2-1 世間一般が考えるM&Aのイメージ
新聞や雑誌、テレビなどメディアでM&Aが取り上げられる機会も増えてきた。それに伴い世間でもM&Aは悪である、いや株主のために必要だなどの意見が聞かれるようになった。しかし、M&Aは経営戦略の一環であり、簡単に善悪、是が非かで語れるような問題ではなく、その事例や環境によって意味あいが異なるものである。では、まず世間一般が考えるM&Aの「良し悪し」とはどのようなものか考察してみる。
まず、動機における「良し悪し」が考えられる。世間一般には、安値で株を買い集め、支配権を握り、配当の要求などをおこなうファンドのようなマネーゲーム的なM&Aは悪であるというような風潮がある。また逆にシナジーを求めた経営きちんとした戦略にもとづくM&Aは肯定的に受け取られやすい。
つぎに手法の問題がある。ライブドアの日本放送、村上ファンドの阪神鉄道、楽天のTBS、スティールパトナーズのブルドックソースなど、市場で一方的に買い集めるケースが注目をあつめ、このようなM&Aは敵対的であってよろしくないという論調が主流となっている。非買収企業がメディアであったり、人気野球チームがらみであったことと、買収企業がIT企業やファンドがメインであったこともその論調に拍車をかけたように思われる。
そして3つめに、その取引が成立すれば、「成功したM&A」とみなされ、途中で断念すると失敗のレッテルを貼られる、というのが一般的である。まとめると図のようになる。
THINKの表を借りてくる。
これらの区分からも、世間で良い悪いと言われているM&Aにも様々なパターンがあることが見てとれる。一概に「良いか悪いか」は判断が難しいケースが実際には多いのである。マネーゲーム的であっても友好的に成立することもあれば、手法が敵対であったため戦略的動機が明確であっても取引が失敗する場合もある。良いM&Aでも成功するし、悪いM&Aでも失敗する。買収価格が高すぎて、後に財務的に苦しくなるケースなどもある。
ドンキホーテがオリジン東秀にTOBを仕掛け、イオンがホワイトナイトに現れたケースなどまさに「良いか悪いか」の判断では語れないことが明白である。ドンキホーテはオリジン東秀をパートナーとする次世代コンビニの構築という「戦略的動機」に基づき、「敵対的」にTOBをしかけた。そこに「友好的」な買収者(ホワイトナイト)としてイオンがTOB合戦をする。最終的にはドンキホーテが取得したオリジン東秀の株をイオンに売却する事で決着がついた。ドンキホーテは「取引不成立」、イオンは「取引成立」したのである。
ドンキホーテが強引に取引を成立させ、新事業を起こしていたら、長期的に見て、イオンに取得株を売って得た現金より多額の利益を得られたかもしれない。もし買収していたら何がどうなっていたか、5年後、10年後にはこの買収劇はどう評価されるこtになるのか、は誰にもわからないのである。
そこで、私たちはM&Aの良し悪しはその取引が成立することによって全外の企業価値が高まるかどうかにより判断すべきだと考える。
よい経営者は水平統合、垂直統合、多角化という典型的な企業成長戦略の中から企業価値を高めるようなM&Aの機会を見つけ出し、実行していく。そして優秀な経営者が企画し実行するM&Aは成功するはず、そしてその結果は株価の上昇という形で数字となって表れるはずである。しかし、実際には、物事はそれほど単純明快には進まない。そこで良い悪いという情緒的な判断はさておき、世の中のM&A活動を具体例を挙げながら類型化していく。
2-2目的の類型化
財務的動機と戦略的動機とのマトリックス分析をここでは試みる。良いか悪いかは判断しがたいケースが実際には多いが、ここでは1つの指標として提示したい。戦略的動機が明確でも手法が敵対的だったため取引が失敗する場合ももちろんあるということは上記で記述した通りであり、あらかじめ踏まえていただきたい。
1.マネーゲーム的なM&A
元来企業の事業目的のために行われるM&A。しかしそれとは別に財テク目的でのM&Aが行われるようになった。ターゲット企業を商品とみなし、その売買によって膨大な収益をあげる、いわゆるこれがマネーゲーム的M&Aである。こうしたM&Aでは戦略的動機を軽視するため、買収企業は事後のシナジー効果創出のために必要不可欠な戦略を立てることに関心はない。関心があるのは目先の利益である。よって、長期的に見て被買収者側の企業価値は損なわれ、株価は乱高下し、株主利益も失われた結果となることが戦略的動機と財務的動機の両面からアプローチしているM&Aより起こりやすいと考えられる。この分野が、最近の投資ファンドの活発な話題提供もあり最も議論を呼ぶM&A活動である。以下さらに三つの類型に分けてみていく。
① グリーンメーラー型
