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銀帽子のメイズ 33~

2005年10月17日(月) 15時11分-月組

 

  33(バーネット)

 銀帽子のクロウが飲み込まれてもサフィアはあくまで冷静だった。一国の副相たるものがこの程度のアクシデントで慌てふためくことなどあってはならない。予想外の出来事が起こったとき正確な判断を下せなければ被害はさらに拡大する。こんなときだからこそ冷静に対応しなければならないことを経歴上サフィアは良く知っていた。
 銀帽子のクロウを飲み込んだ巨大地這い竜はそれで満足することなく――あの怪物にとっては銀帽子も他の人間も同じに違いない――その巨体で醜悪かつ不恰好なダンスを踊りながら死と破壊を量産し続けていた。恐らくは秒単位でいくつもの命の灯が押し潰されているのだろう。
 その様子を無表情で観察し、現在の彼我の戦力差は絶望的というほどまでは行かないものの明らかに不利であるとサフィアは判断した。
 リビングテイルの守備隊の数は決して少なくは無く、動きを見る限りは質のほうもなかなかと言える。がしかし、ルリシェイダの一件以来表向きには何もなかった――表沙汰に出来ないことならいくつもあったが――ため覚悟の無い、つまるところ平和ボケした兵の前にあんな怪物が現れればどうなるかなど見なくても分かることである。
 今のところまだ指揮系統が生きているらしく――ときおり指示を出す声や怒号が聞こえてくる――統率は取れてはいるが、それも時間の問題だろう。場合によってはリビングテイルを見捨て、援軍を呼ぶことが必要となるかもしれない。
 それら全てを考慮に入れ、迷うことがマイナスにしかならないと知っていても、しかしサフィアは決断を迷っていた。
 彼女は文官であり、戦争――サフィアはこれを戦争と呼んでも差し支えないと思っていた――の仕方など知らなかった。彼女の側近も戦いの仕方なら分かるのだが戦争の仕方は知らないだろう。そしてこの場にいれば有益なアドバイスをしてくれたであろう本職の戦争屋は空の上である。
 と、すぐ隣でしゃがんだ格好のまま呆然と巨大地這い竜を見上げていた銀帽子の仲間と思われるファングの青年がすっと立ち上がった。そのままゆっくりとしかし確かな足取りで竜のほうへと歩いていく。
「…………!? 待ちなさい!」
 その背中から発せられる何かに一瞬気圧されたものの、サフィアは彼を呼び止めた。
 一目見ただけだったが青年の能力はかなりのものだろうとサフィアは認識していた。それに戦い慣れてもいる。この場で戦うにしても、援軍を呼ぶにしても青年は大きな戦力になるだろう。
 青年は立ち止まった、が振り返ることはしなかった。その背中を見たままサフィアは言葉を続ける。
「今のままであの怪物に立ち向かうなどただの無謀でしかありません。せめて一時でも体勢を立て直し、作戦を練って挑むべきです。……地這い竜の消化能力は高くありません。二、三日程度なら彼女自身の力で耐え切ることが可能でしょう。それにもし――」
 彼女が死んでいた場合――と続けようとしたが、青年の放つ威圧感が大きくなった気がしてサフィアは口をつぐんだ。――しばらくの後、今度は青年が口を開いた。
「あんたは多分頭がいいんだろうな。魔法だって使えるし。だからあんたの言ってることはきっと正しいんだと思う。……俺さ、いつもメイズにもっと頭を使えって言われるんだけど、それでもやっぱり難しいことは分かんなくてさ――」
 メイズ、というのは確か銀帽子の名前だった。そういえば目の前のこの青年の名前をまだ聞いていない、と場違いだがなぜかそんなことを思う。
「――だからあんたの言うことは分からない! そーゆーわけでさ、俺は自分なりの単純なやり方でやらせてもらう」
 そう言い残して、名前すら知らないファングの青年は一度も振り向くことなく竜へと向かって行き
 ――そして上空から飛来するように襲い掛かった巨大な口の中へと消えていった

34(皆既日食)

