2005年09月25日(日) 00時57分-月組
リオは夢を見ていた。
夢の中のリオは今よりももっと小さかった。
リオがいるのはビスの家でもメイズの家でもない、しかしどこかで見たことのある家の中だった。そこにあるベッドの上で――夢の中にもかかわらず――リオは眠っていた。
ふと、誰かに呼ばれたような気がしてリオは薄く目を開く。見えたのは茶色い天井と自分を覗き込んでいる二人の人間だった。寝ぼけているせいではっきりとは見えないのだが、二人とも獣人ではなく、片方は男でもう片方は女のようだ。
その二人が口々に何かを言っている。意識がぼんやりとしているためほとんど聞き取れないのだが、その言葉の中にリオという名前が含まれているのだけは分かった。そして何故だか分からないが、リオにはビスとメイズがその二人に重なって見えたのだった。
――夢の中のリオは最後まで寝ぼけたままで、二人が誰なのか分からなかった。
不思議な夢だった。
ビスは夢を見ていた。
夢の中のビスは今とあまり変わらなかった。
ビスがいるのはバーニィの店の中だった。テーブルの向かい側にはメイズとリオが並んで座っている。店内は灯りで照らされ、周囲からは他の客の声も聞こえてくる。
テーブルの上には名物のステーキを初め、八本足の妖精の丸焼きやふっくらとした白くて丸いものや生の地這竜など様々な料理の皿が所狭しと並んでおり、美味しそうな匂いをさせている。
ビスは地這竜を口の中に放り込む。メイズは『マン』を少しずつほおばっている。リオはナイフとフォークを持ってステーキを相手に格闘中のようだ。
食べながらいろいろな話もした。ほとんどが楽しい話だった。リオは元気に笑い、メイズは少し控えめに笑い、ビスは豪快に笑った。
楽しい夢だった。
メイズは夢を見ていた。
その夢の中のメイズは今よりも若く、そして『黒影』のメイズだった。
メイズがいるのは見知らぬ小高い丘の上。しかし、夢の中のメイズにとってはよく見知った――かつては日々魔法の訓練を行っていた場所だった。
そしてメイズの目の前にはやや大きめの四角い石が置かれている。夢の中のメイズはそれが墓石であることを知っていた。この石はメイズが魔法で生み出した。弟子として最後にやることならば、彼女から学んだことを用いて行うべきだと考えたからである。ただ、そこに刻まれている文字だけはメイズ自身の手で刻んだものである。魔法を使ったほうがもっと綺麗に刻めるのは分かっていたが、それでもメイズは自らの手を使った。それが彼女――師への手向けとなると思ったからだった。
手に持っていた花を供え、手をあわせしばらく黙祷する。それを終えるとくるりと振り返り、メイズは墓を後にする。
メイズ以外にこの墓のことを知るものは誰もいない。暮らしていた家と必要最低限の物以外はすべて売り払った。もう彼女の痕跡はほとんど残っていない。残っているものも時間とともに消えていくだろう。メイズ自身が持っているのもわずかな小物と今左手にあるものだけである。
夢の中のメイズは丘を――ひょっとすると二度と通ることは無いかも知れない道を下っていく。歩きながらメイズは左手にある『それ』を頭にのせた。
その日からメイズは『銀帽子』になった。
悲しい夢だった。
三人は夢を見た。
その中身は三者三様であり、接点は全くといっていいほど無い。だが一つだけ共通していることがある。
目が覚めればすべて忘れている、ということ。夢が、夢であるが故に。
26 日食
三人が静かに夢見る夜。
昼間メイズたちが地這竜を狩った<竜の狩猟場>に、一人の女が立っていた。
「――良い夜ね」
一面の曇天の夜空の下、闇夜に映える緋色のドレスを身にまとった彼女は、真っ赤な紅をひいた唇をほころばせて嫣然と微笑んだ。
「月の光は見えないけれど」
夜空を見上げ、踊るようにくるりと回る。
「星の煌きも隠れたけれど」
一切の光のない、異常なほどの闇の中で、女は笑う。すべてを塗りつぶす闇の中で、彼女だけが本来の色を保っていた。
「やさしい夜は、あなたをつつんでくれるから」
一陣の風が、夜の荒野を吹きぬけた。
「ねえ、あなたの歌を聴かせて?」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
夜の中に響くように、闇の中に染み渡るように、人ならぬ慟哭が響く。
大地が割れた。
わずかな揺れも起こさず、まるで最初からそこにいびつな穴があったかのように、地面がぽっかりと口をあけている。
光のない闇夜よりもさらに暗い闇の穴から、巨大な――それこそ、昼間メイズたちが倒したやつが小物に思えるくらい馬鹿馬鹿しいほど巨大な地這竜が、のっそりと姿を現した。
「おはよう“マザー”。数百回目の生誕に祝福を」
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
夜空から幾条もの稲妻が落ちる。
一瞬の閃光に浮かび上がった女の顔は、
ありえないほど、メイズに似ていた。
