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大銭湯(反逆編)

2005年05月10日(火) 22時12分-一角天馬

 

 <続き!!>



 「我々の目的は長月草太郎、湯草ゆず子、両名だけである、無駄な抵抗をやめおとなしく降伏したまえ」
 暗黒(略)大帝の声は当然、湯屋の5階、そこに集結した紫苑たち湯屋勢の生き残りの耳にも届いていた。
 明らかに裏切りを誘った放送によって湯屋スタッフ達に動揺が広がっていく。
 「おい、どうする?」
 湯屋の警備員の一人が同僚に話しかける。
 「どうするって何がだよ」
 「だから今の放送だよ、社長を差し出せば俺たちは助かるんだぜ」
 「た、確かに」
 「馬鹿、山田、鈴木、お前らなんてことを話しているんだ、社長に今の話を聞かれてでもみろ」
 「あらあら、何の話をしているのかしら、かしら?」
 「「「しゃ、社長」」」     
 いつの間にか離反の話をしていた三人男達の後ろに湯屋社長の湯草ゆず子が立っていた。
 「ひぃぃぃぃぃ」
 その瞬間、男達の一人、山田太郎はその場に崩れ落ちた。
 「すみません、すみません、すみません、すみません、スミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセン、謝ります、謝りますから、硫酸風呂だけは」
 その哀れな姿に耐えきれず同僚が助け起こす。
 「落ち着け、太郎、大丈夫だ。大丈夫。大丈夫なんだ。ジョゼフは運が悪かったんだ、あいつは・・・・・・っく」
 「も、申し訳ありません社長、私の責任です、責任(ケジメ)は私が取ります、だから彼らには・・・」
 さらに彼らの上司がそういいながら小指を突き出す。
 「あらあら、何をおびえているのかしら、大丈夫あなた達は大切な私の社員(かぞく)じゃない、私が社員(かぞく)にひどいことをするわけないでしょ・・・・・・社員(かぞく)にはね・・・・・・ところで家族は困ったときに助けてくれるものよね・・・」
 「「「はい、社長、命に代えてもお守りします!!!」」」
 その後、彼女はその他、周りで成り行きを見守っていた警備員、女中達をゆっくりと見渡し。
 「あなた達も、そうよね」
 「はい、社長、お守りします!!!」
 社員一同誰一人として後れることなく答えるのだった。

 「わあ、ゆず子さん、社員の人に信頼されているんだね」
 「そうですわね、それに社員の方もその信頼を精一杯変えそうとして、とてもすてきな関係ですね」
 「いや・・・お前らどう今のやりとりを脳内変換すればそういう理想の職場像にできるんだ」
 そのやりとりを見ていた撫子とリースさんに紫苑がツッコム。
 「ゆず子殿も変わっていないのお、昔から彼女は容赦を知らなかったからな、いったい彼女の気分一つで何人の人々が闇に消えていったか、昔を思い出すなあ」
 「じいさんも昔の思い出を懐かしむふりして、さらりと怖い話をするな」
 紫苑はものすごく湯屋の暗黒面を見た気分だったが、考えようによってはこれで離反者が出る確率は0といえることがわかったことになる。
 「さあ、どうするべきか」
 「そんなの決まっているでしょ、私たちの手で湯屋を護る、これっきゃない」
 紫苑のつぶやきを撫子は聞いていた。
 「でも、割と大変だぞ、こっちは圧倒的に不利、とにかく数の差をどうにかしないと」
 「それでもやるの、だって私たちまだお風呂にも入ってないし、このままじゃせっかく湯屋に来たのにお風呂に入れずに終わっちゃうわよ、読者にたいするサービスシーンを潰すわけにいはいかないわよ」
 「いや、そこんとこは別にどうでもいいんだけど、というかそんなのが助ける理由かよ」
 サービスシーンは大切です(天の声)
 「む、じゃあ紫苑は助けたくないの?」
 「うんにゃ、悪の組織が狙うぐらい金を持っている社長さんに恩を売るってのは魅力的だし」
 「それじゃ」
 「ああ、俺たち二人でこっから逆転させようぜ」
 社員達と今後について話し合っているゆず子に紫苑は近づいていった。
 「どうもぉ、だいぶお困りのようですね」
 「あらあら紫苑さん、何かご用なのかしら」
 「ええ、ここらで助っ人を雇うってのはどうかと思って」
 「あらあら助っ人さん?」
 「はい、自己紹介のときに言いましたが、俺と撫子は何でも屋でこういうことにはなれています、少なくともそこいらの役立たずよりは使えるかと」
 そう言い紫苑は先ほどの警備員三人を見た。
 それはあからさまに侮蔑だった。
 血の気が多いのかさきほど山田が紫苑に噛みついた。
 「テメェ・・・だれが明らかに背景で吹っ飛ぶことを主目的に登場させられたキャラだと、言っていいことと悪いことがあるだろう」
 「いや、そこまで言ってないから」  
とりあえずつっこむ紫苑、とはいえ、その反応はわりと予定通り。ここは手っ取り早く自分の力をアピールしたい。
 「・・・ただ単に雑魚って言っただけだ」
 「貴様」
 挑発の台詞と同時、山田が掴みかかるよりも速く、足を払いのけ、顎に手をかけ、ちょうど半回転させるようにして、そのまま床に叩きつけた。
 本気を出せば一撃でトれるがさすがにそこまではしない、ただ気絶かしばらくの間の戦闘不能を狙って技をかける。
 「山田ぁ!!」
 「不意打ちとは卑怯だ・・・ぞ」
 残った二人が紫苑に飛びかかろうとして、止まる。
 いつの間にか紫苑の両手には拳銃が握られていて、その銃口は彼らの方を向いていた。
 「こんな不意打ちも避わせないようじゃ、どうにもならないって・・・・・・でこれで少なくともこいつら三人分の役には立つってことが解ったと思うけど、雇ってくれるかな」
 紫苑はにやりと笑ってゆず子に問いかけた。



