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晴れた日は柄の長い傘を持って 18~

2005年06月20日(月) 23時07分-バーネット

 

    ◆18(穂永)

 急ぎ足で歩けば、自然と周囲へ向けられる注意は散漫になる。曲がり角から突然人が飛び出してきても、気づかない危険性が増える。
 だから人は言う。廊下を走ってはいけないと。
 水知は、その禁を犯した。それによって二度に渡って他人とぶつかり、ついにこの日もまた授業に出れぬ結果と相成るのである。

 とは言うものの、最初の衝突のほうは、さして重要ではなかった。場所は北校舎の玄関。衝突の相手は、やはり遅刻しそうになって走りこんできた光原ハル。衝突の結果は、互いに転んで膝を打ち付けたくらいのもの。痛てててて、ごめんなさい、あれ水っち。やあ光原さん、おはよう。おはよー、っていうか今までどこにいたの、昨日は帰らなかったみたいだけど。いろいろあって、学校に泊まったんだよね。へー、でもさ、学校に泊まって、始業に遅刻ってどうなのかな? あー、その辺の突っ込みは無しの方向でよろしく、そもそも実家だって近所だしね。
 ――等々と例によって気の抜けた会話を交わしながら、残り一分に迫った始業に間に合うべく、百メートルを十秒のスピードで飛ばしたのだった。
 それが間違いのもとだ。高速で移動していれば、急な停止はできなくなる。
 南校舎へ移ろうというその時、渡り廊下の向こう側から小さな点が迫ってきて――亜光速で迫ってきて、小さな点は次第に大きくなり、大きくはない人の形をとった。水知たちもその亜光速で走っている人も、お互いを確認して止まろうとしたが、かなわなかった。
 大柄ではない、どころか、あの万花や蜃楼ほども小柄な相手に、水知は廊下の端まで吹っ飛ばされ――まあ、亜光速で移動している物体に衝突されたのだから理の当然だ――、そこの教室――石工室――の石壁に派手な音とともに叩きつけられた。さすがに石工部の部員たちが作った石壁は水知の激突にも耐え、ひび一つ入らなかったが、水知の身体のほうはそうはいかない。
 ――僕、死ぬのかな。雨宮水知、享年十五歳、交通事故死。なんて。
 水知の身体のほうはそうはいかない――本当にそうか? いや、違う。
 馬鹿な想像ができるほどに、ダメージは少なかった。光原ハルや、ぶつかってきた小さな子(女子高生なのか、一応?)の慌てぶりとは裏腹に、水知の身体もまた、背中の石壁同様ほとんど壊れていなかった。意識は寸毫も揺らぐことなく、手足関節は自在に動き、肺腑の活動も正常である。だからとりあえず、起き上がって笑い、誤魔化そうと考えた。
 考えたのだが。
 小柄な少女は、それをする間を与えてくれなかった。
「ごめんなさいごめんなさい遅刻しそうだったものだからと言うか今日はお兄ちゃんも見つからないし頼みの先輩方も捕まらなくて上手く学校を回れないようなんでこの学校ってこんなに複雑なのあごめんなさい身体痛みますよね大丈夫です私が責任持って保健室へ連れて行きますからええ保健室だけは分かります大丈夫です」
 水知や光原には到底くちばしを入れる余地のないほどに、口からマシンガンを乱射するが早いか、少女は水知の身体を軽々と抱き上げ、保健室の方向へ駆けていったのだった。

 光原は、少女と水知を追って保健室へ行ったものか、水知のことは少女に任せて教室へ向かったものか、瞬時逡巡の体であったが、ここで教室へ向かって桧舞台から離れると、また出番が減ってしまうことに気づき、二人のあとをゆっくりと追った。
 もちろん、保健室へ到着したのは二人よりかなり後だ。ところが辿り着いてみると、二人揃って開いたドアの前に立ち尽くし、目と口を大きく開けたまま固まっていた。
 怪訝に思った光原は、二人に近づいて「どうしたの?」と声をかけ、ドアから中を覗いた。
「見るな、光原さん!」
 水知が声を飛ばす。遅かった。光原は見た。
 保健室中に舞い散る、白い花弁。その花弁から漂う、甘い芳香。
 保健室中に飛び散った、紅い痕。芳香の中に入り混じる、鉄の臭い。
 白と紅の中に埋もれた、二人の巨漢。
 一人は地面にうち棄てられ――そして今一人は、入り口から見て正面にある壁に、逆さにはりつけられていた。その左足のくるぶしを穿って、赤い唐傘が壁に突き立ててある。
 倒れている男は知らない。だがはりつけられている男は知っている。光原は呆然として、その男の名を呼んだ。
「せ……閃電先ぱ……」
 あとは声にならなかった。全身ががくがくと震え出し、視界は涙で濁った。膝をつきそうになった。
 倒れそうになるのを支えられた。水知が背中から抱きしめたのである。
「落ち着いて、僕がついてる……」
 光原はやや安堵したが、水知の心臓もまた震えていることに、気づかないわけにはいかなかった。光原の呼吸が正常に戻ると、水知は先ほどの少女の頭に手を置いて言った。
「君も」
「うん、私は大丈夫です……」
 それから水知は、意を決して、中へ入っていった。まず知らない男のほうを見ると、心臓近くに一撃を受けてはいるが、命まで取ろうとした攻撃ではないらしく、身体の内外ともに致命の傷は見られない。ただ気を失っているだけである。三十郎のほうを見ると、息はあるとはいえ、全身傷だらけである。
 ――でも。
 水知は、なんとか冷静を保って、三十郎の傷を見渡した。
 ――戦ってつけられた傷は、一つだけだな。
 謎の刺客の恐るべき技量を察して、水知は戦慄した。彼――または彼女――は、二人の達人をそれぞれ一撃のもとに倒し、三十郎に辱めを加えたあと、幻のように去っていったのだ。
「入って来て」水知は外の二人に声をかけた。「平気なら、だけど。閃電先輩を下ろすの、手伝って欲しい」
 ここに至り、最も戦力になったのは例の少女であった。小柄ながらも大力で、三十郎たちの巨体を苦も無く担ぎ上げてベッドに運び、怪我の応急処置もてきぱきとしていた。水知や光原は、ほとんど為すところがなかった。
 さて何の気も無しに二つのベッドに二人を寝かせた水知たちだったが、もう一つのベッドに生徒が寝ていることに気づいた。「蛇之目先輩」と少女がつぶやく。水知は事情を聞こうとした。ところがこの生徒は傷は負わされていなかったが、高熱にうなされていて、目を覚ましそうに無かった。
「人を呼ぼう」と水知。「僕たちだけじゃ、どうにもならない。それにしても、紫電先生はどこに行ったんだろう」
「逃げたんだと思います」と少女。「黒野井先輩や閃電兄さんと違って、紫電叔父さんは勘が鋭いから」
 この言葉におやと思って、水知は問う。
「この人たちを知ってるの? ランベ・リューアの関係者?」
 少女はうなずく。
「私、雷電蕾です」

