富永 琴葉(とみなが・ことは)教授
専門:行動経済心理・感情資本論
黒髪ショートに赤縁眼鏡。
教壇に立つたびに静電気のような緊張感を走らせる、松茸大学
経済経営学部の看板教授。
学生たちの間では「彼女が眼鏡を外すと株価が動く」と囁かれている。
初回講義では黒板にこう書く。
「愛とは支出である。」
そして間を置かずにチョークを走らせる。
「貯めこむと、腐ります。」
その瞬間、教室の空気が変わる。
笑う者もいれば、メモを取る者、急に財布を確認する者まで出る。
彼女の授業は経済学の形をしていて、ほとんど恋愛相談である。
◆講義 ― “感情の市場と需要曲線”
琴葉教授は、恋愛を市場構造として扱う。
板書には「需要」「供給」「告白」と並び、数式の隣にハートマークが描かれる。
講義中、いきなり教室の中央に立って問いかける。
「この教室で、今一番“利回りの高い笑顔”はどれですか?」
学生が戸惑うと、教授は真顔でメモを取る。
「分析です。照れはノイズです。」
数分後、教室の空気は完全に投資セミナーのようになり、
全員が互いの笑顔を観察している。
期末レポートの題材は自由だが、例年の傾向はおかしい。
「恋愛におけるサンクコスト問題」「好感度インフレの危険性」など、
研究発表会はだいたい途中から恋バナになる。
◆研究室 ― “感情指数測定機構”
研究室には、教授の開発した“感情指数測定機”がある。
学生が部屋に入るたび、ピッという音とともに数値が表示される。
数値が上がると教授は静かに笑う。
「今日のあなた、心が流通していますね。」
彼女が近づくと、なぜか装置が毎回大きく跳ねる。
この現象は“琴葉ショック”と呼ばれ、論文にも載った。
教授は否定せず、微笑みながらこう言った。
「需要が過多なだけです。」
研究室の空気は、香水のように甘く、しかし冷静な狂気に満ちている。
壁には「感情の相場表」が貼られており、
“喜び:100pt”“嫉妬:120pt”“平静:市場外”など、
学生たちはその日の気分を数字で報告する。
◆人柄と逸話
琴葉は常に冷静沈着だが、学食では必ず“日替わり定食”を頼む。
理由を尋ねられると「市場は常に変化しますから」と返したという。
一度だけ“恋愛資本論”の講義中にプロジェクターが故障し、代わりにチョークで円グラフを描いた。
その図のタイトルは「心の再投資」。
学生からは「歩く経済レポート」と呼ばれ、彼女のゼミに入るために恋人と別れた学生もいる。
理由は単純――「感情を市場に出す覚悟が必要だから」。
◆現在の研究 ― “共感通貨システム”
琴葉は現在、“共感”を通貨として扱う社会設計を提唱している。
一人が他人の気持ちを理解した瞬間、その行為に価値が生まれるという理論だ。
この研究のデモとして、学生たちは互いに共感した回数をポイント化し、ゼミ内で「共感オークション」を開催している。
優勝者の報酬は教授の一言――
「あなたの笑顔、今週は史上最高値です。」
「感情は通貨。使えば循環し、ためれば腐る。」
最終更新:2025年11月04日 01:55