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透明になる薬

2005年05月22日(日) 23時53分-不破頼堂

 

 俺が目を覚ますと、テレビで砂嵐がうなっていた。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。大きなあくびが一つ出た。
 ――案外、重労働だったからな。
 シャベルをふるった腕は重く、自分の腕のようではなかった。体を動かすと、汗の臭いが沸き立ってくる。徐々にまぶたが垂れ下がってきた。立ち上がる気にもならない。
 砂嵐が途切れた。と同時に、不鮮明な画像が映し出される。
「透明になることのできる薬、お売りします。無料サンプルのお申し込みは次の電話番号まで」
 よくわからないまま、俺は電話をしていた。
 翌日、小包が一つ届いた。
 包みには、ドリンク剤のようなビンが数本入っていた。ビンの色は緑色で、中の液体はうかがわれない。傾けてみると、かなりどろどろした液体であることがわかる。
 ビンの陰から、一切れの白い紙が見つかった。
「一本当たりで、成人男性を二、三時間ほど透明にさせることができます。用量用法をきちんと守ってお使いください」
 紙を裏返してみる。しかし、それ以上のことは何も書いていなかった。
 これさえあれば、自分自身を消してしまえるのだ。もしどこかの港から、船に忍び込み知らない国へ渡ったら……。俺を絡めとる、この部屋、この家、この国から逃げ出せるのだ。そうしてどこにも俺は存在しないものとして生きていくことができる――
 俺はさまざまな思いをめぐらした。
 もう一度、得体の知れないビンに視線を走らせる。薄暗い部屋の中で、緑色のビンは少しも表情を変えない。
 しかし、本当にそんなことが可能なのだろうか。こんな怪しい薬一つで。悪魔のささやきは常に甘美に響くものだ。
 俺はもっと現実的な手段を講じる必要がある。震える手で包みを取り上げた。そしてそのまま開いていた窓から、力を込めて投げ捨てた。
 高揚とした感じを抱きながら、俺は眠りについた。

 何度も繰り返されるインターホンに、俺は目覚めさせられた。いらだたしげに、それは繰り返されていた。騒ぐ胸を抑えながら、立ち上がる。近づくカタストロフを予感するように、呼び出し音はテンポを上げていった。
 一階へと続く階段を下り、玄関のドアを開ける。
 そこには男たちが数人立っていた。
「警察です。付いてきてくださいますね」
「はい……」
 男たちは俺を取り囲み、歩いていく。俺は息苦しさを覚えた。もうこいつらなしには、俺はどこにも行くことはできないのだ。照りつける太陽が視力を奪う。
 男たちが連れて行ったのは家の庭だった。
 そこには丸く、大きな穴が開いていた。穴の底で、俺の母親が額に血をこびりつかせて、倒れているのが見えた。
「私がやりました」
 穴の上――宙に、壊れた緑色のビンが浮かんでいた。日に照らされたそれはきらきらと輝いていた。

 やっぱり泡には何か載っけたかったので、少し前に書いたのを引っぱり出してきました。タイトルからわかるとおり、逢風さんの作品をリライトしようとして全く違う話になってしまったやつです(汗)。

最終更新:2013年06月12日 22:04