 保健室前には、すぐに人だかりができた。テストで優れた成績を挙げれば進級できるというシステムのため、面白いことがあればとりあえずサボるのが天晴の気風である。その気風こそ、世に異才・奇才を生み出してきた要因なのだが、それについてはさておく。
 その人だかりの中に、二人の女子学生がいた。すでにお馴染みとなった、水落衣織と秋水雫である。
「――『虹刀』だと思うか」
「他に誰がいると言うんです」
 二人は人ごみを掻き分けて保健室前から去ると、何気ないふうを装って会話を始めた。
「あれは紛れもなく傘でやった仕事。デミトリ・黒野井翼に閃電三十郎、あの二人をまとめて一撃で倒せる傘使いなど、嵩宮蛟丸と花月葉露しかいないではありませんか。そして蛟丸に味方を粛清する理由はありません」
 衣織はあごに手をやる。秋水は続ける。
「三十郎には残酷な手を加えたのに、黒野井翼や寝ていた蛇之目香勝にはそれをしていません。彼らが直接、花月葉霧の仇だというわけではないからです。葉露の仕事と見て、疑いはないでしょう」
 二人の視線がかちりと合う。ややあって、衣織は大きくうなずく。
「まあ、そうであろうな。してみると、虹刀は本当に戻ってきているわけだ。すると、今回は上手く逃げおおせたようだが、狸の身の上も危ないな」
 秋水は沈黙を以って賛同を示す。衣織は続ける。
「――これで上三衣も揃った。空蝉の復帰にはまだしばらくかかるかもしれないが、手負いはお互い様だ。――秋水よ、攻勢に出る機会と思うか」
 ――攻めるべきだ。
 秋水は内心、はっきりとそう考えていた。
 ――攻めて、攻めて、攻め切るべきだ。雲原勇姫のことで、蛟丸や為右衛門に小細工をさせてはいけない。
 秋水は、強く答えた。
「攻勢に出るべきです」
 衣織は、静かに言った。
「みなを手芸部部室に集めてくれ」

    ◆

 正午。既に四限目の授業が終わり、昼休みに入っていた。
 昼休みになると同時に、普通の生徒は教室から出て行く。ところが主人公は部室から出て行く。水知は何か間違っているような気がしてならなかった。とりあえず、伸びを一つ。
「うーっ、やっと解放された」
 その喜びを共有する光原も、水知の真似をして伸びを一つ。
「空気重かったね~。潰されるかと思ったよ」
 人を呼んで、その足で授業に向かおうとした二人(+雷電蕾)だったが、すぐさま雲原豪姫と、見知らぬ美人――白木東綺麗といったっけ――に拉致され、天文部部室に連れ込まれた挙句、あれこれ質問を受けたのだった。昼近くになって二人に聞くこともなくなり、また黒野井翼も目を覚ましたので、やっと自由にしてもらえたというわけである。
「まあ、空気が重かったのは当然だろうけどさ」
 光原がこくりとうなずく。
「閃電先輩が……、あんな……」
「みんな、あの下手人――『虹刀』って呼ばれていたかな――を酷く恐れていたね。まあ当然だろうけど。あれをなんとかできるのは、蛟丸先輩だけだろうから」
「水っちはそう思う?」
「閃電先輩の技量は僕や雷電、兄貴のほうだよ、と同じくらい、あの黒野井って先輩は、多分それより上だ。見たところ、ランベ・リューアに黒野井先輩より強い人はいなさそうだね。蛟丸先輩を除けばさ」
 しばし沈黙のまま、二人は歩いていく。水知が階段を上ろうとする。光原が聞く。
「……どこへ向かってるの?」
「部室棟の三階。昨日の放課後、横綱に襲われたとき、助けてくれた人のところ。お礼を言おうと思って」
「横綱って……どんな状況だったの?」
「話せば長くなる」

 部室へ入ると、八人ほどの生徒が傘の稽古をしているところ。例の少女は段上に腰掛けて、副部長らしき別の少女とともに、部員たちの稽古を見守っている。水知が声をかけると、にっこり笑って、応じた。
「こんにちは。今日はどうされました?」
「いや、昨日のお礼を」
「そうですか、気にしなくてもいいのに。後ろの人は彼女?」
「うーん、残念ながらそこまではいってない」
 光原がニヤニヤと笑う。少女は続ける。
「傘は――持ってますね。折角だし、打っていきますか?」
 水知は少し考え込んだが、ややあってうなずいた。
「そうだね、一手指南してもらおうか」
 少女は傍らの副部長に言った。
「晴嵐さん、相手をお願い」
 晴嵐と呼ばれた少女が、傘を手にして部室の中央へ歩く。水知も雨月を手に、晴嵐と向き合う。打ち合っていた部員たちは、部屋の脇へ退く。光原は例の少女の隣に腰掛けて、様子を見守る。
「傘道同好会副長、鷹名晴嵐(たかな・せいらん)です。どうぞよろしく」
 鷹名が一礼すると、水知も返礼をする。そして二人は傘を構える。
 ――なんだ? 隙だらけじゃないか。
 水知は相手の構えに内心驚く。打撃を誘っているのかと思われるほど、明らかな隙が多い。
 じりっ、じりっと間合いを詰める。
 先に鷹名が打ちかかってきた。水知は雨月を斜めにしてこの一撃を受ける。
 ――力強さも速さもない。
 水知は反撃の一太刀を放つ。鷹名はこれをかわし、一撃をもって報いる。十合、二十合と傘をあわせたが、決着は着かない。水知は焦り出した。
 ――彼女の技量は僕よりかなり下だ。なぜこんなにてこずるんだろう。
 力強さはないのに、受けるので手一杯だ。
 速さはないのに、余裕を持ってかわすことができない。
 隙だらけだというのに、それに乗じることができない。
「ねえ、彼は晴嵐さんに勝つと思いますか?」
「ええ? それは、勝つんじゃないですか?」
 段上の二人の会話が聞こえた。
 鷹名はさらに一撃、二撃とたゆまず打ち込んでくる。水知は受け流し、反撃する。しかし確実に相手を倒せるような、力をこめた一撃を放つ余裕が、水知にはない。
 ――そうか、分かったぞ。傘筋が見えていないんだ。
 ここに至って水知が気づいたのは、相手の技に規則性がないことだった。鷹名の傘法はまるでデタラメで、斬り下ろすと見れば横に薙ぎ、横に薙ぐと思えば突きに転じる。それゆえに水知は相手の動きを先読みすることができず、なんとか防御のがやっとで、反撃にも力をこめることができない。鷹名の隙だらけの構えにも、付け入ることができないのだ。
 ――落ち着け。相手の動きをよく見ろ。必ず規則性はある。
 そう簡単に見出せはしない。水知は劣勢にまわり、じりっ、じりっと部室の角に追い詰められていく。遊びのつもりが大変なことになったなと、水知は思った。光原や少女に、無様な負けは見せたくなかった。
 一筋の光明。
 ――読めた!
 鷹名の傘が、すでに首の皮を一枚破っていた。だがもう恐れはなかった。続く傘を受け止め、弾き返す。がら空きになった胸元へ、渾身の突き。鷹名は慌てて傘を戻し、この突きを防ぐ。水知は休まず、傘を回して上へ跳ね上げた。鷹名の傘が宙を舞う。飛びすさって傘を拾おうとした鷹名の首に、雨月が突きつけられていた。
「参りました」と鷹名。
「ありがとうございました」と水知は一礼した。
「ほら、やっぱり」と光原。
 ところが相手はそこにはいない。光原は部屋をきょろきょろと見回す。
 少女は、水知の後ろに立っていた。
「次は私がお相手しましょう」
 水知がふり返ると、少女は露草を構えて突きかかってきた。
 ――速っ……。
 辛うじて雨月で受け止める。突きの強さに、腕がびりびり痺れた。
 ――なんだそれ、雷電豪助以上だぞ。
 一息つく間もない。少女の傘は風よりも速く、林よりも静かで、火よりも激しく、山よりも重い。
 加えて。
 ――全く読めないじゃないか。達人のくせに、鷹名さんなんかよりずっとデタラメだ!
 いくらかは隙が見える。だがそれを衝くことなど思いもよらない。受けるのが精一杯で、反撃すらできないのだ。
「くっ」
 強烈な斬り下ろしに、水知はやや怯んだ。それに乗じて少女は一太刀、二太刀。三太刀目に水知は傘を落とした。
「手加減してたでしょ?」と水知が言う。
「分かりました? ……ごめんなさい」
「世間は広いよね」と水知は言った。
「見えもしなかった」とこれは光原。
「会長の傘を十二回も止めた人は、初めて見ましたよ」と、光原の隣に移動していた鷹名が答えた。