 「で問題は、いかにしてこの戦況を覆すかだ」
 集まった生き残り湯屋スタッフともに紫苑が今後の作戦について考えていた。
 湯屋スタッフ生き残り50人、それに対してGG団精鋭500人、十倍の戦力差を相手にどう戦うか、そこが今焦点となっていた。
 「そんなもの、方法は一つしかあるまい・・・」
 かえってきたのは長月草太郎氏の言葉だった。
 「このまま防戦に徹していてはいずれ押し切られるのは目に見えている・・・だから・・・打って出る!」
 「確かに、その通り・・・だけど大将首をねらうにしても敵の守りを突破しなければならないぞ」
 「うむ、だから部隊をオフェンスとディフェンスの二つに分ける。まずディフェンスがここで防戦を続けて敵の目を引きつける、その間に少数精鋭のオフェンスが守りの薄くなった敵本部に強襲をかけて一気に勝負を決める、組織というものは頭さえ潰してしまえば後はどうとでもなるものだ」
 「なるほど・・・」
 紫苑はうなうなずいた。
 「オフェンスはもっとも戦闘能力と経験の多い、紫苑殿と撫子殿の二人にやってもらうが、よろしいかな?」
 「ああ」
 自分が仕切るつもりがいつの間にか草太郎氏に仕切られてちょっとショックを受けながらも紫苑が答える。
 「うん、もちろん」
 ついでに撫子も。
 こうして作戦は決定された。
 「・・・・・・それにしても」
 「む、何かな?」
 紫苑は草太郎氏をまじまじと見つめて言う。
 「いやな、ずいぶんと場慣れしているなと思って、あんた本当にただの社長か?」
 「その通り、ただの長月工業の会長だ。もっとも昔はやんちゃでな、家を飛び出して傭兵として戦っていたこともあったがな」
 「とても腕利きの傭兵として名をはせていたそうですわ」
 ここでメイドその一、リースさんが補足をする。
 「火の七日間戦争、ルルイエ邪神戦争、MWⅢ(第三次メイド戦争・メイドウォーズⅢ)、近年行われた大きな戦いにはあらかた参加なさったそうです」
 さらにメイドその二、菊花さんが追補する。
 「じつはな、ゆず子殿もそのときの仲間で彼女はブラッディ(略)・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「あれどうしたの、紫苑。頭なんか抱えて」
 撫子がなぜだか落ち込んでいる紫苑を心配する。
 「はははは、ちょっとな、どうして俺の周りにはこうまともなヤツが少ないのかと思ったら絶望的な気分になってな・・・」
 自嘲の笑いを浮かべて紫苑は顔を上げた。
 「?」
 撫子は急に自分の顔を見つめてきた紫苑の様子をきょとんとした表情で見守っていた。
 その様子はまるで子猫か、何かほかの小動物みたいで、思わず抱きしめたくなる。
 「本当、アレな人間ばっかだよな」
 が、むしろ紫苑は脱力した。
 この表情に何度地獄をみたか、本人に自覚がないからなお悪い。
 「諸君らの仕事は何だ!!!」
 「殺せ!殺せ!殺せ!」
 「この作戦の目的は何だ!!」
 「殺せ!殺せ!殺せ!」
 「諸君らは湯屋を愛しているか!!!」
 「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」
 一方では、いつの間にか草太郎氏が紫苑以上の信頼を得て、ビシバシ湯屋の人たちに命令を下している。
 「・・・・・・さあ、正義(建前)とお金(本音)のためにがんばりますか」
 半ばあきらめの口調で、それでも表情をプロのものにして紫苑は言った。
 「らじゃ」
 撫子が彼女の武器である刀を取り出しながら答える。
 「はい、わかりました」
 そして紫苑の声に反応するのが撫子のほかにもう一人。
 ネコミミとシッポを嬉しそうにふるふる動かしながらリースさんがそこにいた。
 「私もご一緒させていただきますわ」
 いつもの変わらないニコニコ笑顔でそんなことを言う。
 「な、何考えてんですか、ダメダメ、絶対ダメ、本当に危険なんだから」
 一瞬あっけにとられた後で紫苑が即座に否定する。
 しかし、リースさんは引こうとしない。
 「本当に危険ならなおさらですわ、撫子ちゃんや紫苑くんだけを危険な目に遭わせるわけにはいきません」
 そういってスカートの中からやたらとごつい拳銃を取り出してみせる。
 「へっ」
 「それに・・・・・・・・・元、メイド組合・懲罰執行員(ゴミ処理係)、殺戮のリース(リース・ザ・オーバーキル)まだまだ、腕は鈍っていませんわ」
 そう言ってリースさんは銃を構えるのだった。
 紫苑の周りにはまともな人間など一人もいなかった。



