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キノコ勇者・35~

2005年10月31日(月) 16時26分-月組

 

◆藤枝りあん(32)

 振り下ろす。
 もはや絶体絶命――そう思い、身を硬くした一同の頭上に、風を切る音が聞こえた。
   ふゅん
 間。
 衝撃も何も来ない。
「あ、あれ?」
 恐る恐るプルが瞳を開けると、そこには、上段から剣を振り下ろしたまま固まってしまっているグラシリスの姿が。
「・・・ファリン」
「・・・うむ、言いたいことはわかった」
 二人の魔衆がチラとわずかに目配せをし、頷きあう。
 そしてその時。プルは神の声を聞いた気がした。

               ――しかし、MPがたりない!――

「ふ、ふははははは!」
 いきなりグラシリスが声高に笑った。
「まんまと騙されたな! 貴様らごときにこのグラシリスが本気で戦うと思うてか!」
 うわあ、絶対に負け惜しみだ――その場にいた全員(野次馬含む)が同じ事を考えた一瞬であった。
 しかし、戦闘中の者、特にプルを庇うように立っている乱入者のおっさんはすぐさま思考を切り替えた。おそらくは、というか絶対に偶然に決まっているのだが、ほか事を考えた隙をグラシリスは逃さなかった。怪我の功名というヤツだろう、多分。
 だが、対する男は悠長には構えていられなかった。理由の一つは、彼が本来の目的としなかった戦闘に巻き込まれてしまったがために防具が極めて弱いこと。果たして上段に振りかぶるグラシリスの刃を受けきれるだろうか――否だ。ならば避けるしかないが、後ろにはおおよそ戦闘とは無縁の少年少女。それがもう一つの理由だ。敵の戦法とすれば、このまま衝撃波を生み出して直線的な攻撃を出すこと。彼が避ければ二人はかなりのダメージを受ける、が、避けなければ今度は彼自身が危険だ。
 ――しかし、彼は迷わなかった。守るべき急所を腕で覆い、足を踏ん張って構えた。
「っはっはっはっはっは! 我が一撃、その程度で耐えられると・・・儚い望みだなぁ!!」
 ようやくプルが気付く。まさに刃が振り下ろされんとしているその瞬間に、見知らぬこの男性が自分とヴェルを庇って身を危険にさらしているのだ、と。
 だが遅すぎる。
 加速術を使おうとしたミセナはもう一人の魔衆、ラルガに簡単に阻まれて距離を離されてしまっている。
 まさに万事休す――
 その時。
「燃え尽きろぉッ!」
 叫びと共に、グラシリスの眼前で火が踊った。
「うあ、っちぃ!!」
 予想だにしなかった攻撃に思わずひるんだその隙に、男は彼の腹に二度目の拳をめり込ませた。ズザザァアッと土埃を上げながらグラシリスが吹き飛び、男が攻撃態勢をとって周囲を見渡す。今の攻撃はどこから――と。
「ちょ、邪魔や! そこ、どきぃな!!」
 野次馬を裂く怒声が響いた。それに連なって、「はいはい、ちょっとお邪魔しますねぇ~」やら「どけ」やら「ごめんッス」やら「道をあけてください、すいませんね」やらの声がして、野次馬をかき分けながら数人の奇妙な格好をした者達が現れた。
「よッ」
 複眼のような瞳に、頭からぴょこんと触覚のようなものが突き出た男性が手を上げて挨拶をする。
「だ、団長・・・クレンタさん!?」
 彼の笑顔に答えたのは、ヴェルだった。が、その声は狼狽に近い。
「まぁ、聞きたいことはいろいろあると思うンスけど」
 と、少年剣士風の一人が細剣を抜き放つ。「それはまた後でッス」
「そやね」
 とこれはクレンタ団長。ザッと状況を見回すと、咳払いを一つ。
「さっさと幕にしよか」
「えぇい、貴様らッ!」
 怒り心頭で、グラシリスが立ち上がった。
「厳粛なる戦いの場においてちょっかいを出すとは醜い! 実に醜いぞ!」
「醜いのは顔だけにしろ! ってこと?」
「成る程」
「――納得するなよ」
 猫耳の少女に、犬頭のがっしりした男、そしてすらりとした美人――合わせて5人だ。その後ろでは、野次馬の最前列を陣取って、団員達がヤンヤヤンヤとはやし立てている。
「何者だ、名を名乗れ!」
 グラシリスがクレンタに剣を向ける。
「え~、面倒やわぁ。好きに呼びぃな」
「カッパヘロチョンとか?」
「・・・マッスルボンバーII」
「いや、ここは純粋に名無しの権兵衛って言う手もありッス」
「・・・ハァ。名前ぐらい三秒でいえるだろう。面倒がるな」
 背の高い美人がツカツカと歩み寄り、スパコン!、と快音が響いた。クレンタが後頭部を抑えていかにも痛がっている風をする。
「何すんねんや!」
「突っ込み」
「や、『突っ込み』やあらへんで!?・・・わぁった、言ったるわ。おい、そこの銀色の!」
「グラシリスだッ!」
 思わずそう答えてしまって、グラシリスはハッとした。先に名乗らせるつもりが、つい。
「んじゃグラシリス! 耳の穴かっぽじってよぉ聞きぃな! ワテの名は、エリン・ギー劇団団長にしてかの賢人シータが秘宝“夜露の傘岩”を発見しさらには件(くだん)の大盗賊イタケの右腕として名を馳せた強力かつナイスダンディー・アーンド煌く星屑の魔性の瞳に野望を燃やすちょっと危険でお茶目な男にして虫とお話出来るロマンスにゃいのブーン族キラビーのハーフ・アマニタ、クレンタ・アミガ・オウド・エスクル・モーシェラや!」
   スパコン!
「長い」
「あれがワテの名前や! 文句あっかい!!」
「情報量が無駄に多すぎる、全部一息で言おうとしたから早口で聞き取りにくい、しかも一回噛んだだろ(“にゃい”って何だよ)」
「噛んでへん! 全部こう、スラスラ~っと言えたわ!」
 これを聞いていた野次馬ギャラリーからどっと笑いが起こった。
「き、貴様このグラシリスを愚弄するか!」
「名前教えたんやし、名前で呼んでぇな、グラシリスはん」
「・・・」
 グラシリスの返事は無い。
「聞き取れてない」「そだね、絶対そうだよ。けど、クレンタのあの喋り方じゃさ」「本名を聞き取れる耳の方がすごいッスよね」
「うるさいッ!」
 剣の先からグラシリスが光を放つが、それをクレンタの脇にいた例の美人が魔法壁で弾く。
「卑怯はどっちだか」
「黙れ名無し!」
「・・・私はキセロだ」
 ボソッとそう傍らの人物が呟く。
「ちなみに男な。亜麻色の髪のごっつい美人やねんけど」
「無関係だ」
 また打たれる。そして今度はクスクスという忍び笑いが起こった。
「ちなみに自分はラマリアッス」
「ラマリアッスじゃないよ、ラマリアちゃんだよ~? 美少女剣士! カッコいい!」
 少年剣士風の人物は女だった。よく見れば、髪の毛の色が人間離れしている。
「んで、アタシはね、歌って踊れるスーパースター、マイだよ! で、カレが」
「フロンドだ」
 先程から妙にウキウキしている猫耳の少女が、傍らに立っていた犬頭の彼の腕にギュッと抱きついて、にっこりと笑った。
「ステキだよね! ね? 勇者サマ」
「・・・え、俺!?」
 急に話を振られたプルが現実に引き戻される。と同時に、自分に視線が集中していることに気が付いた。へぇ~、一見するとぱっとしない少年みたいだけど勇者サマなのか――そんな視線だ。
 痛い。
「まぁ、我らが劇団に多大な貢献をしてくだはった勇者サマと可愛い新入りちゃんに手ぇ出されて、黙っとるような団長でもあらへんでな」
 プルのすがるような視線にウインクだけで返して、クレンタが言った。それからグッと声を殺して、ささやくように語り掛ける――ざわめく観衆の中、彼の声が聞こえたのはおそらく術の類だからなのであろう。
「わぁっとると思うねんけど、危のうなったら逃げてや。いざとなったらワテら戦い慣れしとるんが片を付けるによって・・・特に足折っとるラマリアとかはな」
 言われてプルが彼女を見て、気が付いた。マントのような服に隠れて見難いが、左手で杖をついており、その左足は地面から離されている。脚立から落ちて足を折った、本来の勇者役――あの子だったのか。
 しかしラマリアは心配ご無用というように軽く手を振ると、パチッとこれまたウインクで返した。
「――ともあれ、無関係な人々を巻き込む諸行は我々としても放って置くわけにはいきませんのでね」
「キセロかっこいい!」
「な!? キメ台詞はワテの役やで!」
「ん~ん、団長はボケ役だよ! ね!」
「・・・まぁな」
「あかん! あかんで! ボケはこのナイスガイには合わへんて!」
 緊張感の欠片も無いような状況になりつつある中、轟音が響いた。
 驚いてそちらを見遣ると、そこには巨剣を地面に突き刺したラルガが青筋を浮かせて立っている。
「てンめぇらぁ~・・・イイ気になってられんのも、今のうちだぜぇ・・・!」
「ふふん、一人が重傷、一人が傍観決め込んどるちゅ~のに、一人で何が出来んのや? 見てみぃ、こっちは五人やで、五人! とっとと尻尾でも舌でも好きな方巻いてさっさと去ねや、このラッパ!」
 あっはっはっは――と、クレンタがいかにも悪者っぽい高笑いをしている時、勝敗はといえば確実に彼らの側にあった。というのも、彼ら劇団員が自分達で言うとおり戦い慣れしているからであり、グラシリスとラルガ二人だけでは、てこずることになる実力を持っていたからである。
 しかし、それも暫くして逆転してしまう。
 敵の増援である。
 その『影』のような黒い存在がどこから出現したのか、また誰が呼び出したものであるかはわからなかったが、唯一つはっきりしていたことがあった。
 それは、それら『影』が魔衆の敵対者を排除しようとしていること――それによって戦闘が長引いてしまったのは言うまでも無いが、ここに記すには長すぎるので割愛させていただく。
 ただ、我らが団長と副団長のやり取りこそが、それらの役割とうっとおしさをしっかりと表していることは確かだ。
「ナンやねん、こいつら! 何しに来よったん!?」
「見ればわかる。敵で、しかも、倒さねばお偉方は相手してくれないらしい」
 そしてその時のクレンタ団長のやるせない顔が、彼らの心中を代弁していたことであろう。

