23話


「・・・・・」
思ったことが上手くいく事なんて、ありえない。
男子20番 輪島 光太郎(わじま こうたろう)は、激しい胸の痛みに襲われていた。
ゼェゼェと呼吸を乱しながら、人目につかなそうな林に腰掛け、鞄から茶色い小瓶を取り出す。
震える手でふたを開け、3,4粒ほどのカプセルを取り出すと、口に含み、ペットボトルの水で押し流した。

うっすらと汗を浮かべながら、ボーっとした瞳で遠くを見つめた。
「・・・・俺って、ツイてないよ・・な・・・」
光太郎は、生まれたときから余り体が強くない。
普段からでも激しい運動は、てんで駄目で医者からも止められていたし、毎日決められた時間に薬を服用しないと、生きれないのだ。
クラスには、自分なんかよりも余程、生き残ることが出来そうな人間がたくさん居る。
病弱な自分は、決して生き残れる筈が無い。
そんなマイナスな考えが光太郎の中で渦巻いていた。

「!?」
葉が擦れる音が聞こえた。
音は、段々近づいてくる。
光太郎は、逃げようとしたものの胸の痛みのため、それもかなわず、草むらに隠れるように身を伏せた。
意識を音に集中させる。
音は、止んだ。
「・・・・(誰だ?」
そっと、顔を上げて、見回す。
人影は、木の陰に隠れたようだ。

話しかけてみようか、相手もこっちの出方を伺ってるように見える。
そんな冷静な考えをしてる自分に苦笑した。
「・・・・(この空気になれたのかな・・・・それとも、諦め・・かな」
自問自答するも、答えは出ない。

「誰だ!? こっちに、やる気は無い!」
先に声をあげたのは、木の陰の人間だった。
「え・・・よ、ヨウ?」
その聞き慣れた声の主に、思わず光太郎は、顔を上げた。
そして、男子3番 織川 洋(おりかわ よう)もひょいと顔を出した。
「光太郎! おま、大丈夫だったんだな・・・安心したぜ」
洋は、光太郎と向かい合って、腰を下ろした。
「へへ、俺も死ぬ前に、ヨウに会えてよかったよ」
「・・・光太郎」
力無く笑った光太郎に対して、洋の顔が強張る。
「ふふ・・・別に、ヨウと、というか誰とも殺しあうつもりは、無いよ」
そう言い、光太郎は、目を閉じる。
「そうか、じゃあ、一緒に行こうぜ?」
光太郎は、もう一度うっすらと目を開け、だるそうに口を開く。
「いや、俺身体弱いし、きっと邪魔になるからさ。一緒に行けないよ」
「何言ってんだ。お前知ってるだろ、俺空手やってて強いしさ、力もあるし、光太郎みたくひょろいヤツなら、担いでたって動けるぜ」
洋が困ったように笑う。
「ヨウ・・・ありがとう・・・・」
光太郎は、天を見上げるようにゆっくりと上を向く。
「はは・・・ツイてないと思ったけど・・・最後にヨウに会えて・・ホント、よか」
最後の言葉は、聞き取れず、"ゴボッ!"と真っ赤な血を吐いて、倒れた。

「こうたろう」
洋は、何が起こったか、わからないと言った様に呆然としていた。
が、すぐに光太郎を助け起こし、名を呼び続ける。

そして、ほんの少しだけ、ほんの少しだけ光太郎の瞼が上がる。
「・・・・(・・・・ヨウ・・・ごめん・・・もう聞こえないんだ・・・。
 今まで、思ったことが上手くいくことなんて無いと思ってたけど・・・)・・・生きて」
吐血の所為で、ゴボゴボとしか聞こえなかったかもしれない。
が、『生きて』と確かに洋には、聞こえた。
そんなやるせない気持ちの中、洋は泣くしかなかった。


そんな中、一部始終を知ってる茶色い小瓶が夕日の光を浴び、ギラギラと光っていたのであった。


男子20番 輪島 光太郎(わじま こうたろう) 死亡  残り26人
最終更新:2012年01月04日 16:53