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剣花 ~『鉄花仙史』より

2005年09月09日(金) 03時05分-穂永秋琴

 


(ここまでのあらすじ:才子の王儒珍は、父の親友・蔡其志の持つ庭園「埋剣園」が見事な園であるという噂を聞き、一度訪れてみたいと考えていた。そんな折、蔡其志は都へ行くことになり、儒珍は園の留守を頼まれる。願っても無いことに儒珍は喜び、親友の陳秋麟とともに園に住み込んだ)

 たちまちのうちに夏は終わり、秋が深くなると、池のあたりの芙蓉の花は華麗に咲き誇った。王儒珍が言った。
「このような見事な花があるのだから、家の中で酒を飲んで、花神を寂しがらせることはないじゃないか」
 そこで自分の墨童を呼びつけ、一瓶の酒と新鮮な魚を買い求めさせ、二人は花の前で酌を交わした。しばらくして月が出てくると、いよいよ幽雅を感じる。秋麟が言った。
「この名花の美しくなまめかしい様子は、洛陽の春色にも劣ってはいないな。この香りを僕にくれたのだから、是非とも佳句でもって報いてやらなければ」
 儒珍は答えた。
「清らかな月に酒を注ぎ、寂しげな花を詩で慰めるのは、確かに今晩の興に沿っているな。だいぶ酒を飲んで酔っ払ったが、まだ百篇の詩を吟じることができそうだ。君一人に美を独占させはしないぞ」
「兄さんは風流で豪気だ、古の詩人にも譲らないだろうな」
 そこで大きな杯になみなみと酒を満たし、儒珍に渡して言った。
「まずはこの杯を乾して、それからその詩才を披露してもらおう。まずは兄さんから。僕はあとに続くことにするよ」
 儒珍は受け取り、一口に飲み乾して、言った。
「興が起これば詩を吟じればいい。なにも前後を決めることはないさ」
 玉芙蓉を題とし、筆をふるって一首を書き上げた。

 池南池北、芙蓉尽き 雅操冰心、濃くは着かず
 酒を携え明晨には重過の賞 殷勤として五更の風を愛惜す

 秋麟は詩を見終わると言った。
「兄さんの詩は良いことは良いが、僕の批評を聞いたら、罰杯を飲まなきゃならないだろう」
「僕はそうは思わないが、君はいったい、どう評するかな?」
「まずはこの杯を飲んでくれ。僕の批評がよろしくないとなれば、倍の罰を受けよう」
 儒珍は飲み乾して、
「さて、教えを請うとしようか」
 と言うと、秋麟は笑って、
「今晩は酒があったから、今晩の酒を飲んだんだ。今晩は詩があったから、今晩の詩を吟じたんだ。なのに兄さんの詩には明日の朝に酒を携えるなんていう句があるじゃないか。きっと明日、今晩のお礼といって、僕に酒を奢らせようという魂胆だろう」
 という。聞いて儒珍も笑った。
「これは僕の、花を惜しんでの句だぜ。君にそんなふうに批評されるとは思わなかった」
「花を惜しむというなら、どうして酒なんかに言い及ぶんだ? 僕には別のやり方があるぞ」
「では言い争う必要はない。それを見せてもらおう」
 秋麟は大いに笑って、
「そのとおりだ」
 と言うと、花に向かって微笑し、さっと絶句を作り、高らかに吟唱してから、儒珍に手渡して言った。
「うまくできたよ。僕の情はみなこの詩にあらわれている」
 儒珍が受け取って見ると、このように書いてあった。

