41話
(うひょ・・分が・・・悪いわねぇ・・・)
女子2番 悪堂 響子(あくどう きょうこ)は岩陰に身を隠して息を殺す。
彼女が相手にしているのはウージーを持った弓場崎 ハナ(女子20番)と後ろに隠れている門田 成美(女子19番)のふたりだった。
二人は互いに声を掛けあい、また互いに一定の距離を保ちながら自分を探している。
イングラムでの一斉掃射で片付けようにも相手も似たような機関銃を持っている。
そう思った悪堂はウージーによる反撃を脅威に思っていた。
(状況が変わることはないか・・・なら、隙を見て背後の上り道を一気に駆け上って離脱・・・これね!)
幸い、ハナと成美のふたりは悪堂から距離にして30メートルは離れていた。
(今だ――!)
「おい、お前ら何やってんだ?」
ハナと成美に不用心にも声を掛けた人間――それは、男子11番 谷 露文(たに つゆふみ)だった。
その第3者の出現により、悪堂は逃亡でなく、様子を見るという選択肢をとる事にした。
「谷君・・・」
「アンタこそ・・・」
女二人の元に近づこうとした谷だったが、近くに転がっていた梢 俊夫の死体を見つけてしまう。
「うおおっ!!」
露文は仰け反るように、二人から距離を取る。
そして、ベルトに突き刺していた拳銃デザートイーグルの銃口を二人に向けるのだった。
「お前らがやったのか・・・俊夫・・・俊夫は俺の友達なんだ・・・俊夫は、お調子者だし、むっつりスケベで女子から好かれてなかったかもしれない・・・でも悪いやつじゃなかった・・・それをお前らが!!」
露文は、友達の死体を見つけて目を血走らせて怒号をあげる。
確かに俊夫はスケベなヤツだった。
だが、不用意に悪堂に近づいて行く程のお人好しで、何だかんだいっても二人を守ろうと言ってきたのだ。
二人も今では俊夫の事を悪くは思っていなかった。
「待って! 梢をやったのはアタシらじゃない・・・!」
ハナは弁解する。
だが、露文は簡単にそれを信じるほどのお人好しでもなければ、度量があるわけでもない。
「・・・・それを・・・信じるに足る証拠があるのかよ?」
露文は、疑心暗鬼の塊のように二人を睨みつける。
「そう・・・この近くに彼を殺した悪堂さんがいるの。彼女はマシンガンを持っているわ。こんな風に固まっていると、一網打尽にされる・・・ねぇ、谷君、悪堂さんはゲームに乗っているの。谷君が殺し合いに乗ってないなら、悪堂さんを倒すのを手伝ってほしい・・・」
普段は気が小さく、おどおどしてる成美とは思えない程のはっきりと明確な発言をするその姿に、露文は固まる。
だが、ハッとしてすぐに言い返した。
「・・・それは悪堂を殺すのを手伝えって言ってるみたく聞こえるんだが・・・?」
殺し合いを否定するかのように言う露文。
「その通りよ」
「・・・何だと?」
露文は成美の返答に驚く。
それも其の筈だ。
成美は、クラスメイトを殺すのを手伝えと言ってきているのだから。
「悪堂さんは完全に殺し合いに乗っているわ。あのお調子者の梢君が声を掛けたと同時にマシンガンを撃ってきたのよ・・・結果、彼は殺された。彼女を放置するのは他の無力なクラスメイトのみんなを見殺しにする事と同じじゃないの?」
露文は、成美の話を静かに聞いていた。
彼の高ぶっていた気持ちも落ち着き、見定めるような視線を成美に送っていた。
「・・・質問の答えになってないな。悪堂の学校での素行は確かに悪い。もしかしたら、悪堂はゲームに乗ってるのかもしれない。だが、それはお前らが俊夫を殺したっていう弁解にはならないと思うぜ。それに弓場崎の持ってるのってマシンガンだろ? そのくらい俺にだって分かるぜ? それで俊夫を殺したんじゃないのか?」
「うるせぇな! アタシらは悪堂を追ってんだよ! ごちゃごちゃ言うんなら、どっかに行けよ! 邪魔なんだよ、アンタさぁ!」
成美と露文は落ち着いていた。
だが、ハナは怒りを抑えられずにいた。
彼女は俊夫の事をあまり好いてなかったが、だからといって、殺すほど嫌いという訳は無かった。
むしろ、今更ではあったが、守ろうとしてくれたし、そんな俊夫を目の前で殺されていて落ち着いていられるような女ではない。
思った事をすぐ口に出すし、サバサバした性格で直情型の女なのだ。
「ハナちゃんちょっと・・・黙ってて」
「あ!? 何? いきなり何リーダーぶってんの!? 成美、アンタちょっとぶった位で優位に立ったつもりかよ!」
「そんなつもりじゃ・・・落ち着いてよ・・ハナちゃん?」
「悪堂の事どうす――――」
「うひょ☆」
「え?」
「あ――」
「しまっ――」
『ぱらららららららららららら』
口論に気を取られてる最中の事だった。
それはマシンガンの音。
同時に銃弾の雨が3人に降り注ぐ。
「ぎゃあああああ!!」
「うぐぉおおおおお!!!」
「ッ・・・ハナちゃん! 谷君!!」
不意打ちを喰らい、血だらけになって倒れる露文と弓場崎であったが、咄嗟に弓場崎に突き飛ばされて難を逃れたのは、成美だった。
「うそ―――うそでしょ・・・・ハナちゃん!!」
「悪運のいいコねぇ・・・死になさいよぉ~!!」
『パンパン!』
悪堂はベレッタを撃つ。
成美はほとんど本能で、すぐさま横っ飛びに岩陰へと隠れた。
途中、露文の遺品であるデザートイーグルを拾う。
「・・・ハァハァ」
肩で息をしながら、成美は息を整えようとする。
今まで生きてきた中で、こんな修羅場など彼女は経験したことがない。
だが、動かなければ殺される――そんな本能だけで銃を拾い行動した。
『ダァンッ!』
成美はデザートイーグルの銃撃で反撃する。
だが、悪堂が回避するまでもなく、攻撃は外れる。
「うひょ☆ あの大人しい成美チャンとは思えないわぁ~♪ 何がアナタをそうさせるのか・し・ら?」
悪堂は馬鹿にするように笑う。
『ぱららららららららららららら』
『パンパンパン!』
再び、マシンガンとベレッタによる銃弾の雨が成美の隠れる岸壁を削る。
「出てらっしゃいな! アナタの大好きなハナちゃんが天国でおいでおいでしてるわよぉ~♪」
『ダッ!』
元陸上部である悪堂のダッシュ。
悪堂が信じられない程の猛スピードで接近してきている事に気付いた成美は、岩陰からちらりと姿をだしデザートイーグルで威嚇しようとした。
「遅いわぁ♪」
悪堂の斧がデザートイーグルを持つ成美の手ごと破壊した。
「ぎゃあっ!!」
その攻撃だけで、今まで張っていた成美の恐怖心が爆発し、一気に戦意を失う。
「バイちゃ☆」
悪堂は、勝ち誇った恍惚感に包まれた笑顔を浮かべる。
『メチャ』
それは、とてもいやな音だった。
再び振り上げた斧が成美の顔面をかち割った音だ。
男子11番 谷 露文(たに つゆふみ)
女子19番 門田 成美(もんでん なるみ)
女子20番 弓場崎 ハナ(ゆばざき はな) 死亡 残り19人
最終更新:2012年01月04日 22:15