2005年05月22日(日) 19時49分-一角天馬
大銭湯
一角天馬
湯屋。
この国最大の保養施設。幾つもの入浴施設とそのための宿泊施設があわさった全国有数の宿泊施設。
つまりは要するにでっかいお風呂屋さん。
その廊下を一組の男女が歩いていた。
男の方は、顔はやや童顔だが目つきは鋭い、年はまだ二十歳にもなっていないのだが顔のせいで幼く見られ、表情のせいで年を取って見える。
服装は黒のロングコートの黒いズボンに黒い靴の全身黒ずくめ。
神無月 紫苑。
女の方は、柔らかい金髪に楽しそうな笑顔が似合う少女。
こちらは青年とは正反対に明るい衣服で身を包んでいる。
大和 撫子。
二人は値段次第で子供のお守りから世界戦争の阻止までこなす何でも屋のコンビ。
その世界でも関わるな、目も合わすな、解決するものもさらに悪化すると称えられている名コンビである。え、称えてない、気のせいだ。
ともかくそんな二人がなぜこの湯屋に来たかというと。
「お風呂~、お風呂~」
撫子がほわわんとした表情で言った。
「おいおい、まずは自分の部屋に行って荷物を置いてくる方が先だからな」
紫苑が追っているスーツケースを叩いて見せる。
「うん、わかってる、それにしてもこんな旅館に招待だなんて磯野さんもいい人だよね」
磯野さんとは今回の湯屋への宿泊券をくれた婦人のことだ。夫の転勤による親子三人で暮らすための引っ越しの手伝いを紫苑と撫子に依頼してきて、そのお礼に依頼料に追加してさらに宿泊券まで渡してくれたのだ。
「いや、絶対違うから」
紫苑は嫌なことを思い出したかのように不機嫌になる。
「え~。何でよ紫苑」
「何でだと・・・・・・・俺がどんだけ苦労したと・・・というかそもそもお前のせいだろ、あんなにことなったのは!」
「あんなこと・・・・・・だってせっかくだから屋根裏まで掃除しといた方がいいじゃん!」
全ては引っ越し前に行った掃除が原因だったりする。
「それはいい、だけど何でお前はそういつもいつもやっかいごとばかり拾ってくる・・・何で屋根裏で怪しいジュラルミンケースなんて見つけてくるんだよぉ!」
怪しいジュラルミンケースの中にはちょっぴりデンジャーな白い粉が末端価格にして10億円ほど。
「見、見つけちゃったものはしょうがないじゃん」
「そのせいで、ヤクザとマフィアと蛇頭の三つどもえの戦いに強制的に参加させられて、鉄砲玉だの、銃撃戦だの、夜襲だの、討ち入りだの、本当に勘弁してほしかったんですけど」
「ま、まあでも、こうして全員が無事に生き残れたし、三組織とも壊滅できたからよかったじゃん、ね!」
「その激烈な生命の危機の連続に対する、お礼が巨大銭湯二泊三日のご招待券じゃあ、やってられません」
かなり必死になって証拠封じのために躍起になる組織から磯野さんたちを守ってあげたのに。
ついつい涙目になる紫苑を撫子が慰める。
「まーまー、よくあることじゃん」
「よくあってたまるか!」
なかば八つ当たり気味に撫子にツッコミかかと落としを決める紫苑。
実際、スーパードジっ娘で超巻き込まれ体質の撫子にとっては歩いていたら銃撃戦に巻き込まれているというのは良くあることなのかもしれないが一緒にいて被害を被る紫苑にとってはたまらない。
「あたたたた・・・」
さすがに痛かったらしく撫子は頭をさすっている。
「くうぅ、まあいい、確かに起こったことは起こったことだ、素直にこの旅行を楽しんでやる」
紫苑、涙を振り切っての決意。
撫子といると嫌でもポジティブシンキングになる。
「うんうん、そのいきそのいき、レッツお風呂タイム」
いつの間にか撫子は復活していた。
「テンション高、そんなにここに来たかったのか」
「うん、わたしお風呂好きだし。パンフレットによるとね、ここにはここには百種類以上のお風呂があってたのしめるんだよ、大浴場、泡風呂、電気風呂、砂風呂、サウナ、打たせ湯、野外浴場、薬湯、硫酸風呂、強水酸化ナトリウム風呂」
「ふ~ん」
どうでもいいが最後二つは明らかに何かが間違っているよね。
ちなみに紫苑も気づいたけど、うきうき気分の撫子を見ているうちにツッコム気がなくなったっぽい。
そもそもこの湯屋は地形的に温泉の出ないこの地域一帯をカバーするためにできたお風呂屋さんであったのだが、山奥の土地をあらかた買い占めてできた巨大施設はほとんどのニーズをかなえるものであり、今ではふつうの温泉よりも人気が出てしまっている。
撫子はあれで紅茶より日本茶がすき、と割と渋い趣味があり、こういった落ち着いた場所でのんびりするのは願ってもないことなのかもしれない。
「あとねパンフレットによると・・・」
撫子が喋りかけたその時、二人はちょうど廊下の曲がり角にさしかかっていた。
そしてその曲がり角の向こうからも歩いてくる人物が二人いた。
「あっ」
「!?」
「あら」
「・・・・・・」
バッタリと。
4人は顔を合わせた。
出会ったのはこんな純和風の湯屋には似つかわしくない、メイド服の二人。
「菊花さん、それにリースさん?」
「紫苑さんに撫子さん?」
ほぼ同時に声があがった。
「いや~、まさかこんなところで二人に会うだなんて、思ってもみなかったです」
撫子が言った。
今二人がいるのはVIP用の特別室、そういっても湯屋の場合はふつう想像するようなキンキラキンの豪華なものではなく、和風に創られた落ち着いた部屋となっている。それでも部屋においてあるのは超一流の高級品ばかりで、飾られている壺や山水画は値段を聞いたら普通の人は金庫に閉まっておこうとする一品だ。
とにかくその部屋で撫子と紫苑は来客としてお茶などを出されていたりした。
二人を迎えてくれているのは卓袱台をはさんで向かい側、そこに座っている先ほどのメイドさん二人である。
一人は漆黒のメイド服に身を包んだ黒髪の女性。
まるで影のような彼女の名前は菊花。
もう一人の方は眼鏡の似合う大人の女性、しかも巨乳でネコミミ。
この割と貴重な獣人族のメイドさんの名前はリース。
彼女らは紫苑と撫子が何でも屋を開いている雑居ビルにあるメイド派遣会社につとめるメイドさんたち、つまりはつまり前もって面識がある仲であり、偶然ここで出会ったのも何かの縁というわけ紫苑たちは彼女たちの宿泊している部屋へと案内されたのだった。
「わたくしも驚きました。こんなところで撫子ちゃんと出会えたんですから」
リースさんはいつもの優しそうな笑顔でそう答えた。
この人はいつもほんわか暖かい雰囲気の人だ。
隣に座っている菊花さんもスッと伸びた髪が目のあたりにまでかかっているせいで表情がいまいちわかりにくいけど、少なくともうれしそうにしているのは確かだろう。
こんな和みモードの雰囲気をぶっちぎりで壊している人がいた。
紫苑だった。
部屋に案内されたときから、むしろ出会ったその瞬間から紫苑は菊花のことを注視し続けていた。
それは空気がピリつくほどの緊張であり、もし今、菊花さんが突然立ち上がったりでもしたらその瞬間に流血沙汰が起こってもおかしくない、そんな雰囲気だった。
「紫苑そんなに緊張しなくてもいいって、菊花さんはもう敵じゃないんだよ」
たまらず撫子が話しかける。
「それくらいわかっている・・・・・・・けど、身体が言うことを聞かないんだ」
紫苑の口から乾いた笑い漏れる。
「・・・・・・・・・PTSDだね」
実は菊花さんはただのメイドさんではない、世界最高のメイドさん(主に戦闘力で)に送られるメイド王の称号を宿すスーパーメイドさんなのだ。
以前、紫苑は些細なことから(当然原因は撫子)彼女と敵対、その時に受けた恐怖が心と体に刻み込まれているのだ。
ちなみにその恐怖は事件後一ヶ月間、紫苑が寝るたびに悪夢にうなされ続けたことからお察しください。
「本当は来る予定なんかなかったんだけどね、前の依頼人さんから宿泊券をもらっちゃって、それで止まることにしたんです」
撫子は話を戻すことにした。
「まっ、残念ながらこんなVIPルームじゃなくて泊まるのはごく普通の部屋だけどな」
紫苑が皮肉る。
「そんなこと言わないでください、私たちも自分達でこんな部屋に泊まっているわけではありません」
答えたのは菊花だった。その挙動に紫苑が恐れをなし身構える。
かなりかっこわるい。
「ん、どゆこと」
撫子の疑問にリースさんが口を開いた。
「それはですね、実はこの部屋を予約したのは私たちのご主人様なのです」
「さようです、この旅行も長月草太郎様に日々の疲れを癒していだくためのもの・・・」
「本当は私たちもお屋敷に残るはずでしたけど、草太郎様が日頃よく働いているのでその疲れを取るとよいと、ご一緒させていただいたんです」
「ふーん、いい人なんだね、その草太郎さん」
「ええ、とても。優しくいつも私たちのことを気にかけてくださる、それにもう六十を越えているのに、とてもお若く見えるんですよ」
うっとりと自分のご主人様のことを語るリースさん。
微妙に惚気てる?