 ――何をやっているのよ。心の中で、ファリンはそう呟いて溜息を漏らした。
 グラシリスがああなった理由はわかりきっている。連戦に次ぐ連戦――無論、例の魔神との因縁によるものだ――それによって、傷が言える時間を与えず、肉体を酷使し続け、精神のみで戦っていた彼を知っていれば、この苦戦もむしろ、よく頑張ったという賞賛に変わるだろう。
 しかし、魔衆の主であるレイスは喜びはしまい。あの人が、他の上官――例えば、あのセレフォーラを筆頭とする高位なアマニタ――とは違うからだ。血と、それによる力を絶対とし、後世へ名を残す栄誉のためならば死すら恐れぬアマニタにとって、彼の存在は異質であり、また、絶大な魅力でもあるのだから。
 そこまで考えて、ファリンはラルガを見遣った。彼にもまた、「何をやっているのよ」と言ってやりたいヤツなのだ。
 彼はミセナを追うべく中空へと舞い上がっており、そこで膠着状態となっていた。かねてより、空中戦を得意とせず、かつ、力で豪快に相手をねじ伏せる戦い方をする彼にとって、ミセナのように動きで撹乱してくるような相手との一騎打ちは確実に不利だ。まだ、周囲に他の敵兵がいれば、彼らを盾にすることも、吹き飛ばしてミセナにぶつける武器とすることも出来よう。
 ――やはり、いつまでもここにこうしているわけにはね。
 ファリンの結論はそれだった。せめてグラシリスの確保はしなければ。あの男が何者かは明確ではないが――どこかで見た気もするが――武人としての礼節をわきまえているのは確かだった。けが人に対しても、真っ向から勝負を挑んでいるのだから。しかし、それももうグラシリスにとっては体力の限界だろう。
 ――まずはあの男の気を引かなければ。
 二度目の乱入者たちは、あの謎の影――この正体は彼女にもわからなかった――で手一杯であり、迂闊に動けはしないだろう。それに、彼らもまた『ハーフ』である。それについてはレイスの指示を仰いだ方が賢明であるし、そもそもヴェルについても自分達三人の任務ではない。
 ――つまりは、あの新入りの二人に肩入れして失敗した、ってことなのよね・・・
 気持ちは複雑だが、このまま帰るにしても三人そろわなければ意味が無い。
 やるしか、ないのだ。
 腰の曲刀の柄に手をかけ、壁から背を離す。
 と。
「お嬢さん」
 肩を掴まれた。