 青銅鏡里の玉芙蓉 自ら花枝の意、更に濃きを見る
 若(も)し芳君をして能(よ)く語を解さば 寒氈紙帳も春風たるべし

 儒珍は見終わると笑って言った。
「君の詩は罰を受けなきゃならないぜ」
 秋麟はむっとして声を上げた。
「罰を受けろというからには、どこかまずいところがあるのだろうね?」
「詩は良いが情がかえって良くない。僕の詩は花に情を寄せたものだが、それでも罰酒を飲まされた。君の詩の情は花の外にあるじゃないか。罰酒を逃れることはできないよ」
「僕もこの一杯を飲むのが嫌だってわけじゃないが。――しかし僕は花と月の間にあって、はなはだ興を感じたよ。春になればもっと見事になって人を悩ますのだろうか?」
「牡丹はもう芽が出ているが、花が咲くには春風を待たなければならないだろう。しかしこの情を歌うのはどんなもんだろうかな。僕は花の心を動かすのが怖いよ。趙師雄の妖梅の事件のようなことが、君の身に起こらんとも限らないしね」
 この時、秋麟はすでに酔っていたので、花の心を感動させるとか妖梅のこととかを聞いて、杯に酒を満たし、花の前へ近寄ると、深々と頭を下げて言った。
「わたくしは銭塘の才子・陳秋麟と申します。あなたはわたくしに洛陽の春色・月窟の奇香をお贈りくださり、わが寂寞を慰めてくださいました。まさにわたくしの知己です。あなたが行くところ、仙人の跡にはわたくしも従いましょう。まずはこの薄い酒で、あなたの長寿を祈るものです」
 そう言って酒を花に注ぐと、高らかに歌い、舞った。儒珍は大笑い。
「君は感激しすぎだぜ、そこまでいくと馬鹿に見える、まったくいかれてるよ。しかし今晩は、花が言葉を理解しているようだったが、それでもこの馬鹿騒ぎ、もし君が花の言葉を理解できたなら、どんなふうになることやら」
「杜老は花を見て死を望む詩を作り、穆宗は花を惜しんで御使を置いたという、この我輩の思いも、みな花によるものだ! 花の言葉が分かるとなったら、黄金の屋敷に住み、七宝の床に座るのと同じこと、人の世の西方極楽さ!」
 言い終わると、互いを見て笑った。
 二人は談笑しているうちに、思わぬうちに酔いがまわってきた。儒珍は酔ったというので部屋の中へ入って休んだ。秋麟はまだ寝には行かず、童を呼んで茶を沸かさせ、自ら椅子を運び去ると花の間にじかに座った。玉簫を吹いてみると、その響きはなんとなしに凄みがある。雲が移って月を隠した。たちまちかすかな風がさっと吹いてきて、香気が漂った。秋麟が目を凝らして見ると、一人の少女、薄化粧をして整った服を着ているのが、花の陰の下にいた。秋麟は喜びで眉を動かし、あわてて身を起こすと、深く頭を下げて言った。
「寂寞たるこの園が、仙女の降臨を得ましたのはまことに幸いです。しかしいずこの方でしょうか? このような夜更けにいらしたのは、いかなるわけで?」
 少女は頭を下げて微笑し、赤い唇を半ば開き、ウグイスのようなるるとした声で答えた。
「私は隣家の符家の娘で、剣花と申します。この夜たまたまあなたの佳句を耳にし、過ぎた愛情を被りましたので、まずは感謝を述べようと思いまして」
「友人と花を肴に酒を酌み交わしながら、たまたま作った句です。どうして芳妹の耳に止まったのでしょう? またどうしてわざわざ感謝などを?」
 剣花は笑って答えず、手で花の枝をいじっていた。
 秋麟が明月のもとにあって剣花を盗み見ると、婀娜なることは花の秋水に臨むがごとく、軽盈なることは衣にたえざるがごとく、芳香は人を襲う、思わず心がとろけたようになり、一歩近づいて、笑って言った。
「すでに一瞥を賜りましたからには、僕の寂しさを慰めてくださる心がお有りなのでしょう。どうして一言も言葉をかわしてくださらなかったのですか」
「私は言葉を惜しんでいるわけではありません。ただ人の耳目が間近にあるのを恐れたのです。今は人の声も静かになりましたから、妨げはないでしょう。実は私は、閨中の児女とは申しながら、文墨を喜び、才能を命のように愛する者です。誓って軽々しい者ではありません。あなたが佳句を朗吟されるのを聞き、その言葉をよく解することができましたので、軽々しくも近づきましたが、よくよくあなたの詩を味わってみれば、感慨の深いものがあります。これは軽佻さがかえって風雅となったといえましょう。あなたの出で立ちを窺いますと、やはりその詩に似て風流でいらっしゃいます。思わず心が動き、自ら名乗る恥ずかしさを避けず、あなたに春風の約定に連なろうと思ったわけです」
 秋麟は聞いて喜びにたえず、
「拙作があなたの琴線に触れたとおっしゃるなら光栄なこと、芳妹の心を感ぜしめることができた、この身の幸福を思うばかりです。……このようなところでは夜露で衣を濡らしてしまうでしょう、まずは閣の中で語らおうではありませんか」
 ついに剣花の手を携え、二人揃って文官閣へ入り、座って、言った。
「芳妹の言葉を聞いたところ、どうやら優れた才をお持ちのように思えます。ぜひともあなたの玉篇を賜りたいものですが」
 剣花は笑って応じた。
「どうにもならない微かな才ではございますが、お求めに答えて、駄作を献上いたしましょう」
 そして紙と筆をとり、秋麟の韻に和して、一首の詩を作った。