「ジジ専?」
「ただの憧れですよ」
珍しく菊花さんが解説をする。
「そうです、ただ少しいいと思っただけですよ、草太郎様はご主人様としてすばらしいお方であると言うだけ、その・・・・・・男の人に対するのとは少し、違う感情です」
「ふーん・・・・・・そんなものかな」
紫苑にはいまいちよくわからない感情だった。
とりあえずこの話はここで終了、紫苑は出されてお茶を飲み干した。
「紫苑、二杯目いる?」
撫子が急須に手を伸ばす。がそれよりも速く菊花さんの手が急須に伸びていた。
「あ、いいよ菊花さんわたしがやるから」
「いけません、お茶の出し入れはメイドの仕事、これだけは譲ることができません」
そういってズズズイッと急須を自分の方へ持っていく。
「でも、ここへはメイドの仕事をお休みするために来たんでしょ、せっかくだからそんなことしなくてもいいの」
急須が撫子の方へと引き戻される。
「ですが、その・・・・・・わたし何か仕事をしていないと落ち着かないのです」
先ほどから妙にそわそわしたそぶりを見せていたと思ったら原因はそれだった。
「ワーカホリック」
「菊花は働き者ですから」
今度はリースさんが解説をする。
「それに私は・・・冥土の儀によってメイドに転生してから幾星霜、このような休みなどは一度もありませんでした、だから」
ここで菊花さんは言いよどむ、それでも小さな声で何とか話を続ける。
「その、だから・・・・・・ノンビリすると言うことがよくわからないのです」
菊花さんは恥ずかしそうにうつむいてしまった。
「うーん・・・・・・」
撫子は取り返した急須からついだお茶を一服。
「じゃあさ、菊花さんがご主人様になるってのはどうかな?」
「ご主人様ですか・・・なんと恐れ多い!」
「そんなに驚かなくても・・・ノンビリが解らなくてもご主人様のことなら解るでしょ、菊花さんはお休みの間ご主人様気分でゆったりすればいい、んで、私は菊花さんのメイドさん・・・お茶をどーぞ」
そういって撫子は菊花さんにお茶を注いであげた。
「あ・・・・・・ありがとうございます・・・・・・善処します」
菊花さんは撫子の入れたお茶をなぜだか見つめていた。
「がんばって、菊花」
どこをどうがんばればいいのかよくわからないけどリースさんは菊花さんのことを応援している。
その次の瞬間。
ドアの開く音とともに。
「ご主人様、お帰りなさいませ」
戸口にたち深々と頭を下げる菊花さんの姿があった。
「なっ!?」
紫苑は声を上げて愕然とした。
見えなかった。
この部屋に入ってから、否、出会ってからずっと、一秒たりとも警戒を怠らなかったそのはずなのに。
直前まで自分の目の前に座っているのを覚えている。戸口の音とともに菊花の気配が背後に移ったのも捉えていた。
だが、その過程がすっぽりと欠落していた。
知覚できなかった。
紫苑の中の現実は以前は自分の目前にいて、以後は自分の背後に立っていた。まるで編集済みのテープのようにその間に何も存在せず一繋ぎの連続した時間として刻まれていた。
刹那のさらにそのまた向こう側。
人間の知覚限界を遙かに超えたその動きはまさに神速。
紫苑ははじめから勝負になっていなかったということをあらためて思い知らされたのだった。
んなことはどうでもよくて、
「うむ、お迎えご苦労」
戻ってきたご主人様、長月草太郎は菊花さんの深い会釈に答えた。
長月草太郎さんは黒いスーツを着こなし、キッチリ整った髪型に髭を結わえ、まさに理想的な初老の紳士といった容姿をしている。
リースさんの憧れるマスターというのも納得できる出で立ちだ。
「だがな菊花、今日は無礼講だ、そう硬くならずともよい、もっとリラックスしたらどうだ」
「はっ、申し訳ありません」
そう言ってまた深々と頭を下げる。
もうこの調子じゃ、菊花さんがノンビリするとかは無理かもしれんね。
「ところで・・・」
そういって草太郎氏は視線を菊花さんから部屋の中へと変える。リースさんがそれに気づき軽く会釈をする。そうしてその視線は紫苑と撫子に注がれる。
「どうも!菊花さん専属メイドさん1号でーす」
「ウソ言うな、えっと、どうもはじめまして。菊花さんたちのちょっとした知り合いで何でも屋をやっている紫苑です、こっちは撫子、さっき偶然に出会いまして、お邪魔させていただいてます」
紫苑は撫子を小突き挨拶をする。
「何でも屋・・・・・・するとあの人間の屑の・・・」
「へっ」
「紫苑・・・今何かすごいセリフが・・・」
「違いますは人間の屑ではなく、この二人は疫病神さんの方です」
リースさんが笑顔で訂正をする。
「おお、そうだったか、ともかく二人からかねがね噂は聞いております、どうぞ気楽にしてください」
「はい・・・どうも」
その噂がいったいどのようなものか聞いてみたかったけど、聞けば確実に凹むと思われたので紫苑はスルーすることにした。
そりゃまあ、三回ほど雑居ビルを倒壊させかけたけどさあ・・・。
「うむ、ありがとう」
紫苑がダメージから回復している間に草太郎氏は腰を下ろす。
それを察知して菊花さんが座布団を敷き、リースさんが新しく湯飲みにお茶を注いで出した。なかなかのコンビネーションを見せてくれた。
ノンビリするといいながらリースさんも割と働いているが、それは身に染みついたメイドの習性か、元々そういったことが好きなのか・・・・・・たぶん後者だろう。
「リースもすまんな」
「そんな、わたくしにはもったいない言葉です」
草太郎氏はお茶を一のみ。
「うむ、これはなかなか」
「ええ、よい茶葉を使っていますね」
同様にお茶に口を付け(2杯目)撫子が言った。
撫子はこう見えてなかなか趣味に渋いところがある。紅茶やコーヒーよりもこういった日本茶を好んで飲むし、味にもうるさい。それだけに撫子に入れてもらったお茶はなかなかいいものなのだが時々なぜか砂糖が入っていたり、砂糖と間違えて塩が入っていたりと一流のドジっ娘のドジを見せてくれる。
「ほお、撫子だったかな、お嬢さんなかなかよい舌をお持ちですな」
「はい、お茶が好きですから、好きなものだからよくわかります、ここのお茶は特製みたいです・・・後でお土産として買ってこうかな」
「こいつは結構本格派だからな・・・・・・だが、いつぞやみたいに製茶器を買い込むような馬鹿なまねだけは勘弁してくれよ」
「うう・・・いつでもどこでも1年中、お茶を煎るいい香りが楽しめるのに、自分で煎った茶を飲めるなんてお茶屋さんしかできないことを楽しめるのに」
「でかい、高い、即返品、何でも屋からお茶を煎るいい香りがしてたまるか」
「んじゃ、何でも屋を廃業、お茶屋さんに転職しよう」
「するかー!!」
ごっっつん!