「――貫く刃!」
「プラス、双刃烈破ァ!!」
 幾つもの閃光が影を切り裂く。目にも留まらぬ刃の閃き――しかしそれも、すぐに修復(あるいは新たな影が出現)してしまうために、さほどの効果を成さずにいた。
「! マイ、また!」
「待てこのぉ・・・うにゃあ!」
 フロンドのコブシで四散した影の脇をすり抜けた一体が、マイの爪で切り裂かれる。
「ヴェルちゃんには近寄らせないから! プルくん、お願いね!」
「わ、かってる!」
 フロンドとマイのコンビが前線で影を食い止めているとはいえ、彼らも万能ではない。ともすれば狙われているにもかかわらず前に出ようとするヴェルを守りながら、棒切れのようなもので適当に影をあしらうのは、プルにとっては重労働だ。
 ここにあの魔衆が来たら――考えただけで背筋が寒い。代わりに苦労しているのは、ラルガと対峙するミセナ、それとグラシリスを食い止めているあのおっさんである。
「ああ、もう、やめやめッ!」
 影に吹き飛ばされ、うずくまっていたクレンタが起き上がり早々そう叫んだ。
 野次馬と、影で苦労している味方が、ギョッとしたようにその顔を見る。
「もぉ、わかったやろ? こいつら滅茶苦茶や。殴っても突いても数が減らへん!」
「まさかクレンタ、諦めるとでも――」
「アホ! ワテは恋もバトルもプッシュ&プッシュやで!?」
 強引ッスね、というラマリアのツッコミを流しつつ、クレンタは言う。
「あんまイメージ悪いによって使いとぉなかったけど、しゃあないわ・・・アレ、やるで。下がっとき!」
「アレ・・・?」
 何のことやら、と首を傾げる人々(プル含む)に、キセロの叫び声が覆い被さる。
「怪我したくなかったら、動かないでください! 特に逃げたり叩き落としたりすると危険です、いいですか! 絶対に、動くな! あと出来れば目を閉じろ!」
 そう彼が言い終るや否や、団員の皆がさっとしゃがみ込んだ。頭を手で覆い、背を丸めて腹を防御する姿勢だ。何がなにやらといった感じだが、プルもヴェルも、それから遠巻きではあるがまだ立ち去ろうとしない野次馬達も、一様に同じ格好を取った。加えて、グラシリスと戦っていたおっさんもまた、相手と距離をとって立ち防御姿勢をとった。(ラルガとミセナは空中戦を行っているので何もしていないようだった)
「ふっ、あのような半端者・異形の者の言葉を信じるとは、愚かしいな」
 麗しく前髪をかき上げながら微笑むグラシリスに冷たい一瞥をくれてから、キセロは何やら防御壁のようなものをザッと張り巡らすと、ポコポコ叩いてくる影を無視してクレンタに目配せをした――OK、と。
「ほな、いくでぇ!」
 ザワッ、と空気が震えた。いや、何かが――空気を“震わせた”のだ。
 何かが――何が?

 それを目にした瞬間、プルは固まった。怖いもの見たさに目を開かなければよかった。
 注意を受けずとも、動く者はいなかったに違いない。
 恐ろしい召喚獣や精霊ならば、まだよかっただろう。
 しかしそこにいたのは、クレンタが手を振り下ろしたその後ろにいたのは――

 蟲 だった。

 巨大でもなんでもない、豆粒ほどの羽虫――それが何百、何千と。それこそ、一個の巨大な虫を思い起こさせるように、群れを成していたのだ。
 クレンタが何事か叫ぶと、それらはまるで波のようにうねりながら、一斉に影へ、そしてグラシリスへと向かっていった。

 一瞬が、数分にも感じられた。

 虫はただ、それらに覆い被さっただけで去って行っただけだ。しかし、それを暗い雲が人を襲って食らい尽くそうとしているようにみえたのは、おそらくプルだけではあるまい。キセロの「目を閉じろ」という警告を無視した人々は皆、そう思ったに違いない。
 暫しの沈黙。
「こ、これぞ最終奥義ぃ・・・全・開・・・」
 バタッとクレンタが倒れる。慌てて団員が駆け寄ったが、それよりも重要なことがあった。
 グラシリスは――!?
「た、立って、る・・・!?」
 あのような“恐ろしい”攻撃を受けてまだ戦意を失っていないとは、さすがというか、物凄い――しかし、その考えはすぐに潰えることになる。
 というのも、それからすぐに、グラシリスは頭を前後に大きく揺らがせると。
 バッタリと、地面に倒れ伏したのだ。
 ――動かない。
「え~、っとぉ・・・」
 グラシリスは身動き一つしていない。
 かろうじて急所は手で庇っているが、それもおそらく無意識のものであろう。
 というか、それ以前に倒れ方が不自然である。白目もむかずにまるで物語の貴公子の眠りのように倒れている――意識的にしたのか、無意識であれば徹底した美意識であると感嘆するのだが――とはいえ、相手は魔衆である。
 しかし、一般庶民に毛が生えた程度の実戦経験しか持ち合わせないプルが――戦った相手は強力で凶悪であったが、戦闘慣れしたとは到底言えまい――ぼんやりしている隙に、例のおっさんは、敵の手から剣を取り上げて距離をとっていた。電光石火とは、このことであろうか。素早く、かつ、的確な判断であった。
「ふむ・・・怪我は?」
 視線をグラシリスから外さないまま、男がそう尋ねる。
「え、あ、えっと・・・」
 何を言っているのかわからない、というか思考がついていっていないプルとヴェルの反応を背中で感じ取りながら、男は「大丈夫そうだな」と声を和らげた。

         ―― プル : 勝利!(劇団の皆さんありがとう) ――

「よっしゃあ! 勝ったで!」
「・・・なんだ、元気じゃないか」
「心配して損したッス」
「――全くだ」
「人騒がせなんだからぁ・・・あ、プルくんとミセナちゃんは?」
「あ、え、あ、うん、大丈夫!」
 どうやら劇団の方々も大丈夫そうだ、というか、想像以上にピンピンしている(特に団長)。
「よ、よかった・・・皆さん、ご無事で・・・」
 神よ、感謝します――そうヴェル呟いたのが聞こえる。それから、あのプルとかいう少年に慌てて応急処置を施す。それを視界の端に捉えると、男は素早く頭を切り替えた。
 彼は腰に差したナイフの一つをすっと構えると、躊躇わず投げた。
 その短刀は風を切り、戦場を中空へと移していたミセナとラルガが武器を鍔競り合っていたその交差点に命中した。そしてその一撃は、力で勝っていたラルガにとっては凶、何とか弾き返しの機会をと耐えていたミセナに吉と出た。力の矛先がずらされたラルガの大剣はゴウと音を立てて振り下ろされ、その持ち主が敵の痛烈な一打を浴びせられる切っ掛けとなってしまったのだ。
 失速し、ラルガは地に落ちた。とはいえ、舗装された石畳を割り砕きはしたが、その両足をしっかりと地に付け、その瞳は新たな乱入者への殺意に満ち満ちていた。
「てめ・・・やろうってのか」
「いやなに。女性の細腕にその大剣を受け止めさせるのは私の望むところではないのでな」
「だが、てめぇは・・・」
 ニィッと、牙を剥いてラルガが嘲笑った。
「飛べねえだろうがよ!」
「ごもっともだ」
 ラルガは素早く何か口の中で呟くと、落下時と同じように高々と空へ舞い戻った。おそらく、羽が無くても空に留まれる術を使ったのだろう。男が叫ぶ。
「君、邪魔されるのは嫌いか?」
「時と場合によるが」とミセナ。「さっきのはありがたかった」
 ミセナを睨み据えて、ペッとラルガが唾を吐く。自分の眼下ではあの男が、勝負を味方に有利にすべく画策していることだろう。
 ――どぉしてこう、人間ってのはウザったいんだよ!!
 憤怒に身を任せたラルガの一撃は、しかし、空に仕える翼を持つミセナの華麗な動きにより、再び轟音と共に空気を裂いただけだった。
 形勢は、明らかに魔衆に不利だった。ギリッとラルガが歯噛みする。
 ファリンは・・・あの女はどこにいやがる!

