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キス

2006年09月27日(水)23時29分-渋沢庚

 

 店から出ると熱気が二人を包んだ。歓楽街の小さな店。戸を閉めると足元だけに取り残された冷気があった。
 「おいしかったね」
 「そうだな」
 南は笑ってみせた。その笑顔に正浩はちょっと躊躇う。正浩には言わなければならないことがあった。店のなかでは言えなかった。しかし、彼女の笑顔を見ると余計に罪悪をおぼえる。
 「次、どこいく?」
 南は携帯を取り出した。時間を見るためだった。八時五十四分。まだ時間はあった。
 「ね?どこいこうか??」
 南がそういった瞬間、正浩は南を引っ張った。腕をとって、ぐいぐいと裏の路地の方に向かう。
 「どうしたの?」
 南はびっくりして抵抗するそぶりも見せない。ただ、なにかが違うことを感じていた。
 人気のないところまでいくと、正浩は壁に手をついて、南が逃げられないようにした。
 「本当に…どうしたの?」
 南はいよいよわけが分からないといった様子だ。
 正浩はじっと南を見つめた。彼女が場を取り繕うとしてみせる笑顔が正浩をさらに苦しめる。正浩は一瞬躊躇った。だが、ふと何か思いきったように、すっと南に近づいた。
 正浩は南の唇を奪っていた。いや、唇だけじゃない。彼女の全てを奪い尽すかのように、舌をいれる。ねっとりとした感触が舌先をはしる。溶けてしまいそうな感覚。それでも、正浩は自分を忘れていない。やらなきゃいけないことは…わかっている。正浩は腕で南の頭を抱えた。南はされるがままだったが、必死に舌を絡めてきた。なれないのか、息継ぎのような吐息があつい。
 二人はしばらくその状態でいたが、不意に正浩がはなれた。熱い吐息だけが二人の間にこだましていく。正浩は確かめるように舌を口の中で動かした。南は手を唇にあてている。
 「いきなり…なんだね」
 南は苦笑した。うつ向いて赤くなる。
 「ホント…本当に、どうしたの?」
 南は嬉しい反面、心配そうに聞いた。
 正浩は表の路地を遠く見つめていた。
 「ねぇ?」
 南が逆に正浩に詰め寄る。
 「ついてたんだ」
 正浩は言いづらそうに呟いた。
 「え?」
 南が凍った。
 「ついてたんだ。青のりが…君の前歯に…」

 表でお好み焼き屋の暖簾がはためいた。
 


デビュー作にこの作品は、どうかと思ったんですが。長い作品だと読んでいただけないのではと。
超小編ですが、よろしくお願いします。

最終更新:2012年12月30日 12:41