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宿命の虜囚

2006年06月27日(火)17時48分-魔法司法

 

あたしは一体なぜ囚われているのでしょう?

 あたしがいるのは牢屋です。いいえ、あたしがずっと暮らしている場所は牢屋です。鉄格子により固く閉ざされた独房、あたしを見張る看守。毎日同じ穀物があてがわれ生かされています。そして独房での無為な日常が過ぎていきます。孤独に、静かに。あたしはなぜこんなところに閉じ込められているのでしょう?・・・理由は分かりません。
 あたしが昔いた場所、この牢屋に来る前のこと。そこもやはり鉄格子の中でした。ただここと違うところがあるとすれば、そこにはお母さんがいました。兄弟姉妹がいました。独りではありませんでした。
 幼いあたしはお母さんに尋ねました。
「どうしてあたしたちは牢屋にいるの?何か悪いことしたから牢屋に入れられたの?」
 母さんは少し悲しそうな顔をして答えました。
「いいえ、あなたも私も生まれてからずっと牢屋にいるわ」
「じゃあなんで?何も悪いことしてないのに」
「私も昔母さんに同じことを訊いたわ。私たちは母さんの、母さんの、そのまたずっとずっと母さんのときから牢屋の中にいたそうよ。みんな生まれたときから牢屋の中よ」
 そしてお母さんはためらいがちに続けました。
「何か悪いことがあるとすれば、きっと血筋が悪いのでしょうね。一生を牢屋で過ごすよう宿命づけられたこの血脈が」
「・・・・・・」
 あたしは何も言えませんでした。そのときはまだ幼かったのでお母さんの言っていることがよく理解できていなかったというのもあります。しかしその言葉を理解できる今聞いたとしてもやはり何も言えないでしょう。
「ほら、いつの日か私たちも免罪されて自由になれるときが来るわよ。この宿命から解き放たれるときが来るわよ。私がだめでもあなたたち子どもが。あなたたちがだめでもその子どもが。そんな日がきっと来ると信じて頑張りましょう、ね」
 お母さんの励ましはよく分からないなりにあたしを元気づけてくれました。つらいと感じたときにはこの言葉を思い出せば元気がわいてくる。そんな希望に満ちた言葉でした。
 そしてその数日後、あたしは看守に連れられて牢屋を出ることになりました。あたし一人が、一人だけが。突然の家族との別れ。一人家族と引き裂かれる悲しみとやっと自由になれるかもしれない喜び、相反する感情があたしの中で渦巻きます。しかしその渦は一瞬にして悲しみによって覆い尽くされてしまいました。看守に連れられ着いたところはやはり鉄格子の中でした。しかも今度は独りきり。新しい牢屋、新しい看守、新しい悲しみの宿命。そして今日まで続く、いつ終わるとも知れない孤独の日々。
 今日も今日とて食事の時間がやってきます。囚われの身ながら食事は毎日与えられます。毎日同じものですが。今の看守は昔家族といたときの看守に比べて横暴です。もう慣れましたが。脱走を怖れているのか不定期的にあたしのボディーチェックをします。あたしが疲れていようとも寝ていようともおかまいなし。ボディーチェックのときは牢屋の外に出されますがそれは一時的なもの、囚われの身であることに変わりはありません。いつになったらあたしはこの宿命から逃れられるのでしょう。それは神のみぞ知ることです。
 ああ、今日も看守がやってきました。いつもと同じ食料を持っています。

「ハム子~、えさの時間だよ。大好きなひまわりの種だよ」


籠も檻も牢も全ては同じものです。
そこにある違いは外部の観察者の意思。
その内部のものには関係のないこと。
でもこんなこと考えるハムスターは嫌ですね。

最終更新:2012年12月30日 11:33