 彼女のことについて述べる前に、語らなければならないことが一つ。
 一度、この戦いから大きく目を逸らして、新しい気持ちで別の場所を見ていただきたい。

 表通りの一角で、戦いが始まる少し前。裏通りの、寂れた酒場にて――正確には、その店の扉の前にて。
 甲冑に身を包んだ男、トリュフォーは、フルフェイスの下で苦笑した。笑いたかったわけではなく、自然と口の端が上がり、溜息が漏れたにすぎない。無論、全て外からは見えないことではあるのだが。
 しかし彼の複雑な笑みはすぐに引っ込み、感情の消えた表情に戻った。
 彼は店の看板に目をやったが、それは店名を見たいためではなく、そこがいかにも『自分のような』傭兵やら日雇い者やら――もっと言ってしまえば、ならず者らが、たむろしているような場所であることを何とはなしに確認するためであった。
 ――料理だけで済めばと思ったが、やはりな・・・
 おじることなく、彼は扉を押した。ギィイッと木の軋む音がして、香やら煙やらが入り混じった曇った空気を容赦無く来店者に吹き付けながら、それは嫌々ながら開いた。
 数人の客と目が合う。何人かは興味無さそうに視線を戻したが、残りはまだ彼を盗み見ている。こういう輩と揉めるのだけは避けたいので、無視する。
 店員らしきものは目を向けるどころか挨拶すら口にしない。ただ目を伏せながら、しかし誰にもぶつからないよう、空いたグラスや皿をうず高く積み上げた盆を持って厨房に引っ込み、今度は酒瓶や肉料理を携えて戻ってくるだけだ。
 ――慣れねぇ。
 そっと心中で愚痴をこぼす。
 何度も来たわけではないが、酒場や賭博場はたとえ公営のものであれ健全なものであれ、好きになれない。
 ――この堅物。情けねぇな。それでも傭兵の端くれかよ。
 自分をそう皮肉って、歩を進める。当然、誰にもぶつからないように、だ。何度かヒヤッとする場面はあったが、最たるものは店員の運ぶツマミを肘当てで落としかけたことだったのだが、それも何とか切り抜け、とある一団の元へと到着した。
 そこにいたのは三人。鎧の下に着込む分厚い防護服を着込んだガタイのいい男、目深にフードをかぶった薄汚れたマントの男、そしてその二人に挟まれている仮面を付けた男。
 ふっと溜息。そのまま無言で傍らに立つ。
 トリュフォーが店に入った瞬間に目敏く彼らを発見した時は何か喋っていたようだったが、マントの男が顔を彼に向けて彼の来店に気付いてからは声を潜め、目に見えて自分達に近付いているとわかってからは酒を飲んだり料理を突付いたりしているだけだった。
 だが、トリュフォーが彼らに近付いて数十秒ぐらいしたところで、そのマントの男が痺れを切らして立ち上がった。
「何用だ」
 明らかに怒気を含んだ声。だが、それは世間の荒波に揉まれて酸いも甘いも知り尽くしたそれではない。はっきり言ってしまえば、どこかしら迫力が感じられないのだ。
 通常ならばここでこの男が相手(今はトリュフォー)になめられもするだろうが、そこにすかさず別の男の声が継ぎ足された。
「聞くまでもねぇ。失せな」
 唯一、顔が見える体格の良い男だ。その鋭い眼光と、数多の戦場を潜り抜けたであろう圧力が、前者の足りないそれを補った。
 ところが、トリュフォーはもう一歩進み出た。
「貴様、聞こえねぇのか!?」
 低くくぐもった声で、男は続けた。椅子からわずかに腰を浮かせ、手に何も持っていないものの、少しでも妙な動きをすればその固いコブシをトリュフォーの胴体にめり込ませてくれることだろう。
 そこで、トリュフォーは「聞こえてる」とだけ返した。それから、「そっちこそまず話を聞いてくれ」と、つらさを滲ませながら低く呟いた。
「何――」
「こんなトコで何してた」
 ガタン、と派手な音を立てて椅子が倒された。先程の男が立ち上がるや否やトリュフォーに駆け寄り、その顔面にストレートを見舞わせようとしたからだ。場慣れしている男であっても、この奇襲のダメージはそうとうなものとなるだろう。アゴを打たれ、ふらついたところにもう一発、それでKOだ。
 しかし、男の拳は空を切った。動きを完全に予測していたとしか思えない動きでトリュフォーはそれをかがんで避け、逆に腕をとってねじ上げた。
「い・・・ッ」
 体を同じようにねじり、男は何とか振り切ろうともがいたが、関節技はしっかりと決まっていて抜けられない。
「ぐ・・・こ、のや、ろぉ・・・!」
 今度はいくつもガタンという音がこだました。ケンカとなればと、血の荒い連中が立ち上がったということだ。
「ご心配無く。終わったんで」
 トリュフォーはそう吐き捨てた。まだ未練がましくしている奴らを無言のプレッシャーで退け、何度目かの溜息を漏らす。
「何で話をするのにこの体勢にならなけりゃならんのだ?」
「・・・さっさと“はなせ”」
 マントの男がそう言った。果たしてそれは“放せ”なのか“話せ”なのかわからなかったが、トリュフォーは“話せ”ととることにした。どの道、話が終われば放すつもりなのだから。
「じゃあ言ってやる」
 真っ直ぐに、マントの男の目のあるであろう部分を見つめる。
「アンタらこそさっさと帰りな。面倒事になる前に」
 騒動が起こってから一言も喋らず、じっと成り行きを見守っていた仮面の男がピクリとわずかに動いた。マントの男は「ふ、そんなもの・・・」と口元を歪ませた。が、一見嘲笑ととれるそれは、しかし、焦りの表れなのだ。トリュフォーはそれを知っていた。だからこそ、また溜息が出る。
「アンタらが、もし、その格好の通りなら、あるいは単なる好奇心でここに来たってんなら、どうぞご自由にって感じだ。だがな」