「亜種とはいえ始祖の竜――旅の幸運と不運を願って、私からの最初のささやかな贈り物よ」
赤い女は、闇に溶けて消えた。
(27:藤枝りあん)
次の日の朝。
メイズ達一行。
「――それ、本当なのかしら」
疑問形ではなく、メイズがぼんやりとそう呟いた。
「・・・全然、覚えてないわ」
またか、というようにメイズは寝椅子にくたりともたれかかったまま、頭を振った。
彼女が時々、昨日の事を思い出せなくなることは割りとよくあることだった。
「・・・それで、私、どうしてたのかしら?」
「うむ、それがだな、そこで君は俺に『愛してる』と――」
「寝てたの~!」
義父でもあるビスのいつものやり取りを遮って、リオがそう答えた。
「えぇ!? いや、リオ、せっかくここからいいトコだって――」
「まぁた変な記憶植えつけようとしてるでしょ、ビス!」
うん、とリオが大きく頷く。もはや、見慣れた光景だった。
一番最初に、『君の恋人のビスだ』と言われて信じてしまった時からビスはずっとそうしていた。まぁ、途中からは冗談半分であるだろうけれども。
「・・・まぁ、それで、メイズ」
オホン、と咳払いをしてから、ビスが言った。
「他の事は、覚えてるんだな?」
「ええ、そうみたい。地這竜を見つけて、やっつけて食べたとこまではしっかりと、ね」
「じゃあ、いつもとは違うの?」
「そうみたい」
笑って、メイズは立ち上がった。
「知らないものを食べて、中っちゃっただけみたい。ごめんね、心配かけて」
ギュッと、リオを抱き締める。クスン、とリオが小さく鼻をすする音が聞こえた。
「・・・メイズ、いっちゃ・・・ヤだよぉ・・・?」
「大丈夫よ」
メイズは、ある日、やって来た。同じように、いなくなってしまうのではないかと。
そう、リオは思っているのだ。
「うん、じゃあ、アレだな」
ビスはメイズへの愛の抱擁をしようと構えていた腕を下げ、もう一度咳払いをした。
「メシ食って、レイリンを迎えにいくとするか」
「そうね、じゃあ、ご飯にしましょうか」
「わぁ~い! ゴッハン、ゴッハン!」
「よっしゃ! 今日は俺が作ってやるぜ、メイズ! 待っててくれよぉ!」
ドタドタと走って行く二人を見て、メイズは奇妙なくすぐったさを感じた。
――このままずっと旅が続けばいい。
そう願っても、何故だろうか、心の霧は深く彼女の心を翳らせたままだ。
借金取立て一行、アーダとタントリス。
「っあ~・・・眠!」
豪快なあくびをしながら、アーダはテーブルの上に出された目玉焼きをつついていた。
「駄目だねぇ、時差ぼけだ。眠いし、食欲もありゃしない」
「難儀だな」
言いながらタントリスは、ペロリと一口で目玉焼きを器用に飲み込んだアーダを見て心中、本当に食欲が無いのか!?、と突っ込んだ。それに答えるように、「そうさ」とアーダが声を出す。
「このアーダ様が目玉焼き一個なんて、昔の連れが聞いたら仰天もんさ。何さ。言っとくけどね、大食い、ってわけじゃあないよ。空賊ってぇのは何かとエネルギーが要る仕事なんだよ? そんな事じゃアイツ・・・え~何だったっけ・・・デブちゃんのカーラ、じゃないや・・・あ~も~、名前が出て来ないよ! ほら、クラビウス戦艦の主砲を吹き飛ばした男!!」
「・・・いや、知らないんだが・・・」
しっかりしとくれよ、何だったっけアイツの名前、と言いながら、アーダはフォークを燻製ファシュ肉の塊に突き刺し、そのままガブリといった。口を動かしながら、トントンと頭をたたいて思い出そうとしている。
だが、タントリスはそんなアーダの仕草を見ているわけではなかった。
パサパサの茶パンを齧り齧り、今朝のことをアーダに言うべきか言わざるべきか、悩んでいた。
今朝。
まだ日も昇っていなかったように思えた。彼、タントリスは妙な気配を感じて目を覚ました。
殺気、では無い。
もっと微妙な、複数の感情が入り混じった気配を一つ、感じたのだ。
彼は就寝時も常に身に着けている護身用の短刀に手を伸ばし、様子をうかがった。
「・・・楽師タントリス、か?」
ふいに、問いかけのような確認のような呟き声が聞こえた。そのまま寝たフリを続け、さらに気配の主を探るタントリスに、また声が聞こえた。
「無駄ね。寝たフリも、こちらを探るのも、みんな」
驚きつつも、ハッタリかとも思い、タントリスはそのまま薄目を開けた状態で神経を研ぎ澄ませた。声は続ける。
「ここにきた理由は一つ・・・ここから立ち去る・・・よろし」
少しなまった喋り方。ここ独特のものだ。
この辺りに、知り合いはいない。少なくとも、こんなことをするような知り合いは。
「・・・何用だ」
「朝一番にでも、立ち去るね」
でないと、と言いかけて、声の気配はふっつりと消えた。
バッと飛び起き、タントリスは短刀を構えた。が、当然のように誰もいない。隣ではアーダが、「ふふふ・・・そうさね、やっちまいな・・・ふふ」などとよくわからない寝言を言いながら眠っている。
――危害を加えるつもりは無かった、とすれば警告か?
