2005年03月07日(月) 00時21分-穂永秋琴
(ここまでのあらすじ:南蛮の依智高の叛乱を鎮圧して都へ凱旋した楊宗保・文広親子。戦勝祈願のため東岳へ進物を持っていった使者が焦山の山賊に襲われ、宝物が奪われてしまったことを知る。楊文広は部将の魏化とともに、山賊を討って宝物を取り返し、改めて東岳へ納めるため、軍勢を連れて焦山へ向かった)
さて仁宗皇帝は楊文広に、まず焦山へ行って宝を取り返し、さらに東岳へ行ってこれを納めてくるよう命じた。文広は詔を得て、「奉敕取宝進香」と書かれた旗を作らせた。旗が出来上がると、無佞府へ戻って父と別れ、ついに三千の鉄騎兵を率いて出発した。
出発にあたって、文広が魏化に、
「焦山へはどの道を通って行けば良いのだろう」
と尋ねると、
「二つの道があるそうです。一つは広い道で、焦山の正面へ通じています。もう一つは悪路で、焦山の後ろ側に出るのですが、こちらのほうが距離は近いとか」
との答え。そこで文広は、
「悪路の方が近いなら、夜のうちに進撃して、備えのないところを衝けば、すみやかに討滅できるだろう」
と言い、魏化も、
「小将軍の意見は正しいと思います」
と応じた。そこで文広は兵士たちを率い、悪路を通って進発した。
さて焦山の杜月英と宜都の竇錦姑は義姉妹の契りを交わしていた。月英は朝廷の使者を襲撃してから、人を遣って都の様子を探らせていたが、その人が戻ってきて、文広が悪路を通って宝を取り戻しに来たことを報せた。月英が喜んでいると、錦姑がやってきたので、出迎えて中へ招いた。
錦姑が問うて、
「あなた、どうしてそんな嬉しそうにしているの?」
と尋ねると、月英は、
「あたしはこの前、朝廷の三種類の宝を奪い取ったけど、楊文広が奪い返しに来るそうなのよ。この人は長善公主の許婚だけど、まだ結婚はしてないわ。彼は美少年だと聞いているし、私だってなかなかのものよ。だから彼を捕まえて結婚し、良い旦那さまを持とうと思ってね」
との答え。錦姑は話を聞いて、密かに思うよう、
――月英は好い夫を欲しがってるけど、私にも夫は必要だわ。私が先に部下を連れて戦って、結婚してしまうとしましょう。
そこで月英に、
「彼がどの道から来るか分かってる?」
と尋ねた。
「姐さんが来た方角からよ」
錦姑は暗に喜び、月英と別れて戻り、文広を捕らえる作戦を決めた。
文広が軍を連れて宜都山の前まで来ると、たちまち前方に一つの軍勢があって道を阻んでいるとの報せ。文広が進み出て、問うて言う。
「私は天子の勅令を受け、東岳へ香を届けに行く者だ。そなたは何者か。どうして道を阻むのか」
その部隊から美貌の女性が進み出てこれに答えた。
「私は宜都山の竇天王の娘で、ここを守っている者よ。もし旅人や商人がここを通過するときは、まず若干の通行料を置いて通ることになっているわ。このことを知らないの? あなたは何者?」
「私は先に依王天子を捕らえて帰国した、先鋒の楊文広だ」
「その蛮族を捕らえることはできても、私の宝刀を受けきれるかしらね」
文広は大いに怒り、槍を引っさげて錦姑に向かった。錦姑は馬を進めて数合を交わした後、絆馬索を放って馬の脚を絡めとり、力をこめてぐいと引くと、馬は倒れて文広を地面に放り出した。すると山賊たちが一斉に打ち出て文広を捕らえてしまった。魏化が救援のために慌てて出てきたが、錦姑が矢を放って彼の馬を射ると、魏化もまた地に投げ出された。錦姑は魏化を放っておき、文広を縛って連れ去った。