 紫苑、撫子、リースの三人がGG団の囲いの隙をつき脱出した直後、GG団による攻勢が始まった。
 何人ものGG団員の黒タイツおじーちゃんズが「ジィー、ジィー」とショッカーぽい奇声を発し突撃を繰り返しバリケードを突破しようとする。
 もっとも飛び道具を持たずにただ格闘戦を仕掛けようとするGG団はバリケードの隙間からでた警備員のスタンロッドの餌食となり、次々に倒れていく。
 それでも若いもんには負けぬ、年金生活者の根性を見せたる、と老人魂に燃えるGG団は諦めることなく執拗な突撃を繰り返し、湯屋側をジワジワと消耗させていった。
 「糞、次から次へとわいてきやがるぜ、畜生、ここの警備の仕事が終わったら結婚する予定だってのに、何でこんな目に」
 「鈴木、それは死亡フラグだ!」
 言ってるそばからバリケードの一部が崩され、突入したおじいちゃんのゲートボールで鍛えたキックが警備員その一鈴木に炸裂した。
 「うわあわわああああ」
 警備員その2、山田がスタンロッドで突き、GG団を押し戻す。
 「死ぬな鈴木、鈴木ぃぃぃぃぃぃ」
 あわてて鈴木の体を抱き上げるが、すでに・・・・・・
 「気絶しているだけだ!とっと後ろにでも下がらせろ!!」
 「ほいよ」
 草太郎の声を素直に聞いて持ち場に戻る田中。
 「女中部隊は壊されたバリケードを修復しろ、椅子でも机でも何でもいいからもってこい、警備員は現状維持、敵を近づけるな!!」
 「みんな、お風呂に沈められたくなかったらがんばりなさ~い」
 その後ろから声援と指示を飛ばす。ゆず子氏と草太郎氏だが、彼らは過去の経験から、そう長くは持たないと言うことを理解していた。
 「あらあら、少しピンチなのかしらかしら、こうしていると熊本城攻防戦を思い出すわねぇ草太郎」
 「ええ、あのときは援軍が間に合ったが今回はどうなることやら」
 「そうね~、何でも屋さんにはがんばってもらわないと~」
 「ジィー、ジィー!!」
 二人の会話に関係なく、GG団の突撃は続いていた。