タントリスは不審に思いながらも、もう一度神経を研ぎ澄ませてみた――やはり、もう誰もいないようだ。
(何だったのだ、今のは・・・)
もう一度寝ようと彼が寝具を見やると、そこには彼の耳にあったはずのイヤリングが一対、ちょこんと置いてあった。ハッとして耳に手をやると、耳にあったはずのそれが無くなっていた。
――これは警告ではなく、脅迫か。
いつでもお前は殺せるんだよ――そう、それが雄弁に語りかけていた。近付かれたと自分が感じる間も無く、これだけのことをあっさりとやってのけたのだ。それはつまり、相手が――
「――って聞いてるのかい!? タントリス!」
呼びかけられて、彼は我に返った。テーブルの向かい側では、モグモグと口を動かしながらアーダが彼を睨み付けていた。
「ったくもぉ~! ムッツリだね、ムッツリ決定! せっかくこのアーダ様が華麗な武勇伝を語ってやってるってのに、たま~に相槌を打つだけのその態度! ホント、無闇に疲れるったら」
ゴクゴクとジョッキで水を飲み干してから、アーダは「ぷは~! 効くねぇ~!」と叫んだ。
「・・・水が、か?」
「知らないのかい? 迷い剣の水っつったら瓶詰めで売れるよ?」
「いや・・・確かに栄養価値が高いことは知っているが・・・」
売れるとは知らなかった。いや、それはともかく。
「・・・それで、どうする?」
「決まってるさ! このアーダ様から借金をして踏み倒すような真似はさせられるかってんだ!」
言い切ってから、半身を乗り出してタントリスの顔を覗き込む。
「それともアンタ・・・まさか怖気づいたとか?」
「・・・」
「そりゃないか。つか、あんな人の良さそうなおねーちゃんに怖いも何も無いわな」
ガッハッハ、と腹の底から笑ってから、アーダは残りのパンを口に放り込んだ。
「だが・・・嫌な予感がする。気を付けた方がいい」
「そりゃ~そ~だけどさ。マシュラン包囲網を単機で突破したアタシをなめんじゃないよ!」
「・・・そうだろうな」
言っても素直に聞くような女性ではない。そして自分もまた、挑まれて逃げるような人物ではないのだ。
「ともかく、今日は片っ端から宿を当たるよ! どっかにいるはずなんだ、どっかには」
自慢の勘が当たらなかったことは棚に上げて、アーダはそう言った。
「わかっているさ」
姿の見えない相手に怯えるような自分ではない。少なくとも、あの時からは。
死装束――もとい、ワン・ギン宅の人々。
拘束されていた人々が、他国のお偉い様方と一緒に食堂を囲んで朝食をとっている様は滑稽だな、とアックスは思った。
見たことも無いような豪勢な料理に、名前しか知らないような有名人と卓を共にする――その緊張たるや如何なるものなのだろうか。静まり返った食堂から、質問に答えるたびに食器を取り落とす音が聞こえてくる。
「なぁにニヤニヤしとんねん。朝っぱらから、気持ち悪いで」
「いや、なに。想像笑い」
「なんや、ラクセラはんの湯浴みでも想像しとったんかいな」
「エロいな!」
ビシッと両手でガッツポーズを取りながら、アックスがサイに向かって笑いかける。
「何言ってんねん。想像しとったと知られただけで殺されてまうわ。わてかてまだ命は惜しいねん」
「ふふふ、健全な男子はエロくていいんだ。世界中のどれほどの男子が、かの歌姫ラクセラの魅力的な笑顔と天使のような仮面に騙されていることやら」
「あ~、そうやな~。ありゃ天使のツラした悪魔やさかい」
ご当地の名物料理を食堂の隣の部屋でいただきながら、二人は忍び笑いをした。
「ん~で、話を戻させてもらうけど、どないする気や?」
少し改まった様子で、サイが声のトーンを落とした。
「結局、昨日は来ぃひんかったで、あの譲ちゃん達」
「まぁ、昨日今日の出来事だから仕方が無いといえばその通り」
「・・・それに、嫌~な感じもしとんねんで」
「・・・・・・知ってる」
少し間をおいてから、アックスが呟いた。「あの女だろ」
「せやから、先輩に問いただしとんのや。なぁ、どないすればいいんやろ」
「ま~、アレだな」
肉まんを頬張りながら、アックスがあっけらかんと言い切った。
「なるようにしかならないし、ならないようにはならないし」
「はぁ?」
「・・・つまりアレだよ。うん」
暫しの沈黙。
「いや、終わりかいな!? “アレ”やあらへんで!?」
「ま、放っておけばいいさ――今は」
お茶を飲み下してから、一息つく。そないな単純なことかいな、とブツブツ言っているサイを尻目に、蝦蒸しシュウマイを口に入れる。
「ほんほ、はいへんひゃよね」
「大変だよね、あらへんて! 先輩は気ぃ長すぎや! シャングはシャングで、殺そゆう相手を追い出そうしとるし、何でわての周りにはまともなのがおれへんのや?」
「・・・犠牲が出ず、全てが納まればそれが一番いいよ、サイちん」