 だったら首を突っ込むな、そう男が言う前に、トリュフォーは静かにこう言った。
「――疑われることはやめてくれ」
 懇願にもとれるような一言。それから、技を決めていた男を突き放す。彼は床に体を打ち付けて痛がってみせたが、トリュフォーがただの顔の見えない甲冑戦士ではないと察したのだろう、仮面の男の横に注意深く立ち上がるにとどまっていた。が、今度はその手は腰の剣にかけられている。
「・・・誰だ、お前は」
 マントの男が暫しの沈黙の後、尋ねた。
「アンタらの名前を知っている」
「待て!」
 マントの男が叫んだ。それはトリュフォーに対してではなく、今や剣を抜き放った連れの男に対してである。その瞳は、事情を知っている口ぶりのトリュフォーを殺さざるを得ないのではないか、という黒い殺意に彩られていた。それを、マントの男が目で押し留めているのだ――まだ何者かもわからないのに殺すわけにはいかない、と。
 溜息。もはや数える気すら失せる。
「――殺されなくったって、言いやしねぇよ」
 トリュフォーがぶっきらぼうにそう言い放った。
「そんな手荒いこと」
 マントの男が苦笑する。殺すだとか物騒なことを決め付けないでくれと、その目が語っている。
「あぁ、今までも無かったと信じてる。アンタなら(とトリュフォーは視線を剣をもった男に向けた)そいつを抜く前に決着がつくからな」
 仮面の男が剣の男を手招きし、耳にそっと何かを告げた。剣の男は怪訝な顔をしたが、しぶしぶ、また刃を鞘に戻した。
「・・・私はそういうゴタゴタは御免だ。だから誰にも言う気はねぇ。が、こんなトコでコソコソと何かしてるってのは事実。芳しくない噂があるってコトぐれぇ知ってんだろ・・・だから、私はアンタらを止めるぜ。見つけ得る限り、今度、何度でも、だ」
「・・・ならば、兜を取りたまえ、甲冑の戦士よ」
 今度はマントの男が強気に出た。言外に、正体を知っているのならばその身分も知っているだろう、と言っていた。
 息を吸って、溜息のように吐き出す。
「断る」
「報復が怖いのか」
 首を振る。
「本来ならば、もっと別の場所で、何も知らずに挨拶をするつもりだった。けどな・・・それよりも前に、知人から嫌な噂を聞いちまったんだ。謀(はかりごと)、謀(たばか)りごと・・・もうたくさんだ」
「まさか・・・!」
 マントの男の口が驚愕でぶるぶると震えた。じりっと一歩後ずさりする。トリュフォーの表現からマントの彼と似たようなものを感じ取ったのだろう、残りの二人も何か囁き合って頷くと、彼を促して外に出て行った。
「・・・早く、行ってくれ」
 残された彼は、わざとトリュフォーの肩にぶつかって、小走りで外へと駆け出していった。
 ――ウソであって欲しかったんだがな。
 溜息をつく。
 噂とはこういうものだった――高官連中が、よからぬ事を企んでいるらしい。もちろん、一部ではあるが、文官、騎士、宮廷人、貴族、などなど。そして彼らはついに、国王までも味方につけ始めたようなのである――と。
 根も葉もない噂――しかし、火の無い所に煙は立たぬと言われるように、もっともらしい目撃情報があるというのだ。例えば、裏道を偶然通りかかったらさる騎士の方がいて、それだけならその人の良くあることだから気にも留めないのだが、一緒に怪しげな人々と何かヒソヒソ喋っていたとか。例えば、王様は時折外出するのだが、その時に、仕事をしているはずなのにどこにも見当たらない人がいて、それが度重なっているとか。例えば、そういった人々の部屋を掃除していたら仮面やら薄汚れたマントやらが出てきたとか、あるいは急に掃除を自分でやりだしたとか。例えば、急用や仕事の付き合いなどで夕食を滅多に家でとらなくなったとか。例えば、例えば・・・
 そういった渦中の人々名前もよく耳にする。国王コニド・M・マッタンゴーを筆頭に、エオルス騎士団第二隊長、宮廷詩人パナ、他にも知っている名前がちらほらと。
 だが、それ以上に耳に入ってきてしまう名前がある。
「フラヴィダム」
 そっと、声には出さずに口だけそう動かす。かの騎士団長インディカム・ルベスケンスの息子にして、わずか25歳にして宰相府秘書官を勤める才人だ。父とは異なり、武よりも文に才能を発揮しているが、その血筋ゆえか、武器を扱う術も心得ているという。さらに付け加えれば、騎士団のアイドル的存在であるレーエ・ルベスケンスの兄である。
 だが、トリュフォーが彼の名前ばかり気になってしまうのは、そういった諸々の才能からではない。
 何故ならば、彼は――
 嘲笑。
 ――馬鹿馬鹿しい。互いに避けあって生きているのを、義理でも兄弟とは言わねぇだろ。
 苦笑。そして、軽い溜息。
 今ここにいた三人の正体、それは言うまでも無く、国王、エオルス、そして――フラヴィダム。噂は、ただの与太話に尾ひれがついたものではなかったのだ。残念ながら。
「あの、お客様」
 そこでようやく、トリュフォーは我に返った。側に店員が立っている。
「何かお飲みになられますか? あ、ただ、代金は、その・・・前払い、となっておりますが・・・」
「いや、いい」
 そっけなくそう返事をしてから、ジャラジャラッとスイ銅貨をカウンターに投げ置く。少しではあるが、商売の邪魔をしてしまったかもという侘びの気持ち程度にはなるだろう。
「お邪魔さま」
 トリュフォーは、扉を押して外へと出た。
 外界の澄み切った空気が、薄暗く煙たい世界の空気を押し出していくのが清々しい。
 しかし、その気分とは裏腹に、トリュフォーの心は晴れなかった。そう、まるで今の空のように。月の出ていない、黒い夜空のように。彼の不安は、わずかに瞬く星のような希望の他には、それを追い払う光を持てずにいるのであった。