塞に戻って錦姑が座って休んでいると、山賊たちが文広を引っ立てて前に立たせた。錦姑が文広を見てみると、顔は白粉を塗ったよう、唇は朱をすり込んだよう、捕らえられてなお威儀を保っている。心の底で思わず喜び、ついに山賊たちに結婚のことを話させた。ところが文広は、
「私は堂々たる天子の婿だ。どうして山野のカラスと連れ合いになることがあろう。死んだほうがましだ」
ととりつくしまもない。錦姑は怒って、
「虜囚の身で何を言っているのやら。今は殺さないで、ただ閉じ込めておきましょう。朝廷に知られたところで、なにができるわけでもないし」
と言うと、文広は犬と罵り、錦姑に頭突きを見舞おうとした。錦姑は山賊たちに命じてその手足を厳重に縛らせた。
その後、密かに山賊たちに、
「彼に傷をつけたりしてはいけないわよ。私に計算があるから」 と言いつけた。山賊たちは承知して、文広を床に転がしておいた。
それからまもなく、塞の外で地を揺るがすような声がした。錦姑が出てこれを見てみると、まさしく魏化である。
「この前は助けてあげたのに、またやって来るなんて、大胆なこと」
「話をする必要はない。小将軍を返してもらおう」
「もう煮てしまったわ」
魏化は怒って、真っ直ぐに錦姑に向かって行ったが、数合を交えただけで捕らえられてしまった。山賊たちが彼を塞へ引きずっていった。錦姑は自ら彼の縄を解いて言った。
「あなたを捕らえたのはね、仲人になってもらうためなのよ」
「どういうことだ?」
「私は楊さんと結婚したいんだけど、この話をしても私の身の上を嫌って、承知してくれないのよ」
「そんな馬鹿な話があるか! あの人は朝廷の婿だぞ。まだ婚約しているだけだから、知らないのも無理はないが」
「私が第二夫人になれば、問題はないでしょ?」
「――分かった、俺が将軍に話してみよう」
魏化が塞の中へ入ってみると、文広が手足をきつく縛られ、床の上に転がされていた。
「小将軍、おいたわしや!」
「魏化、どうしてここへ来たんだ?」
「先に小将軍が落馬したのを見、助けようと思いましたが、弓で射られ、落馬させられてしまいました。馬を換えてもう一度戦いにきましたが、捕らえられてこの有様です。――あの娘は結婚のことを話していましたが、どうするつもりですか?」
「どうやって結婚できると言うのだ。宮廷へ戻ったら罪に問われるぞ」
「私もそう思います。しかし今、頑強に拒み続ければ、おそらく生かして帰してはくれないでしょう。物事の順序に従い、彼女を第二夫人になさればよろしいでしょう。なお朝廷から咎めがあれば、私が弁護いたします」
文広はしばらく考え込んでいたが、ついに承知した。魏化がこれを錦姑に告げた。
「小将軍は承知した。しかし、後で文句を言っては困るぞ」
「何のこと?」
「上下のことだよ」
「私は宮仕えした人間じゃないけれど、礼儀は心得ているわ」
そこで山賊たちに命じて大いに酒宴を開き、夕方には文広と夫婦になったのだった。
*
翌日の早朝、文広が錦姑と別れて東岳へ向かおうとしていると、たちまち塞の外に喚声が上がった。文広が馬に跨って出て行ってみれば、またしても一人の佳人である。
――どうしてまたこんな目に遭うのだ。
頭を抱えてそう思ったが、とりあえず槍を手にして言った。
「私は大宋の皇帝の勅令を受け、進物を納めに行く者だ。そなたは何者か。どうして道を阻むのか」
月英が言った。
「あなたが楊文広将軍かしら?」
「そうだ」
「ではあなたはあたしの旦那さまね! あなたと戦うつもりはないわ。そっちのあばずれに、出てきて技を比べるように言ってよ!」