「変なあだな付けんなや!!」
もしかしたら、このすぐ後に殺し合いが始まるかもしれない――そんな綱渡りの上での、気の休まるほんの一時である。
「いや、おかしいで。わてはちぃとも休まれへんやん」
「う~ん、何でだろうねぇ」
「あんたらのせいや! あんたらの!!」
◆穂永(28)
予想しなかった形ではあったが、会合は成功した。これでワン・ギンを裁き、彼に連なる不正な組織を捕え、スケイルド・ワーム密輸のルートを潰すことができるだろう。迷い剣訪問は大成功に終わったといえる。
「目的の一つに関しては――ですが」
リビングテイル見学と称する遊行の中、サフィアはぽつりと言った。
夜となってなお、喧騒静まらぬ街。歓楽の都。一国の副相が、わずか一人の供を連れただけで歩くような場所ではない。本来なら。
「――本気ですか」
ガウルが尋ねる。質問ではなく、確認である。一度言ったことを曲げる人ではないことは、よく分かっている。
「銀帽子の捜索。そして死装束の捜索。――国家予算をそちらにまで使ったと知れれば、あなたのお立場も無事では――」
「私の立場など、どうでも構いません」サフィアが答える。「彼らはエル・ドレイクを去った、我々には、さしたる被害は出ていない。――それでも、私はこのまま終わるとは思いません。おばあ様の予言が外れるとは、とても――」
「……」
「だからあなたを連れて来たのですよ、金毛のガウル。私に本来、護衛など必要ないのですから。――立場上、私には入ることのできない場所があります。そういった場所へ入って様子を探れる人物が、そして私とおばあ様の全幅の信頼に値する人物が必要だったのです」
「――はあ。そういう役目は、ゲイグのほうが相応しいと思いますがね」ガウルは曇りがちな空を見上げ、頭をぼりぼりと掻きながら、答えた。「ま、やるだけやってみますよ」
迷い剣の名物。普通の人に尋ねれば、それはマンだと答えるだろう。その道の人に尋ねれば、それは地這竜だと答えるだろう。通人に尋ねれば、それは温泉だと答えるだろう。
<竜の狩猟場>からさらに奥へ奥へ入り込むと、屹立した石山の間に、点々と温泉地が広がっている。いずれも知る人ぞ知る秘湯である。
アックスにワン・シャングがおり、加えてサイまで来ているのであれば、もう自分にすべきことはない。彼らに任せておけばことは済む。気は楽だが、同時にそれは、自分が無駄足を踏まされたことも意味している。
「なら、温泉にでも入らないとやってられないわよ」
熱い湯に漬かりながら、ラクセラはぶつぶつと愚痴をこぼした。
竜の狩猟場の奥の温泉の中でも、とりわけ奥にある秘湯中の秘湯。険しい道を踏破してこの温泉に至ることは、並大抵の体力ではかなわぬこと。そんな苦労をしてまでこの湯に入る者はない。で、湯の中にいるのはラクセラ一人であるし、出るまで一人であるだろう。
そう思っていたのだが。
「失礼、ご一緒させていただくわ」
熱い熱い湯の中にあって、ラクセラは身体の心から凍りついたかと思った。
「――『銀帽子』、じゃないわね。『銀の手袋』?」
「そうよ。確かめるまでもないでしょ? お互い、良く知っている仲じゃない」
「どうして、ここに来たの?」
ラクセラは身構える。メイズに似たあの赤い女は、平然と答える。
「温泉の中でそんなふうにしてちゃだめよ。心を平静に保たないと、秘湯の効き目はないわ」
「質問に答えなさい」
「――ちょっと『銀帽子』に」ラクセラの顔に表れる反応を楽しみながら、メイズに似た女は充分に間を空けて、言った。「悪ふざけをしにね」
顔を真っ赤にするラクセラ。対してメイズに似た女は余裕たっぷりである。
「私たちの邪魔をすれば、ただではすまないわよ」
「分かってるわ、ラクセラ。そう目くじらたてちゃだめよ、私より弱いと思われるわ。くすくす、伝説の死装束が、たかが『銀の手袋』に挑発されてちゃね」
「殺されたい?」
「遠慮したいわ。だいたい、ここはそういうことには相応しくない場所よ。そういうことは――ほら、ルリシェイダまでとっておきましょうよ。――ふふ、怒らせたお詫びに、一つ面白いことを教えてあげましょうか」
ラクセラは答えない。
「『銀帽子』の夢に接触した者がいるわよ」
ラクセラは答えない。口では。しかし、眼は口ほどにものを言っていた。
「風が吹いてきたね」
空。捕われない者たちの世界。
「そうっすか? 静かなもんっすよ」
翼の生えた馬に跨る青年。青年が一人で会話の真似をしているのか、馬と会話をしているのか、傍目には判別しづらい。
「いや、吹いてるさ。でもまだ、嵐にはほど遠いな。大体、迷い剣は嵐には相応しくない場所だしね」
青年、アストラル・エックスは、まぶしいほどに灯火のきらめくリビングテイルを見下ろしながら、言った。言い終わって、少し視線をずらす。ハグレ竜のフラスクエアーは、つられて視線を上げる。