 自ら淡白潔儀の容(さま)に甘んじ 白眼は春色の濃きを嗔(いか)るが如し 深深として但(た)だ池上の月に凭るは 落花の風の斟酌、循(めぐ)るに因りてなり

 秋麟は見終わって言った。
「芳妹の佳句においては、意識が言葉に表れています。まさに心ある方と言えるでしょう。我輩は眉をひそめて恥じ入るのみです」
「凡庸な野草の如きものです、どうしてあなたの桃花のような詩と比較できましょう」
 この時、秋麟は剣花のすぐそばに近づき、肩を並べて座ると、ほのかな香りが漂ってきて、思わず心を揺り動かされ、笑って言った。
「夜はもう更けました。もう酒が循ることはありません。ただ池の上の月に凭れるのみです」
 剣花は微笑して答えなかった。
 秋麟がまさに背中を撫でて歓を求めようとしていると、儒珍が呼びに来たらしい音が聞こえたので、あわてて詩を袖の中に隠した。剣花はと見ると、すでに階下へ下りている。再会の期日を尋ねようと急いで追いかけると、はからずも足を滑らせ、はっと気づけばなんと夢である。もともと椅子に座っていて、いつの間にか眠っていたのだった。秋麟が夢の中のことを回想していると、はたと思い当たることがあり、急いで袖の中を探ってみると、果たして剣花の詩があった。月明かりで読んでみれば、夢の中の詩と一字たりとも違っておらず、驚愕にたえなかった。夜はすでに深く、四方は悄然として人の声もない。部屋に入って布団をかぶったが、今夜のことが思い出されてついに眠ることが出来なかった。まさに、