文広はこれを聞き、もはや言葉も出さずに馬を駆って月英に打ちかかった。月英はこれを迎え撃ち、数十合に渡って戦ったが、勝負はつかない。魏化が助太刀に出てさらに数十合戦ったが、やはり決着はつかなかった。文広はさらに戦おうとしたが、錦姑が止めたので、軍を収めて塞に戻った。
錦姑が言った。
「月英の力量は私の十倍以上だし、頭も切れるわ。彼女とも結婚しておかないと、後々の災いになるかも」
文広はもはや諦めの境地で、
「では、そのことをどう報せたものだろう」
と言う。錦姑は魏化に行ってもらうように勧めた。
翌日、魏化は月英の陣営を訪れ、この事を告げた。
「憎らしいわね、あたしを騙そうと言うんでしょう」
「もし錦姑どのが昨晩強く勧めなかったら、楊先鋒も承知しなかっただろうな」
「確かに承知したなら、楊さんには一人であたしの陣営に来てもらいましょう。そうしたら軍を退くわ」
魏化は戻って文広にこのことを伝えた。文広は果たして一人で月英の陣地にやって来た。
月英は迎えに出て、大いに喜んで言った。
「旦那さま、迎えに出るのが遅れました。どうぞご寛恕くださいな」
文広が月英を見ると、化粧は薄く、眉は整い、口中には白い歯が並んでいる。密かに思うよう、
――世間にはこれほどの美少女がいるものなのか! 月の仙女の美貌は無双だと言うが、見たところ、あるいは彼女なら並びえるかもしれない。
文広は非常に嬉しくなり、ついに焦山まで同行した。その晩、月英は大いに宴を設け、文広をもてなした。
翌日、文広は月英に言った。
「君の愛が厚いのは分かってる。でも私は聖旨を奉じて東岳へ行かなければならない。期日に遅れれば穏便にはすまされないからな。まずは先に君が奪ったという宝物を返してもらえないか。そして再会の日を待とう」
「本当は何日もここに留まってほしいんだけど、君命を軽んじるわけにはいかないわね。だから無理に留めはしないわ。でも私は死ぬまであなたを旦那さまにしておきたいの。忘れないでね」
文広は心臓を指して、
「君の心を捨てることがあれば、天が罰するだろう」
と言った。
それから月英は小娘を呼び、三種の宝物を持ってこさせた。――この三つの宝とはどんなものか? 一つは万年経っても消えない青叢灯、一つは吉凶を占う玉の筒(これを叩けば籤が出て吉凶を示してくれるのだ)、それに夜行の珠である。文広はこれらの宝物を収めると、月英と別れ、軍勢を連れて東岳へ向かって旅立ち、やがて燕家荘へ到着した。
燕家荘の前には大きな谷がある。鮑大登という人がいて、身の丈一丈(2メートル30センチ)、生きた牛から角を引き抜く怪力の持ち主である。燕皇帝を自称し、海賊行為を働いていたが、官軍は捕らえることができないでいた。彼の夫人は江氏。三男一女があり、息子たちはそれぞれ太卿、少卿、世卿、娘は飛雲といい、みな勇力があった。数万の無頼漢を率いて燕家荘にたむろしているのだった。
この時、鮑大登が江氏と談笑していると、たちまち飛報を告げる者があり、宋の朝廷が東岳へ進物を納めに人を遣り、今この地を通過するので、部隊を繰り出して宝物を奪い取ろうと言ってきた。
「太卿と少卿は海へ行っているから、わしが奪ってこよう」
と大登は言ったが、世卿は、
「いや、俺にお任せください。進物を奪うなど、袋の中のものを取るようなものです」
と豪語し、ひらりと馬に跨って、無頼漢どもを引き連れて出発した。
文広の軍に遭遇すると、世卿は言った。
「さっさとその宝を置いていけ、そうすれば好きな方向に通してやろう。嫌なら生かしては帰さんぞ!」
