第21話「正体看破」



「爺さん!!」

 いさ夫は駆け寄る。
 セバスチャンから預かった剣を手に取って、あらん限りの激昂を獅子心王にぶつける。

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

『お前その剣は……』

 セイバーは大剣を掲げ、いさ夫の一撃を受け止める。
 いさ夫は見た。
 既に動けないだろう老人を。
 その老人を呆然と見つめる少女を。
 いさ夫は歯噛みして口を開いた。

「テメェ、ボーっとするんじゃねぇ!! はよ何かしろリュカ!!」

「……何とかって……――まだ生きてる!? セバス、しっかりしなさい!」 

 セバスチャンが生きている――その言葉にいさ夫は胸を撫で下ろした。
 そして、自分が剣をあわせている相手は人外じみた化け物にも関わらず、彼は笑っていた。

『空気かと思っていたが、根性だけは見上げたものだな小僧!!』

 セイバーがその人間離れした腕力で、いさ夫を吹き飛ばす。
 いさ夫は何とか受け身を取って、体制を整えて立ち上がる。

「……やろうッ!」

『――……………………………!!!』

 鬼の群れをあらかた狩り尽くしたバーサーカーがセイバーに襲い掛かる。
 巨大な剣を力任せに振り下ろす。
 セイバーはその動きを予め読んでいたように回避した。
 バーサーカーの背中を取ろうと一瞬で回り込む。

『大層な魔剣だが、技の清廉さに欠けているぞ! 殺気が駄々漏れだジークフリート!!』

「え……?」

 自らのサーヴァントの真名が明かされて目を見開くリュカ。

『コォ――……………………………!!!』

 そして、バーサーカーも背後を取らせまいと向き直る。

『ふん、魔剣グラム……聖剣の原型ともなったその剣を余が見間違えよう筈もなし。悲しいな、大方は令呪で背後を取られぬように命令されてるのだろうが……』

『■■■――……………………………!!!』

 言葉にならない苦悶の声を上げるバーサーカー。
 巨大な黒鬼の投げた金棒がバーサーカーの背中を打っていた。

「そんな……バーサーカーのその場所は魔術で補強していたのに……!」

 声にならない悲鳴を上げるリュカ。

『単純な事だよ、バーサーカーのマスター、我がマスターの方が君より実力が上だったという事さ。
 ネタがバレてしまえば何という事はないな。バーサーカーよ……理性が無いというのは哀れなものよな。
 恐らくは君は大英霊クラスのサーヴァントだったろう。剣士のクラスで現界すれば、その”背中の弱点”を守りながら戦う事もそう難しくはなかったろうが』

 セイバーは、クククと笑う。
 ただ力があるだけの牙剥き出しの狂獣を見下して笑っていた。

『我がマスターよ。余は宝具の使用を求める!』

 虚空に向かって叫ぶセイバー。
 同時に彼の剣に黄金の光が宿る。


『コォォ――……………………………■■■――――――――!!!』

 バーサーカーが口から蒸気を吐き出し咆哮と共に突撃する。

「セイバー!!」

 セイバーの背後で、いさ夫が叫ぶ。
 彼は腕に灯った令呪を掲げる。

『む――!』

「来い、キャ――」 

『……全くダメダメね。あたしの御主人様は。堪え性がないのがダメなのよね!』

 木の上に狐の耳と尻尾を生やしたパンクな女が立っていた。

「たまちゃん!!」

 いさ夫が「いたのかよ!」と突っ込む。
 その異形の姿を見てセイバーが眉を吊り上げる。

『何だ……コイツは……おまえ……サーヴァント……まさか小僧の――?』

 突然の乱入者に困惑しつつもセイバーは、眼の前に迫るバーサーカーを見据えた。
 セイバーから見て、キャスターの実力は明らかに格下。
 取るに足らぬ相手だと判断したのだ。

『ここは出来立ての亡霊がいっぱいでいいわぁ』

 キャスターの指先が妖しくうごめく。
 次の瞬間、セイバーの足元がずぶりと地面に埋まった。
 その足元には、亡者の群れがセイバーの足にまとわりついていた。
 キャスターの操霊魔術である。

『死んだ使い魔どもの亡霊……精神汚染か……余には効かぬわ。正面突破で押し通る!!』

 眼の前に迫ったバーサーカーに物怖じせずにセイバーは剣を構える。
 足を亡者に掴まれ動けない。

『■■■■■■■■■―――――――!!!』

『獅子猛る勝利の剣(エクスカリバー)――!!!』

 闇夜の空に巨大な光の柱が立ち上る。
 辺りは光に飲み込まれた。
最終更新:2015年10月13日 00:36