グリーンメールとは当初から経営支配を目的とせず投資利益獲得目的で、市場で特定企業の株式を敵対的に買い集め、プレミアムを乗せて、もしくは、株価を吊り上げておいて当該会社に買取を求めるという投資手法のことをいい、これを行う濫用的買収者をグリーンメーラーという。非効率な資産の売却、余剰資金の株主還元、資本構成の変更等を通じて企業価値を創造するファイナンシャルバイヤーと同意で表現されているケースも見受けられるが企業価値を創造するという観点の違いから濫用的買収者とファイナンシャルバイヤーの意味は大きく異なる。会社の富を全株主ではなく自分たちだけ優先的に回すことを要求し、他の株主に損失を与えるという意味で、悪いM&Aであることは明白である。
② 余剰資産分配要求型
余剰資産分配要求型とはキャッシュリッチな企業にM&Aをしかけて配当要求を行う敵対的買収行為の事を指す。TOBで揺さぶりをかけて増配を勝ち取り、内部留保を吐き出させる手法をとる。グリーンメーラーとの違いは利益を自身以外の全体の株主にも同じ利益をもたらしているというところだ。事例としてスティール・パートナーズによる2003年12月のソトーに対する敵対的TOBなどがある。非効率にしか使われていない会社資金をより効率よく使うために株主に還元せよという行為は悪いことではない。しかし企業価値、つまり将来CFを増加するのに貢献したかというとなんともいえない。もちろん経営者に緊張感を持たせるという意味では価値を生んでいるだろうが、それが終わればさっさと退場する場合はそれほど高い価値を生んだのかというとまた言い難いところがある。
③ 事業解体型
80年代に米国で盛んに行われていた、ファンドによる敵対的LBO(Leveraged Buy-Out)の中には「解体型M&A(bust-up merger)」とよばれる動機のものが多くあった。これは高成長時代に多角化をすすめコングロマリット(複合企業)化した会社の経営効率が悪化し、市場での株価評価(株式時価総額)が低迷したことが背景にある。解体型M&Aとは、そのような多角化企業を丸ごと買収し、それぞれの事業をバラ売りするだけで大きな利益を生み出せることに着目したディールである。
企業解体とは、実際には以下のような方法を取り混ぜて実施する。
1) 子会社の株式売却、事業部門の営業譲渡 →同業他社などに売却
2) 事業撤退や事業縮小・移転による工場敷地不動産の売却 →ディベロッパーなどに売却
3) 有望な事業の子会社化(株式分割)→株式上場による市場売却
そして最後には売却代金である現金のみを持った会社になるので、会社を清算してその現金が大株主のものとなる。NHKドラマ「ハゲタカ」より(390字 よしのうち)
2.オーナーの道楽的なM&A
オーナーの道楽的なM&Aとは金儲け目的でもなければ、本業とのシナジー効果や戦略的意味合いも大きくないという意味であまりうまくいかないケースも多々あるがそもそも金儲け目的でないとするならばオーナーの満足が満たされれば良いということになろう。ただこのタイプの問題点はオーナーが自分の道楽のために自分の金ではなく、会社や株主から集めた資本金や銀行からの借金を使って積極的にこのようなM&Aを行う場合である。
ヴィッセル神戸の楽天による買収劇がそれである。そもそもオンラインショッピングモールを運営している企業が、サッカーチームを買収して何のメリットがあるのか。楽天社員によると、今回の買収は「神戸市出身の三木谷社長が、自分の判断でヴィッセルの買収を決めたと聞いています。地元を支援したいという気持ちからで、出資元が楽天本体ではなく子会社のクリムゾン経由になっているのもそのためです」と打ち明けている。楽天グループとしては今回の買収には何かメリットが生じているのか。しょせんは地方のJ1チームであって、知名度も少ない。宣伝効果はほとんど期待できないと言っても過言ではないだろう。
3.企業防衛的案なM&A
企業防衛的案なM&Aとは買収資金負担が大きく収益的には苦しいが、戦略的にはずすわけにはいかないというM&Aのことを指す。買収価格が高く財務的に困難でも市場シェアで不利にならないようにするためにおこなう戦略的な(攻撃は最大の防御なり的な)M&Aといえるだろう。
ワールドの
MBO事例
事例としてアパレル大手のワールドが、経営陣による企業買収(MBO)で株式を非公開にする方針を決めたことがあげられる。株式を非公開にすれば、他企業が敵対的な買収を仕掛けようとしても、現経営陣の側に立つ少数の株主が株式を保有しているため、買い集めが難しくなり、買収攻勢を効果的に防ぐことができる。また、上場維持にかかるコストや労力を軽減する効果もある。株式を公開している企業は証券取引所に年間上場料を支払っているほか、株主総会の招集や株主確定作業を代行する信託銀行に支払う費用などもかさんでいる。一方、株式を公開することで得られる最大の利点は、株式を発行して大量の資金を調達できることにある。会社の知名度も向上し、それに伴って優秀な人材を獲得できる利点も大きい。しかし、ワールドのように、潤沢な資金を抱え、社外からの大規模な資金調達を必要としない企業の場合、恩恵よりも費用や労力の負担感が強いと見られる。 このようにMBOで経営陣は資金面で負担を強いられるが、企業独自のあり方を考えてこのような選択する例も近年よく見られるようになった。(591字 よしのうち)