これを聞き終わるや、文広は激怒し、矛を振りかざして世卿に突進した。世卿も馬を進めて迎え撃ったが、数合を交えた後、文広が鞭を振り上げて世卿の左肘を撃ったので、痛手を受けて逃げ帰った。大登はこれを見て、槍を手にして出て行ったが、十合打ち合った後、やはり敗れて逃げ戻った。大登は悶々として喜ばなかった。
飛雲は父が敗れて帰ったと聞き、慌てて尋ねた。
「これほどの勇者とは、来たのは誰でしょう?」
大登は答えた。
「名は問わなかった。ただお前の兄が鞭で一撃されたので、わしも出て行って戦ったのだが、こうして早めに逃げ出さなかったら捕らえられるところだったわ」
「父さん、ここは計略を用いるべきよ。蛮勇を恃みにするのは無益だわ」
「来たのは美貌の少年だ。子供だと思って不覚をとった」
「私が出て行って戦ってみます」
「気をつけて行けよ、彼は槍法に長けている。もし彼を捕らえてお前の夫にできたなら、わしは満足なのだが」
飛雲は恥じらってそれ以上答えず、馬に乗って出陣し、問うて言った。
「将軍、あなたの名前は」
「私は征蛮元帥の子で、先鋒の楊文広だ」
飛雲は文広の容貌が美麗なのを見、また楊家の子弟であると聞いて、密かに思うよう、
――父さんの言葉は間違ってなかったわ。
そこで言った。
「あなたも『悪竜さえ蛇とは争わない』ということわざを聞いたことはあるでしょう。あなたが私たちの土地を通るなら、多少に拘らずに礼物を献上して通るべきではありませんか? それなのに無礼を働き、豪勇を恃みに無理矢理道を切り開くなんて、何か得があるかしら」
文広は聞き終わるや大いに怒って、真っ直ぐに馬を駆った。数合に渡って戦ったが、飛雲は力及ばず、馬を返して谷のほうへ走った。文広は、
「賊の小娘、どこへ逃げる!」
と叫びながらこれを追った。
飛雲はいつも馬に谷を飛び越す調練をさせていたので、馬は跳躍に熟達していた。そこで文広を引き寄せたのである。ついに谷まで至ると、馬に鞭をくれてひらりと跳び越えた。文広は飛雲が誘っているのだと悟らず、谷のところまで来ると同じく馬に一鞭をくれて跳び越えさせたが、馬は中途でいななきを残して谷に落ちた。魏化が慌てて救援に向かったが、大登に阻まれた。飛雲は文広が谷に落ちたのを見ると、水練に長けた無頼漢にこれを捕らえさせた。飛雲は文広を傷つけないように命じると、馬を返して先に塞へ戻り、母親と結婚のことを相談した。
*
さて飛雲が文広を捕らえて塞へ戻ると、江氏が出迎えて言った。
「あなたがこの将を捕らえてきたから、先に負けた父さんや兄さんの恥も雪がれたというものだわ」
「恥のことはこれで済んだけど、もう一つ話しづらいことが……」
「母さんに話せないことがあるわけ? ほら、言ってごらんよ」
飛雲は話しかけたが、また口をおおってしまい、ただ照れ笑いをするだけだった。
「ああ、この人を捕らえてきた本当のわけは、お婿さんにしようというわけね」
飛雲はうなずいて、
「彼は楊家の人だし、年頃も丁度良いから……」
「父さんが帰ってきてから話しましょう」
やがて大登が戻ってきて、江氏は側に座った。部下が楊文広を引っ立ててきた。江氏が見ると、容姿美麗なことは冠玉のようである。思わず喜んで、婿に相応しいわとつぶやいた。大登が問うた。
「捕らえられてきて跪かないのは、どういうわけだ」
文広は答えた。
「私の膝は金石を以ってしても曲がらないのだ。ましてネズミ野郎に屈するものか」
大登は激怒し、剣を引き抜いて殺そうとした。江氏は遮って、
