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それは全体は赤くて白くてそれでいて一部はどちらかというと黒く青く丸みをおびた三角形であり立方体の突起物があり水玉模様のストライプで・・・

2006年05月09日(火)21時30分-一角天馬

 

 ある朝目覚めると枕元に『よくわからないもの』がいた。
 『よくわからないもの』は何とも例えようのない声で鳴き、どのようにも名状しがたい匂いをして、どうにもよくわからない姿をしていた。
 「おはよう」
 とりあえず私は挨拶をしてみた。
 すると『よくわからないもの』は半透明の体を震わせて硝子の覗き穴から見える水晶のような球を真紅に発光させた。
 どうやらその光には催眠作用があるらしくしばらく意識が飛んでいたようだ。気がつくと一時間もたっていた。


 私が調理をしている間、『よくわからないもの』はおとなしくテレビを見ていてくれた。
 どうやら砂嵐が気に入ったらしく、ザザーザーという音に合わせて突起物の数を変化させていた。
 朝ご飯はワカメと油揚げのみそ汁に焼いた鮭とお漬け物。
 お漬け物はお隣の笹原さんが漬けた物だ、なかなかおいしくて気に入っている、今度また分けてもらおう。
 せっかくなので『よくわからないもの』にもご馳走してあげることにした。
 二人分の朝ご飯をテーブルの上に並べて『よくわからないもの』を手招きした。
 『よくわからないもの』はまるでボールか飛蝗のように跳ねながら椅子の上に直立した。
 手を合わせて「いただきます」モグモグ、ごくん。
 やっぱり朝はご飯がいいな。
 『よくわからないもの』もおいしそうにテーブルを囓っている。
 もうテーブルの1/3は無くなっていた。
 後で新しいテーブルを買いにいかなければいけなくなった。
 私はテーブルが無くなるまでに食べ終われるようにちょっと急いで朝ご飯を食べることにした。


 朝御飯の片づけも終わり、一息ついたころ。
 『よくわからないもの』もそのころにはテーブルを囓り終えてくつろいでいた。
 テーブルのあった場所には4本の足だけが残されている状況だ。しかし食べ残しを散らかったままにしておくのはよくないことだ。
 少しムッとしたので『よくわからないもの』の突起物を引っ張ってやった。
 「クルックー」
 『よくわからないもの』の口の中にあるスピーカーからそんな音が聞こえてきた。
 どうやら突起物を操作するとよくわからないアクションが起こるようだ。
 私は斜め上の突起物を押し込んだ。その突起物はひどく甘い、腐り落ちる寸前の果実のような匂いがした。すると『よくわからないもの』は肉色の全身を痙攣させながら上下に伸び縮みした。
 3番目の突起は金木犀の匂い、左右に動かすごとに斑の怪光を発生させた。
 4番目はドロヘドロの臭い、これは回転させるらしいとの注意書きがしてあったので言われたとおりに回転させてみた。
 すると『よくわからないもの』は2倍ほどに膨れ上がり、地獄の底のような笛の音色を響かせた。
 この世にあり得ない、だから例えることのできない、その音を聞いた私は、近所迷惑にならないかと心配する暇もなく、意識を失った。


 生臭さで目を覚ました。
 意識を取り戻すと私はベットに寝かされていた。
 なぜか額には鯖が乗せられていて、布団はグッショリと水で濡れていた。
 とりあえず鯖を枕元においてベットから抜け出した。
 『よくわからないもの』が新しく水で濡らした布団を持ってきてくれた。どうやら『よくわからないもの』が私を看病してくれていたらしい。
 方法はよくわからないが誠意だけは伝わった。
 「ありがとう」
 お礼に『よくわからないもの』の呼吸口に濡らした布団を詰め込んでやった。
 『よくわからないもの』は嬉しそうに呼吸困難を味わった。


 『よくわからないもの』に食べられたテーブルを買い換えるために西友に出かけることにした。家に置いたままにするのはどうかとおもったので、『よくわからないもの』も連れて行くことにした。
 三階の家具売り場は空いていた。テーブルを見て回る私の後ろを『よくわからないもの』は犬のようにヌラヌラとついて廻った。
 私がテーブルを物色すると『よくわからないもの』も対抗して第三肢をテーブルの形に変形させた。
 「ねえ、どれがいいの」
 私が聞くと『よくわからないもの』は臀部の電光掲示板に衣装箪笥の絵を映し出した。どうやらそれが食べたいらしい。
 結局、前のテーブルとよく似たものを買うことにした。
 店員と話している内に、『よくわからないもの』は椅子と、机と、衣装箪笥を同化させていた。それらも余分に買い取ることになった。


 お昼は西友のスガキヤで食べることにした。
 私はラーメンを『よくわからないもの』はお子様セットを注文した。
 二人相席で向かい合ってお昼を食べた。
 『よくわからないもの』はオマケの地球ゴマが気に入ったらしい。右胸についている窓から体内に取り込んだ。地球ゴマをジャイロ代わりにすることによって空中でも姿勢制御ができるようになったらしい、全身を合成着色料を使っているとしか思えない赤色に変化させふるふると震えながら空中浮遊を楽しんでいた。
 宙を舞う二次元的な厚みのない多重構造は風に舞う木の葉のようだった。


 家に帰ってみてふと気づいたが、いつのまにか『よくわからないもの』の全身が薄汚れていた。きっと外に出て世間の荒波に揉まれることによって純粋さを失ってしまったのだろう。
 これではいけないと思ったので『よくわからないもの』を洗濯してやることにした。
 とりあえず『よくわからないもの』を洗濯機の中に入れると洗剤を入れてスイッチを押した。
 『よくわからないもの』は子豚のような声を上げながらぐるぐると回転した。中央部の宝石だけが流れに逆らって逆回転していた。
 洗濯が終わる頃には水を吸って『よくわからないもの』は十倍ほどに膨れていた。


 夕食も食べ終わり、私は夜の散歩に出かけることにした。
 頭上には星屑が、そして隣には『よくわからないもの』が座ったり立ったり寝ころんだりしていた。
 今日一日、一緒にいてずいぶんと仲良くなった気がした。
 私は『よくわからないもの』にそっと寄り添った。金属質の表皮が気持ちよかった。
 ずっとこのままでもいいかと思ったけれど、皮膚が同化しだしたのでほどほどのところで切り上げた。


 入浴剤を入れたお風呂から出て眠る前にホットミルクを一杯飲むと、すぐにベットに潜り込んだ。
 『よくわからないもの』が私のベットの中に入ってきた。どうやら一緒に寝たいらしい。
 「十年早い」
 とりあえず手首の関節を外してやった。
 『よくわからないもの』はあきらめてくれたらしい。
 電子音を響かせながら冷蔵庫の中に入っていった。
 どうやら今夜の寝床はそこらしい。
 私はせっかくだから物置からチェーンを持ってきてグルグル巻きにした後、南京錠をかけてやった。
 これで安心して寝ることができる。
 ベットに入って目を閉じた。
 それでは皆さんお休みなさい。

〈終〉

    
 


よくわからないものとのよくわからない生活を描いたよくわからない物語。
どうか皆さんよくわからない気分になってください。
名大際及びサークル賞出展作品その2
 

最終更新:2012年12月30日 10:05