4.企業価値を創造するM&A
私たちが最も企業価値を向上させるケースとして考えているものがマトリックスの右上方に位置するこの企業価値を創造するM&Aというケースである。
M&Aによって成長した企業
成約したM&Aのうち、その後統合経営がうまくいく確率は一般に1~2割程度といわれている。戦略的に良い組み合わせのM&Aであっても取引合意に至らないケースもたくさんあることも勘定すれば、M&Aが新たな企業価値を創造するという意味で成功する可能性は非常に低いように思われる。そして以下で説明する日本電産はその成功確立が低いといわれる中で、23件すべての案件で成功をおさめているといわれている。この成功事例を基に企業価値創造のためのM&Aについてみていく。
日本電産・三協精機再編事例
2003当時三期連続の経営赤字で債務超過の危機的状況でもはや自力での再生は難しい状況にあった三協精機と資本提携した。日本電産と比較して三協精機は生産技術を含めた総合力は日本電産のほうが勝っているが、部分的な基礎技術や先行技術、特許数などの基礎体力の部分は三協精機が上である。三協精機が儲かっていないのはマネーマネジメントの問題からであった。日本電産社長の永森氏が考えた
ストーリーでは三協精機はキャッシュフローが厳しいためカネの援助がまず必要である。自社の2004年3月期の連結純利益の見通しが130億円、よって第三者割当で持分法適用の子会社にして利益への影響を和らげ、三協精機の収益改善の見通しが立ったところで子会社化するという戦略を事前に準備した。第三者割当で5780万株を216円で引き受け、39.8%を保有する。その総額は124億8480万円にのぼった。そして実際に契約成立。そしてここから三協精機再編のつまり、アフターM&Aの具体的戦略を施していった。しかし日本電産が行ったのは企業文化の融合というより、あくまで再編の手助けをするといった手法で解決していった。具体的手法とは以下の永守イズムが基本理念になる。
永守イズム
- 技術さえよければ企業は立ち直る
- 雇用形態拡大が最高の社会貢献と考えているため買収をしても従業員の首切りをしないが、株主の納得を得るためにデューデェリジェンスを 徹底しなければ始まらない
- 技術=人材 作る、育てるのに最低10年かかる。
- 自主再建を助けるという位置づけで再建に取り組む。
- 出を制する・・・金利、経費ありとあらゆる出資を片っ端から削減
- 過去社長を派遣するということもしなかった(出資者が独り立ちするまでは役員を派遣する=連絡役)・・・突如現れた日本電産の人間が会社 を経営するのではなく、資本参加を受けた会社の人材が経営を担っていくという意識改革が目的。
- 優れた方を残す。判断の基準はどちらが収益に貢献できるか。→最初は日本特有の対等を強調、これは日本のM&Aアレルギーを解消するため。 しかし蓋を開けてみ見ればそこには柔軟さがある。
- 何よりPMI(Post Merger Integration)合併後の統合戦略を重視。
- 雇用や経営体制については怠け者はやめてもらうが、資本の論理を前面に出すのではなく、原則雇用は維持し希望退職者などは募らない。
- 再建に時間をかけない・・・1年勝負。でないと被買収者側から大丈夫かという不穏の空気が出始める
- 資本提携した会社には必ず個人筆頭株主になっている。
→自分のその会社に対する責任度合いとか株主に対する責任度合いとか、そういうものをはっきり示す証左だと考えているため。買収が失 敗したら一番損するのは自分であるということを示すため
- 3Q(Quality Worker)(Quality Company)(Quality Products)
- 6S(整理・整頓・清潔・清掃・作法・躾)3Qと6Sを使って事業を評価している。これこそが日本電産流の基本概念である。
こうして翌年からの業績が下方の図になる。
図 守永イズムp.120を挿入
3Q6Sの成果は着実に向上しており、2005年3月期連結売上高は1180億円で前年に比べ10%強の増資になった。営業利益・経常利益も過去最高を更新した。
良い・成功するM&Aの検討からみてわかることは、結局は経営者のビジョンとリーダーシップ、戦略の明確化とそれらを数字に落とし込み実行する徹底力、が成功の鍵だという当たり前のことである。
コレは論文にはいれない!!
