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緊迫

2005年04月10日(日) 23時11分-K

 

 前回までのあらすじ
 親の仇を倒すために、剣術修行の諸国放浪をしていた稀近(まれちか)は、行く先々でなぞの組織の刺客たちと遭遇していた。しかし、彼らを倒しながら、確実に剣士として稀近は成長していくのであった。そんな折、伊賀に立ち寄った稀近は、なぞの忍術使いにより絶体絶命の窮地に立たされたのであった。


 「はーはっはっはっは。我が奥義、『分け身の術』が貴様にやぶれるかな?」
 「く、くそ、いったいどれが本物なんだ」
 正眼の構えで立つ稀近の周りには、幾つもの忍者の姿が見える。それが同時に動くと、森の中で視界も悪いため、幾つの像が見えているのかすらもわからない。もちろん、そのほとんどすべては残像にすぎないのだ。どうにかしてこの技を見破らなければ。
 「そーら。ぼけっとしてるんじゃないぞ」
 スッと、背筋に悪寒が走る感覚がした。後ろに気配するので、刀を体の正中線に立て、振り返りながら飛び下がる。しかし、見えたのは、日の光が刀に反射した、一瞬の閃きだけだ。刀の先が頬をかする。一瞬遅れていたら頚動脈だ。手の甲で顔をぬぐうと、袖まで赤く染まる。
 「俺の一の太刀が皮一枚とは、なかなかいい反応をするじゃないか。だが、つぎはどうかな?」
 このままではだめだ、やられる。とりあえず、この術を見破らなければダメだ。虚像に惑わされていてはいけない。
 稀近は、正眼に構えていた刀をゆっくりと頭上に上げ、上段の構えを取った。一見、わき腹などを見せた、守りの薄そうな構えである。しかし、攻撃へと移るには、モーションが小さくてすむ。つまり、あえて隙を大きくし、相手に攻撃をさせ、そして相手がこちらの間合いに入った瞬間に、相打ち覚悟の攻撃をしようと考えているのだ。敵のすばやい動きを捉えるにはそれしかない、と稀近は考えた。
 稀近は目を半眼西、周囲に気を飛ばした。小さな動きも見逃さないためである。すると、相手の忍者にも、その場の空気が変わったのがわかった。今飛び込んだらやられるな。経験と勘がそう告げた。
 (こいつ、思ったよりやるじゃねえか)
 こうなっては、うわべだけ派手な技は通じない。やり方を変えなければいけない。
 (面白いじゃねえか。こちらも正攻法でいかせてもらおう)
 いくつもあった虚像が消え、稀近の五メートルほど前に忍者が降り立った。右手に小太刀を逆手に持っている。すれ違い様に、わき腹を切るつもりだ。
 稀近のほうも構えを変えた。頭上に掲げていた刀を、すうっとまた正眼の構えに戻した。半眼にしていた目を、少し開いて前方を見据える。刀の先から今度は相手のいる一方向に気を放つ。切っ先から光の刃が出て、相手の目を貫くさまをイメージする。
 お互いに気を放ちながら、少しずつ間合いを詰める。そして、双方の気合がつりあう地点で、どちらもぴたっと止まってしまう。もう一歩前に出れば殺せる。そこで二人とも止まってしまったのだ。
 傍目から見ると何もおきていないようだが、水面下では、気を送りあい、相手の呼吸を読みながら、激しい勝負が繰り広げられているのだ。気力の消費はすさまじい。少しでも気を抜けば、少しでも隙を見せれば、少しでも呼吸を乱せば、それが命取りになる。このとき二人は同時に同じことを思った。
 ((先に動いたほうが負けだ!))
 風が二人の間を吹きぬけた。木の葉がすれてさわさわと音を立てた。雲が太陽を覆い隠し、森が暗くなる。しかし二人は動かない。
 稀地下の頬を、汗が通と一筋流れた。先ほどの傷はもう血が止まりかけている。二人とも瞬きさえ忘れたようだった。鳥が近くの木から飛び立った。太陽がまた雲の合間から顔を出し、二人を平等に照らす。風がやむ。森が一瞬静寂に包まれた。
 緊張が頂点に達した。先に耐えられなくなったのは忍者のほうだった。気迫に押されて、前足を少し引いた。稀近がそのわずかな動きを見逃す筈もなかった。勝負はその一瞬に決してしまったのである。
 「あっ、動いた!先に動いたからお前の負け~!!」
 忍者は、急いで否定した。
 「動いてない動いてない」
 忍者は実は心の中では自分が動いていたことに気づいているので、余計にあわてている。
 「動いたったら動いたって」
 稀近は、忍者の立っているところまで歩いて、足の跡を刀で指した。
 「ほら、ここに足を擦った後があるじゃねえか」
 「く、くそお、もう一回、いや、三回勝負だ。三回勝負にしよう」
 「あっ、お前、卑怯者!そういうことは最初に言わないとダメなんだぞ」
 忍者は負けたままでは組織の者たちにあわせる顔がないので、食い下がろうとする。
 「なっ、頼むよ、なっ」
 「仕方がないなぁ、三回勝負までだぞ」
 「「だぁるまさんがこぉろんだ!!」」
 男たちの、命を賭けた戦いは続く………あっ、お師匠出すの忘れた!

  

私の空手の師匠は、両の手のひらの間に行きかう気の光が見える、と言います。ほんまかいな

最終更新:2013年06月12日 21:27