 再び、唐突ではあるが、話は街角に戻る。
 今や魔衆は思わぬ輩の乱入と善戦により、思わぬ苦境に立たされているところだ。無論、それを傍観しているファリンではない、のだが。
「――そう、君は美しい」
 はぁ、というのは返事ではなく、溜息だ。
 この妙な男に捕まってからどれほど時が過ぎたのだろう――実際には数分だったが、ファリンにはひどく長く感じられた。
「この月の無い暗闇ですら、その光の前では恐れをなして逃げ出すだろう」
 ファリンは返事を返している場合ではなかった。向こうの方では、グラシリスがあの怪虫のおかげで倒され、残されたラルガが二対一のところを、七対一で戦わねばならなくなりかけているのだから。
 それに、それだけではない、あの男――グラシリスと戦っていたあの男、鎧こそ纏ってはいないが、かのショウルオ騎士団団長、インディカム・ルベスケンスに違いあるまい。無策で戦って勝てる相手ではない――
「お嬢さん」
 考え事をしている最中に、ファリンは男に呼びかけられた。うるさいから適当にあしらおうかと思って振り向いて、驚いた――騎士団第二隊長エオルス・リオナシューではないか。
 エオルスはまだ、彼女が魔衆であることに気付いていない。ならば・・・

    *

「お嬢さん」 考え事をしている最中に、ファリンは男に呼びかけられた。うるさいけれど、この顔この目玉を見せれば驚いて退くだろうと考えて振り向き、そして驚いた――騎士団第二隊長エオルス・リオナシューではないか。 エオルスのほうはといえば、驚いた様子はない。
「……眉も動かさないのね」
「何のために? ……ああひょっとしてそれか? それなら」と自らの左眼の眼帯を指差して言った。「俺も同じだよ」
「二つあったのが一つになったのと、元々一つだったのとは全然違うわ」
「違わないさ、雪解け水が水に違いないように。今の場合、問題なのはあなたの美しさで、あなたの種族や主君ではないんだ」
 唖然としてファリンはエオルスを見た。月光に映える青の衣装、つば広の帽子、柄に凝った細工が施された剣、カールした金髪、よく手入れされた口ひげ。騎士団屈指の伊達男。――だんだんファリンはばかばかしくなってきた。
 そして彼女は剣を抜いた。一瞬の閃光。火花。金属音。
「……可愛い顔して、えげつない技をお持ちだな」
 エオルスはファリンの剣を止めた。と思った。

    *

 ラルガは、笑っていた。
 久々だ、こんな面白い戦いは。常に快勝だったラルガにとって、苦戦は珍しく、そしてまたなかなか味わえぬ喜びでもあった。まさかその相手が小娘のミセナと名も無き男だったのには驚きを隠せないのだが。
 当初の苛立ちはとうに消え、久方ぶりに戦略の楽しみを思い出し始めていたラルガにとって、その一言ははっきり言って、余計だった。
「ラルガ、撤退だ」
 驚いたラルガが地面に飛び降りると、そこには奇妙な光景が広がっていた。戦いに熱中していたから気が付かなかったが、そのそうそうたる顔ぶれはなかなか見れるものではない――人間に獣人はともかく、ハーフに同族(アマニタ)、加えて穢れた血・・・ハーフ・アマニタまで総揃いだ。
 が、感心などしている場合ではなかった。
「あぁん? どういう意味だよ、ファリン!」
「その通りの意味以外、使う機会は無いわ」
 見れば、ファリンはどこかで見たような男――後で聞いたら、アレは騎士団部隊長の一人でエオルスとか何とか言う男らしい――を質にとって立っていた。足元にはグラシリスの亡骸、ではなさそうだが、どっちにせよぐったりと蹲っていることに違いは無いだろう。
 それから、少し視線を変える。少し距離をとったところで、邪魔者達が雁首揃えて突っ立っている。
 察するに、人質をとっての戦線離脱だ。
「――チッ、うぜぇ」
 言うべきことは多々あったが、言っても仕方が無かった。どの道、今回はおとなしく引き下がるしかあるまい。
「次は潰す」
 言い残して、ラルガは乱暴に消えた。腹の虫がおさまらないとはこのことだ。この怒り――どこにぶつけてやろうか。
 だが、彼のムシャクシャはすぐに消えることになる。彼の本来の任務によって。
 しかしそれはまた、もう少し後のことである。

「――さあて!」
 戦いが終わり、興奮冷めやらぬといった感じの街角に、クレンタの声が高々と響いた。
「さてさて!」
 パンパン、と手を打ちながら、野次馬のちょうど中心のあたりに進み出る。今度は一体何事か、と思って見守る人々の前で、クレンタは深々と頭を下げた。
「本日の“街角で突然バトルショー”、いかがやったでしょうか!」
 ええッ!?、と驚いて顔を見合わせる人々の前で、なおも言葉を続ける。
「皆様を驚かそうと頑張りすぎましてな、ちぃとばかし派手にやってもうたんですわ。それでも皆様の笑顔を見れば、なぁに、こん位の修復金ぐらい、集まりそうではあらしまへんか?」
 どこからか笑いが上がった。それから、「面白かったよ!」という声と、おひねりが一つ。それを皮切りに、方々からいろいろなおひねりが飛んでくる。
 そうなると、彼らは素早かった。帽子を脱いで野次馬の間を縫うもの、落ちたおひねりを拾うもの、おだてておひねりを追加してもらうもの――今まで固唾を呑んで見守っていた裏方劇団員達の動きといったら。
 ただただ唖然とするプルとヴェル、ミセナ、そして乱入男に、キセロが近寄ってきて、先程の団長に負けないくらい、深く頭を下げた――「申し訳ございません」。
「え~、っと・・・あの、何事?」
「説明しますと長くなりますので手短に申しますと」と、キセロは頭を上げると、はっきりとこう言った。
「誤魔化しです」
 彼によれば、こういったアマニタ風情との乱闘騒ぎは毎度のことなのだそうだ。今回は恐ろしく敵が強かったのだが、たいていは全員でかかれば軽く蹴散らせる程度の敵で、その都度、どうにか追い返すものの、それを毎回役所などにバカ正直に報告することは出来ないのだそうだ。
「だってそうでしょう? ハーフやはみ出し者、それにアマニタやハーフ・アマニタ・・・人間と認められないような連中の集まりなんですよ、私達は。誰が信じてくれますか? ・・・そんなもの、身内の争いでしかない、そう言われるに決まってます」
 否定は誰も出来なかった。そこで考え出した処世術はというと、全部『出し物』にしてしまおう、というものだ。役所に咎められないし、修繕費も出るしで、彼らにとってはいいこと尽くしなのだそうだ。
「――そういうわけですので、役所への報告は私が適当に済ませておきますから、騒ぎを大きくしたり、妙な噂を広めたりといったことは止めてもらえませんか? 勝手なお願いに過ぎませんから、強制はしませんが・・・」
「それは、君達がよく“狙われる”ということに関係があるのかね」
 今まで黙っていた男が、そう口に出した。
「ええ、そうですが」
「その理由は」
「言えません。言えば、貴方がたもきっと、私達がここに留まることを許しはしなくなるでしょうから。せめて・・・そう、祭りが済むまでは、どうか」
 もう少しすると、王都では盛大な祭りが催されるのだという。今回、彼らエリン・ギー劇団がここへ来たのもそのためで、祭りに出られなければ生活が危ういのだという。
「――正直、我々にとって祭りは生命線なんです。ですから、お願いします。今回はようやく許可証ももらったんです・・・どうか・・・どうか」
「いや、そんなつもりはないよ。安心してくれ」
 それを聞くと、クレンタは、「ありがとうございます」ともう一度頭を下げた。
 と。
「うらぁ! 何しんみりしとんねん!」
 後ろからガバッと抱き付かれる。クレンタだ。
「どしたん? 敵も帰った、味方は無事、それに見てやこのお金! 修繕費差っ引いたってウハウハやで! や~、祭りはええなぁ、儲け時やわぁ~。な! な!」
 団員がしきりに頷く。
「・・・もしかして、全部もらう気で・・・?」
「当然やん」
 ミセナの問いに、あっさりとクレンタは返した。
「言っとくけどな、ノーマネー・イズ・ノーフューチャーやで! 意味はわからへんけど、お金はごっつ必要なモンや、ってことらしいで」
 それに、とクレンタは咳払いをしてからこう言った。
「結局、苦労しとんのはワテらやで? こんくらいの駄賃は堪忍したってぇな。けど・・・せやな、手伝ってもろた分、ちょっぴり分け前、握らせたろか」
 言うが早いか、サッサッサッサで分け前分配が終了する。一人あたり30スポアだ。
「言っとくけどな、もうあげられへんよ! これから久々の外食でパーッと散財するつもりやから!」
「そんなに要らないよ、というか別に無理してくれなくても――」
「何言うとんねん! 厚意はありがたく頂戴する! 貰えるんなら受け取る! 握ったら返さへん! 逞しう生きなあかん!」
 クレンタの言うこと、全然気にしないでくださいね――キセロがそう呟き、苦笑する。
「・・・まぁ、そんなわけで、すみませんが誰か役人さんを呼んで来てもらえませんか? 私もそろそろお腹が減りましたからね・・・珍しく運動しましたし」
「いや、その必要は無いな」
 驚いて、皆が“おっさん”の顔を見る。彼は軽く笑うと、こう言った。
「何故なら、私がそうだからさ」
 それに対して、エリン・ギー劇団代表者の一声はというと。
「そんなら買収になるさかい、お金は返してな」
 彼は逞しいのである。(ケチとも言う)