竜がいた。眼も耳もない、翼も手足もない、ただ鱗と不気味な黒い口だけが見える、巨大な竜が。空からでもくっきりと見えた、その竜が、リビングテイルへ向かってよたよたと這っていく様子が。街の人々は、未だそれに気づかない。
「あわわっ――!」フラが頓狂な声を出す。「ありゃ、ずっとずっと年上のお仲間じゃないっすか」
「ほらね、風が吹いてるだろう。ほんのそよ風だけど」
「どこが――大暴風っすよ、これ」
そんなものは、大暴風ではない。
ルリシェイダを知る者なら、誰でもそう言うだろう。
29(バーネット)
――スケイルド・ワームという生物については未だ不明な点が多い。生息地は迷い剣の首都リビングテイル近郊の岩場のみ。かつては子供が捕まえておやつ代わりにするほど大量に生息していたのだが、その鱗や肉の効能が世界中に知られるようになると乱獲がおこり、今では見かけることはめったになくなってしまった。その単純な身体構造はミミズに似ており、ミミズの仲間ではないかとも思われているが、実際のところ全く別種の生物である。幾人もの専門家がこの生物について研究を続けているが、スケイルド・ワームの激減に対してリビングテイルの政府が打ち立てた禁猟法によりサンプルの採取が極めて難しくなったこともあり、あまり進んでいるとは言えない状況にある。
それゆえ、知られていないこともかなり多い。鳴き声を発する、共食いをする、寿命は大体30年ぐらい、エトセトラエトセトラ。そしてその中の一つに生殖器を持っていない、というのがある。つまりスケイルド・ワームは生殖能力をもっていない――繁殖することが出来ないのである。しかしそれでもスケイルド・ワームは死滅することなくいまだ存在し続けている。もしこの事実を専門家たちが知ることになれば、彼らを大いに悩ませることとなるだろう。しかしそれでもこの生物はこの地に確かに存在している。スケイルド・ワームとはそういう生物である。
それは恐るべき速度で大地を這っていた。岩を砕き、木々をなぎ倒し、偶然進路上にいた生物をいくつか踏み潰しながらそれは愚直にまっすぐと進み続ける。
――迷い剣ではスケイルド・ワームは地這い竜と呼ばれている。迷い剣においてはむしろこちらのほうが一般的な呼称であり、年端の行かない子供でも知っていることだ。しかし、翼も手足もあまつさえ顔すら存在しないこの生物がなぜ竜と呼ばれるのかということを知るものは誰もいない。
その呼称の理由を知るには、迷い剣に初めて人が訪れた頃まで遡る必要がある。
迷い剣は比較的歴史の長い大陸ではあるが、当然ながら先客――つまりそれ以前より生息していた生物が存在していた。そのうちいくつかの種は今ではもう見ることが出来ない。人が自らの生きる場所を作るために戦った結果、そうならざるを得なかったのである。
逆にその頃から現在まで存在しているものもある。地這い竜――スケイルド・ワームもその一つである。基本的には害の無い生物なので特に集中的に駆除されることが無かったためであろう。
だが、古い伝承――すでに忘れ去られて久しいが――の中には地這い竜と人との戦いを描いたものが存在していた。この伝承に登場する一匹の地這い竜――この頃はまだ名は無かったのだが――は雲に届くほどの巨体で、一度戦いとなればその体を振り回すだけで何人もの命を奪ったという。その暴れぶりから『地を這う生ける暴竜の尾』と形容され恐れられた、とこの伝承では語られていた。『地這い竜』という名はこれから来たものである。また、この伝承の中には一度に何百という数の子供を産むのを見たという話も含まれている。もっともあくまで伝承ではあるが。
それはただただまっすぐ最短距離で目的地へと向かっていた。その直線上に存在するものすべてが桁外れの巨体によって蹂躙されつくした。破壊の直線の先に存在するのは首都リビングテイル。迷い剣最大の都市。何かに導かれるように、すべての地這い竜の始祖であり最初にして最後の真の地這い竜――すなわち本物の竜たるその破壊者は確実にその距離を縮めていた。
銀帽子30(皆既日食)
チョン・オットーは古株の軍人である。
いや、別に偉いわけではない。士官学校を出ていない彼は40の半ばを過ぎた今でも単なる下級兵だ。年下の士官たちにあごで使われる、うだつのあがらない中年オヤジなのだ。
そんな彼の座右の銘は「楽して生きろ」
別に功績をあげたところで出世できるわけでもなし。戦時中でもないので命を張るような場面はほとんどない。この年になるとさすがに彼もベテランである。上手なサボり方なら本にできるほど精通している。
さて、そんな彼の今日のお仕事は街の門の警備。サボりには最高の職場だ――なにしろ、こんなはじっこまでお偉いさんが見回りに来ることなんてありゃしない。でもって相方は気心の知れた同期である。これで一杯やらなかったら嘘ってもんだ。
