2011年12月03日(土)18時40分 - 御伽アリス
黒き森の広くある何某といふ国に、ヴァイシュネー・プリンツェシンといふ姫おはす。その肌は雪のやうに白く、口縁は血のやうに赤く、髪は黒檀のやうに黒くあらせらる。其のかたちはいと美しく、艶めかしくあてなり給へども、ひととなり邪にして取り分き其の母なる王妃へのベネーメンはマジやばうおはす。
或る日、其の姫、魔法の鏡に向かひておほす。
「鏡よ鏡よ鏡見よ、世界でいっちばーん美しいのはだ―――」
「そりゃお前あれだよ、あんたのお袋の王妃様だよ」
「なんですって~!」
姫、其の髪を振り乱し給ひて鬼のやうに怒り給ふ。急ぎ家来の猟師を召し寄せて、王妃を森へお連れ申し、命奪ひ奉りて其の腸を持ち帰れとおほす。
猟師は王妃をお連れ申して森へ分け入れども、王妃をいとほしく思ひ奉りて其の命を奪い取り奉ることあたはず、つひに王妃を森に置き去り申す。猟師、代はりに猪の腸を持ち帰る。姫、其の腸に豚の肉を詰めてヴルストにせよとのたまひて、其をいと美味そうに召す。
さて王妃は、森をさまよひ給ひてのち、七人の異国のツヴェルクに会はせ給ふ。名をば、ドク、グランピー、ハッピー、スリーピー、バッシュフル、スニージー、ドーピーとなむいふ。王妃、ツヴェルクらの身のまはりの世話をすることを契り給ひて、身を隠し給ふ。
さて重ねて姫、鏡に向かひておほせらる。
「これで、世界で一番美しいのはわたくしでしょ」
「いや、王妃だっつーの」
「なんですって~!」
王妃の此の世にあらせらるるを知り給ひて、姫その髪を振り乱し給ひて一徹のやうに怒り給ふ。姫、急ぎ其の御身を物売りの姿に変化せさせ給ひて森へと分け入らせ給ふ。ツヴェルクらの留守を狙ひ給ひて王妃に首飾りを売り奉り給ふ。試みに其の首飾りをお付け申すと偽り奏し給ひて首飾りを締め上げ給ひて、王妃息絶え給ふ。
さありて後、ツヴェルクら王妃の息無きを見て慌て騒ぎ、首飾りを切りて王妃を救ひ奉る。
姫、鏡におほす。
「今度こそわたくしが一番美しいはずよ」
「何度も言うようだけど、王妃が一番だよ」
「なんですって~!」
王妃の未だ此の世にあらせらるるを知り給ひて、姫其の髪を振り乱し給ひて不動のやうに怒り狂ひ給ふ。姫急ぎ毒つきの髪留めを作り給ひて王妃のもとへとおはし、王妃の頭に髪留めを突き刺し給ふ。王妃倒れ給ふ。
然れども、ツヴェルクら王妃の倒れておはするを見てただちに髪留めを引き抜き奉りて、またも王妃蘇らせ給ふ。
姫祈るやうにして鏡に尋ね給ふ。
「確かに殺してやったわ。これで私が一番ね」
「王妃は生きている。すなわち一番美しいのは王妃」
「なんですって~!」
王妃さながら岩男の如く蘇生させ給ふを姫知り給ひて、其の髪を振り乱し給ひて近頃のキレる童部のやうに怒り給ふ。姫急ぎ毒林檎を作り給ひて後、王妃が心を和らげしめ奉らむとて、其の御身を林檎売りの媼の姿に変化せさせ給ひて王妃のもとへおはす。其の家の戸をコンコンし給ふ。
「林檎いらんかね、安いよ安いよ! 食物繊維やビタミンC、ミネラルにカリウムがたっぷり。林檎に含まれるリンゴポリフェノールには脂肪の蓄積を抑える効果があるとも言われ、一日一個の林檎は医者を遠ざける、なんて諺もある。かの有名なアダムとイヴも思わず食べてしまったほどの禁断のおいしさ! これ食べないと損だよ」
王妃、ツヴェルクらに家の戸を開けぬやうにと言はれ給ひしより、戸を開け給ふことを躊躇ひ給ふ。媼なる姫いはく、
「あたしゃ怪しいもんじゃありません。ただの林檎売りですからここを開けてください」
とおほす。王妃其の言を真と思ひ給ひて戸を開き給ふ。つひに媼なる姫の毒林檎を召しつ。王妃息絶え給ふ。
ツヴェルクら王妃の隠れさせ給ふを見れども、そのもと分かず、悲しみ嘆き、王妃を透明なる箱に入れ奉りて運ぶ。箱を運ぶ折、ツヴェルクの一人木に躓きて、箱揺りき。すると箱入り王妃、喉に詰まりし林檎の欠けを吐き出し給ひて息を吹き返させ給ふ。ツヴェルクらいと喜ぶ。
姫、此度は心安く鏡に問はせ給ふ。
「メスブタは死んだわよ。わたくしが一番美しいわよね」
「お前いい加減にしろよ、王妃だって何回言ったら分かるんだよ」
「なんですって~!」
王妃確かに毒林檎を召し給ひつるに、其の命未だ絶え給はざるを姫知り給ひて、其の髪を振り乱し給ひて荒御霊のやうに荒々しく怒り給ふ。怒りのあまりにその髪、刹那の間縮れて天然パーマになり給ひて、姫、鏡を打ち割り給ふ。
其の後、姫、魔法の文を見つけ給ひて、ひとへに其を読み給ふ。其の文より、悪しき王妃を地獄へ落とすは、ただ異国の王子のくちづけのみなり、と知り給ふ。すると間の良きところに隣国の王子おはす。姫、其の王子に森の中におはす王妃のことを教へ給ふ。
「王妃、病にて森の中へ追はれ給ひたる身。其の御身、貴方様のくちづけによりておこたると聞き侍りて、お願ひ申し候」
などと偽り給ふに、王子その言をあやしく思ひ給ふことなく、すなはち森へと疾くおはす。
王子、何をも知り給はぬ王妃を抱き寄せ奉り給ひて、其の口縁にくちづけし奉り給ふ。物陰より隠れ見給ふ姫、いとをかし、と笑み給ふ。然れども、王妃息を止め給はず。かへりて王妃喜び給ひて王子に抱き付き奉り給ふばかりなり。
姫、魔法の文を返す返す読み給ふ。「あなたの狙う女性は硬派で気高い王女様タイプ? そんな人には、少し強引なアプローチが必要! 今までどうやっても落とせなかったあの人を仕留めるには、(王子様の)キスしかありません! これであの娘もイチコロだ!」と書いてあり。姫、王子のくちづけにより王妃の地獄には落ち給はず、恋に落ち給ひつるを知る。怒りのあまり魔法の文を破り給ふ。すると文燃へ上がり、姫、火に包まれて死に給ふ。
其の後、王妃、王子と七人のツヴェルクら共にいとめでたく暮らしたり給ふ。
めでたしめでたし。