「――というわけ。ともかく大変だったんだから」
「ほ~」
「ああそう」
 宿に戻って、帰りが遅い、とルスラに叱咤され、プルが経緯を長々と話した後の一言がそれである。
「・・・もうちょっと何か無いの?」
「無い」
 無情なルスラとは異なり、プルはというと目をキラキラさせてこう尋ねた。
「なぁなぁ、そいつら強かったが?」
「え、うん・・・たぶん」
 グラシリスは微妙かもしれないけど、とプルは思ったが、ともかく頷く。
「ググマよか?」
 強さの基準がわからないが、とりあえず頷く。
「うは、すっげぇ~!! オラも戦いてぇぞ!! いいぺなぁ、プルは戦えちよ!」
「戦う? あり得ぬであろ」
「戦ったよ!・・・影と」
 敵と、と強く言えないのが情けない。というか、シャンプに『敵が強い』と言って果たして良かったものか。シャンプに比べればはっきり言って弱いのかもしれない。
「・・・ってあれ? ルスラちゃん、どうかした?」
「“影”とな」
「そうだけど。ほら、さっき言ったでしょ。妙なのが湧き出てきて、それをクレンタ団長が不気味な技で退治した、って」
 ルスラの返事は無い。何か考え事をしている風だが、そういうときにはそっとしておくのが賢明だ。というか、そうしないと逆に危険だ。
「それよかよぅ、プルっち」
 と、今度は珍しくシャンプが会話を切り出した。聞く側が多い彼にとっては、何か言いたいことがあるのだろう。
「何?」
「知ってっか? あのよ・・・」
「うん」
 シャンプはうきうきしながら、少し間をとって言った。
「もう少しすたら、ヒカリタケマツリがあんだって!」
「へぇ~、お祭りか! いいね!」
 ここで「知ってる」とか言ってがっかりさせるのもなんなので、プルはそう相槌を打った。
「やっぱりこんだけ大きいからさ、出店とか一杯あるんだろうな~。的当てとか、輪投げとか、ガラガラとか、木の実すくいとか、ああ、あと買い食いも忘れちゃダメだよね~。フーツ薄焼きもいいけど、イモ焼きとか、綿菓子とか、炒めパンとか。いや、もしかしたらこの辺じゃ無いかもな。でも珍しいのがあったりして! な!」
「・・・」
 笑顔のまま、固まっているシャンプ。
「どうした?」
「ん~・・・あんさ、プルっち」
「うん」
 暫しの沈黙。
「マツリって・・・何だべやな?」

 トリュフォーが宿に戻って来た時、珍しく三人が出迎えに来た。
「なま、トリュさ」
 と、シャンプ。
「何だ」
 疲れていたから、さっさと終わらせたいとも思ったが、邪険にすることも無い。トリュフォーは三人の脇をすり抜けると、兜を外してベッドの上に放り投げた。
「あの~」
 と、これはプル。
「王都って・・・いつまで滞在する予定?」
「さあな」
 そっけない返事に、三人が額を寄せ合う。
「つまりそれって、明日出立する・・・ってわけじゃないよね?」
「だとしたら?」
「嫌じゃ!」
 と、今度はルスラ。あり得ないような事態に、トリュフォーが少し驚いていると、ルスラはその外見にそぐわしいそぶりで(つまり子供らしく)飛び跳ねた。
「マツリするまで動かんぞ!」
「あぁ? そんなことか」
 何を言い出すかと思えば、とトリュフォーは眉を上げた。
「私はまたてっきり、どこぞの店の商品を壊して代金が払えないから夜逃げしたい、とか言い出すのかと思ったぜ」
「お金なら・・・ちょっとはあるけど」
 プルがそう反論すると、バーカ、とトリュフォーに小突かれる。
「そんな珍しい貝殻や木の実を売った金が高いと思うなよ? 王都の物価はな、オメェにとっちゃ家が建つんだぜ」
 そう言われればその通りで、プルは曖昧な笑顔を浮かべて頷いた。食事一回であの値段は無いだろうと、今更ながら思い出し無念。
「ほぉ~、金とな」
 子供にあるまじき笑みを浮かべながら、ルスラがプルに接近する。
「怪物どもに襲われて全焼した村を復興するために、田舎の珍しい物品をわざわざ王都まで運んで少しでも高く売り捌き、その金を村に送金する・・・という約束ではなかったかの?」
「え? いや、それは、そのぉ・・・」
 姉のアルセラに知れたらそれこそ一大事だが、プルだって人の子である。お駄賃ぐらい欲しいのだ。
「そうだ、これ!」
 咄嗟にプルはいいことを思い出した。今度プルに手紙が着たら、返信時に告げ口は出来ぬものか、などとトリュフォーに言い寄っているルスラに向かって、ポケットに突っ込んでいた物を差し出す。
「何じゃそれは」
 怪訝そうにルスラが眺めるのも仕方が無い。それはどう見ても、安っぽい耳飾りだ。
「一応、マジックアイテム・・・らしいよ」
「ふぅん・・・初歩中の初歩だな。魔力を高める効果がある石がくっついてるってだけで、効果はイマイチってとこか。売ったら安いだろうな」
 除きこんだトリュフォーがそう一蹴する。
「いやぁ・・・でも一応、お守りだし・・・」
「くれるのか?」
 チャラチャラと耳飾りを手の平で転がしながら、ルスラが言う。
「うん、あげる。姉貴は売れ売れって言ってたけど、何か高く売れそうに無いし」
「マジックアイテムの宝庫だからな、王都は。どっちかっつぅと、売るなら民芸品みたいなモンが高いだろうな。何なら、森の奥で見つけた光る石でもいいんだぜ? 元手無しで、いくらか儲かる」
「うわぁ・・・いいのかなぁ」
「珍しけりゃいいんだよ。何だって」
 旅慣れたトリュフォーの言うことだから間違いは無いだろうが、それにしてもきつい言葉である。
 きっとトリューはそういう商売が嫌いなんだろうな――などと思いながらプルがルスラに目をやると、早速カチャカチャと何やらいじっている。「ここをこう変えて、こう繋げて」などとブツブツ言っている。
「言っておくが、プル、返せなどと言うてくれるなよ」
「言わないよ。売ったことにして誤魔化す」
 ルスラを覗き込むと、そう言われた。よくよく見てみると、胸には首飾りが三つ、頭には花飾りのようなものが載っており、腕には腕輪がある。
 首飾りの一つは、プルも知っていた。魔神との戦いの時、木っ端微塵に割れてしまった宝玉を、魔術師の偉い人(ラテリト様とか言ったっけ?)からもらって加工していたやつだ。最初はただ破片を繋いだだけにしか見えなかったが、今はどこからどう見ても、破片から作ったとは思えない出来栄えに仕上がっている。
 となると、他の飾りも同様に作ったのだろうか。
「おぬしらが何を思っておるか、当ててやろう。そんな古ぼけた効果の薄い装飾品をどうするつもりなのか、とな」
「まぁ、半分は当たり。でも、それより他のが気になったり」
 すっかり着替え終わったトリュフォーにプルが同意を求めると、別に気にならねぇ、とあっさり否定される。
「先人は言った――自らに最も相応しい物は己の手で生み出せ、と」
 言って、ニヤリとプルとトリュフォーに笑いかける。
「我らが船酔いごときで大人しう寝ておったと思うでないぞ」
 んだんだ、とベッドの上でシャンプがしきりに頷く。
「・・・な、何があったの?」
「秘密じゃ」
「なー、誰にも言わなんねのごっちゃらけぇも」
 断っておくが、シャンプとルスラの傍若無人に王都見物紀はここには記さない。それを語り出すとまた章が丸々一つ出来るぐらいに物凄い事件があったのだが、それは彼ら二人の秘密ということで。