 春色、人を悩ましめて眠るを得ず 月は花影を移して欄干に上る

 というものである。
 さて秋麟が翌朝早くに起き出し、すぐに芙蓉の花のあたりに行って、美人の歩いたあとを尋ね見ると、もともとのままで跡はない。また園の外には隣家などなく、心中の疑いは晴れない。だんだん身体が疲れてきて、部屋に戻って静かに考えた。
 ――昨夜の少女は確かに美しく、ふるまいも軽やかで、傾城傾国ということができるだろう。恨むらくは王儒珍の奴が騒いだせいで、風流の結局を得ることができなかったことだ。でなければ、こんなふうに疑々惑々として、考え込んで疲れ果てるなんてことにはならなかったのに。
 またこうも思った。
 ――こら僕、陳秋麟よ、頭がおかしくなったのか。あれは一場の春の夢なのだから、このように真剣に悩むなど、笑われても仕方の無いことだぞ。がしかし夢だとすれば、贈ってもらった詩がちゃんとあるのはなぜだだろうか? それに句の出来は新奇で韻も陳腐ではない、こんな詩を作るのは僕にはとても無理だ。き夢の中で得たものであるはずがない。
 そこで思い返して、
 ――夢でないとすれば、どうして跡がまったくないのだろう。それに近くに家はないし、芳妹は隣家の符氏の娘だと言っていたが、まさか妖怪じゃないだろうか。だがこの詩も、あの人も、まるで妖怪らしくはない。もし妖怪だとしても、このように才美を備えているのなら、また文の一脈に連なると言ってよいだろう。僕は物に災いをなす人間ではない、なら物のほうで人の心を傷つけることはあるまい。これはきっと、僕が昨晩、花に一片の情を寄せたのに花神が感じて、この出会いがあったということだろう。夢だろうと妖怪だろうとかまうものか、今晩も同じ場所に行って、どうなるか見てみよう。もしまた会うことが出来たら、そのあたりのことも問うてみよう。そうすればはっきりするだろう。
 晩になるのを待ち、夕食を食べ終わると、儒珍には適当に言い訳して、一人で園の中へやってきた。花のそばで夜半まで座っていたが、彼女の影すら見ることが出来ず、思わず嗟嘆して言った。
「春風の約定も偽りだったか、剣花、どうして僕を騙したんだ?」
 四方は寂然としていた。一度は興った情も冷え、どうすることもできず、帰って眠った。
 次の夜、また園の中へ行って夢を待ったが動きはなく、相変らず気持ちが挫けて帰った。三夜、四夜も続けて待ったが、結局何もなかった。心中どうにも不審に思った。
 ――やはり夢だったのだろうか? いやこの詩が現にあるのだから、決して夢ではない。今晩も来ないようなら、花の前でこの苦しみを訴えてみよう。そうしたらどうなるだろうか?
 さらに次の晩、また文官閣の近くへ来た。すると花の影の側、月の光の下に、人がいるのが見えた。秋麟は一驚を喫したが、儒珍であろうと思い直し、暗いところに入って様子をうかがってみると、あの夢の中の少女である。秋麟は宝物を得た思いで、彼女の前に出て行き、
「あなたはひどい人だ! 私を風の中にさらしたまま、四晩も五晩も待たせるなんて。今また会ったからには……」
 剣花は眉をひそめ、うなだれて答えた。
「あなたとは縁が浅かったのです。どうしようもありません」
 秋麟は笑った。
「芳妹が来なかったのだから私にはどうしようもありません、どうして縁が浅かったなどと言うのですか。芳妹の深情を寄せていただいたのだから、この陳は決して不幸ではありませんよ」
「あなたのせいだなんて言うつもりはありません。ただどうしようもない事情が迫って、どうしようもなくなっただけです」
「私は前の約束を負いたいだけです。でなければ、あなたはいかなる人で、どうしようもない事情に迫られているのですか?」
 剣花はしばらくためらってから言った。
「聞かれなければ答えるまいと思っていました。私は人ではありません。玉芙蓉の神なのです。あなたの詩と酒をいただきましたから、嫌疑を避けずにお会いしました。すこしでもあなたの寂寞を慰めようと思ってのことです。あくる晩もお会いしようと思っていましたが、この園の花神が、私が春容を盗んであなたに媚び惑わしていると言い、狼藉をふるい、この園に根付くことを許さず、妬花・風雨の二将に命じ、私を遠く揚州に追放することにしたのです。明日にはこの地を離れなければいけません。今晩は幸いにも花神が小春宴に赴きましたので、こうして一目お会いすることができたのです。これがあなたとの長いお別れになるでしょう」
 言い終わると、暗然としてむせび泣いた。
 秋麟は聞いて驚き、
「さては、あなたは芙蓉の仙でしたか。しかし花神は何の権限があって、そのような暴行を行うのですか。またあなたもどうしてそのように彼を恐れるのですか」
「この園の春色はすべてこの花神がつかさどっていること、栄枯はみなその指揮に委ねられているのです。恐れないわけにはいきません」
 秋麟は愕然として答えた。
「ではこれが最後の出会いで、明日にはもう会うことができないというのですか」
 剣花は泣いて答えることが出来なかった。秋麟は彼女の花の顔(かんばせ)が惨澹たる様子なのを見て、ぽろぽろと涙をこぼし、感極まって、袖を挙げて拭った。
 二人がそうしていると、突然真っ黒な雲が四方から沸き起こり、星月は光を失った。剣花は手をあげて叫んだ。
「風雨の二将がもうやって来ました。あなた、どうぞご自愛なさってください。私のことは忘れて」
 この言葉が終わると、一陣の香風となってかき消えてしまった。風雨が激しく、やむなく秋麟は部屋に戻って、布団をかぶって寝たが、このことが思い出され、寝返りをうつばかりで眠ることができなかった。
 翌朝早くにおきて園へ言ってみると、果たしてあの玉芙蓉は夜の風雨のために根が引き抜かれていた。残っている根は一本もなく、ただ一穴をとどめるのみであった。四方に人がないのを見ると、秋麟は穴にむかって暗々として泣いた。まさに、