「この人は楊家の子弟です。留めて飛雲の夫にしたいと思いますが、あなたはどう思し召します?」
と言った。そこで大登は剣を投げ捨てて笑い、
「婿どの、怖れることはない」
すでに日は暗くなっていた。大登は文広の返事を聞かず、その縄を解き、飛雲を呼びつけて、この事を天地に告げた。
飛雲が出てくると、大登は跪くよう命じた。文広は従わなかったが、大登はその頭を押し付け、無理矢理跪かせた。文広は諦めて思った。
――またしてもこのような目に遭うとは。従わなければ生かして帰してはくれまい。承知するほかない。
そこでついに跪いて舅を拝した。このことが終わった後、文広と飛雲は部屋へ入り、夫婦の楽しみを尽くしたのだった。
翌日、文広は大登に告げて言った。
「舅どのの厚恩には感謝に耐えませんが、婿は詔を奉じて宝物を納めに行かなければなりません。期限もあることですから、先へ進みたいと思います」
「臣たる者が忠節を尽くすのは当然のことだが、お前の妻はどうするつもりだ」
「復命の後、人を遣って迎えることにします」
「いや、わしが送っていこう。娘は傷のない璧だったが、お前が点をつけたのだ。白髪になるまで節を守れ、見捨てることがあってはならんぞ」
「婿は軽薄な者ではありません。二言はありません」
「では娘に別れを言ってこい」
そこで文広は部屋へ戻り、飛雲に別れを告げた。飛雲はしばらく押し黙っていたが、やがてため息をついた。
「何をそんなに悲しんでいるのだ」
「こんなに早くあなたと別れることになるのは、縁がなかったからに違いありません」
「そうじゃない。天子の命令を受けているのでなければ、軽々しく別れたりするものか」
「一緒に行ってはいけませんか」
「いや、それはまずい。進物を捧げに行くのだから、身は綺麗にしておかねば。女を同行するわけにはいかない」
「どうしたものでしょう」
「都へ帰ったら、人を遣って迎えるから」
「どうか私のことを憐れと思って、忘れないでいてくださいな」
「何を言っている、心配無用だ」
「外まで送っていきましょう」
飛雲は文広とともに庭に出て、父に告げて言った。
「楊さんを外まで送っていきます」
「婿どのが負っている役目は重大だ。間違いのないようにな」
この言葉が終わると、文広は大登・江氏と別れ、飛雲を伴って去った。
塞を出ると、飛雲は両目から涙をこぼした。文広も不覚の涙を禁じえず、語りかけた。
「君とはもう別れなければならないが、どうしてこの悲しみに耐えることができよう。もしこの後、私からの音信がなかったなら、それでもまた会おうと思ったなら、焦山の杜月英・宜都の竇錦姑と合流し、三人で都を訪ねるといい。金水河近くの無佞府が私の家だ。真っ直ぐそこへ向かえ」
「無佞府へ行っても、あなたの家の人が入れてくれないと思いますが、どうすればよいでしょう」
文広は金の簪を取って飛雲に与えた。
「もし私が不在でも、それを見せれば入れてくれないことはない」
「宜都と焦山の二人は信じてくれないと思いますが、どうしたものでしょう」
文広は鴛鴦綉袋一つを解き、飛雲に渡した。
「これは月英から貰ったものだ。これを見せれば不信はあるまい。君と私はもう夫婦の仲だ。いずれまた会う機会もある」
飛雲は悲しみに耐えなかったが、ついに道を分かって帰った。文広は飛雲と別れた後、軍営に戻り、魏化に事情を知らせた。それから文広は軍を率いて再び出発した。
*
(この後、文広は東岳に到着し、進物を納め、仙桃を食べ、首尾よく都へ戻る。帰還の後、父の宗保が急死したため、文広は楊家を継ぐことになる)
*