紫苑の結構本気のゲンコツが撫子の脳天を直撃する。
「うきゅうううううううう」
謎のうめき声を上げてグルグル目になる撫子。
「なかなか愉快な相棒をお持ちだな」
そんな二人を草太郎氏は見ていた。
「愉快というか、大変な、だけどな」
「けどそのぶんお世話しがいがあります」
「世話したいのなら譲るぞ、むしろ貰ってくれ」
「ほれ、大丈夫か?」
「ほええ、何とか」
撫子は、草太郎氏に声をかけられたがまだダメージを引きずっている。
とその時、部屋のドアがノックされる音が聞こえた。
「あらあら、もしもし、草太郎はいるのかしら」
高く柔らかい声がする。
入ってきたのは品の良さそうなおばあちゃん。
「これはこれは湯草 ゆず子殿」
「あれ、それって」
撫子が復活していた。
「ええ、ここのオーナーですわ」
「あらあら、草太郎、久しぶりねえ、この部屋の具合はいかがかしら」
「うむ、なかなかに居心地がよい、よい部屋を用意してもらってすまんな」
「あらあら、ありがとうございます、長月工業グループの会長に誉めていただくなんて、感謝の極みです」
「げっ」
紫苑は思わず声を上げた。
最初に気づくべきことだったのだが長月工業とは重工業の会社の中でも1,2を争う大会社の名前だ。そんな会社の会長という大人物に今までため口を聞いていたのだ。
「本当にすごいご主人様だったんだね」
「ええ、一角の人物ですわ」
「あらあら、ところでこの御方たちはどなたなのかしら、かしら?」
ここで初めてゆず子さんは紫苑たちに気づいたらしい。
「何で2回言うのかな、かな」
なぜか撫子にも口調が移った。
「彼女らはな」
「あ、念のため言っておくけどあんたはやらなくていいから」
「くっ」
草太郎氏が凹んだ。
どうやらやる気だったらしい。以外にお茶目なおじいさん。
「ともかく、彼女たちはわし専属のメイドとその友人たちでな・・・・・・詳しい紹介は本人たちの口からの方がよいな」
「はっ、それでは不詳、この菊花から・・・」
草太郎氏の言葉を受けて菊花さんが喋りはじめた。
同時刻
湯屋玄関ロビー
ここに今、六人の老人が到着した。
「いよいよじゃな、総統閣下」
そのうち一人がリーダーとおぼしき人物に声をかける。
「ああ、苦節十年、いよいよこのときがやってきたのじゃな」
作戦開始前に合わせた時計は予定時刻まで1分を切っていた。
「待ちわびましたぞ、総統」
「苦労をかけたのう」
「閣下、いよいよ閣下の描く理想郷をこの目で拝めるのですね」
「うむ、全てはこのときから始まるのじゃ、わしらのことを不要と断じた世界に対する復讐、わしらがこの手で新世界を創る」
やがて時計の秒針は一回りを終えてその時が来る。
「我らGF団に栄光あれ!!!!!!」
その場にいた全ての人物が宣言した。
身体の方が先に危険を認識した。
紫苑は立ち上がりドアまで駆けるその間に状況を理解する。
”ドア越しに殺気。”
先手をとられる前に仕掛ける。
即座にドアを蹴破り廊下に躍り出る。
敵は左右に二人。
まず左、自身の存在を認識させることなく最大限の効率を用いて一撃の下に殺
腹部に掌底をたたき込み気絶させる。
殺さず気絶させることによるロスも今は考えない。
ただ如何に行動するかにのみ己の処理能力の全てを割く。
ついで右、否すでに終わっていた。同様に菊花が一撃を放っている。
ならば。すでに廊下の向こうからやってくる足音に気づいていた。
湯屋にあふれるこの殺気、おそらくは援軍。
コートから拳銃を取り出し構える。
威嚇、発砲、足止めをする。
「撫子!!」
銃撃音の間を縫って叫ぶ。
このような場面に対していくつも経験のある撫子、紫苑や菊花に敵わなくとも遙かに速く状況を理解していた。
一瞬で紫苑の言いたいことを理解すると行動に移っていた。
「草太郎さん、ゆず子さん、こっち!」
二人の手を引き廊下を駆けだした。
紫苑が銃を向けるのとは反対方向、そちらにはまだ敵は来ていないようだった。
まずは露払いの意を込めて菊花さんが先行。
ついでリースさん、撫子、草太郎にゆず子と続く。
残された紫苑は十分に足止めできたことを確認してから彼女らの後へと続いた。
湯屋 一階 大ホール
そこに湯屋を襲撃した一段の仮設本部が置かれていた。
GF団(GrandFather団)。
彼らこそ『定年後の世界征服』をスローガンに主に65歳以上の高齢者が中心となって結成された悪の秘密結社である。
歴史こそ他の秘密結社に比べて浅いものの、近年すさまじい勢いで構成員を増やしてきている新興秘密結社であり、この湯屋襲撃はついにその存在を世間に知らしめるための最初の作戦なのである。
あわただしく腰の曲がった構成員が動き回り情報の伝令が響くホールの中央、無数の機材の置かれた、まさに総司令部といった場所、そこに異様な老人の姿があった。
彼はその眉から上、頭部には透明なガラスがすっぽりとはまっており緑の培養液に浸かった常人の3倍はありそうなピンクの脳みそが丸見えになっていた、また全身には無数の管が刺さっており、ピンクや緑、黄金に輝く怪しい液体が絶えず注入されていた。その注入の鼓動にごとに脳が蠢く様はまさに不気味としか言いようがない。
彼こそはGF団が総帥。絶望暗黒凶魔大帝こと田所大五郎(96歳)その人である。
そして彼を囲むように立っている老人たちがいた。
偉大なる大魔導師 アブドル=アブ=アルアクバース=アブサンザード(82歳)
狂える科学者にして改造人間 アドルフ=ヒムラー(75歳)
破壊職人(兄) 爆砕王(69歳)
破壊職人(弟) 滅削王(69歳)
そしてもう一人、現在湯屋制圧のため最前線で指揮を執っている。
怒れる拳聖 王仙龍
彼らこそがGF団五人衆とおそれられる最高幹部の面々だ。
そんな彼らのもとにあらゆる情報が集まってくる。
「絶望暗黒凶魔大帝総統閣下、湯屋一階、制圧完了しました。二階部分は92%制圧完了、時間の問題です」
「絶望暗黒凶魔大帝総統閣下、現在三階部で湯屋警備スタッフとの交戦中、我がDF団圧倒的優位とのことです」
「絶望暗黒凶魔大帝総統閣下、四階では警備スタッフが逃走を始めています」
「絶望暗黒凶魔大帝総統閣下、二階で最後まで抵抗を続けていた湯屋コントロール室の制圧が完了しました」
「閣下、やりましたな作戦はほぼ成功です」
控えていたアブドルが口を開いた。
「むふぁふぁははー(笑い声)、これこそ我が作戦の成果だ」
作戦とはあらかじめ宿泊客として団員達を湯屋に潜入させていたことだ。
この日の宿泊客のうち実に五割もの人間が作戦によって一般客を装った団員であり、これが作戦開始時間に一斉蜂起、当然これにより当然湯屋側は大混乱に陥ってしまい、その結果がこの成果だった。
「我は戦力を小出しにし各個撃破される愚かな他の組織とは違う、一つの作戦に十分以上の戦力を割くぞ」
「さすがです閣下」
「絶望暗黒凶魔大帝総統閣下、今回の作戦の目的である、長月草太郎、湯草ゆず子、両名の生け捕り部隊が敵の予想外の反撃にあい、作戦失敗しました」
「何!」
「両名は五階に逃走、そこで残ったスタッフとともにバリケードを築き、籠城する構えを見せています、閣下いかが致しましょう」