 そのころ頼りの綱の三人はというと 
 「まずー」
 「うー、どうしよう」
 「GG団さんがいっぱいですわ」
 援軍としてやってきたGG団の第2部隊と鉢合わせをしていた。
 「回り道は・・・出来ないよね」
 「ああ、何よりもこの作戦は時間が勝負、よけいなロスはとれないからな」
 「では・・・強行突破ですね」
 紫苑とリースが拳銃を構える。
 撫子が刀に手をかける。
 GG団は既に臨戦態勢をとっている。
 「ジィージィー」ともうおなじみの奇声を上げ、突撃を開始する。
 「それにしても・・・」
 その姿を見て、ふと紫苑は思った。
 「戦いにくいなこれ」
 何しろ相手は軽く平均年齢60オーバーのご老体。
 どいつもこいつも腰が90度曲がっていたり、よぼよぼと今にも倒れそうだったり、こちらに突撃をしているつもりでも歩いているようにしか見えなかったり。こいつらに攻撃を加える姿ははたから見れば確実に老人虐待、と言うかちょっと本気で殴ったりしたら骨とかが逝っちゃうんじゃないだろうか、もしくは殴りどころが悪ければそのままポックリと。なぜだかこちらが敵の心配をしたい気分になってくる。
 というか、そもそも湯屋の警備員はなぜこんな奴らに占拠されかけたんだ。
 「ふっふっふっ、紫苑、だいぶお困りのようね、だったらここは私に任せなさい」
 「うわっ、妙に自信満々だな」
 「見ていなさい!」
 そういって、不敵な笑みを浮かべる撫子。ここで一発逆転の大作戦が!
 「おじいちゃ~ん、もうこんなことやめようよ、わたしおじいちゃんとケンカしたくないもん!」
 涙目+上目使いで撫子はGG団を睨む。
 瞬間、GG団に動揺が広がった。
 「うぉぉぉぉ、な、何じゃ、この孫オーラ」
 「だ、だめじゃ、逆らえん」
 「す、すまん、おじいちゃんが悪かったぁぁぁぁぁ」
 「本当?」
 「本当じゃ、本当じゃとも、わしらが悪かった、もうケンカはなしじゃ」
 「おお、おじいちゃんたちが謝る許してくれ」
 「わ~い、おじいちゃんだーいスキ!」
 一転、撫子は満面の笑顔になる。
 「おおおおおおおお、癒されるぅぅぅぅぅ」
 「すまぬ、すまぬボス、わしらは孫オーラには勝てないんじゃ、おじょうちゃん欲しいものがあったらおじいちゃんに言いなさい、何でも買ってあげるぞ」
 説明しよう!!
 孫オーラとはおじいちゃんたちが目に入れても痛くないお孫さんたちが身にまとっている独特の雰囲気のことであり、このオーラを持つ者に対しておじいちゃんはいっさいの思考能力を奪われ、盲従することしかできなくなってしまうのである。
 「マジか?!」
 思わず紫苑は地の文に対して突っ込みを入れる。
 「孫オーラとは考えましたね、撫子ちゃん」
