40話


「ゼェゼェ・・・・勝ったか・・・・」
肩で息をしながら、天道は一度大きく深呼吸をした。
螺川の刃をかすめたせいで、額から血を流していた。
その傷を心配して、由希は駆け寄り、自分のハンカチを水で濡らして当てた。
「だ、大丈夫?」
心配そうに声をかける。
「ああ、大丈夫だよ。しかし、危なかった・・・ほとんど直感だったが、急ブレーキをかけてよかったぜ。あのまま突っ込んでたら、螺川の刀で真っ二つだった・・・それが螺川の計算だろうが、偶然だろうが・・・マジで危なかったぜ」
天道はハンカチを受け取り、額を抑えると螺川を見た。
「見ろよ・・・すげぇ返り血だ・・・こいつはもう何人か殺ってるぜ」
薄明りの中、螺川に近寄り、彼の持っていた日本刀を拾い上げる天道。
彼は油断なく切っ先を螺川に向ける。
「気は進まないが、こ、殺しとくか・・・」
上擦った声を上げながら、天道が言う。
その言葉にぎょっとする由希。
「そんな・・・クラスメイトだったのに・・・・」
「でも、このまま野放しにはできないだろう・・・・」
天道の手は震えていた。
クラス内では一匹狼で、近寄りがたい不良で、ビビられていた。
(気張れ・・・俺・・・こいつを野放しにしたら、また何人も殺されちまう・・・俺がミスれば由希サンも死んじまうかもしれないんだ・・・くそ、震えやがる・・・・殺すしかねぇってのによ・・・)
人を殺すための決断。
それは天道にとっては、余りにも大きなものであった。
だからこそ、螺川という危険人物からの注意が薄れてしまっていた。
『ズダンッ!!』
気が付けば、天道は倒れていた。
彼が感じた背中への強い衝撃と足への鈍い痛み。
余りもの急な痛みで息ができなかった。
それは、起き上がりざまに放たれた螺川の足払い。
「きゃあああ!!」
そして、由希の悲鳴。
螺川は、拳銃を片手に由希の首に手を回し拘束していたのだ。
「くそ・・・・頭がガンガンする・・・・」
由希にもたれるように、螺川は彼女の頭に銃口を向ける。
刀を杖代わりによろよろと立ち上がる天道。
二人はよろめきながらも互いを睨みつけるように対峙していた。
「女を人質なんてカッコ悪いぜ・・・螺川くんさぁ・・・」
「くそが・・良い子ぶりやがって・・・女の前だからって・・・お前よぉ!! どうせ殺すんだから、卑怯もクソもないだろ!! 結局は一人しか生き残れないのに!! こんな使えないアマを連れて・・・人が殺すしかないと思って殺しまくってるのに・・・偽善ぶりやがって・・・・いらつくぜ!! お前みたいなクズが偽善ぶりやがって!!」
螺川は怒鳴り散らすように喚く。
「・・・凄いクサイ・・・螺川くん・・・これ血の匂い・・・・?」
由希が嫌悪感を籠めて呟いた。
「ハハハ、そりゃ俺はもう5人も殺してるからな・・・・お前らムカつくな・・・・弱いくせにこの状況に絶望するわけでもなく、強いからってゲームに乗るわけでもない・・・ムカつくんだよ!!」
「不様なヤツだよ・・・螺川・・・・剣道・・・いや、居合だったか? 打ちこんでるお前はカッコ良かったと思ったんだが・・・・」
既に天道の震えは消えていた。
とても落ち着いた声で喋り、とても澄んだ目で螺川を見ていた。
「フン」
「あがっ!?」
螺川は、由希の首を絞めて意識を奪った。
「由希サン!?」
思わず駆け寄ろうとする天道だったが、
「動くな!」
という螺川の声で立ち止まる。
「騒ぐなよ・・・クズが・・・男が慌てふためいて格好悪いぜ・・・ククク」
挑発するように螺川は笑う。
「テメェ・・・・!」
天道は歯を強く咬み、怒りをむき出しにする。
「下手に暴れられると、面倒だからな。気を失ってるだけだ」
天道はホッと胸を撫で下ろす。
「だが、俺の優位はグッと上がったわけだ・・・まずはその刀を捨てろ」
舌打ちをしながらも刀を投げ捨てる。
その様子を見て、ケタケタと笑う螺川。
そして、勝利を噛みしめるように銃口をゆっくりと、由希から螺川へと移動させる。
「馬鹿なやつだ・・・・じゃあなクズ・・・・死ねぇ!!」
『ピピッ』
それは、奇妙な電子音だった。
海の家で突然鳴った電子音の発生源は、螺川の首からだった。
「え・・・・なんだ?」
「螺川・・・お前・・・首輪光ってんぞ・・・・」
「あ・・・・?」
螺川は間抜けな声を上げる。
「え・・・なに? なんなの?」
その螺川の背後には、玩具のような銃を構えた二階堂 澪(女子11番)が立っていた。
彼女は一旦は逃げたものの、その後の戦闘音を聞いて心配になって戻ってきたのだ。
もしかしたら、親友がきたのかもしれない、と。
「あ・・・もしかして、この銃って首輪の起爆装置だったり?」
澪がボソッと呟く。
それを聞いた螺川の顔がみるみる青ざめる。
「嘘だろ・・・・ッ!! このクズどもが・・・!!」
「や、やめ――」
『バンバン!』
螺川の拳銃が火を噴く。
「ああああああああああああああああああああ」
絶叫する天道。
頭を撃ち抜かれて倒れる由希。
「お前らも道連れにして―――」
『ボンッ』
次に聞こえたのは銃声ではなく、乾いた軽い爆発音。
螺川の首輪が爆発したのだ。
彼は首を失い、死んだ。
今まで何人もの首を切断したように。
同様に死んだ。


男子19番 螺川 旋(らがわ せん)
女子1番 愛沢 由希(あいざわ ゆき)    死亡  残り22人
最終更新:2012年01月04日 17:01