精神発酵耐性(Psychological Fermentation Tolerance)


松茸大学の入試では、学力検査・面接に加えて「精神発酵耐性」の評価が行われる。本学ではこれを“知の免疫検査”と位置づけている。未知の情報、異質な思考、矛盾した現実に触れたとき――その精神が腐敗せず、うまく発酵できるかを測る。

発酵とは、理解不能なものを即座に否定せず、いったん瓶の中にしまい、温度を保ち、しばらく観察してみる態度のことである。酸っぱくなるか、香ばしくなるかは人それぞれだが、発酵を恐れない心が、松茸大学の学問において最も重要視される。

試験の内容は毎年変わる。ある年は「無音の講義を45分視聴し、その内容を要約せよ」。別の年は「他人の夢の続きを3分で考案せよ」。いずれも正解は存在しない。採点基準は「菌のようにじわじわ反応を始めたかどうか」だけである。無反応は“未発酵”と判定される。

評価は「未発酵」「初期醗酵」「安定発酵」「過発酵」「異臭」の五段階。過発酵者は極めて稀だが、試験中に人格が三層構造になることが多く、発酵管理学科での保護観察を経て特待扱いになる場合がある。一方、異臭判定を受けた者は、発想自体は優秀だが空気を読まない傾向が強く、研究職向きと判断される。

判定は教員による観察と、試験中に採取された被験者の「思考呼気」を培養して行われる。呼気内の微菌活動が多いほど高評価となり、提出された答案よりも、むしろ“息の匂い”が重視されるという。

なお、本学では精神発酵耐性を入学後も継続的に測定する。学生が他者の意見を即否定した場合は、発酵停止の兆候とみなし、カリキュラムの一部を再発酵課程へ移行する。自らを閉ざした知は腐る。だが、空気を取り込みすぎても爆発する。松茸大学が理想とするのは、その中間――ふたの隙間からほのかに香る知性である。
最終更新:2025年11月04日 13:41