「ね、落ち込んでる?」
「いや、あんだけ完璧にやられるとね。蛟丸先輩のときと同じで、悔しくもならないさ、むしろ……」
 水知は、天を仰いだ。
「良い薬だよ。奢るな、っていうね」
 しばらく沈黙のうちに歩き、部室棟を出ようとした二人。突然、水知が言う。
「しまったな」
「どうしたの?」
「また名前を聞くの忘れた」

 一方、水知が去り、また大半の部員が授業の準備に出てしまった、傘道同好会の部室。例の少女が一人残り、瞑目している。沈黙。ついに少女は声を出す。
「いつまでそうしているつもりですか? 私が気づかないとでも?」
「さすがですね。失礼致しました」
 声に応じて、男が掃除道具箱から出てくる。
「あら、雪守の……」
「氷衛です」
「しばらくこっそり動こうと思ってましたけど、見つかっちゃったみたいですね」
「あれだけ派手な行動をされれば、理の当然かと」
 少女は苦笑する。氷衛は続ける。
「間もなく水落衣織様から召集を受けると思いますが、その前に現在の状況をお知らせしたほうがよろしいかと思い、秋水様の命で参上した次第」
「雫ちゃんの……うん、ありがとう」
「衣織様におかれては、花月様と唐園様のご帰還に力を得て、攻勢に出る構えでいらっしゃいます。ついては唐園様、秋水様、万花様三名に、”後継者”雨宮水知を襲撃しその傘を奪い、併せて”光”たる光原ハルを拘束するようお命じになりました」
「雫ちゃんは、そのように動くんですね?」
「はっ。そしてご自身は地下風水盤の確保の準備をなさるお考えです」
「私はそちらに協力するんでしょうね。地下風水盤奪取となれば、同盟もランベ・リューアも妨害してくるでしょうから。……それだけですか」
「それだけです。ただ……花月様、ご存知ですか、先ほどの少年」
 葉露は怪訝な顔をする。氷衛は言う。
「……やはりご存知ありませんか」
「あの人には、つい名前を聞くのを忘れてしまって。お互い、名前なんかどうでもいいと思っているからでしょうね」
「あの方こそ、”後継者”雨宮水知ですぞ」
 ぎくりとする。聞き間違えではないかと疑い、そして先ほど交えた、彼の傘術を思い出す。なるほど、雨宮流の動きだった。今、ランベ・リューアの傘使いは、ほとんどが嵩宮流だ。
「そう、でしたか……」

 葉露は何となく、胸を抑えた。そのままふり返って窓際へ赴き、空を見上げて、つぶやいた。
「今日も、雨が降りそうですね……」
 雲ひとつなくても、彼女にはそれが分かった。

    ◆

 部室棟の一階へつくと、二人はうろうろと落ち着かない紫電為右衛門に出会った。為右衛門は開口一番に、こう言った。
「まだこんなところをうろついていたのかい? さあ来て。君たちを自宅まで送っていく」
「え、何ですか、先生……」と光原。
「蛟丸君が戒厳令を発動した。ランベ・リューアの一般部員はみな帰宅させられ、幹部は天文部部室で控えることになる。ただ君たちには万一のことがあってはいけない。だから特に私がついて、自宅まで送っていくことになった」
「戒厳令って、戦争中じゃあるまいし、一体なんです」と水知。
「『虹刀』が帰ってきているんだ。君たちのような重要な人物は、いつ消されてもおかしくない。すぐ帰宅して、連絡があるまで出てきてはいけない。早退届は私が作っておいたよ。さあ、来るんだ」
 それ以上は有無も言わさず、為右衛門は二人を引きずって車庫へ行き、フェラーリへ引っ張りこんだ。中では雷電豪助も待っていた。
「行くよ!」
 フェラーリは流星のように飛び出した。
「ちょっ、先生、百キロ超えてますよ! 交通規則は……!」
「交通規則ってのは命を守るためにある。理解したまえ、君たちは命の瀬戸際にいるのだよ!」

 逃げ切れた小説を見たことがない。
 フェラーリは高校の裏庭へ出たところで、急停止した。
「紫電先生?」と光原が問う。
「い、一体どうなってるんだ!? アクセルを踏んでも、ぴくりともしない……」為右衛門はしきりにアクセルを踏む。エンジンの音はするが、車は進まない。
「気をつけろ、囲まれてるぞ!」と雷電。
「出よう!」と水知。「光原さんは、ここにいて」
 水知、豪助、為右衛門が外に出ると、女の声が聞こえた。
「蜃楼君のトリモチは素晴らしいわね、フェラーリも一発だったわ」
 声と同時に三方から殺気が立ち昇り、異様に長身の男と、中背の女と、異様に小柄な女が現れる。いずれも身にまとうは黒の合羽、しかし良く見れば、長身の男の袖口には金の刺繍が、中背の女の袖口には紅の刺繍が施してあり、ほかの黒合羽と区別できる。
「『菜鬼』に『禍炮』、上三衣が二人もお出でかね」と為右衛門。
「うわ、むかつく! あたしを無視した!」と万花が騒ぐ。
「気にしないほうがいいわ、『ヒール』。目が見えていないのだから、身体で分からせてあげればいい、そうでしょ?」と秋水。「さて、降参する? 戦ってみる?」
 水知、豪助、為右衛門は車を囲んで三方に向かう。
「足は断たれた、戦うよりない」と豪助は落雷丸を構える。
「いい覚悟じゃねぇか。この間の借りは返すぜ」と万花が応じる。「あんたにアドバイスもらったから、武器も作ってきたさ。さあ、デスマッチの二ラウンド目といこうじゃねえか」その椅子は合金製で重くて硬く、脚には毒を仕込んだ棘がびっしりと埋め込まれている。
「どうしてこう、何度も何度もこういう目に遭うのかなあ」そうは言いつつも、水知にも覚悟はできていた。「……頼むよ、雨月」
「後継者……」唐園が水知に対する。「私怨はないが、これも衣織先輩への恩返しだ」そういって、お化けのような大根を手に取った。
 為右衛門一人が、逃げる算段をしていた。だが自分一人ならともかく、水知に豪助、まして光原まで連れて三人の合羽から逃げおおせるのは至難である。
「やむを得んね……教師の一人として、学生に刃を向けるのは気が進まないが」
 そう言って為右衛門は、自らの傘・冲天殺を上段に構えた。
「ご冗談を、自分で直接手を下さなかったからって、その手が汚れてないわけがないじゃない。……露ちゃんは怒るだろうけど、私が葉霧君を仇を取ることにしましょうか、ねえ先生」と秋水は、二丁の銃を腰から引き抜く。
 一瞬の対峙。
 三箇所で炸裂した。