日本電産・トリン買収事例
もちろん日本電産は再編だけを手がけるM&Aをしているわけではない。永守氏が最初に手がけたM&Aは米国のファンの大手メーカーのトリンであった。トリンは1885年に設立された機械メーカーで、北米、南米、欧州、豪州に生産拠点を持つ国際企業であった。日本電産がさらにモーター事業を大きくし、企業そのものを成長させるためにはファンの川下製品が必要であった。しかし日本電産にはファンの技術がなかったため、M&Aで事業参入しようと試みたのである。しかし当時従業員30名あまりの日本電産とかたや世界規模のメーカーでは会社の格が違った。そのため三年間ラブコールを送り続けたが、なかなか進展することはなかった。そんななか、トリンが米国のセラミック製品メーカー、クリーブパックという会社に買収されてしまった。クリーブパックがトリンを買収したのは、とにかく買って、高く売りつけようとしていた。いわゆるマネーゲーム的なM&Aであった。トリンは買収前から経営が傾きかけており、このままでは伝統ある企業が消えてしまうという懸念がひろがりはじめていた。そこで事業売却せず日本電産が買収に乗り出した。当初買収価格は25億円を提示された。当時の日本電産の資本金は1億円、売上高は41億円であった。これでは買収しても企業価値向上につながらないと考え、買収交渉の末20億円まで引き下げさせた。経営を改善すれば、回収までにそんなに長くかからないと計算し、この値段で交渉成立した。(1158字 よしのうち)
以下メモ書き
2-1世間一般が考えるよいM&A、悪いM&A(M&Aのイメージ)
○友好的×敵対的
○戦略的×マネーゲーム的
○取引成立×取引不成立
2-2目的の類型化
財務的動機と戦略的動機をマトリックス分析。良いか悪いかは判断しがたいケースが実施には多い。戦略的動機が明確でも手法が敵対的だったため取引が失敗する場合もある。
1.マネーゲーム的なM&A
① グリーンメーラー型
② 余剰資産分配要求型(村上ファンド、スティールなど)
③ 事業解体型
2.オーナーの道楽的なM&A・・・西部・コクドグループとダイエーがプロ野球チームを保有していた例など楽天、阪神などなど
3.企業防衛的案なM&A (再編とか)・・・買収資金負担が大きく収益的には苦しいが、戦略的にはずすわけにはいかないというM&A。買収価格が高く財務的に困難でも市場シェアで不利にならないようにするためにおこなう戦略的な(攻撃は最大の防御なり的な)M&Aなど。NTTドコモのAT&Tワイヤレスなど。
古河電工によるルーセントテクノロジーの光ファイバー部門の例。
ワールドのMBOもそう。
4.企業価値を創造するM&A(後述)
ボーダフォン、ソフトバンクの例など
- >よしのうち
その名のとおりキャシュリッチな企業にM&Aしかけて配当要求しる形。ライブドアってより、村上ファンドの阪神とかスティールのユシロとか調べてみて! -- たなか (2007-10-23 10:41:19)
- 2-1(1491文字)はとりあえずこれで完成。
誰かチェックよろしく。 -- たなか (2007-10-25 16:41:16)
- 了解!!
-- よしのうち (2007-10-25 17:58:47)
- 内容読んだけど、良かったょ!
明日から細かくチェック入れていこう♪ -- よしかな (2007-10-26 01:00:16)
最終更新:2007年10月30日 02:10