「アブドル」
「はっ」
「これより至急、王仙龍の応援に迎え、五人衆のうち二人を相手にしては持つまい」
「御意」
頭を垂れるとアブドルは歩き始めた。
「閣下、そろそろお時間です」
団員の一人が寄ってきて告げる。
「うむ、解った」
そういって歩いていった先はホールに作られた舞台の壇上だった。
大帝に向けて十台のマイクが設置され、その言葉を一言も漏らさず拡大する。
舞台の上からは大帝の姿を見て整列した団員達の姿がよく見えた。
しかしそれにしても、これはアレな光景だ。
何しろGF団員の制服は黒い全身タイツ、しかも骨のペイント付きなのだ。しかもしかもそれに加えてそれを着込んでいるのが平均年齢72歳のおじいちゃんと来ている。
真っ直ぐに立っているつもりなのに腰が曲がってしまっているもの、足腰がしっかりせずにフラフラと揺れているもの、そもそももうポックリ逝きそうなもの、そんなのがいたるところに見受けられる。
そのくせ本人達は大真面目でやっているので、何ともコメントしづらい雰囲気を醸し出している。
とにかく、団員の前で大帝様は演説をはじめた、最初は語り駆けるように、しだいに激しく、最後は叫ぶように。
「諸君、ついに諸君らの待ち望んできたこの日がやってきた。
太古の昔より、老人は集団における偉大な知恵の実として、またあるいは大いなる人生の先輩として、またあるいは素晴らしき家族の父として、またあるいは弱く儚き象徴として、尊ばれ、敬われ、感謝され、保護されてきた。
然るにだ。
この近年の我々に対する仕打ちは何だ。
子供らは我々を見捨て、孫達は我々を嘲笑し、社会は我々を無視し、政府さえも我々を不要の民と断じ、切り捨てた。
これが人のすることか!
思えばこの国がここまで発展することができたのは誰のおかげであろうか、我々だ。
我々が歯を食いしばりやってきたからこそこの国の今日がある。
そんな我々に対するこの仕打ちは何だ。
神は死んだか。
正義は滅んだか。
道徳は過去の遺物に成り下がったのか。
よろしい、神は失せるがいい、正義は消えてなくなるがいい、道徳も捨てよう。
しかし、その代わりに我々が道徳を創ろうぞ、我々が正義を示そうぞ、我々が神となろうぞ。
今我々はここに宣言する!!
老人の老人による老人のための理想郷をこの世に築き上げるまで戦い続けることを!!!
立てよ老人!!!!
愚かなる若人達に鉄槌を下すために。
集結せよ老人達!!!
我がもと集いて、弾雨とかせ、業火となれ。
そして戦え老人達よ!!!
我がGF団に栄光あれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「我がGF団に栄光あれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
まるで潮の引いた海から津波が押し寄せるように、静寂が割れ叫び声が上がった。
その熱狂ぶりはすさまじく、このとき力を入れすぎてポックリ逝ってしまった団員がでるほどだった。
そして再び暗黒絶望凶魔大帝は今度は団員に向かって出はなく、湯屋の全ての場所に向かって放送されているこの演説を聴いているであろういまだ抵抗を続けるもの達に向けて。
「諸君、これで諸君らにも我々の理想が如何に素晴らしきものか理解していただけただろうか。
我は誓おう、諸君らが無駄な抵抗をやめさえすればこちらとて手荒な真似はしない。
我々の目的とするところは一つ、長月草太郎、湯草ゆず子、両名の身柄を拘束することである。
彼らは我々と同じ老いたる身でありながら、増長し、道理を忘れ、私腹を肥やすもの達である。
そこで我々は両名を捕らえ、その命をもって両名の持つ会社から賃金を搾取、活動の礎にしたいと考え、行動している。
もう一度言おう、我々の目的は長月草太郎、湯草ゆず子、両名だけである、無駄な抵抗をやめおとなしく降伏したまえ」
それだけ言うと暗黒絶望凶魔大帝は再び眼前に集結したGF団団員達を見渡した。
誰も彼もそして自身も、己が理想と力に酔いしれていた。
「我々の目的は長月草太郎、湯草ゆず子、両名だけである、無駄な抵抗をやめおとなしく降伏したまえ」
暗黒(略)大帝の声は当然、湯屋の5階、そこに集結した紫苑たち湯屋勢の生き残りの耳にも届いていた。
明らかに裏切りを誘った放送によって湯屋スタッフ達に動揺が広がっていく。
「おい、どうする?」
湯屋の警備員の一人が同僚に話しかける。
「どうするって何がだよ」
「だから今の放送だよ、社長を差し出せば俺たちは助かるんだぜ」
「た、確かに」
「馬鹿、山田、鈴木、お前らなんてことを話しているんだ、社長に今の話を聞かれてでもみろ」
「あらあら、何の話をしているのかしら、かしら?」
「「「しゃ、社長」」」
いつの間にか離反の話をしていた三人男達の後ろに湯屋社長の湯草ゆず子が立っていた。
「ひぃぃぃぃぃ」
その瞬間、男達の一人、山田太郎はその場に崩れ落ちた。
「すみません、すみません、すみません、すみません、スミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセン、謝ります、謝りますから、硫酸風呂だけは」
その哀れな姿に耐えきれず同僚が助け起こす。
「落ち着け、太郎、大丈夫だ。大丈夫。大丈夫なんだ。ジョゼフは運が悪かったんだ、あいつは・・・・・・っく」
「も、申し訳ありません社長、私の責任です、責任(ケジメ)は私が取ります、だから彼らには・・・」
さらに彼らの上司がそういいながら小指を突き出す。
「あらあら、何をおびえているのかしら、大丈夫あなた達は大切な私の社員(かぞく)じゃない、私が社員(かぞく)にひどいことをするわけないでしょ・・・・・・社員(かぞく)にはね・・・・・・ところで家族は困ったときに助けてくれるものよね・・・」
「「「はい、社長、命に代えてもお守りします!!!」」」
その後、彼女はその他、周りで成り行きを見守っていた警備員、女中達をゆっくりと見渡し。
「あなた達も、そうよね」
「はい、社長、お守りします!!!」
社員一同誰一人として後れることなく答えるのだった。
「わあ、ゆず子さん、社員の人に信頼されているんだね」
「そうですわね、それに社員の方もその信頼を精一杯変えそうとして、とてもすてきな関係ですね」
「いや・・・お前らどう今のやりとりを脳内変換すればそういう理想の職場像にできるんだ」
そのやりとりを見ていた撫子とリースさんに紫苑がツッコム。
「ゆず子殿も変わっていないのお、昔から彼女は容赦を知らなかったからな、いったい彼女の気分一つで何人の人々が闇に消えていったか、昔を思い出すなあ」
「じいさんも昔の思い出を懐かしむふりして、さらりと怖い話をするな」
紫苑はものすごく湯屋の暗黒面を見た気分だったが、考えようによってはこれで離反者が出る確率は0といえることがわかったことになる。
「さあ、どうするべきか」
「そんなの決まっているでしょ、私たちの手で湯屋を護る、これっきゃない」
