古賀 清実(こが・きよみ)教授
専門:睡眠行動学・夢反応解析
松茸大学スポーツ健康学部教授。
“寝ながら動く教授”として学内外で知られる。
彼は、睡眠を「最も誠実な運動」と定義しており、
起きている時間を“体の休憩”、寝ている時間を“魂のトレーニング”と呼んでいる。
学生の間では「寝てるときの方が指導が厳しい」と噂されるが、その理由を説明できた者はまだいない。
◆原点 ― 眠りの運動会
古賀が夢に魅せられたのは幼少期。
幼稚園の運動会で、徒競走の途中に立ち止まり、その場で昼寝を始めたという。
先生が慌てて起こそうとしたが、目を閉じたままゴールまで走り抜け、見事一位。
「寝てたのに速かった」という伝説は、地元で今も語り継がれている。
それ以来、彼は“睡眠中の身体運動”に強い関心を持ち、高校時代には“寝ながら懸垂”を成功させた。
顧問が感動して「これは祈りに近い」と言ったのが、学問の道へ進むきっかけだった。
◆講義 ― “夢を使った授業設計”
古賀の講義は、まず教室が真っ暗になるところから始まる。
出席確認は、点呼ではなく心拍計で行う。
一定リズムになった学生を「入眠確認」として出席扱いにする。
講義内容は「夢における身体反応の観測」。
学生たちは布団にくるまりながら、脳波センサーを頭につけ、教授の朗読する“夢のシナリオ”を聞く。
そのシナリオはすべて前回の授業で学生が見た夢を元に構成されており、
回を重ねるごとに全員の夢が少しずつつながっていく。
ある年、授業最終日に教授が「今日は私の番だ」と言って眠りについた。
そのまま90分間、誰も起きなかった。
翌週、全員が同じ夢の内容をレポートに書いていたという。
◆ゼミ ― “夢の共同研究”
古賀ゼミのテーマは「夢の再現と再利用」。
学生は毎朝、夢の記録を提出する。
その内容を元に昼休みに“夢の模倣実験”が行われる。
たとえば「夢で階段を延々と上っていた」と報告すれば、本当に体育館の階段を昇降しながら再現データを取る。
夢に出てきた食べ物を再現するチームもあり、
去年は“夢のカレー”(見た人によって味が変わる)を学祭で販売して話題になった。
ゼミ室の壁には、学生の夢の断片を再現したスケッチが貼られており、そこには「空を泳ぐ布団」「泣きながら寝ている時計」「笑う廊下」など、
もはや芸術かバグか分からない作品が並ぶ。
古賀はそれを見て、静かにメモを取る。
「夢とは、現実のリハビリである。」
◆研究室 ― “睡眠の神殿”
古賀研究室は、ベッドが六台並んだ静謐な空間。
窓には遮光カーテン、壁には“おやすみ注意”の札。
机の上にはノートパソコンの代わりに目覚まし時計がずらりと並んでいる。
どれも鳴らない。教授曰く「鳴ったら夢が壊れる」。
彼は毎晩、睡眠データを取得するために研究室に泊まり込む。
起床時間は午前十時、就寝時間は午後三時。
「夜は学生が寝てるから、観察できない」とのこと。
助手が報告書を提出すると、教授は寝たまま親指を立ててサインをする。
署名欄には、眠りながら書いたような筆跡で“Zzz...”とだけ記されている。
◆人柄と逸話
古賀は驚くほど穏やかな人物で、授業中に学生が爆睡しても怒らない。
むしろ「いい寝相ですね」と褒める。
ただし、自分の睡眠だけは絶対に妨げないよう厳命しており、ゼミ生の間では“教授が寝たら即黙祷”という暗黙のルールがある。
ある夜、清掃員が研究室を掃除しようとして照明をつけたところ、ベッドから起き上がった古賀が寝ぼけたままこう言ったという。
「あなたの動作、少し夢にノイズが入りますね。」
そのまま再び横になり、翌朝の研究ノートには「昨夜:音の夢(掃除機型)」とだけ記されていた。
学生からは「寝ても覚めても先生」と呼ばれる。
ゼミ合宿では毎晩“夢の共有会”が開かれ、おそろいのパジャマで寝転びながら一人ずつ夢を語る。
発表中に寝落ちした学生は、拍手で称えられるのが恒例だ。
古賀は微笑んで言う。
「眠りは、心が自分を説明してくれる時間です。」
◆現在の研究 ― “眠りの行動連鎖”
古賀は現在、夢の中で筋肉が動く理由を研究している。
曰く、「夢の中で走っているとき、魂の筋肉がトレーニングされている」。
この理論を証明するため、彼は香月教授(宗教心理)と共同で「信仰型睡眠運動プログラム」を開発中。
内容は、「祈りながら寝る」ことで睡眠効率を高めるというもの。
初期実験では、一部の学生が“夢の中で卒論を完成させた”と報告しており、教授は深く頷いてこう記した。
「夢の中の努力は、筋肉痛ではなく悟りとして残る。」
「眠りとは、肉体が行う最も静かな運動である。」
最終更新:2025年11月04日 01:27