 まず一番力の劣る万花湖子を豪助が倒し、自分と二人ですぐに秋水雫を倒し、そして後継者を助けて三人で唐園緑を倒す。それが為右衛門の計算であった。
 ところが結果に裏切られた。豪助は一番初めに倒されてしまった。
 自分と秋水の力量は五分、いや若干自分が上であるが、倒すのには時間がかかる。後継者は第一衣・菜鬼を相手によく持ちこたえているが、どうしても力量の差は隠し切れない。勝機はない。
 ――逃げを打とう。
 為右衛門は決めた。捕えられれば、秋水の背後には花月がいるのだ。閃電三十郎の悲惨な姿が脳裏に浮かんだ。後継者と光を見捨てて逃げれば後難は避け難いが、まずは今、生き延びねばならない。
 秋水に威嚇の突きを送るや、豪助の隣へ跳躍し、彼の巨体を左手で抱え上げる。万花が打ち下ろしてきた改造椅子を、右手の冲天殺でがっきと受け止める。片手で止められたことに万花がひるむと、隙をついて為右衛門は文字通り脱兎の如く駆け抜けた。
 秋水はその背中に向けて一発発砲したが、あたらなかった。
「さて」秋水は、唐園のほうを見た。明らかに優勢だ。
「力を貸して、一気にケリをつけちまおうか?」万花が秋水に意見を求めた。
「やめときましょう。そんな必要はないから」

 力をこめて振り下ろされた大根を、後ろに跳んで避ける。地面が割れ、足さばきが崩れる。続く突きを左に避け、がらあきになった相手の背中に、思い切り雨月を叩き込もうとした。ところが唐園は体勢を崩しつつも、身体を回して下から打ち上げる。二人は反対方向へ転がって、互いの攻撃を避けた。
 最初から圧され続けてはいたが、ある程度の余裕はあった。唐園は巨体に似合わず素早く、巨体に相応しく大力だ。しかし。
 ――第一衣って言ってもこの程度か。あの子のほうが、ずっと上だ。
 圧倒的な力を見せ付けられたすぐ後だったから、かえって唐園程度の力量なら、なんとかなりそうに思えた。
 ――とは言え。
 やはり体力と腕力の差は大きい。守勢に回っていては、いずれ負ける。
 体勢を立て直した唐園が突進してくる。
「いくよ――壱式、散水!」
 雨宮流、必殺の突きである。この流派を習う者が最初に習得する技ではあるが、その威力は磨けば磨くほど飛躍的に高まり、この技のみで達人の領域に達した使い手もいたほどである。
 散水の威力はかほどのものであり、水知自身もまた、入学以来雷電豪助、雲原勇姫、嵩宮蛟丸、蜃楼遥、同盟構成員、それに花月葉露らと傘を交えてきたのだ。初めて雲原勇姫にこの技を使ったときとは、威力は天と地ほども違う。
 受け止めた唐園の大根にひびが入り――刹那の時間ののち、二つに折れた。
「やるでねか」
 唐園は一歩下がって、水知を称えた。
「んでは、ごっちも本気でいかせてもらうだよ」
「知ってるか、そういう台詞を言った奴は、初めから本気だったら勝てたような負け方をするんだぞ」
「んふ、そうかもしれねな。ま、おらが負けても、秋水どんと万花どんがいるわけだが」唐園は薄く笑った。「ともかくは、まあ、味わってみんろ」
 どれほど恐ろしい武器を取り出すかと思えば、唐園が取り出したのは大きさも普通の人参一本だった。先ほどの2メートルもあるような大根より、ずっと弱そうだ。
 そして唐園は、人参を逆手に構え、水知のまわりを回り始めた。
 ――遅い……?
 水知は雨月を颯颯颯と繰り出す。唐園は紙一重でかわす。ところが水知は、突然唐園の動きを目で追えなくなった。
「回転根舞……!」
 水知が気づいたときには間合いに踏み込まれ――三度にわたって斬られていた。
「うあっ――!」
「皮一枚か、いい反応だべ!」
 言葉は聞こえるが、姿は断続的にしか見えない。
 ――次、あれを受けたらやられるな。と言ってかわせそうもないし。
 水知は、雨月を短く握りなおす。
 ――止めるしかない。大丈夫、次はきっと見える。
 唐園が再び、ゆっくりと水知のまわりをまわりはじめる。
 消えた。
 いや、それでも見えた。
 怒涛の勢いで突き出された人参を、脇腹の前で白刃取りし、受け止めた。そして掛け声とともに、人参を雨月もろとも唐園に押し返す。人参の頭が、続いて雨月が、唐園の胸元を穿った。合羽が裂け、唐園は膝をつく。
「悪いね、速いのにはもう慣れた」
「やるだな、後継者。おらの回転根舞を止めたのは、傘使いではおめえが三人目だよ。だげど」
 水知は突然、意識が揺らぐのを感じた。
「速いのには慣れでても、薬にゃ慣れておるめえ」
 はっとして合羽の裂け目を見ると、袋のようなものが仕込んである。その袋の裂け口から、細かい黄色の粉末が舞い散っていた。
「こ、れは……痺れ薬、か……!」
「よく戦っただよ、後継者。おらも何度か、負けると思った」
 意識が遠のいていく。
「すまね。傘は、いただいてく。忘れろ、後継者。いや、雨宮水知。あんだは、もう学校を去るのが良いだ」
 震える手で、力いっぱい雨月をつかむ。が、唐園が無理に引き剥がした。
「許せ」
 それだけが聞こえて――水知は意識を失った。