 いつの間にかリースさんが紫苑の横に、おじいちゃん達にちやほやされる撫子を見てうなる。
 どうでもいい全身黒タイツのおじいちゃん軍団に可愛がられる少女というのはたぶん人が生きてく上でまずお目にかかることが出来ないシュール光景だ。
 「なら私も・・・おじいさ~ん、耳掻きをして差し上げますわぁ」
 リースさんはその場に膝を崩し、おじいちゃん達を受け入れる。
 「こっ、これはぁ!!」
 「ばあさんが、死んだばあさんが見える!!」
 説明しよう!!
 リースさんはその溢れ出る母性によって、生涯の伴侶を失った孤独な老人の心を解きほぐし、そのすさんだ心を癒し、闘争へと走る心を引き留めたのだった。
 「ほら、こんなに溜まっていましたよ」
 「おお、ええのお、気持ちええのお、このままポックリと逝ってしまいそうじゃわい」
 おじいちゃんは膝枕+耳掻きですっかり極楽ポックリ夢心地だ。
 「もう、おじいさんったら、そんな不吉なことは言いっこなしですわ、あっ」
 リースさんは急に色っぽい悲鳴を上げた。
 おじいちゃんの一人が調子に乗ってリースさんの豊かな、むしろデカイ、と言うか巨乳、それよりも魔乳を揉み出したのだった。
 とりあえず感度も良好っと。
 「にゃ、やめてください」
 耳とシッポをぱたぱたさせて逃げようとする。
 「おお、ええのう、やっぱりばあさんよりも若い娘じゃ、若返るぞい、ほらここか、ここがええのんかぁ」
 「にゃっにゃっ、ダメです」
 「・・・・・・えいっ」
 とりあえず紫苑はセクハラじいさんを殴り飛ばすことにした。
 「全く、油断も隙もありゃしない」
 それにしても、恐るべきは孫&死んだばあさんパワー、完全にGG団の動き封じていた。
 以外にこの仕事は楽かもなと紫苑が思っていると。・・・ふと撫子がこちらを見ているのに気がついた。
 その目が語っていた「さあ、次は紫苑がおじいちゃん達を骨抜きにするのよ」と
 無理。
 即座に目をそらす。
 が今度はリースさんと目があった。
 「紫苑君はどんなことをするんだろう、ワクワク」と期待に満ちた目で見てくる。
 いや、無理だから。
 逃げるように視線を変えるが二人の他にもおじいちゃん達が「今度は何かな、ドキドキ」と希望に満ちた目で紫苑に注目していた。
 や、やるしかない。
 ついに無言の圧力に紫苑は屈した。
 「お、おじいちゃん」
 言葉につまる、自分でもかなり恥ずかしいが最大限媚びた台詞を考えて口に出す。表情を引きつらせながらも出来る限りおじいちゃん達に受けるかわいい孫を演じてみせる。羞恥プレイっていうのはこんな感じだろうか、頭の隅でくだらないことを考える。
 「ぼ、僕、お小遣い欲しいなぁ」
 それでも紫苑は屈辱に耐えてかわいい孫を表現しきった。