さて、大登はいつも飛雲を都へ送っていきたいと考えていた。ところが嵐のために太卿と少卿が海で溺死し、世卿は崖から転落死するといった具合に、立て続けに不幸が起きた。このため大登は悲しみから血を吐いて死んでしまう。飛雲は母の江氏と相談して、言った。
「父さんも兄さんたちも亡くなってしまったから、この土地は居心地が悪いわ。楊さんのところに行こうと思うの」
「あれから日にちも経つし、心変わりしてなきゃいいけど」
「彼は別れるときに匂い袋を残してくれて、焦山の杜月英・宜都の竇錦姑とともに都へ訪ねてくるように言ってくれたわ。これだけ誠意を尽くしてくれたのだから、軽々しく心を変えることはないと思う」
「そういう約束があるのなら、早速行こうじゃない」
そこで二人は塞は焼いてしまい、焦山を目指して出発した。
焦山に到着すると、杜月英が馬に乗って出てきて、尋ねた。
「あなたたちは何者? 兵を連れて出てきたわけは?」
「姉上は月英さんじゃないですか?」
「そうだけど」
「前に楊さんは、あなたを連れて都を訪ねるように言い残して行きました。姉上のお考えはいかがです? 一緒に行きますか?」
「まずあなたの名前を聞かせてもらいましょう。楊さんがどうしてそんなことを言い置いて行ったかもね」
「私は鮑飛雲です。楊さんは別れるときに、姉上が贈られた鴛鴦綉袋を私に預け、姉上と宜都の竇錦姑さまを同行して来るように言われました。そこで今日はここにやって来たのです」
月英はこれを聞いて涙目になり、思わず言った。
「楊さんと別れてから、随分日が経ってしまったわ」
「とりあえず今晩は、妹を塞で休ませてください。そして明日、宜都へ行きましょう」
そこで月英は飛雲を塞へ招いた。翌日、月英は準備を整えると、山塞を焼き払い、飛雲とともに宜都へ向かった。
月英らが宜都に到着すると、山賊は錦姑に、
「どこからか軍勢が現れました!」
と慌てて報せた。錦姑がそこで馬に跨って出て行くと、軍を率いているのは月英である。思わず笑って、
「この小娘! 今日、兵を連れて騒ぎに来たのは、またここに楊さんを閉じ込めていると思ったからでしょう」
と言うと、月英も笑って、
「抜け駆けされて楊さんを先に取られてしまったから、今日はその罪を問いただそうと思ってね」
「そっちの女の子は誰?」
「これも楊さんのいい人よ」
「宋の太后は、『蓮の花は楊文広には劣っています、なぜなら楊文広は言語を理解しますが、蓮は理解しませんからね』と言っていたそうだけど、確かに蓮は楊さんには及ばないわ。そうでなければ、その子が引っかかるわけもないからね」
これを聞いて飛雲は顔を真っ赤にして言った。
「そんなことはいいですから、まずは塞を拝ませてください」
そこで錦姑は二人を塞へ招きいれた。
挨拶が済むと、錦姑は、
「二人は今日、何事があって訪ねてきたのかしら?」
と尋ねた。月英が答えて、
「姐さんはさっき楊さんのことを言っていたけど、その楊さんのことで来たのよ」
「というのは、どうした経緯があってのこと?」
「楊さんと別れて二年、全然音沙汰がないものだから、姐さんと一緒に訪ねていこうと思ってね」
「あの人の母・穆桂英さまは厳格な人だし、もし楊さんが不在だったら、家に入れてもらえないわよ。楊さんは軽薄な男じゃないんだから、待っていれば必ず迎えに来てくれる。行く必要はないと思うわよ」
すると飛雲が言った。
「私も心配でしたが、楊さんから証拠の金の簪を預かっていますから、これを見せれば入れてもらえないということはないでしょう」