「ところでチョンよぉ」
「なんでえ」
二人ともすでにいい感じにできあがっている。
「知ってるか?他の大陸からやべえ連中が入ってきてるって噂だぜ」
「はっ何言ってやがる。どうせ俺たちにゃ関係ねえ話だろが。あんまりやばけりゃさっさと逃げちまえばいいのさ。責任はぜーんぶお偉いさんがとってくれるぜ」
「おいおい、仮にも街を守る衛兵がそんなこと言っていいのかよ」
二人そろってガハハと笑う。
「でもよ、そいつら追って死装束も来てるって噂なんだよ」
「どーせガセネタだろ?お前の噂がほんとだったことなんてほとんどねえだろが」
「ちげえねえ」
やはり笑いながらちびちびと酒を飲む。これがチョン・オットーの幸せな日常。金に不自由するわけでもなく、家に帰れば女房と子供。職場には気の合う仲間たち。上を見ればキリないが、背伸びをしないでやっていけばそれなりに幸せになれるもんだ。今日も明日もあさっても、きっとこの日常はずっと続いてくれるはずだ。
ずずずず、と、大地が小刻みに揺れ始めた。
「あ?地震か?」
「ひゃはははっ。とうとうアル中かよチョン」
「んなわきゃねえだろ。そんなに呑める暮らしじゃねえよ」
上着を着て警備室を出る。揺れが長い――不安になったお偉い若造どもが見回りなんぞを始めたりしたらコトだ。とりあえず真面目に仕事のふりとしようか。
一歩外に出た瞬間、チョン・オットーはありえないものを見た。
いや、これは幻覚だ。相方の言うように呑みすぎたのかもしれない。
リビングテイルで生まれ育った彼は、地這竜ぐらい見たことはある。しかしこんな馬鹿でかいものだったか?
地響きをたてながらリビングテイルに迫る巨大地這竜をまるで他人事のように見上げながら、ただただ口を開けて唖然とするばかりだった。
始祖の竜が、すべてをなぎ倒しながら彼に向かって突き進んでくる。
その日、チョン・オットーの幸せな日常は幕を下ろした。
31(藤枝りあん)
「まぁ、何でしょうな」
人々が慌てふためいて逃げ惑い、警鐘がガンガン鳴り響く中、アックスは裏通りをいつものようにぶらぶら歩いていた。ただ違うのは、隣に連れがいて、しかもそれがかの歌姫ラクセラであるという点である。一介の旅人と世界的な歌姫――全く無関係であろう二人だったが、彼らには恐ろしくしっかりとした接点があった。
「ぶっちゃけ、面倒には変わりないと」
「ええ、ご心配無く。こいつからは片時も目を離しませんから」
「ラクセラちゃん、先輩を疑うってどういうこと?」
「・・・いえ、何でもありません。ただの雑音です」
無視かよ、とアックスはぶちぶちと独り言をこぼした。いや、本当は相手がきちんと“いる”のだ。ただ、彼ら以外の誰にも聞こえないだけで。
気を取り直して、彼は続ける。
「予言が成りつつある、ってことですかね」
相手から何かしらの返答があったのだろう、二人はほぼ同時に軽く頭を垂れた。
暫しの沈黙。
「アックス」
先に口を開いたのはラクセラだ。
「サイとシャングが動きを察知出来る立場にいて、キーパーソンが逃げ出さないように見張っていられる反面、迂闊に動けないっていうのは了承済みよね」
「ん、まあ」
気乗りしない返事が返ってくる。が、ラクセラは軽く無視をして言葉を継いだ。
「――だから始末して」
「この混乱のどさくさに紛れて?」
言わんとすることがわかって、アックスがくすくすと笑う。
「けど、うまくいくかな? 無理っぽくない? ってか無理でしょ?」
ふん、とラクセラが鼻を鳴らす。
「冗談じゃないわ。出来ないはずがないでしょ。下手したらシャングにも出来る仕事よ――表沙汰になってもいいなら」
プッと思わずアックスが吹き出す。
「何言ってんのさ。もっと無理。あのさ、悪いけど人を買い被り過ぎ――」
「・・・実力の一割も出さずに遊び歩いてるだけだって、ロクサーヌ様にお知らせして欲しいわけ?」
無表情で、ラクセラがそう言い切った。グッとアックスが言葉に詰まる。ややあって、
「――わかったよ」
諦めたように、アックスが頭をぶんぶんと振った。
「今度だけは、まじめにやるよ」
その返事から数秒もたたぬうちに、アックスは人ごみへと姿を消していた。
あの男が強いのは確かなのよね――ラクセラは悔しげに歯噛みした。でなければ、あの男達――冒険家のクラーヴスと吟遊詩人タントリスらに逆に殺されていたのは自分の方だったのだから。
タントリスをじきじきに消してやれないのはつらい。それでも、死装束は与えられた任を全うするのみ。私情なんか挟まないわ――ラクセラはフードを目深に被り直すと、アックスとは逆方向の表通りへと姿を消した。
かの地這竜が現れたと知らされた時、力あるものはこう思う――自分も何か協力出来るのではないか。
そして一般人はこう思う――すぐにここから逃げなければ。