 気絶した水知を捨て置き、三人は薬を塗って車の前輪にこびりついているトリモチを取り除いた。
「暴れないでね、光原さん。悪いようにはしないから」
 秋水はフェラーリに乗り込んで、光原の隣に座る。唐園は運転席、万花は助手席だ。
 光原には何も言わせず、秋水のあとを引き取って、万花が語る。
「詳しいことは話せば長くなるけど、あなたは晴天同盟にとって重要な存在なの。だから彼らの手に渡らないように、私たちが保護してあげる。了解?」
「不了解!」光原は頬を膨らませる。「離してよ」
 途端、光原はこめかみにごりりとした痛みを感じた。横を見ると、秋水が銃を突きつけていた。
「安っぽい真似をさせないで」と秋水。「危害を加えるためにあなたを捕えたんじゃないの」
 秋水の眼光は鋭い。光原は黙り込む。それを見て、秋水は銃を収める。
「出して、唐園君」
 唐園がハンドルを手にし、アクセルを踏む。フェラーリは高級車に相応しく、相応しく――安全運転。自足は十八キロメートルである。
「緑、遅いっ!」と万花が苛立つ。
「おら、運転免許は持ってねえだよ」
「そんなの皆同じだってば。勘でなんとかするのよ!」と万花は助手席を飛び出し、唐園の膝の上に腰掛ける。「こう!」
 途端にフェラーリは、とんでもない速度でふっ飛んだ。
「中庸ってものを知ったほうがいいわ、二人とも」秋水が呆れた声を出す。
 フェラーリはあちこちに傷をつけて、それでもなんとか、車庫らしき場所にたどりついた。
「降りて。分かってると思うけど、逃げようとしても無駄だからね。この場所と通路は、雨衣でもごく一部しか知らないわ」
 逆らう余地はないと思った。光原はおとなしく、秋水に従って降りた。唐園が秋水の前に立ち、万花がしんがりを務める。
 歩いていると、突然唐園が立ち止まった。光原はその背中にうっかり頭をぶつけた。
「あ、ごめんなさい……」
 上を見上げて気づいた。唐園の顔がひきつっていた、いや唐園だけではない、秋水も万花も、一様に緊張の面持ちを浮かべていた。
 ややあって、秋水が口を開いた。
「なぜ、あなたがここにいるの……」
 光原は秋水の視線を追った。見たことがある人影である。
「どうやってここを知ったの? 嵩宮、蛟丸……」
 蛟丸は四人を眺め渡して、眼鏡の奥に凄然たる笑みを浮かべた。光原は他の三人より強烈に、蛟丸が危険な存在であることを感じ取った。

    ◆

 光原には、何が起こったか分からなかった。
 気づいたら、三人とも倒されていた。
 蛟丸が自分に向けた笑みも、何なのか分からなかった。ただ、「安心したまえ」という笑みでなかったことだけは、悟ることができた。

    ◆

 身体を打つ雨の声に、水知は目を覚ました。
 雨月はもうない。
 蜃楼遥と交えたときは、親しげな友か、はたまた肉親のようだった雨が、今は酷くよそよそしかった。容赦なく、負け犬を打ちのめしていた。
 ――負け犬。
 唐園に負けた。
 雨月と光原を奪われた。
 負けた。負けたのだ。
 菜鬼の「回転根舞」を止めたことすら、その頭から跡形も無く消え去っていた。
 頭が鳴る。薬のせいと、寒さのせいと、敗北のせいと。
 ――助けにいかなきゃ。
 ――一人で行って、どうにかできるの?
 頭が錯乱する。何をすべきか。どこへ行くべきか。
 どこをどう歩いていたのか、水知はあとになっても、検討もつかなかった。気づいたときには、天晴高校からほど近い公園の噴水前に、疲れ果て座り込んでいた。
 雨がやんだ。
 水知は空を見上げた。鮮やかな青が広がっていた。
「風邪をひきますよ、雨宮さん。春でも、まだ雨は冷たいです」
 空は青くなかった。青いのは、傘。
 傘の下には、黒の合羽を着た少女。袖口には銀の刺繍。髪には花飾り。
「君は――」
「よくお会いしますね」
 少女は水知に傘を渡すと、合羽のフードをかぶり、踵を返した。
「待って!」
 そのまま別れるのは耐えられなかった。
「君は誰なんだ? その格好、黒合羽の仲間なの? この『露草』は大事なものだろ、受け取るわけにはいかない、それに……」
 聞きたいことが山ほど浮かぶ。ただそれを声にする術が思い浮かばない。
 少女は答えた。
「そうですね。私はあなたを知っているのに、あなたは私を知らない。そんなの、フェアじゃないですよね」
 振り向いた。雨に濡れるのもかまわず、フードを上げる。
「私は花月葉露、または『虹刀』。雨衣の客分で、第二衣。もちろん傘使いです。でもあなたや蛟丸とは、少し立場や流派が違ってるんですよ」
「なんで傘使いが雨衣に……いや、それより雨衣がなんで僕に」
「傘は――私にとっては、呪いでしかありませんでした。でも、今日、あなたと撃ち合ったとき、少しだけ楽しかったから。――だから、あなたには、まだ負けてほしくないんです」
「花月さん。君は――僕の味方?」
「分かりません。次に会うときは、敵か味方か。でも――どちらの立場で会うとしても、たとえ互いの傘が互いの心臓を貫く瞬間が来たとしても、――それでも必ず、私はあなたの友でありたいと思ってます」
 葉露は真っ直ぐ水知を見つめる。その目が笑っているのか泣いているのか、水知には判別もつかない。
「負けちゃダメです、雨宮さん。雫ちゃんにも、唐園君にも、衣織先輩にも、紫電先生にも、嵩宮蛟丸にも、それに私にもです。負けないで」
 しまいには声が出なくなった。花月は目を伏せて、再びフードをかぶり、くるりと後ろを向いた。
「花月さん、君の武器はどうするんだ」
「兄の傘『雪梅』があります。手にするに相応しいときにだけ、使おうと思っていたんですが――どうも、そろそろその時のようですから」
 それ以上は何も言わず、花月は歩き去った。実際より大きいような、あるいは実際より弱く見える背中を見送りながら、水知は心中に何か湧き上がるものがあるのを感じた。
 ――露草。
 鮮やかな青み。
 ――お前の主人よりずっと未熟な僕だけど……しばらく、付き合ってくれるか。
 露草の柄を握る手に、思わず力が入った。