紫苑のつぶやきを撫子は聞いていた。
「でも、割と大変だぞ、こっちは圧倒的に不利、とにかく数の差をどうにかしないと」
「それでもやるの、だって私たちまだお風呂にも入ってないし、このままじゃせっかく湯屋に来たのにお風呂に入れずに終わっちゃうわよ、読者にたいするサービスシーンを潰すわけにいはいかないわよ」
「いや、そこんとこは別にどうでもいいんだけど、というかそんなのが助ける理由かよ」
サービスシーンは大切です(天の声)
「む、じゃあ紫苑は助けたくないの?」
「うんにゃ、悪の組織が狙うぐらい金を持っている社長さんに恩を売るってのは魅力的だし」
「それじゃ」
「ああ、俺たち二人でこっから逆転させようぜ」
社員達と今後について話し合っているゆず子に紫苑は近づいていった。
「どうもぉ、だいぶお困りのようですね」
「あらあら紫苑さん、何かご用なのかしら」
「ええ、ここらで助っ人を雇うってのはどうかと思って」
「あらあら助っ人さん?」
「はい、自己紹介のときに言いましたが、俺と撫子は何でも屋でこういうことにはなれています、少なくともそこいらの役立たずよりは使えるかと」
そう言い紫苑は先ほどの警備員三人を見た。
それはあからさまに侮蔑だった。
血の気が多いのかさきほど山田が紫苑に噛みついた。
「テメェ・・・だれが明らかに背景で吹っ飛ぶことを主目的に登場させられたキャラだと、言っていいことと悪いことがあるだろう」
「いや、そこまで言ってないから」
とりあえずつっこむ紫苑、とはいえ、その反応はわりと予定通り。ここは手っ取り早く自分の力をアピールしたい。
「・・・ただ単に雑魚って言っただけどな」
「貴様」
挑発の台詞と同時、山田が掴みかかるよりも速く、足を払いのけ、顎に手をかけ、ちょうど半回転させるようにして、そのまま床に叩きつけた。
本気を出せば一撃でトれるがさすがにそこまではしない、ただ気絶かしばらくの間の戦闘不能を狙って技をかける。
「山田ぁ!!」
「不意打ちとは卑怯だ・・・ぞ」
残った二人が紫苑に飛びかかろうとして、止まる。
いつの間にか紫苑の両手には拳銃が握られていて、その銃口は彼らの方を向いていた。
「こんな不意打ちも避わせないようじゃ、どうにもならないって・・・・・・でこれで少なくともこいつら三人分の役には立つってことが解ったと思うけど、雇ってくれるかな」
紫苑はにやりと笑ってゆず子に問いかけた。
「で問題は、いかにしてこの戦況を覆すかだ」
集まった生き残り湯屋スタッフともに紫苑が今後の作戦について考えていた。
湯屋スタッフ生き残り50人、それに対してGG団精鋭500人、十倍の戦力差を相手にどう戦うか、そこが今焦点となっていた。
「そんなもの、方法は一つしかあるまい・・・」
帰ってきたのは長月草太郎氏の言葉だった。
「このまま防戦に徹していてはいずれ押し切られるのは目に見えている・・・だから・・・打って出る!」
「確かに、その通り・・・だけど大将首をねらうにしても敵の守りを突破しなければならないぞ」
「うむ、だから部隊をオフェンスとディフェンスの二つに分ける。まずディフェンスがここで防戦を続けて敵の目を引きつける、その間に少数精鋭のオフェンスが守りの薄くなった敵本部に強襲をかけて一気に勝負を決める、組織というものは頭さえ潰してしまえば後はどうとでもなるものだ」
「なるほど・・・」
紫苑はうなうなずいた。
「オフェンスはもっとも戦闘能力と経験の多い、紫苑殿と撫子殿の二人にやってもらうが、よろしいかな?」
「ああ」
自分が仕切るつもりがいつの間にか草太郎氏に仕切られてちょっとショックを受けながらも紫苑が答える。
「うん、もちろん」
ついでに撫子も。
こうして作戦は決定された。
「・・・・・・それにしても」
「む、何かな?」
紫苑は草太郎氏をまじまじと見つめて言う。
「いやな、ずいぶんと場慣れしているなと思って、あんた本当にただの社長か?」
「その通り、ただの長月工業の会長だ。もっとも昔はやんちゃでな、家を飛び出して傭兵として戦っていたこともあったがな」
「とても腕利きの傭兵として名をはせていたそうですわ」
ここでメイドその一、リースさんが補足をする。
「動物王国独立戦争、ルルイエ邪神戦争、MWⅢ(第三次メイド戦争・メイドウォーズⅢ)、近年行われた大きな戦いにはあらかた参加なさったそうです」
さらにメイドその二、菊花さんが追補する。
「じつはな、ゆず子殿もそのときの仲間で彼女はブラッディ(略)・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あれどうしたの、紫苑。頭なんか抱えて」
撫子がなぜだか落ち込んでいる紫苑を心配する。
「はははは、ちょっとな、どうして俺の周りにはこうまともなヤツが少ないのかと思ったら絶望的な気分になってな・・・」
自嘲の笑いを浮かべて紫苑は顔を上げた。
「?」
撫子は急に自分の顔を見つめてきた紫苑の様子をきょとんとした表情で見守っていた。
その様子はまるで子猫か、何かほかの小動物みたいで、思わず抱きしめたくなる。
「本当、アレな人間ばっかだよな」
が、むしろ紫苑は脱力した。
この表情に何度地獄をみたか、本人に自覚がないからなお悪い。
「諸君らの仕事は何だ!!!」
「殺せ!殺せ!殺せ!」
「この作戦の目的は何だ!!」
「殺せ!殺せ!殺せ!」
「諸君らは湯屋を愛しているか!!!」
「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」
一方では、いつの間にか草太郎氏が紫苑以上の信頼を得て、ビシバシ湯屋の人たちに命令を下している。
「・・・・・・さあ、正義(建前)とお金(本音)のためにがんばりますか」
半ばあきらめの口調で、それでも表情をプロのものにして紫苑は言った。
「らじゃ」
撫子が彼女の武器である刀を取り出しながら答える。
「はい、わかりました」
そして紫苑の声に反応するのが撫子のほかにもう一人。
ネコミミとシッポを嬉しそうにふるふる動かしながらリースさんがそこにいた。
「私もご一緒させていただきますわ」
いつもの変わらないニコニコ笑顔でそんなことを言う。
「な、何考えてんですか、ダメダメ、絶対ダメ、本当に危険なんだから」
一瞬あっけにとられた後で紫苑が即座に否定する。
しかし、リースさんは引こうとしない。
「本当に危険ならなおさらですわ、撫子ちゃんや紫苑くんだけを危険な目に遭わせるわけにはいきません」
そういってスカートの中からやたらとごつい拳銃を取り出してみせる。
「へっ」
「それに・・・・・・・・・元、メイド組合・懲罰執行員(ゴミ処理係)、殺戮のリース(リース・ザ・オーバーキル)まだまだ、腕は鈍っていませんわ」
そう言ってリースさんは銃を構えるのだった。
紫苑の周りにはまともな人間など一人もいなかった。
紫苑、撫子、リースの三人がGG団の囲いの隙をつき脱出した直後、GG団による攻勢が始まった。
何人ものGG団員の黒タイツおじーちゃんズが「ジィー、ジィー」とショッカーぽい奇声を発し突撃を繰り返しバリケードを突破しようとする。