だからこそ、メイズは悩んだ。
結論から言って、レイリンとリオはシャング邸に残ることになった。メイズとビスが、多少なりとも責任を感じたのか、地這竜を止めたいと出て行ってしまったからである。
メイズはこう言い訳した――嫌な予感がするから、手伝いに行きたいの。すぐに片付けちゃうから、心配しないで。
しかし、彼女を突き動かしたのは自分の心にこだましたこの一言「あの時のようにさせてはならない」というものだった。ただ、『あの時』がわからず、それがおそらく自らの記憶と関連があると感じ取ったがため、彼女は理由を伏せてかの竜を退治すべく準備をした。
ビスはこう宣言した――俺がメイズを守ってやるから。だから一緒に行くぜ。
そしてそれは、彼の、メイズを思うが故の行動であった。そして、いきさつは知らないが、各国のお偉い様方が滞在しているというシャング邸ならば、リオを置いて行くことに不安が無いからである。むしろ、今回はリオには関わって欲しくなかったからだ。幼子にはあまりにも、危険すぎるのだから。
リオは嫌がった――どうして、リオもいっしょに行くよ。留守番なんていやだよ。
彼女はこう感じた。ここで別れたならば、もう会えなくなってしまうのではないか、と。しかし、状況が状況なだけに、彼女の意見は通らず、シャング邸に留まることとなった。
レイリンは言った――大丈夫ある。ここなら安全だし、メイズさん達は強いある、すぐに終わるね。
事実、彼女はここ、シャング邸において密猟以外の陰謀が渦巻いていることを知らなかった。だからこそ、リオと共に残ることを了解したのだ。
後から悔いる、と書いて後悔である。
アスの敗因といえば、死装束が思った以上に重役を任されているということであろう。そして、件の時よりも確実に力をつけているということ。
――結果、彼が少女の身を案じてシャング邸へ乗り込んだ時は既に遅し。
もう、そこにはリオという少女の姿は無かった。
少女の身柄がどのようにして死装束の手に落ちたか、そのことはまた後で説明しなければならない。しかし今はそれよりも、暴走する地這竜を如何な機転をもって征したのか、それを語らなければならないだろう。
再び、場面は街の門へと戻る。
ただし、先程よりもだいぶ時が経った後の、門へと。
◆穂永(32)
砂塵が舞い、瓦礫が山を為し、矢が雨となって降り注ぐ。
銀緑色の長竜がその中でうごめいていた。
始まりの竜が頭をもたげれば華やかな町並みは灰色の廃墟となり、尾を振れば屈強の軍隊が物言わぬ肉塊となる。もうそこに、生きた民はいない。ただ竜の咆哮と、絶望的な戦いを繰り広げる兵士たちの悲鳴だけが聞こえた。矢の雨はなおも降り注ぐ。竜は全身にそれを浴びるが、針ねずみのようになった身体から生命が消える気配は微塵もない。
「見ていられませんな」と斧を肩に担いだ金毛のガウルが言う。
「矢を万本射込んだところで、あの竜を倒すことはできないでしょう。この兵士たちは、ただの時間稼ぎというわけですか」
サフィアの視線が空を見る。スカイウォーカーや飛行艇が飛び去っていく。
「――お偉方が逃げ切るまでの」
「副相、本気で逃げないおつもりで?」
「私たちのスカイウォーカーは盗まれてしまったじゃありませんか。どうやって逃げるのです?」
「やれやれ、あなたもお偉方の一人でしょうに」
竜のありもしない目がサフィアを見た。二人が身構える間もなく、竜が素早く突貫してくる。
サフィアが掌を出した。
何かが破裂したような音がして、竜が大きくのけぞった。同時にガウルが跳躍して、竜の下顎あたりに思い切り斧を叩きつける。がちんと金属音がした。竜が頭を振ると、ガウルは弾き飛ばされた。サフィアがその巨体を軽々と受け止める。
「――傷は負わせられましたか」
「ダメですな。斧のほうが欠けてしまいました」
「分かりました。武器も並の魔法も通じないようですね――アレをやってみます」
このお嬢が制止を聞かないことは、ガウルも先刻承知である。
サフィアが呪文の詠唱を開始する。ガウルが斧を片手に一直線に地這竜に向かう。まずは叩きつけて一撃。ついで切り上げ。そして巨体に似合わぬ素早い動きで左方へ跳躍。見えるはずの無い目で竜は左を向き、ガウルを飲み込もうと頭から突っ込む。ガウルはひらりとかわして竜の側頭部を強打。ついで後方へ飛びすさる。が、そこには竜の尾があった。尾の一撃で、ガウルは跳ね飛ばされる。
「っわ――!」
悲鳴にならない声を上げて、ガウルは瓦礫の山に叩きつけられた。ぐらつく頭を起こしてみれば、竜はサフィアの身体をまさに飲み込まんとするところ。
「お嬢様――!」
副相、と呼ぶべきなのを忘れて、ガウルは叫んだ。サフィアは詠唱中で動けない。と竜の頭へ、炎のつぶてが無数に襲い、さらに兵士たちの矢とは違う、太く長い矢が突き刺さった。竜は頭を横向きにしてわずかに怯んだ。その瞬間、サフィアの魔法が発動して、竜を氷漬けにした。
