第19話「獅子心王」
セバスチャンが鬼を倒した次の瞬間、再び、鬼が群れを成してやって来た。
その数は十体程である。
セバスチャンが倒したモノに比べると、身体は小さいが、数は圧倒的に多い。
次から次に跳びかかる鬼達をいなしながら、セバスチャンは後退してく。
「……これは厄介ですな」
セバスチャンはそう言うと、横転した車のボンネットを蹴り開けた。
ボンネットの中にあったのは、棺桶。
吸血鬼でも入ってるのではないかというような棺桶だ。
「お嬢様、敵の襲撃でございます」
「お嬢様……って事は……。バーサーカーのマスターのイカレ娘かよぉ……そんな所に入ってたのか」
いさ夫が呆れたように言った。
棺桶の蓋を開けたと同時に周囲に張り詰める殺気。
「……成る程、この数は貴方じゃ無理ね……」
不機嫌そうに頭を抱えて、バーサーカーのマスター、リュカが敵を睨む。
「……下等な使い魔風情が数を揃えたからって、私に勝てると思ってるのかしら……バーサーカー!!」
立ち込めた殺気がより濃いモノへと変貌する。
その中心に姿を現した黒鉄の狂戦士が姿を現した。
鬼の群れがたじろぐ。
いや、既にその表情は恐怖へと変わっていた。
『コォ――…………………………………………』
狂戦士は口から蒸気を吐き出すと鬼の群れへと突貫する。
剣が振るわれる。
一番前にいた鬼が金棒を振るい、反撃しようとしたが、金棒ごと両断された。
剣が一度振るわれる度に、鬼の死体が増えていく。
一分足らずの内に、バーサーカーは敵を殲滅していた。
「もういいわ……下がりなさ……ッ!?」
『コォ――…………………………………………』
バーサーカーは、剣を構えた。
宵闇の奥を静かに見据えて。
『ふむ、余のスキルで集団戦闘においては強化された使い魔どもだったのだがね……。
まあ、所詮雑魚は雑魚……こんばんは、バーサーカー陣営の諸君。
我こそは、獅子心王(ライオンハート)リチャード、クラスはセイバー……我が聖剣(エクスカリバー)に導かれてやって来た甲斐があったというものよ』
「……それでェ……獅子の王さまが……なンの用かなぁ……キヒッ!」
バーサーカーの使役の影響で、精神に異常をきたしたリュカが苛立たげにセイバーを睨む。
『バーサーカーの持つ剣、それもまた名のある聖剣だと感じた。余はバーサーカーと戦ってみたい』
「……勝手が過ぎるぞ!! セイバー!!」
突然、男の声が辺りに響く。
「……誰の声だ?」
「恐らく、魔術による言霊の類でしょうなぁ。セイバーのマスターの声かと」
いさ夫の疑問にセバスチャンが答える。
『安心するがよい。我がマスターよ。余は負けぬ』
「そういう問題ではないわ! お前が先程の詫びに様子見をかって出たから私は……!」
『だって、そう言わねば、君は余に外出を許してはくれなかったであろう?』
「……貴様」
『ふ、数ある英霊の内より余を選んだのは君だよ。重ねて言うが、安心せよ。余を選んだ君を後悔させるつもりは毛頭ない』
自信たっぷりに言い放つ。
そして、辺りに漂う沈黙。
「……勝手にしろ」
そして、セイバーのマスターがその言葉を発した後に、セイバーは重厚な大剣を顕現させた。
『というわけだ。待たせてしまって悪いね。それでは始めようか』
『コォ――……………………………』
バーサーカーは口から蒸気を吐く。
兜の奥から、ゆらりと赤い瞳がともった。
最終更新:2015年10月13日 00:26