 間

 どうだ!
 撫子がどうリアクションをとっていいのかわからないのか曖昧な表情を浮かべる。
 リースさんは何ともいたたまれない表情を浮かべている。
 そして老人達は口々に。
 「何じゃこのガキは、かわいくないのう」
 「本当じゃ、全く期待はずれもいいとこじゃわい」
 「なんか腹が立つのう」
 文句を垂れていた。
 涙。
 「・・・・・・畜生」
 紫苑はかなり本気で死にたくなった。



 そんな、おじいちゃんが戦意を喪失し、紫苑が心に傷を負うなか新たなGG団員が姿を現す。
 その老人は頭にターバンを巻き、体にはマントを羽織りまるで千夜一夜物語に出てくる貴族のような出で立ちで、肌は浅黒く、鋭い眼光に山羊のように白く伸ばした顎髭が目についた。
 「隊長!」
 おじいちゃん達の一人が言った。
 「おまえ達・・・」
 隊長と呼ばれたその老人は、他の老人をにらみつけた。
 「同じ老人同士ならともかく、若者相手にこのざまとは何だ」
 「ジィー!!」
 おじいちゃん達は悲鳴(?)をあげ平伏する。
 「ふん、まあいい罰は後でうけてもらうことにしよう・・・それよりも、おまえ達若者にしてはずいぶんやるようだな」
 視線の先を紫苑たちに変え、老人は言う。
 「ええ、まだまだメイドたる者ご老体に後れをとるわけにはいきませんから」
 その眼圧も何のその、リースさんはいつも通りに言い返す。
 「粋がるなよ娘」
 老人はリースさんを睨む。
 「同じようにワシがどうにか出来ると思うなよ、ワシこそはGG団五人衆の一人偉大なる大魔導師 アブドル=アブ=アルアクバース=アブサンザード、そこいらの若者とは出来が違う、精魂が違う、情熱が違う、決意が違う!!!」
 老人、アブドルはそう叫ぶと、腕を前に突き出し。
 「まずは挨拶だ、くらうがよい。烈風よ、敵を討て!」
 瞬間、紫苑は撫子を抱え横へ飛んだ。ほぼ同時にリースさんもその場から逃れる。そして全てがなぎ払われた。
 起こった破壊の正体は空気の壁、それをアブドルは紫苑たちがいた場所へ向かい飛ばしたのだった。
 「ほう、避けたか」
 「大魔導士・・・・・・そして今のは、『魔法』」
 紫苑、攻撃の正体を悟る。
 「左様、そしてワシは世間一般に『魔女』と呼ばれる人種じゃ」
 アブドルは紫苑に答える。
 『魔女』とは―――――それを説明するにはまず魔法について説明する必要が出てくる。
 過去、人類が絶頂にいた頃、俗に言う文明崩壊以前、科学が遂にたどり着いた極地、物理法則すら書き換えあらゆる奇跡を可能にするその技術があった、それを人々は過去の名を模して呼んだ、すなわち魔法。
 さらに同時期、猫人、犬人などの愛玩用の獣人種の創造など同じく頂点に達していた生物加工技術により人類は魔法を生まれながらに使用できる人造種を生み出すことに成功した、それこそが今現在『魔女』と呼ばれる種族の始まりである。
 「なるほど、つまり、これが中ボスなのね、紫苑」
 撫子ぶっちゃけすぎ。
 「ああ、出来れば戦うのは大ボスだけって楽したかったんだけどな」
 「ほお、ずいぶん余裕ではないか?」
 不機嫌そうにアブドルの片方の眉毛が動いた。 
 「まーな、なぜだか知らないけどこういうのには慣れているからな」
 「ふん、その強がりどこまで持つか試してやろう。 雷よ、嵐となれ」
 アブドルの周りを雷撃の檻が囲む。
 「くっ」
 逃れるためにさらに後ろに飛ぶ。
 「ふははははは、見たかワシの魔術は、すばらしいぞワシ、GG団に入ったかいがあるというものだ」
 「えっと、何か、今すごいこと言わなかった」
 「ああ、俺も聞こえたが」
 「あの、アブドルさんがGG団に入団した理由というのは・・・?」
 とりあえず皆の気持ちを代弁してリースさんが聞いてみる。
 「決まっておる、好き勝手魔法がぶっ放せるからじゃ!」
 そう言いながらさらに炎の矢を放つ。
 「老人による改革とかは?」
 「あれは建前じゃ、ワシはただ魔法をぶっ放すことが出来ればいいのじゃ、みよこの破壊力、マキマキ(笑い声)最高ではないか!!!」
 「って、トリガーハッピーかよこのじいさん」
 思わず紫苑は突っ込みを入れる。
 「もはやこのワシを止められる者はない」
 調子にのってさらに破壊を続けるアブドル。
 何というはた迷惑なじいさんだろう。
 扱うのが魔法だけにその迷惑度も桁違いだ。
 ならば、目には目を、はた迷惑にははた迷惑を、超破壊力には超破壊力を。
 「撫子やれ!」
 紫苑は叫ぶ。
 「えっ、いいの?」
 聞き返す撫子。
 紫苑はそれに即座に答える。
 「かまわん、俺が許す」
 「じゃ、じゃあ」
 撫子は愛刀に手を賭け前に出た。
 刀を持てば既に違う撫子。
 心には水面のイメージ、波一つない透き通った水。
 「何じゃ、刀か、まさかそのようなものでワシが倒せるとでも思ったのか・・・・・・ふん、無謀な若者にふさわしい行動だな、これだから最近の若い者は・・・」
 「黙れ!」
 撫子が叫ぶ。
 「なっ」
「問 答 無 用」