    19(バーネット)
「やれやれ。大変なことになってるな」
「!?」
 唐突に響いた声が水知の感傷を吹き飛ばした。立ち上がり声のしたほうへと体を向けた。公園の林の中から現れたのは水知と同年代の優男。
「初めまして。雨宮水知君……だね?」
 現れたのは一人だけではない。一、二、三――全部で六人。全員男でユニフォームのようなものを着ている。
「俺は四島。晴天同盟所属でサッカー部キャプテン。ちなみにポジションはゴールキーパーだ。ちなみに後ろのやつらはサッカー部のレギュラーメンバーだ」
 そう告げてリーダー格の優男――四島は水知の前に立った。
「何の用だ」
「言わなくても分かるだろ」
 二人は互いに相手を睨み、牽制しあう。
「君は強い。晴天同盟にとって十分な脅威となりえるほどに。現についさっき雨衣の第一衣となかなかいい勝負をしていた」
「……ッ! どうしてそれを……!?」
「無論観てたのさ。俺たちは上の命令で紫電先生をマークしてたんだが、その先生が君らを連れて学校から出ようとしているじゃないか。これは何かあると思ってつけてみると君たちが雨衣、しかも上衣を二人も含んでる奴らと戦ってるじゃないか。まあ、結果としては紫電家の二人は逃走、君は傘を失い、光までが雨衣の手に落ちた。面倒なことにな」
「光……?」
 なぜか思い浮かんだのは同級生の少女――自分が守れなかった、太陽を髣髴とさせる少女だった。そういえば彼らは先日も――
「っと。今はそれはどうでもいいな。とにかく君を潰させてもらう。何人か雨衣の連中を追わせているから戦力は少し落ちるが、普段の君ならともかく――」
 四島がいやらしい笑いを顔に浮かべる。
「負けて塞ぎ込んでいる今の君など恐れるに足りない。」
「くっ……」
 残りの五人が水知を囲んでいく。そして正面に立つ四島の足元にはどこから取り出したのかサッカーボールが転がっている。
「さあ、キックオフだ」
 そう告げる四島の声に呼応して、水知も先ほど譲り受けた傘――露草を閉じる。
 ――それが戦闘開始の合図だった。


 ずしゃっ、という音を立てながら水知は濡れた地面へと叩きつけられた。転倒を重ねたせいで制服も顔も、そして傘も泥まみれになっていた。
顔を上げた水知の視界に何蚊が迫ってくるのが見えた。白くて黒い球体。それが何か理解するより速く、水知は不安定な体勢のまま全力で横へと跳んだ。標的を失ったサッカーボールはそのまま真っ直ぐに飛び、水知の後ろにあったベンチを吹き飛ばす。
 傘を杖代わりにし、水知は体を立ち上がらせる。周囲に目を走らせ、敵を確認。――立っているのは五人。先ほどの一撃で一人倒せたようである。とは言え、こちらも反撃を貰いまさに満身創痍といった有様であった。
(――まずいな。このままじゃ)
彼らは思った以上に強敵だった。
 サッカー部六人組の個々の能力ははっきり言ってたいしたことはない。旧体育館で戦った有象無象の者たちと比べれば強いが、それだけである。雨衣の下衣の者たちにも遠く及ばない。では何故ここまでてこずるのか。無論、一対六というのもある。全力を出し切れていないのも事実だ。だがそれ以上に彼らのコンビネーションが強力だった。
彼らは阿吽の呼吸で動き、死角が出来れば確実にそこへ付け込んでくる。それゆえ水知は思うように攻められず、牽制として飛んでくるサッカーボールをかわしながら相手の様子を見ることしか出来なかった。
 戦いの最中、このままでは自分が消耗するだけだと判断した水知は捨て身の覚悟で攻撃。何とか一人は倒したものの、手痛い反撃を受けてしまう結果となった。この方法なら一人ずつ倒していけるかもしれない、が水知自身そろそろ限界だった。後二、三撃食らったらもう満足に動けなくなるだろう。つまりこの方法は使えない。
「どうした、水知君。その程度なのかい?」
「うるさいな。六人で一人を狙ってきた奴の台詞じゃないだろ、それ。フェアプレーの精神はどこへいったんだよ。お前ら絶対レッドで退場させられるぞ。だいたい、ボールを凶器にするなんてプレーヤーとして失格だろ。ボールは友達じゃないのかよ」
 まくし立てながら水知は打開策を考える。考えてはいるのだが――
(くそっ、打つ手が無い。僕は負けるのか? 『また』負けるのか……?)
 ――負けちゃダメです、雨宮さん
 頭の中に蘇ってきたのは少女の言葉。はっとして水知は手にしている傘に目をやる。少女が自分に託してくれた露草という銘を持つ傘。愛用の傘を手放すということは途方もない覚悟がいる。彼女がどんな思いでこの傘を渡してくれたのかは分からない、分からないが――それを裏切るわけには、無駄にするわけにはいかない。絶対に。
 水知は再び傘を構える。一人減ったサッカー部員たちは互いにボールをパスしながら水知に隙ができるのを待っている。水知も隙を作らぬようにボールを目で追いながら移動する。いまだ降り止まぬ雨の中、足音とボールを蹴る音だけが静かな公園に響き渡る。
 そして静は唐突に動へと変化する。水知が一瞬だけボールを見失ったのを目ざとく察知したサッカー部の一人が水知へ向けてボールを蹴ったのだ。一度は見失ったものの、水知も即座に反応し上体を前に倒して回避する。今度は相手に隙のできる番だ、そう判断した水知はそのままの体勢で正面の相手へと突撃しようとして――数歩踏み出したところで相手の意図に気づき足を止めた。
(しまった! フェイントか!)
 水知の頭の上を通り過ぎて行ったボールの速度が今までのものより遅かった。これはシュートではない、すなわちパス。本命は今まさに自分の真後ろから撃たれようとしているのだろう。振り返ってからではおそらく間に合わない。かといってこの体勢から回避を行うのは不可能に近い。ならばせめて防御だけでも。
 そう判断し水知は振り向こうとして――
 ――右肩!!
 水知は体を反転させながら躊躇いも無く傘を振るった。確かな手応え。水知の右肩の辺りを狙ったボールは見事に弾き飛ばされていた。
「んなっ!? くそ、勘のいい奴だな」
 水知に向けて必殺の一撃を放ったつもりだった男――よく見れば四島だった――が驚愕に顔を引きつらせている。ほかのサッカー部員たちも驚きを隠せず浮き足立っているようだ。
「まあいいさ。次は絶対に外さ――」
「無理だね。当たらないよ」
 一番早く冷静さを取り戻した四島の言葉を水知は切り捨てた。
「なにを言ってる。勘で一回防いだだけだろうが」
「勘、か。確かにそんな感じなんだけどちょっと――いや、結構違うかな。まあともかく、君たちに勝ち目はもうないよ」
「ふざけやがって」
 サッカー部員たちが再び動きを開始する。先ほど同様パスを回しながら隙を狙ってくる戦法だ。水知も同様にボールを目で追う。ここまではさっきと同じだ。違うのは――
(――右後ろの奴!!)
 水知は唐突に後ろへ振り返ると、タックルをしようと背後から近づいてきていた一人を傘で打ち倒した。その男はそのまま地面に倒れ付す。それよりも早く水知は振り返りざまにやはり死角から飛んできたボールを叩き落とした。これで残り四人。水知の動きを見たサッカー部員たちは皆唖然としている。かろうじてという感じで四島が口を開く。
「……何者だよ、こいつ。エスパーか……?」
「人を奇人変人みたいに言わないでくれよ。僕はただの……雨男さ」
 ――多分。
 心の中でそう付け足して水知は相手を『見る』。実際に目に見えているわけではない。しかし、それでも確かに相手がどこにいるのかが水知には分かる。シックスセンスってやつかも、とか思った水知であったがすぐに別のものに思い当たった。