 早(つと)に今日の離別を知らば 当初の遇高の莫きに若(し)かざるなり

 というものである。
 この後、詩も酒も絶って、毎日情緒というものも持たず、あぐらをかいて悶々としているのみであった。儒珍は彼がぼんやりしているのを見て、理由を尋ねたが、秋麟は言おうとしなかった。
 冬の終わりのある日のこと、雪が大いに降りしきって、はなはだ寒かった。秋麟と儒珍は文官閣で熱い酒を飲みながら、雪を愛でて詩を作った。儒珍が言った。
「思い出すのは秋の終わりに、君が芙蓉の花に酒を注いで月を愛で、詩を作ったことだ。あのあと君はなぜかずいぶんふさぎこんで、楽しみすら求めなかったようだが、今日はまず、昔のように大いに楽しもうじゃないか」
 秋麟は聞いて、肩をすくめて言った。
「僕が楽しみを求めなかったんじゃない。楽しみが訪れたために、苦しい思いをすることになったのさ」
 儒珍は笑って、
「おかしなことを言うじゃないか。楽しみが訪れたならそれこそ望むところ、どうして苦しい思いをするんだい? さては一人で楽しんで、僕は苦しませておけというつもりだろう」
 秋麟はゆっくりと応じて、
「いや、仙人の跡のためさ」
「じゃあ本当に、何かに遇ったと」
 秋麟はそこで、あの晩、剣花に会って詩を和したこと、そして後の決別のことを事細かに語った。儒珍は舌を吐いて言った。
「そんな奇事があったとはね。しかし和した詩というのはどんなものだい?」
 秋麟は童子に書房へ詩を取りに行かせ、儒珍に渡した。儒珍は見終わってから言った。
「香艶の句だ。実に新奇だ。花月の妖にこんな才能があるなんてね。君が恋々とするのも当然だな。君子たる心持ちであろうと望んだとしても、この魔境の魅力には到底及ばないね」
 秋麟は笑った。
「硬骨な君子でも、心酔わないはずがないさ」
 まさに、

 憔悴は花病に因り 多情は月痴を為す
 魯男子に相い逢うも 我は恐る亦た相い思うを

 というものである。



    解題

 本稿は『鉄花仙史』第二回の大半を訳出したものである。
 『鉄花仙史』は全二十六回、雲封山人編と題するが、この人の実際の姓名及び事績はわからない。清代初期に現れた作品で、「才子佳人小説」と呼ばれるジャンルに属する。このジャンルは、若者と少女が出会い、艱難の末に結ばれるという形式で、要はボーイミーツガールといったところであろう。明末に『玉嬌梨』『平山冷燕』という作品が現れてから大変に流行し、何十種もの作品が書かれた。ところがみな似たような構成の作品であるから、清代に入って時間が経つと次第に飽きられてきた。
 この『鉄花仙史』はその旧套を打破しようと試みた作で、不思議な事件を多くプロットに盛り込み、新たな形を模索しているが、残念ながら事柄を複雑にし過ぎた失敗作だとされている(魯迅『中国小説史略』等)。がまあ、才子佳人小説というジャンルを語る上では、見過ごせない作品の一つではあるだろう。
 なお、陳秋麟と符剣花の運命がこのあとどうなるかは、まだ続きを読んでいないので知らない。聞いても無駄である。

 次のサークル賞に出します。

今回はバトルはありません。『楊家将』や『五花剣』とは一味違う、この香気を味わってほしい……と思いましたが、私の訳では原文の色っぽさを伝えきれないなあ。
特に詩の訓読はひどいです。自分でもわかるくらい滅茶苦茶です。修行が足りねえ。

最終更新:2013年06月12日 22:19