「これ、お嬢さんや。目を覚ましなされ」
突然声をかけられてはっとして目を覚ます。気が付けばメイズは地面の上に倒れていたのだった。・・・はて。自分は地這竜に飲み込まれたはずなのだけど。
「ふぉっふぉっふぉっ、気が付きなさったか。とりあえず無事で何よりじゃ」
目の前には真っ白な髪とひげで頭部のほとんどが覆い尽くされている小柄な老人がひとり。
「あ・・・どうも。えーと・・・」
「わかっとるわかっとる。ここがどこかということじゃろう?安心せい。あの馬鹿でかい地這竜の腹の中じゃよ」
「おなかの中・・・ここがですか?」
周囲を見渡せばそこは巨大な洞窟の中。特に今メイズたちがいる場所はまるで広場のように広大な空間だ。ところどころに張り付いたヒカリゴケが淡い輝きを放って、幻想的な光景を演出している。
「ふむ。まあ正確に言えば腹の一つということじゃのう」
「は?」
「ふぉっふぉっふぉっ、まあ多少込み入った話になるでのう、まずはわしの家にきて腹ごしらえでもせんか?」
そう言って老人は、右手に持ったキノコのどっさり入ったかごを示して見せた。


先ほどの広場から少し歩いたところに、老人の暮らす丸太小屋があった。
で、現在メイズはゼノンという名の老人の作ってくれたキノコスープをご馳走になっている。
「ここにはいろんな種類のキノコがあるでのう」
実際いろんな種類のキノコが入っていた。普通のキノコはもちろん、なぜか肉としか思えないキノコ、じゃがいもやにんじんの味がするキノコ――ついでに言うと、老人が暮らすこの丸太小屋も巨大キノコからつくったらしい。
食べてる途中、うっかりリビングテイルのことを完全に忘れてしまっていたのは秘密だ。
「ごちそうさまでした。――と、そうだ。結局ここはどこなんですか?」
「あの巨大地這竜、すなわち始祖地這竜<ガギルグルオン>の胎のひとつじゃ」
「胎?」
「胎とはガギルグルオンの内部にある無数の亜空間のことじゃよ」
「亜空間?生物の中にですか!?」
「しかも無数にじゃからのう」
「信じられない・・・」
「まあ、地這竜は亜種の竜じゃがその始祖ともなると真性の“龍”と呼べるからのう。真性の“龍”とはそもそも人の常識で量りきれるものではないわい。ちなみに胎どうしは路で繋がっておっての、行き来は自由じゃ。じゃがわしもすべてを把握しておるわけではない。長いことかかって把握できたのは72個の胎だけじゃ」
「長いことかかって?まさか」
「そのとおり」
老人はにまっと笑って言った。
「このガギルグルオンは数百年ごとに暴れよっての、わしもずっと昔に喰われたわい」
ストーブにかけられていたヤカンが、ピー!と笛を吹いた。

「・・・・・・・お歳をうかがってもよろしいですか?」
「知らんのう。飲みこまれてしばらくは数えていたんじゃが面倒でやめてしもうたわい。なぜかここに来てから老いた気がせんしな」
ヒカリゴケには12時間単位で光量の劇的な増減をする性質がある。それでもって日にちをかぞえることができるのだ。
「慣れるとここも快適じゃぞ?食料は有り余っておるし、胎によってはガギルグルオンの飲み込んだ道具が落ちておるところもある。知っとるか?ここの地方の地割れの底はコイツの胎につながっとることがあるんじゃよ。それになにより、始祖の“龍”の研究をするのにここ以上の場所はないからの」
「竜の研究をなさっているんですか」
「うむ。なんせこの世で最大の神秘じゃからのう。漢の浪漫じゃ!」
「はあ・・・・それより、ここから出るにはどうしたらいいんですか?」
「知らん」
即答だった。


35・藤枝りあん

 迷い剣の美しい景観は、見るも無残な状況にあった。とはいえ、まだ、街に入っていないだけマシというものなのだろうか。
 その様子を、上空から眺めている影が二つ。アスと、フラだ。
「・・・そのうち、軍が来るだろうね」
「え? もう来てるッスよ」
「他の国から」
 行って、アスが意味深な含み笑いをする。
「基本的に、国同士は――いや、大陸同士は無干渉が鉄則。ところが、こういった予期せぬ天災が生じた場合において、友好の態度を示す」
「(天才が生じると仲良くなるんスか。意味不明~)」
 妙な考えに首を捻るフラをよそに、アスがぼそりと呟いた。
「懐かしき月が、また」