もっとも飛び道具を持たずにただ格闘戦を仕掛けようとするGG団はバリケードの隙間からでた警備員のスタンロッドの餌食となり、次々に倒れていく。
それでも若いもんには負けぬ、年金生活者の根性を見せたる、と老人魂に燃えるGG団は諦めることなく執拗な突撃を繰り返し、湯屋側をジワジワと消耗させていった。
「糞、次から次へとわいてきやがるぜ、畜生、ここの警備の仕事が終わったら結婚する予定だってのに、何でこんな目に」
「鈴木、それは死亡フラグだ!」
言ってるそばからバリケードの一部が崩され、突入したおじいちゃんのゲートボールで鍛えたキックが警備員その一鈴木に炸裂した。
「うわあわわああああ」
警備員その2、山田がスタンロッドで突き、GG団を押し戻す。
「死ぬな鈴木、鈴木ぃぃぃぃぃぃ」
あわてて鈴木の体を抱き上げるが、すでに・・・・・・
「気絶しているだけだ!とっと後ろにでも下がらせろ!!」
「ほいよ」
草太郎の声を素直に聞いて持ち場に戻る田中。
「女中部隊は壊されたバリケードを修復しろ、椅子でも机でも何でもいいからもってこい、警備員は現状維持、敵を近づけるな!!」
「みんな、お風呂に沈められたくなかったらがんばりなさ~い」
その後ろから声援と指示を飛ばす。ゆず子氏と草太郎氏だが、彼らは過去の経験から、そう長くは持たないと言うことを理解していた。
「あらあら、少しピンチなのかしらかしら、こうしていると熊本城攻防戦を思い出すわねぇ草太郎」
「ええ、あのときは援軍が間に合ったが今回はどうなることやら」
「そうね~、何でも屋さんにはがんばってもらわないと~」
「ジィー、ジィー!!」
二人の会話に関係なく、GG団の突撃は続いていた。
そのころ頼りの綱の三人はというと
「まずー」
「うー、どうしよう」
「GG団さんがいっぱいですわ」
援軍としてやってきたGG団の第2部隊と鉢合わせをしていた。
「回り道は・・・出来ないよね」
「ああ、何よりもこの作戦は時間が勝負、よけいなロスはとれないからな」
「では・・・強行突破ですね」
紫苑とリースが拳銃を構える。
撫子が刀に手をかける。
GG団は既に臨戦態勢をとっている。
「ジィージィー」ともうおなじみの奇声を上げ、突撃を開始する。
「それにしても・・・」
その姿を見て、ふと紫苑は思った。
「戦いにくいなこれ」
何しろ相手は軽く平均年齢60オーバーのご老体。
どいつもこいつも腰が90度曲がっていたり、よぼよぼと今にも倒れそうだったり、こちらに突撃をしているつもりでも歩いているようにしか見えなかったり。こいつらに攻撃を加える姿ははたから見れば確実に老人虐待、と言うかちょっと本気で殴ったりしたら骨とかが逝っちゃうんじゃないだろう、もしくは殴りどころが悪ければそのままポックリと。なぜだかこちらが敵の心配をしたい気分になってくる。
というか、そもそも湯屋の警備員はなぜこんな奴らに占拠されかけたんだ。
「ふっふっふっ、紫苑、だいぶお困りのようね、だったらここは私に任せなさい」
「うわっ、妙に自信満々だな」
「見ていなさい!」
そういって、不敵な笑みを浮かべる撫子。ここで一発逆転の大作戦が!
「おじいちゃ~ん、もうこんなことやめようよ、わたしおじいちゃんとケンカしたくないもん!」
涙目+上目使いで撫子はGG団を睨む。
瞬間、GG団に動揺が広がった。
「うぉぉぉぉ、な、何じゃ、この孫オーラ」
「だ、だめじゃ、逆らえん」
「す、すまん、おじいちゃんが悪かったぁぁぁぁぁ」
「本当?」
「本当じゃ、本当じゃとも、わしらが悪かった、もうケンカはなしじゃ」
「おお、おじいちゃんたちが謝る許してくれ」
「わ~い、おじいちゃんだーいスキ!」
一転、撫子は満面の笑顔になる。
「おおおおおおおお、癒されるぅぅぅぅぅ」
「すまぬ、すまぬボス、わしらは孫オーラには勝てないんじゃ、おじょうちゃん欲しいものがあったらおじいちゃんに言いなさい、何でも買ってあげるぞ」
説明しよう!!
孫オーラとはおじいちゃんたちが目に入れても痛くないお孫さんたちが身にまとっている独特の雰囲気のことであり、このオーラを持つ者に対しておじいちゃんはいっさいの思考能力を奪われ、盲従することしかできなくなってしまうのである。
「マジか?!」
思わず紫苑は地の文に対して突っ込みを入れる。
「孫オーラとは考えましたね、撫子ちゃん」
いつの間にかリースさんが紫苑の横に、おじいちゃん達にちやほやされる撫子を見てうなる。
どうでもいい全身黒タイツのおじいちゃん軍団に可愛がられる少女というのはたぶん人が生きてく上でまずお目にかかることが出来ないシュール光景だ。
「なら私も・・・おじいさ~ん、耳掻きをして差し上げますわぁ」
リースさんはその場に膝を崩し、おじいちゃん達を受け入れる。
「こっ、これはぁ!!」
「ばあさんが、死んだばあさんが見える!!」
説明しよう!!
リースさんはその溢れ出る母性によって、生涯の伴侶を失った孤独な老人の心を解きほぐし、そのすさんだ心を癒し、闘争へと走る心を引き留めたのだった。
「ほら、こんなに溜まっていましたよ」
「おお、ええのお、気持ちええのお、このままポックリと逝ってしまいそうじゃわい」
おじいちゃんは膝枕+耳掻きですっかり極楽ポックリ夢心地だ。
「もう、おじいさんったら、そんな不吉なことは言いっこなしですわ、あっ」
リースさんは急に色っぽい悲鳴を上げた。
おじいちゃんの一人が調子に乗ってリースさんの豊かな、むしろデカイ、と言うか巨乳、それよりも魔乳を揉み出したのだった。
とりあえず感度も良好っと。
「にゃ、やめてください」
耳とシッポをぱたぱたさせて逃げようとする。
「おお、ええのう、やっぱりばあさんよりも若い娘じゃ、若返るぞい、ほらここか、ここがええのんかぁ」
「にゃっにゃっ、ダメです」
「・・・・・・えいっ」
とりあえず紫苑はセクハラじいさんを殴り飛ばすことにした。
「全く、油断も隙もありゃしない」
それにしても、恐るべきは孫&死んだばあさんパワー、完全にGG団の動き封じていた。
以外にこの仕事は楽かもなと紫苑が思っていると。・・・ふと撫子がこちらを見ているのに気がついた。
その目が語っていた「さあ、次は紫苑がおじいちゃん達を骨抜きにするのよ」と
無理。
即座に目をそらす。
が今度はリースさんと目があった。
「紫苑君はどんなことをするんだろう、ワクワク」と期待に満ちた目で見てくる。
いや、無理だから。
逃げるように視線を変えるが二人の他にもおじいちゃん達が「今度は何かな、ドキドキ」と希望に満ちた目で紫苑に注目していた。
や、やるしかない。
ついに無言の圧力に紫苑は屈した。
「お、おじいちゃん」
言葉につまる、自分でもかなり恥ずかしいが最大限媚びた台詞を考えて口に出す。表情を引きつらせながらも出来る限りおじいちゃん達に受けるかわいい孫を演じてみせる。羞恥プレイっていうのはこんな感じだろうか、頭の隅でくだらないことを考える。
「ぼ、僕、お小遣い欲しいなぁ」
それでも紫苑は屈辱に耐えてかわいい孫を表現しきった。
間
どうだ!