「なに考えてんだよ。自分だけ目隠ししたままで稽古をするなんて。しかも雨の中で」
「余計なことは考えなくてよい。お前は打ちかかってくればよいのだ」
「わかったよ。ったく、どうなっても知らないよ」

 背面からのスライディングを軽くかわし、ついでにそいつの腹へと傘の一撃を叩き込む。左後ろからもう一人が体当たりを仕掛けてくるが、遅い。足に傘を当てて転ばせた後で止めを刺す。これで残り二人。性懲りもなく背後からボールが飛んでくるが、これは体を傾けるだけで回避。

「……なんで目隠ししたままなのに普通に戦えるんだよ……」
「お前はなぜ雨宮流がなぜ最強と呼ばれるか、一子相伝のものか考えたことはあるか」
「は? いや普通そういうものじゃ――」
「雨宮流の派生となる流派は世界に無数存在する。それらは雨宮流の流れを汲みながら独自のものを取り入れつつ進歩を繰り返している。技のみならば本家をしのぐ流派もあるだろう。だが、雨宮流は今でも最強とされている。なぜだか分かるか」

 二人になったサッカー部員たちを水知は見据える。彼らの顔には驚愕を通り越して恐怖が浮かんでいる。当然といえば当然だ。ついさっきまで圧倒的に有利だったはずなのにほんのわずかな時間のうちに追い詰められてしまったのだから。
「何だよ、何がどうなってるんだよ!?」
 相変わらず声を上げるのは四島だけだったが、それは彼ら全員の総意と見ていいだろう。
「う、うあああああ」
 と、残った二人のうちの一人――四島ではないほうだ――が何を思ったか真正面から無謀な突撃をかけてくる。水知はそれを打ち据える――と見せかけてぎりぎりで避ける。ゴンと鈍い音がした。水知の隣では二人の男が頭をぶつけ合っていた。一人は今突っ込んできた男、もう一人は最初に倒したと思っていた男である。どうやら傘の入りが甘かったらしく、水知の後ろから攻撃の機会を伺っていたようだった。互いにうめき声を上げる二人を今度こそ確実に地に沈める。残り一人。

「その答えは雨宮の血にある。雨宮とは古来より雨の祝福を受けた家系。聞いたことぐらいはあるだろう、水知よ」
「ああ、知ってるさ。だから雨宮の男は皆雨男なんだろ。祝福って言うより呪いのほうがしっくりきそうだけど」
「雨男とはな、祝福の根底、もっとも基本的なものにしか過ぎん。祝福の真の力はそんなものではない。それは雨を自らの手にも、足にもできる力だ」

「お、おいおい。ほんとにエスパーかよ」
「だから違うって言ってるじゃないか」
 そう言いながら水知は四島へと近づく。四島はそれに合わせて後ずさる。
「もう諦めなよ。君の負けだ」
「そうはいくかよ。光は攫われちまうのをみすみす見逃したんだ。このまま帰ったら何をされるか……」
「ちなみに君の少し後ろに予備のボールがあるのは分かってるんだ。だから不意打ちは無理」
 四島の顔が泣きそうなほどに歪むのが見えた。少しやりすぎたかもしれないと水知はちょっと反省した、が情けは無用。
「ばっ化け物!」
「失礼な。これはれっきとした技だって……多分。名前はそう、確か――」

「忍びという者たちは夜を、闇を自らの世界とする。その中では如何なる強者であろうとも、決して勝つことはできぬ。雨宮も同じだ。我らの世界とは即ち雨。雨の中でこそ我らは最強となりえるのだ。――忍びの者たちは闇を知り尽くすことで闇を征した。これも同じだ。水知よ、雨を知れ。雨を知り尽くせ。それこそが雨宮流の強さの極意。覚えておけ水知。雨宮流とは傘術のみに非ず。現に今お前とやって見せたのもその一つ。雨をもって相手の位置を読み、あらゆる死角を無くす技――」

「――雨宮流雨術『雨読』」

 最後に四島に一撃を入れて黙らせ、水知は公園を去った。彼の勝利を喜ぶように雨はその勢いをさらに増していった。


20
皆既日食

築100年を超える木造建築。
300坪を超える日本庭園。
そう。ここは、伝統と格式ある雨宮本家―――
雨宮水知は、帰宅した。

玄関を開ける。
「お帰りなさいませ。水知様。」
「あ・・・ただいま。静流さん。」
目の前でタオルをもって微笑んでいる割烹着の女性は、氷雨静流という。
なんでも氷雨家は先祖代々雨宮家に仕えてきた家らしく、静流さんもその例に漏れず雨宮家で女中をしていたりする。
ちなみに年は18。今年の春に高校を卒業したばかりである。
性格は――まあ、雨宮家の良心といえる唯一の真人間で、この人の通っていたところだからきっとまともな高校に違いないと思って水知はこの高校を受験した。
きっぱりと間違いだったが。
「ダメですよ。体調が悪いのに雨に濡れたりして。早く拭いて着替えてくださいね。」
「・・・今日に限って、よく濡れて帰ってくることわかりましたね」
「女中ですもの」
いやその理由はないだろ。と心の中でツッコミをいれつつ、水知はありがたくタオルを受け取った。
「それから先々代がお呼びですので、着替えたらすぐ先々代のお部屋に向かってくださいね」
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「静流さん、紫電先生とか来てない?」
「いらっしゃってます。幸いひどい怪我はありませんでしたが、今は客間でお休みになっておられますけど」
この分だともう事情は先生から聞いているんだろうな。タオルはそれが理由か
いや、そんなことより

曽祖父に事情を知られている―――!?

生きて今夜を乗り切れるだろうか。
服装と姿勢を整え、曽祖父の部屋の前に立つ。
思えばこの部屋に入るのは初めてだ。
機会がなかったせいもあるが、この部屋にはいろいろと怪しげな伝説があるのも理由といえる。
曰く、人外魔境。曰く、異世界。曰く、一度入ったら戻ってこれない。等等。
以前、父に尋ねたこともあるが
「聞くな」
と青い顔をして即答された。

しかしいつまでも躊躇しているわけにもいかない。頑張れ俺。勇気を出して。
「ひいお爺さま、参りました。」
「入れ」
ふすまに手をかける。
覚悟を決めて、雨宮家七不思議のひとつ、開かずの扉を開く。
そこに広がるのは―――

