ろを振り向く。
 暗闇の中に何かが蠢いた。
最終更新:2015年10月13日 00:14