撫子がどうリアクションをとっていいのかわからないのか曖昧な表情を浮かべる。
リースさんは何ともいたたまれない表情を浮かべている。
そして老人達は口々に。
「何じゃこのガキは、かわいくないのう」
「本当じゃ、全く期待はずれもいいとこじゃわい」
「なんか腹が立つのう」
文句を垂れていた。
涙。
「・・・・・・畜生」
紫苑はかなり本気で死にたくなった。
そんな、おじいちゃんが戦意を喪失し、紫苑が心に傷を負うなか新たなGG団員が姿を現す。
その老人は頭にターバンを巻き、体にはマントを羽織りまるで千夜一夜物語に出てくる貴族のような出で立ちで、肌は浅黒く、鋭い眼光に山羊のように白く伸ばした顎髭が目についた。
「隊長!」
おじいちゃん達の一人が言った。
「おまえ達・・・」
隊長と呼ばれたその老人は、他の老人をにらみつけた。
「同じ老人同士ならともかく、若者相手にこのざまとは何だ」
「ジィー!!」
おじいちゃん達は悲鳴(?)をあげ平伏する。
「ふん、まあいい罰は後でうけてもらうことにしよう・・・それよりも、おまえ達若者にしてはずいぶんやるようだな」
視線の先を紫苑たちに変え、老人は言う。
「ええ、まだまだメイドたる者ご老体に後れをとるわけにはいきませんから」
その眼圧も何のその、リースさんはいつも通りに言い返す。
「粋がるなよ娘」
老人はリースさんを睨む。
「同じようにワシがどうにか出来ると思うなよ、ワシこそはGG団五人衆の一人偉大なる大魔導師 アブドル=アブ=アルアクバース=アブサンザード、そこいらの若者とは出来が違う、精魂が違う、情熱が違う、決意が違う!!!」
老人、アブドルはそう叫ぶと、腕を前に突き出し。
「まずは挨拶だ、くらうがよい。烈風よ、敵を討て!」
瞬間、紫苑は撫子を抱え横へ飛んだ。ほぼ同時にリースさんもその場から逃れる。そして全てがなぎ払われた。
起こった破壊の正体は空気の壁、それをアブドルは紫苑たちがいた場所へ向かい飛ばしたのだった。
「ほう、避けたか」
「大魔導士・・・・・・そして今のは、『魔法』」
紫苑、攻撃の正体を悟る。
「左様、そしてワシは世間一般に『魔女』と呼ばれる人種じゃ」
アブドルは紫苑に答える。
『魔女』とは―――――それを説明するにはまず魔法について説明する必要が出てくる。
過去、人類が絶頂にいた頃、俗に言う文明崩壊以前、科学が遂にたどり着いた極地、物理法則すら書き換えあらゆる奇跡を可能にするその技術があった、それを人々は過去の名を模して呼んだ、すなわち魔法。
さらに同時期、猫人、犬人などの愛玩用の獣人種の創造など同じく頂点に達していた生物加工技術により人類は魔法を生まれながらに使用できる人造種を生み出すことに成功した、それこそが今現在『魔女』と呼ばれる種族の始まりである。
「なるほど、つまり、これが中ボスなのね、紫苑」
撫子ぶっちゃけすぎ。
「ああ、出来れば戦うのは大ボスだけって楽したかったんだけどな」
「ほお、ずいぶん余裕ではないか?」
不機嫌そうにアブドルの片方の眉毛が動いた。
「まーな、なぜだか知らないけどこういうのには慣れているからな」
「ふん、その強がりどこまで持つか試してやろう。 雷よ、嵐となれ」
アブドルの周りを雷撃の檻が囲む。
「くっ」
逃れるためにさらに後ろに飛ぶ。
「ふははははは、見たかワシの魔術は、すばらしいぞワシ、GG団に入ったかいがあるというものだ」
「えっと、何か、今すごいこと言わなかった」
「ああ、俺も聞こえたが」
「あの、アブドルさんがGG団に入団した理由というのは・・・?」
とりあえず皆の気持ちを代弁してリースさんが聞いてみる。
「決まっておる、好き勝手魔法がぶっ放せるからじゃ!」
そう言いながらさらに炎の矢を放つ。
「老人による改革とかは?」
「あれは建前じゃ、ワシはただ魔法をぶっ放すことが出来ればいいのじゃ、みよこの破壊力、マキマキ(笑い声)最高ではないか!!!」
「って、トリガーハッピーかよこのじいさん」
思わず紫苑は突っ込みを入れる。
「もはやこのワシを止められる者はない」
調子にのってさらに破壊を続けるアブドル。
何というはた迷惑なじいさんだろう。
扱うのが魔法だけにその迷惑度も桁違いだ。
ならば、目には目を、はた迷惑にははた迷惑を、超破壊力には超破壊力を。
「撫子やれ!」
紫苑は叫ぶ。
「えっ、いいの?」
聞き返す撫子。
紫苑はそれに即座に答える。
「かまわん、俺が許す」
「じゃ、じゃあ」
撫子は愛刀に手を賭け前に出た。
刀を持てば既に違う撫子。
心には水面のイメージ、波一つない透き通った水。
「何じゃ、刀か、まさかそのようなものでワシが倒せるとでも思ったのか・・・・・・ふん、無謀な若者にふさわしい行動だな、これだから最近の若い者は・・・」
「黙れ!」
撫子が叫ぶ。
「なっ」
「問 答 無 用」
アブドルの体が宙を舞った。
そして一瞬後れて撫子がアブドルを一閃するビジョン。
これこそが神無月紫苑のパートナー大和撫子。普段はただの少女にすぎない撫子だが刀を持つことによってその戦闘能力は激変する。彼女は剣技に関する天才であり、刀を手にした彼女はまさに鬼神と呼ぶにふさわしい力を発揮する。
今の一撃、切ったという事実よりもその光景が一瞬後れた。
人間が景色を見ると言うことは、網膜に光が入ると言うこと。
おそらく撫子のその踏み込みは光速を越えていた。
まるでスローモーションのように吹き飛んだアブドルの体が床に落ちる。
ドサリと落ちた体は身動き一つたてることはない。
恐ろしいほどの静寂に、カチリと撫子が刃を納める音だけが響いた。
「安心して、峰打ちだから」
撫子が誰にともなく呟いた。
トリビア、人間は峰打ちなら超光速でぶん殴られても平気。
ともかく、こうして紫苑たちはGG団五人衆を下し総統の元へと急ぐのだった。
一方、そのころ湯屋5階では従業員とGG団との戦いが続いていた。
「ジィー、ビリビリ」
老人の一人がスタンロッドで感電し倒れる。
すると近くにいたGG団が彼を回収、後方へと下げる。
そして彼の穴を埋めるように新たなるGG団員が突撃する。
先ほどから繰り返されていた光景だ。
「ほっほっほ、ずいぶん苦戦をしているようじゃのう」
その光景を先ほどから見守っていた老人がいた。
その老人は他のGG団員とは違い黒タイツの代わりに中華胴着を着ており、その顔は長い白ヒゲ、垂れ下がった白い眉毛、伸ばしっぱなしの白髪と、白い毛で覆われており表情をほとんど知ることが出来ない、しかしその周囲を威圧する空気だけでただ者ではないと言うことが理解できた。