普通の座敷だった。

「何をしておる。はやく入ってこんか馬鹿者」
「は・・はい」
部屋に入って曽祖父、雨宮水之進と向き会う。
「事情は為右衛門殿から聞いておる。敵に負けて、光原殿を奪われて、おめおめ帰ってきたのじゃな?」
「・・・・・はい。」
それは決定的に正確な事実。いまさら言い訳のひとつも出来るわけがない。
「そうか・・・・」
目を閉じて深くため息をつく水之進。
「このたわけがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その瞬間、部屋が燃え上がり、曽祖父が巨大化した!
「うわあああ!?」
「雨宮家の嫡男ともあろう者が(ばきっ)敗北したのみならず(ごすっ)乙女を(みしっ)奪われて(ごきっ)しかもそのまま帰ってくるとは(ぼすっ)なにごとじゃ(へぶし)」
「ぐはあ!」
気絶するか否かの絶妙な力加減で殴られた水知の身を、地獄の苦痛が襲う。
「そ・・・それより・・・・・・・火が・・・・・」
ここはまるで地獄絵図。なぜか鬼とか歩いてるしっていうかなんでヒトの悲鳴がこんなに響いてるんですかしかもひいじいちゃん閻魔様の格好してるよおい
なにはともあれ、はやく部屋から出ないと・・・・・!
「待てい」
襟首をつかまれる
「いや・・・・火が・・・・・」
「3D映像じゃ。落ち着かぬか馬鹿者」
「へ?」
気がつくと紅蓮の炎は消えており、曽祖父も通常サイズに戻っている。ついでに痛みも消えている。
「うそ!殴られたのも映像かよ!?」
「修行が足らんのう」
「いや無理があるって!」
「納得せい」
番傘の一撃を喰らって水知は沈黙した。

「さて、お主はこれからどうする気じゃな?」
「・・・・光原さんを、敵から助け出します」
「無理じゃな。今のお主では勝てん。」
「そんなことは」
「勝てん」
「・・・・・・・」
うつむいて歯を食いしばる。この曽祖父は、こと戦闘に関して嘘を言うことはない。間違いを言うこともない。
「・・・・・・強くなりたい」
「ふむ」
「俺は、強くなりたい。仲間を助け出せる強さが欲しい。だから―――」
「わかっておる」
水之進は、これまで見たこともないような優しい笑みを浮かべていた。
「お主が自分から強くなりたいなどと言うたのは初めてじゃったな・・・案ずるでない。雨宮家に伝わる秘儀のひとつを、伝授してやろう」
ついてくるがいい。と言って水太郎は部屋から出て行った
「は・・・はい!」
雨宮家の裏には小山がある。その名も雨宮山。
小さいが、代々雨宮家の者が修行に使ってきた由緒正しき山である。
「準備はよいな・・・・水知」
「はい。」
水之進は愛用の番傘「朝霧」で天を指す。
「知ってのとおり、雨宮の者は雨に好かれ、雨をその力となす。そして―――雷も、そのひとつ!」

空に光が満ちた。
天空に広がる雨雲、その中から幾十条もの稲妻が突き出し、空を埋め尽くして向かってくる。

出鱈目だ。
ていうか逃げ場とかないし。
「うわああああああ!」
無駄とわかっているが、反射的に伏せて防御体制をとる。
轟音が響き、水知が目をひらくと
「何をおびえておるのだたわけ」
バチバチと帯電している曽祖父が平然と立っていた。
周囲には焦げ目ひとつない。
あれだけの稲妻を、水之進がすべて喰ってしまったのだ。
「秘儀はこれからぞ。気を抜くでない。」
水太郎はばっと「朝霧」を開くと、くるくる回しだした。
回転が早まるにしたがって、傘の上に雷の珠が生まれ、傘回しの要領でまわりながら大きくなっていった。
ちょうど雷球が人間の頭ほどの大きさになったところで回転を止め、雷球を左手で受け取る。
「これは<雷光珠>という。今よりこれをお主の身体に入れる。」
水知はごくりと喉を鳴らす。
「<雷光珠>の試練に打ち勝てば、お主も強大な雷の力を振るえるようになるじゃろう。しかし耐えられねば、お主は死ぬ。おそらく可能性は五分と五分。決めるのはお主じゃ・・・続けるか?」
数え切れないほどの稲妻。それを凝縮した雷光球。そんなものを身体に入れれば無事に済むとはとても思えない。
でも。
大切な仲間を守るだけの力を、得ることができるなら―――
「やります」
水知は、力強くうなずいた。
「よくぞ言うた。ではいくぞ!」
水之進が雷光球を放つ。
それは宙を駆け、水知の胸の中に吸い込まれていった。

「あれ?なんともない?」
身体の確認をする。どこにも異常は見あたらな

瞬間、額がはじけて血を吹いた。

「ああああああああああ!?」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
体中を雷竜が駆け巡る感覚。
気を抜けばソレは、皮膚を突き破って外に無理やり出ようとするかのように暴れまわる。
「うああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
激痛に耐えかねて暴れまわる。
拳が地面を穿つと土が吹き飛び、クレーターができる。
全身がぎしぎし悲鳴をあげる。
水知は、声にならない悲鳴をあげた。

水之進は一人で自室に戻った。これからさきの試練は、水知が一人で立ち向かい、乗り越えなくてはならない。自分には手助けなど出来ないのだ。
「う・・・・・ごほっごふっ」
咳とともに血を吐いた。この老体にはやはり雷光球は負担がかかりすぎたようだ。
「まったく・・・・水太、雨水。こういうのはおぬしらの役目じゃろうが。」
息子と孫の名をつぶやく。その瞳は、どこか悲しげであった。


息をするだけで全身に激痛が走る。
もう指一本動かす力も残っていない。
ああ、自分はこれで終わりなんだ、と妙に納得する。
思えば16年間、変な人生を歩んできたものだ。
物心つく頃から傘を握らされて武芸の稽古。
何かのたびに雨が降るものだから、思い出はいつも雨色だ。
高校だけはまともだろうと思っていたのに、むしろ一番おかしかった。
でもそれもおしまい。ここで雨宮水知は終わるのだから。

「われが何者か?――知れたこと! 今年で16になる、貴様のクラスメイトよ!」

「交通規則ってのは命を守るためにある。理解したまえ、君たちは命の瀬戸際にいるのだよ!」

「負けちゃダメです、雨宮さん。雫ちゃんにも、唐園君にも、衣織先輩にも、紫電先生にも、嵩宮蛟丸にも、それに私にもです。負けないで」



「ま、危なそうだったら、またそのときは守ってよ、水っち♪」



目が、覚めた。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
自分には共に戦う仲間がいて、信頼できる友がいて、それから―――守るべき、人がいる。
その手に握る『露草』を杖にしてボロボロになった体を立ち上げる。
そう。この手には傘がある。この身にはやさしい雨の加護がある。
『露草』を頭上に振りかぶって、
「雨宮流―――――――――
大地に向かって叩き降ろす
 ――――“雷術・閃龍”!」
極光がすべてを埋め尽くした。



 いきなり長っ。
終わりのほうが急展開&描写がいい加減ですが、力尽きてしまったのでご容赦ください。
このあと、蛟丸の謀略によって雨衣内部で対立が発生、捕えられた秋水を助けるため、花月は一人、天文部部室に赴く――とかの燃える展開になる予定かもしれません。そして水知の選択やいかに?(穂永)

主人公覚醒第一弾。でも実は使い勝手が微妙な能力だったり。詳細はツリーのほうに書いときます。(バーネット)

最終更新:2013年06月12日 22:10