サフィアは命の恩人をちらりと見て、目を見開いた。
「銀帽子のクロウ」
首都を騒がせたあの深淵の使者だった。
「やはりここへ来ていたか、銀帽子!」
いつの間にか近くへ来ていたガウルが叫ぶ。メイズは眉をひそめる。ビスは露骨に嫌な顔をする。
「助けてやらなきゃ良かったかな」とビスがつぶやいた。
ガウルが牙を剥いて斧を構える。本気と知ってビスが剛弓に矢を番える。
「よしなさいよ、ビス」
「いや、しかしだな」
「――そんな場合じゃないの」
ビスとガウルが、メイズの視線を追った。サフィアは最初から同じ方向を向いている。氷漬けの地這竜が、ぴくり、ぴくりと動いていた。間もなく氷が四方に飛び散り、同時に竜の咆哮が轟いた。自ら束縛の縄を断ち切ったのである。
「ぅぁ……」
さしものビスも、これには声が出ない。
だがメイズは冷静だった。サフィアの隣に駆け寄り、言葉をかける。
「さすがにあれも少し動きが鈍ってるようだけど、」続けた。「まだやれる?」
「もう大きな魔法は撃てませんよ」サフィアが答えた。「小規模なものならともかく、でもそれではかすり傷だってつけられないでしょう」
「なら、外側からあれに傷をつけるのは無理そうね」
それはサフィアも、最初から考えていた。鱗を切り裂いて竜を傷つけるのは不可能、ならば口中を攻撃するしかないと。
だが確実に口中に傷を与えるには、竜の巨大な牙が身に迫るギリギリまで近づかなければならない。そうするとこちらが殺される可能性が大きすぎる。ついでに言えば、それで竜を殺せるとも限らない。
竜は別な方向を向いて暴れていた。残っているわずかな兵たちの数が減りつつあった。
「他に上手い方法も出そうに無いし」ビスが言った。「俺がやろう」
三人が一斉にビスを見た。
「俺の弓ならある程度距離を空けてあれの口の中を狙えるからな。とりあえずメイズも、あんたたちも、魔法かなんかで誘導して、あれを俺の方へ向けてくれ。したら、とりあえず射ってみる。それと、危なくなったら助けてくれよ」
メイズが炎のつぶてを、サフィアが電撃の槍を飛ばした。竜が反転してこちらを向く。ガウルが跳躍して斧を叩きつけ、また跳びすさる。竜が吼えて突進してきた。その先に、ビスが弓を構えて待ち構えていた。
「そら!」
ビスを飲み込もうとした竜の上口蓋に矢が突き刺さった。竜が悲鳴を上げてのけぞる。
「もう一丁!」
竜が再び頭を下げた瞬間、ビスは矢を放った。が、今度は竜は怯まなかった。口中から黒い血をしたたらせながら、ビスの頭へと突っ込んだ。
なぜだったか分からない。
ビスはかわせたかもしれないし、かわせないなら魔法で引っぱって竜の牙から逃れさせればよかったのだ。
だがメイズは咄嗟に、駆け寄ってビスを突き飛ばした。ビスの代わりにメイズは竜の頭の下に立った。
竜が再び頭をもたげたとき、メイズの姿は消えていた。
ビスは唖然として竜を見た。サフィアは唇を噛んだ。
◆
目を開けても、目を閉じても変わらなかった。つまり、何も見えなかった。
目が見えていないのではなく、光が無かったのである。
身体に苦痛はなく、五感は正常に機能し、頭は冴えていた。だから地這竜に飲み込まれたことに気づくのに、しばらく時間がかかった。
……びいぃぃぃぃぃん……
耳鳴りがする。
――また会ったね、メイズ。
あの声が聞こえた。――あの声? はて、いつ聞いた声だろう。
「鳴き蛍の――」
――覚えていてくれた? 実に嬉しいな。
心臓が踊る。得体の知れない震えが背筋を駆け抜ける。
――早く本当に会いたいよ。今はまだ、竜の中でしか会えないんだもの。
「あなたは――」
――この前は夢の竜、今は地の竜、さて、次はどの竜の中だろう? ねえメイズ……。
こちらも順調にエラーです。
あと短いのはご容赦を。……テストがッ! テストが悪いんだッ!!
謎の女出現。あれだ、きっといろんな秘密の鍵になってるに違いない。ファンタジーには魔女を出したくなる年頃なんです・・・(日食)
サイちんが哀れ。というか、アックスの普段状態はギャグとしか・・・死装束も色々大変らしいです(R)
巨大地這竜を悪ふざけという魔女。そよ風というアス。うん、メイズたちはきっと、この苦難を軽々と乗り越えるに違いない。穂永。
決戦の地はやはりリビングテイルで。果たして誰が始祖の地這い竜を止めるのか。っていうか本当に止められるんだろうか……(バーネット)
ゴジラ(もどき)登場!大都市で暴れまわる巨大怪獣には浪漫があると思う。(皆既日食)
左様ならば逃走 ε=ε=┌( ・_・)┘(R)
はいデッドエンド。
……いや冗談です。むしろここからが本番でございますよ。きっと。穂永。
最終更新:2013年06月12日 22:22