この老人こそがGG団、五人衆の一人、 怒れる拳聖=王仙龍その人だった。
「ジィー、大変じゃ、援軍にきたアブドルじいさんが何者かにやられてらしいぞ」
そこに伝令役のGG団員がやってくる。
「ほお」
しかし報告を聞いた、王仙龍はあまり驚いた様子はない。
「敵もなかなかやるのう、しかしいい気になっても困るのう、アブドルはわしら五人衆の中では一番の格下」
王仙龍はここでいったん台詞を切り。
「とはいえ援軍が来ぬとなると、やはりここはワシが直々に手をださんといかんかのう」
暢気そうにそんなことを言うと王仙龍は立ち上がる。
彼はひどく小柄である。高齢になり背は縮み、小学生ほどしかない。
しかし一度立ち上がれば見る人にはそれが巨人のように見えた。
むろんそれは錯覚である。しかしこの老人のうちに秘めたる闘気がその姿を何十倍にも巨大化させて見せた。
「ジィー、拳聖様」
「ジィー、王仙龍様」
王仙龍の立ち上がったのを見て、まるで王の出陣のごとく、団員達が次々にかしずく。
その声にあるのはついに巨星動くの期待と、強大すぎる力への恐れ。
それに答えるがごとく、王仙龍は敵陣へと歩み出す。
王仙龍のその齢は百を超え、今年で150になろうかという手足は枯れ木のように細くしなびていた。
それでもその歩みは力強く、確かな者だった。
やがて眼前にバリケードと言うところまできてその歩みが止まる。
「離れていなさい・・・」
GG団員に命令を下すと、両手を組んで一礼、まるで武術試合の前のような仕草を見せる。
その間にGG団員は撤退を完了。
王仙龍は敵前でただ一人となった。
「サー、敵が一人を除いて撤退を開始しました、サー」
バリケードの間から敵の動きを見守っていた警備員が草太郎氏に報告をする。。
「そうか、だが油断するな、現状を維持しろ」
「サー、イエス、サー」
警備員が持ち場に戻る。
「草太郎」
「うむ、わかっている」
草太郎氏は嫌な汗が止まらなかった。
長年傭兵として培ってきた本能が告げる。
今、バリケードの前にいる老人は最悪の存在だと。
王仙龍の目蓋よりも下に伸びた眉毛が上へと持ち上がる。覗く眼光はひたすらに鋭く、射殺すがごとく敵を見る。
「では、行くとするかのう」
王仙龍は息を吸い込み始めた。
流れる動作で礼の型から戦闘の構えへと体制を変える。
王仙龍がさらに息を吸う、腹が空き缶のようにベコリと凹み、胸が風船のように膨らむ。やがてそれは破裂寸前とさえ思われる状態で止まる。
GG団が、敵対する湯屋側でさえその姿に圧倒され、固唾を飲んで見守っている。
音が止んだ。
一瞬の静寂。
・・・・・・そして弾けた。
「噴破」
肺に溜めた空気を全て吐き出す裂帛と、大地を揺らし床を踏み砕く震脚と、打ち抜く拳が響き渡る。
一撃、一撃、たった一撃、その一撃でバリケードは根刮ぎ粉砕された。
バリケードの材料だった椅子や机の破片が吹き飛ぶ、ついでに山田他、警備員ズも背景として吹っ飛ぶ。
「何だと!」
その破片に耐えながら草太郎氏は叫ぶ。
王仙龍が現れたとき全員に油断するなとは言った。そのただならぬ雰囲気は十分に感じ取れた、しかしそれでもまだ足りなかったと言えるのか。
GG団五人衆が拳聖の圧倒的な力を前に草太郎の意識に一瞬の空白が生まれる。
その一瞬の空白のうちに王仙龍が突撃する、一歩一歩、床にクレーターを作る速度でもって。
「長月草太郎、湯草ゆず子、両名の身柄預からせてもらおう!!」
「させません」
一直線に二人へ向かって進む王仙龍の前に黒い影が立ちはだかる。
「何やつ!!」
そのままの速度で後ろへ飛び退き一度距離をあける。
「ご主人様に危害を与えるつもりならばこの私が容赦しません!!」
纏うは漆黒メイド服、頭には純白ヘッドドレス。
目まで覆う闇色の黒髪をなびかせながら威風堂々立ちはだかる。
今まで主に影のように付き従い見守っていた彼女だが、その危機を救うため今こそ立ち向かう。
彼女こそが世界最強のメイド。
人呼んでメイド王。
「大丈夫ですか、草太郎様、お怪我はありませんか」
「うむ、ああ」
混乱は一瞬、即座に落ち着きを取り戻した草太郎氏は答えて見せた。
「すまないな、よく私を守ってくれた」
「かまいません、主を守るのはメイドの勤め、ご主人様には指一本たりともふれさせません」
それだけ言うと彼女は王仙龍と向き合った。
「ほほう、お主ただ者ではないようだな、まとった闘気は一流のもの、名を聞こう」
油断なく、王仙龍が構えをとったまま聞く。
二人の間の距離は10メートル、しかしそれすら既に間合いの内。
「名前などメイドになるときに捨てました、ただどうしても名をお望みなら、ただ菊花とだけお呼びください」
対する菊花は自然体、武器を持たず、構えもとらず、ただ主を護る。
そして紫苑、撫子、リースの三人もまた、強敵を目の前にしていた。
アブドルを倒した三人は、その後難の問題もなく、今思えばそれさえ罠かもしれないが、一階までたどり着いた。
だがそこで彼らを待ち受けていた全身を黒いマントで覆い、顔はおろか体型さえわからなくした三人の老人だった。
「油断できませんね」
「ああ」
相手のただならぬ雰囲気に緊張が走る。
頭上からGG団首領、暗黒(略)大帝の声が響く。
「むふぁふぁははー、まさかあの、アブドルを倒すとはどうやら油断できぬ相手のようじゃな、そこで貴様らのために我々は最強の相手を用意した、我がGG団最強の5人衆のうち三人を相手にしてもらおう、老人より優れた若者など存在しない、そのことを骨の髄まで理解するがよい!!」
改造人間、アドルフ=ヒムラー
破壊職人(兄)、爆砕王
破壊職人(弟)、滅削王
GG団五人衆が三人、彼らの目の前に立ちふさがる。
「行くぜ!!」
紫苑が走り出す。
撫子がそれに続く。
リースも。
そう、俺たちの戦いはこれからだ!!!
〈第1部 完〉
後書き
ところで第一部完の漫画で続きの描かれたものってあったかな?
あっ、大丈夫この作品は小説なのでちゃんと続きを描きますよ、たぶん。
亀のような牛のような執筆速度を持つ一角天馬ですが皆様の声援さえあれば続編を書くことが出来るでしょう。本当です、褒めれば伸びるタイプなんです。
批評の言葉でもかまいません、むしろ罵ってください。この豚とさげすんだ目で見てください。無様と嘲り笑ってください。
こんな発狂作者による『大銭湯』の次回をご期待ください。
文化祭用大銭湯です。
これをサークル誌に乗せてください。
最終更新:2013年06月12日 21:44