 『暗き宮の月』は――かつては『光る宮の月』と呼ばれ、首都『ルリシェイダ』を筆頭に繁栄を極めた浮遊大陸だ――既に、この世には無い。あの、『闇月の呪い』と呼ばれる、災厄によって。

 繁栄を極める、というのは時に人の驕りを生む。
 自らが世界の中心であるとの錯覚、そしてそれを根拠に行われる行為。生命を弄ぶ行為ですら。
 この世界には竜がいる。
 伝説として、そして日常として、浮遊大陸は竜と共に生きていた。多くの謎を秘めたこの生命体と、親しくなり、あるいは争い、それでも共存の道を歩んでいた。
 しかし、ある時、人はその未知なる能力に惹かれ、奪い合った。
 そして終焉の時。
 彼らと共鳴すべく造られた『銀』が失われ、互いに信じあう心すら消え去ってしまった人間達は、滅んでしまった。無辜の民を道連れに。
 銀に輝く月は、闇の中へと消えてしまった――


「それ、何の歌だい?」
 地這竜を眼下に、アーダがタントリスに尋ねた。
「・・・昔、友から聞いた」
 そっけない答えに、「あ、そ」とだけ返して、アーダはもう一度下を見た。
 暴れ回る地這竜・スケイルドワーム。ここからだとちょうどいつもの大きさだが、実際はというと――想像したくも無い。
「しっかし、どぉすんのかね? アタイらもここで歌うたって見学するわけにも行かないだろう?」
 返事は無い。
「・・・まぁ、いいけどさ」
 言って、アーダは軽くため息をついた。飛空艇の調子さえよければ、昔のようにドンパチ出来るのだろうが、そうもいかない。年季の入った彼は、次の大陸まで飛ぶのが精一杯だろう。無理はさせられない。
「というか、何でこんなトコにつれてきたのさ?」
 逃げるならば空港へ行くべきだが、タントリスがつれてきたのは山とでも言えそうな高い場所。文字通り、高みの見物といった場所だ。
「いや、少し、な」
 言いながら、タントリスは油断無く身構えた。
 朝の警告が気になっていた――もし警告者が、彼の知るような奴らの一員であるとすれば、混乱程度で矛を収めるようなものではないからだ。むしろ、混乱に乗じて行動をしてくるだろう。
 となれば、街中は危険すぎた。人ごみにまぎれて何が起こるかわからないからだ。
 そこで彼はこの場所を選んだのだが――彼は後に、そのことを深く後悔することになる。
 彼らは、まだ知らない。
 “死”という名の衣をまといて、全てに等しく命の断絶を告げる存在が、ずっと彼らと共に行動していたということを。そして今まさにその黒き影が、彼らの命に触れんとしていることを。
 知りはしないのだ。

「・・・今、何つったスか」
「何度も言いたくないな・・・静観する、と言ったんだ」
 アスの思わぬ一言に、フラの表情がクシャクシャッと潰れる。
「な、何でッスか! アイツを止めなきゃ人が死ぬんスよ!?」
「そのぐらい誰でもわかるよ。助けたければ君が行け」
「・・・ッこの、人でなし! 鬼! 悪魔!!」
「何とでも」
 つらそうに笑うと、アスはこう、怒り狂う親友に告げた。
「でも、これからもっと死ぬ。遅すぎたんだ。何もかも」

 エラーの脅威再び。これで何たび目だろう。
メイズに続いてビスもパクリ。巨大地這い竜の猛威はまだまだ続く……のか?
細かいところをちょこっと修正。藤枝さんありがとうございます(バーネット)

巨大生物の中には住人が!よくあるよねこんなパターン(確信犯) 皆既日食

意味深なだけ。さあ、アーダとタントリスの運命は如何に!? vsアックスバトル、どーぞ(またかよ!)(R)

最終更新:2013年06月12日 22:29