 アブドルの体が宙を舞った。
 そして一瞬後れて撫子がアブドルを一閃するビジョン。
 これこそが神無月紫苑のパートナー大和撫子。普段はただの少女にすぎない撫子だが刀を持つことによってその戦闘能力は激変する。彼女は剣技に関する天才であり、刀を手にした彼女はまさに鬼神と呼ぶにふさわしい力を発揮する。
 今の一撃、切ったという事実よりもその光景が一瞬後れた。
 人間が景色を見ると言うことは、網膜に光が入ると言うこと。
 おそらく撫子のその踏み込みは光速を越えていた。
 まるでスローモーションのように吹き飛んだアブドルの体が床に落ちる。
 ドサリと落ちた体は身動き一つたてることはない。
 恐ろしいほどの静寂に、カチリと撫子が刃を納める音だけが響いた。
 「安心して、峰打ちだから」
 撫子が誰にともなく呟いた。
 トリビア、人間は峰打ちなら超光速でぶん殴られても平気。
 ともかく、こうして紫苑たちはGG団五人衆を下し総統の元へと急ぐのだった。



 一方、そのころ湯屋5階では従業員とGG団との戦いが続いていた。
 「ジィー、ビリビリ」
 老人の一人がスタンロッドで感電し倒れる。
 すると近くにいたGG団が彼を回収、後方へと下げる。
 そして彼の穴を埋めるように新たなるGG団員が突撃する。
 先ほどから繰り返されていた光景だ。
 「ほっほっほ、ずいぶん苦戦をしているようじゃのう」
 その光景を先ほどから見守っていた老人がいた。
 その老人は他のGG団員とは違い黒タイツの代わりに中華胴着を着ており、その顔は長い白ヒゲ、垂れ下がった白い眉毛、伸ばしっぱなしの白髪と、白い毛で覆われており表情をほとんど知ることが出来ない、しかしその周囲を威圧する空気だけでただ者ではないと言うことが理解できた。
 この老人こそがGG団、五人衆の一人、 怒れる拳聖=王仙龍その人だった。
 「ジィー、大変じゃ、援軍にきたアブドルじいさんが何者かにやられたらしいぞ」
 そこに伝令役のGG団員がやってくる。
 「ほお」
 しかし報告を聞いた、王仙龍はあまり驚いた様子はない。
 「敵もなかなかやるのう、しかしいい気になっても困るのう、アブドルはわしら五人衆の中では一番の格下」
 王仙龍はここでいったん台詞を切り。
 「とはいえ援軍が来ぬとなると、やはりここはワシが直々に手をださんといかんかのう」
 暢気そうにそんなことを言うと王仙龍は立ち上がる。
 彼はひどく小柄である。高齢になり背は縮み、小学生ほどしかない。
 しかし一度立ち上がれば見る人にはそれが巨人のように見えた。
 むろんそれは錯覚である。しかしこの老人のうちに秘めたる闘気がその姿を何十倍にも巨大化させて見せた。
 「ジィー、拳聖様」
 「ジィー、王仙龍様」
 王仙龍の立ち上がったのを見て、まるで王の出陣のごとく、団員達が次々にかしずく。
 その声にあるのはついに巨星動くの期待と、強大すぎる力への恐れ。
 それに答えるがごとく、王仙龍は敵陣へと歩み出す。
王仙龍のその齢は百を超え、今年で150になろうかという手足は枯れ木のように細くしなびていた。
 それでもその歩みは力強く、確かな者だった。
 やがて眼前にバリケードと言うところまできてその歩みが止まる。
 「離れていなさい・・・」
 GG団員に命令を下すと、両手を組んで一礼、まるで武術試合の前のような仕草を見せる。
 その間にGG団員は撤退を完了。
 王仙龍は敵前でただ一人となった。 
 
 「サー、敵が一人を除いて撤退を開始しました、サー」
 バリケードの間から敵の動きを見守っていた警備員が草太郎氏に報告をする。。
 「そうか、だが油断するな、現状を維持しろ」
 「サー、イエス、サー」
 警備員が持ち場に戻る。
 「草太郎」
 「うむ、わかっている」
 草太郎氏は嫌な汗が止まらなかった。
 長年傭兵として培ってきた本能が告げる。
 今、バリケードの前にいる老人は最悪の存在だと。