「なるほど、それなら……。でも、都へ大勢を連れて行くわけにはいかないわね。みなを解散させて、見所のある者だけを同行しましょう」
そこで月英・飛雲が連れてきた無頼漢たちを解散させ、数十騎のみを率いて、三人で都へ向かった。
数日して彼女たちは都へ到着し、無佞府を訪問した。錦姑が手下を遣って、
「我々は文広将軍の親戚の者です。どうぞお報せください」
と言わせたが、門番は、
「夢は寝てから見ろ、文広将軍に外からやって来る親戚があるものか」
とけんもほろろに追い返した。手下が戻ってきて報告すると、錦姑は馬から下りて自ら門番に問いかけた。
「兄さん、文広将軍は在宅でしょうか」
門番は錦姑の風貌が美しいのを見て、戯れに言った。
「将軍がいたらどうなんだ? あの人とどんな話をするんだい?」
錦姑は怒って、
「無礼な! 将軍に会ったら、まずそなたの首を刎ねるぞ」
と言った。門番は錦姑の話しぶりが凶悪になってきたのを見て、何か事情があるのだろうと思い、
「失礼しました。将軍は外出しておりますが、晩には戻られます」
と言った。
「では母上に報せてください」
そこで門番は中へ入り、穆桂英に報せた。
「外に何人かの人が来て、楊将軍の家の者だと言っております」
「あの子が結婚したなどという話は聞いてないわ。都に楊を姓とする者はいくらでもいることだし、きっと家を間違えたのでしょう」
門番は出て行って、穆桂英の言葉を錦姑に伝えた。錦姑は金の簪を取り出し、門番に渡して言った。
「これは楊将軍が離別のときに残していったものです。これを母上にご覧いただけば、はっきりするでしょう」
門番は簪を取って穆桂英に告げた。
「これは私が持っていたものだわ。前にあの子が南蛮征伐へ行くとき、髪を束ねるために渡したのよ。これを持っているなら、きっとなにか事情があるのでしょう。彼女たちを招きなさい、文広が戻ってきたら、わけを聞いてみます」
こうして遂に門番は三人を無佞府へ招いた。錦姑は月英・飛雲とともに府の中へ入った。門の外でこれを見ていた人たちは、口々に「あの三人の娘は、まるで観音様のようだ」と言い合った。
錦姑たちは中へ入って控えた。穆桂英が出てくると、三人は挨拶して、
「母上の万福をお祈りします。長らくお目にかかれませんでしたが、どうぞ罪をお許しください」
と言った。穆桂英が驚いて、
「そなたたち、どうしてそのような挨拶をするのです?」
と尋ねると、錦姑はこれまでの経緯を説明しようとしたが、たちまち門の外で声がして、楊文広が帰ってきたことを報せた。文広が入ってくると、錦姑たちは拝して、
「旦那さま、お変わりはありませんでしたか?」
と問うた。
「すこぶる平安だったよ」
と文広は答え、母である穆桂英に三人のことを一々知らせた。そこで桂英は家人に命じ、酒を出して三人の娘をもてなさせたのだった。
(15点配分)
( )「全体として、面白かったかどうかの報告」
( )「どこまで読んだか、その確認」
(8)「気になった部分への指摘」
( )「興味深い(面白い)と感じた部分の報告」
(7)「技術的な長所と短所の指摘」
( )「読後に連想したものの報告」
( )「酷評(とても厳しい指摘)」
( )「好きなタイプの作品なのかどうか」
・特に重点的にチェック(指摘)してもらいたい部分。
(日本語としてどうか?)
・読んで楽しんでもらいたいと考えている部分。
(三人娘の台詞まわしと性格対比)
杜月英の「ではあなたは私の旦那さまね!(汝乃妾之良人)」は永遠の名台詞です。初対面でそんなこと言うか?