第22話「反則乱入」



 セイバーの必殺の一撃は、バーサーカーに直撃していた。
 光が晴れ、姿を現したのは微動だにしないバーサーカーの姿。
 剣を振り抜いたセイバーの姿だった。

 ぴしり、とバーサーカーの装甲に亀裂が走る。

『……見事だね』

 ぱりん、と装甲が割れて端正な顔立ちの銀髪の大男が姿を現した。
 風に吹かれて銀髪がさらりと揺れる。
 そして、”ジークフリート”の身体は粒子となって消えていく。

『……愉快な程に見事な力押しだ……』

 最後に笑って”ジークフリート”は、いさ夫の方をチラリと見た。
 そして、彼は消え去った。
 セイバーは、その姿を穏やかな表情で見つめていた。
 最後まで戦い抜いた強敵を見送る戦士の眼で見送った。

『さて……続けようか……』


『ちょっと! 何で逃げないのよ!!』

「じいさんは未だ生きてるだろ! リュカだけ置いて逃げれるかよ!!」

 セイバーが振り向いた先にとっ掴み合いの口論をしているキャスターとそのマスターの姿であった。
 セイバーは、剣を構えてリュカに迫る。

「……え?」

 リュカはバーサーカーを失ったショックで動けずにいた。

「諦めんな!! 俺の妹!! 戦え!! じいさんを守るんだよォ!!」

 キャスターを突き飛ばして、いさ夫は剣を手にセイバーを追う。
 いさ夫の言葉でハッとセイバーに気付くリュカ。
 彼女は意識を集中させ手のひらに魔力を収束し、光弾を放つ。

『遅い!!』

 リュカの攻撃を剣を振り上げ、真っ二つにした。
 そして、振り上げた剣をリュカ目掛けて振り下ろす。

「やめろおおおお!!」

 いさ夫の絶叫。
 だが、リュカは死ななかった。
 疾風のように突如現れた黒い人影がセイバーの顔面に跳び蹴りを喰らわせたのだ。

『……があっ!?』

 突然の奇襲を受けて、吹っ飛ぶセイバー。
 彼は運悪く岸壁に叩きつけられた。
 血反吐をはきながら、立ち上がる。
 そこに立っていたのは、茶色いスーツにネクタイといった出でたちの男だった。
 背は高く、やや薄くなりかけた頭髪をオールバックにした中年の男である。

『ブラボー……効いたぞ、今の蹴り……おまえ、サーヴァントか?』

 言葉の通り、セイバーは軽くよろけながら立つ。

『いかにも。クラスは復讐者(アヴェンジャー)。女の子には優しくするべきだ』

 アヴェンジャーは、襟元を正し両手をポケットにいれながら、セイバーを見据えた。

『アヴェンジャー、だと?』

「借りを返しに来たぞ。セイバー」

 からん、と下駄の音が辺りに響いた。
 アヴェンジャーの後ろから紺の甚兵衛を着た巨躯の男が姿を現す。

「親父!!」

「……森本……源蔵!」

「おいおい、親父、死んだんじゃなかったのかよ!?」

 いさ夫は、死んだと聞かされていた突然の父親の乱入に面喰う。
 リュカもまた同様に驚きを隠せずにいた。

「たわけが。母さんとお前を残して、おちおち死んでいられるか」

 ふっ、と不敵に笑い、源蔵は腕を組んで表情を崩した。
 彼もまた息子との再会を喜んでいた。

「成る程……聖杯の力の守り人である家系の貴方なら”8人目”の召喚なんていう反則じみた業も可能でしょうね」

 源蔵は懐かしいものをみるような目でリュカを見た。
 そして、同時に傷付いたセバスチャンを見つける。
 源蔵は、その傷が一刻を争うものだと悟った。

「ヨハン・セバスチャン……無事なのか?」

「……い、一応、治癒魔術をかけたんだけど、宝具で斬られてるの……どのみちこのままじゃ危ない……」

 源蔵がその老紳士の名を知ってる事に少し驚きながらも、リュカは答えた。
 源蔵は「そうか」とだけ言うと、セイバーに対峙した。

『あの時のおまえか……成る程、あの小僧がおまえのせがれだとはな……まさか生きていようとはな』

 セイバーは、少し嬉しそうに語る。

「運よく同業者に助けて貰ってね。そもそもセイバーよ、貴様は殺気や魔力が駄々漏れなのだ。
 故に今回も”俺”が駆けつける事ができた。セイバー……ここで貴様を仕留める」

『……森本源蔵君?だったかな。それこそたわけた事だよ』

「ふん……いさ夫、とっとと行け!」

「なら早く言えよ、親父! 俺も空気読んで逃げれなかったじゃねーか!」

 いさ夫はセバスチャンを担いだ。
 老いてるとはいえ、身長190近い筋骨隆々の老人を。

「いいの?」

 心配そうに源蔵を見るリュカ。
 そんなリュカの手を引っ張り、いさ夫はハツラツに口を開く。

「いいんだよ! じゃーな! あとは頼むぜ親父!」

「……ああ」

 背中越しに片手をあげて、源蔵は応え息子たちを見送った。
最終更新:2015年10月13日 00:45