 王仙龍の目蓋よりも下に伸びた眉毛が上へと持ち上がる。覗く眼光はひたすらに鋭く、射殺すがごとく敵を見る。
 「では、行くとするかのう」
 王仙龍は息を吸い込み始めた。
 流れる動作で礼の型から戦闘の構えへと体制を変える。
 王仙龍がさらに息を吸う、腹が空き缶のようにベコリと凹み、胸が風船のように膨らむ。やがてそれは破裂寸前とさえ思われる状態で止まる。
 GG団が、敵対する湯屋側でさえその姿に圧倒され、固唾を飲んで見守っている。
 音が止んだ。
 一瞬の静寂。
 ・・・・・・そして弾けた。
 「噴破」
 肺に溜めた空気を全て吐き出す裂帛と、大地を揺らし床を踏み砕く震脚と、打ち抜く拳が響き渡る。

 一撃、一撃、たった一撃、その一撃でバリケードは根刮ぎ粉砕された。
 バリケードの材料だった椅子や机の破片が吹き飛ぶ、ついでに山田他、警備員ズも背景として吹っ飛ぶ。
 「何だと!」
 その破片に耐えながら草太郎氏は叫ぶ。
 王仙龍が現れたとき全員に油断するなとは言った。そのただならぬ雰囲気は十分に感じ取れた、しかしそれでもまだ足りなかったと言えるのか。
 GG団五人衆が拳聖の圧倒的な力を前に草太郎の意識に一瞬の空白が生まれる。
 その一瞬の空白のうちに王仙龍が突撃する、一歩一歩、床にクレーターを作る速度でもって。
 「長月草太郎、湯草ゆず子、両名の身柄預からせてもらおう!!」
 「させません」
 一直線に二人へ向かって進む王仙龍の前に黒い影が立ちはだかる。
 「何やつ!!」
 そのままの速度で後ろへ飛び退き一度距離をあける。
 「ご主人様に危害を与えるつもりならばこの私が容赦しません!!」
 纏うは漆黒メイド服、頭には純白ヘッドドレス。
 目まで覆う闇色の黒髪をなびかせながら威風堂々立ちはだかる。
 今まで主に影のように付き従い見守っていた彼女だが、その危機を救うため今こそ立ち向かう。
 彼女こそが世界最強のメイド。
 人呼んでメイド王。
 「大丈夫ですか、草太郎様、お怪我はありませんか」
 「うむ、ああ」
 混乱は一瞬、即座に落ち着きを取り戻した草太郎氏は答えて見せた。
 「すまないな、よく私を守ってくれた」
 「かまいません、主を守るのはメイドの勤め、ご主人様には指一本たりともふれさせません」
 それだけ言うと彼女は王仙龍と向き合った。
 「ほほう、お主ただ者ではないようだな、まとった闘気は一流のもの、名を聞こう」
 油断なく、王仙龍が構えをとったまま聞く。
 二人の間の距離は10メートル、しかしそれすら既に間合いの内。
 「名前などメイドになるときに捨てました、ただどうしても名をお望みなら、ただ菊花とだけお呼びください」
 対する菊花は自然体、武器を持たず、構えもとらず、ただ主を護る。



 そして紫苑、撫子、リースの三人もまた、強敵を目の前にしていた。
 アブドルを倒した三人は、その後何の問題もなく、今思えばそれさえ罠かもしれないが、一階までたどり着いた。
 だがそこで彼らを待ち受けていた全身を黒いマントで覆い、顔はおろか体型さえわからなくした三人の老人だった。
 「油断できませんね」
 「ああ」
 相手のただならぬ雰囲気に緊張が走る。
 頭上からGG団首領、暗黒(略)大帝の声が響く。
 「むふぁふぁははー、まさかあの、アブドルを倒すとはどうやら油断できぬ相手のようじゃな、そこで貴様らのために我々は最強の相手を用意した、我がGG団最強の5人衆のうち三人を相手にしてもらおう、老人より優れた若者など存在しない、そのことを骨の髄まで理解するがよい!!」
 改造人間、アドルフ=ヒムラー
 破壊職人(兄)、爆砕王
 破壊職人(弟)、滅削王
 GG団五人衆が三人、彼らの目の前に立ちふさがる。



〈続く!!〉

  前回、大銭湯(始動編)の続きです。

最終更新:2013年06月12日 21:39