 色々と紆余曲折はあったが、つまり、祭りには参加出来ると知って、プル、シャンプ、ルスラの三人は大いに喜んだ。
 お祭り――何と心踊る言葉なのだろうか。
「――まぁ、それよりも、だ」
 喜び合う三人に、トリュフォーが釘を刺す。
「さしあたっての問題は、明日だ」
「明日(あすた)ぁ? 何かやんめんぺ?」
「ああ、一緒に来てもらう。寝坊されると困るから、早く寝ろ」
「どこに?」
 プルがそう尋ねても、トリュフォーは早く寝ろと手を振るだけで、何も答えようとしない。
「明日になりゃ、否が応でもわかる」
「そりゃあ、そうだけどさ・・・こっちだって心の準備とか要るんじゃない?」
「・・・なら、とりあえずやることは一つだ。“無闇に口を開くな”」
 やはり何かとんでもない場所に連れて行かれることだけは、確かなようだ。
 プルはもう、寝ることにした。そしてそれは正しい。
 明日は色々な意味で、大変な一日になるのだから。


<オマケ>
 時はプルが宿に戻る前、そして彼がエリン・ギー劇団の人々と別れた少し後のことである。
 今まで一緒に戦っていた“おっさん”の正体を知り、さらに彼が様々な諸事情を理解してくれたおかげで今回の一件を不問にする、と言ってくれたおかげで、思ったよりも早く夕食にありつけると歩いている時のことである。
「あ~、びっくらしたわ」
 と、これは一段落済んでからのクレンタの最初の一言である。
「何とな~く、ただのおっさんやない、って思っとったんや。うん、さすがワテ。鋭い指摘やな」
   スパコン!
 音がどこで鳴ったのか、と目を疑うような素早さで痛烈な一撃がクレンタの頭上を襲った。犯人は言うまでも無くキセロ、なのだが、彼はすでにクレンタの襟首を両手でがっちりと掴んで吊り上げていた。
「バカは休み休み言え! 大恥、赤恥、青恥、大小様々、色があれば全色の恥だ! かける恥は全部体験したんだぞ私は!! 大体、本人の目の前で『インディカム・ルベスケンスって誰や?』だと!? クレンタ、お前の頭に詰まってるのは脳ミソか、それとも本当はトウフなのか!? 代表者がそんなだからこの私が苦労してるんだぞ!」
 頭蓋骨の中でクレンタの脳味噌が、文字通りグチャグチャになってしまうぐらいに前後に揺さ振りながら、キセロが怒り心頭でそうなじった。
「ま、まぁまぁ、おちついてよ。ね、セロ」
「そうッスよ、断腸のボケっぷりは何も今始まったことじゃないンすから」
「――絶望的だな」
「あちゃ~。ダメだよ、フロンド! ホントのこと言っちゃ!」
 そんな、果たして本当に仲裁する気はあるのかと疑いたくなるような仲間達の制止を殺気の宿る瞳で逆に制すると、「もういい」とキセロは呟いた。そして溜息。
「おぅ、世界が回る~お空は回る~ワテの頭もグ~ルグル」
 さらに、クレンタを見て盛大に溜息をつきなおす。先程のそれがまるで呼吸でしかないような、そんな物凄い溜息だ。
「とにかく、私はクレンタのこの腐りかけの脳味噌で相手が納得してくれたことを祝いつつ、さらに相手のその寛容さに生涯忘れることなく感謝しながら、祭りの準備をすればいいわけだな」
「うむ」
「そうッスね」
「そそ、ついでに面倒な書類を書かずに済んだことにも感謝しつつ、だね」
「そ~や~、イイ人やったねぇ~、あのおっさん」
   スパバシコン!!
 軽快な音がして、クレンタの頭に二発、ツッコミが入る。
「え~、もとい、ルベスケンス騎士団長」
 今回ばかりは、身内の視線が痛い。キセロが往復ツッコミをするということは、たとえうなだれていようとも、かなり腹の中では怒っている、というサインだからだ。
 ここでクレンタは「オホン」とわざとらしく咳払いをすると、相手が驚くほど真面目な顔付きに変わった。
「ほんま、エエお人や」
「・・・言いたいことはわかるよ、クレンタ」
 急に、皆が足を止めてしまった。無論、誰も口を開かない。
 表通りのザワザワという賑わいが、まるで遥か彼方で奏でられている背景音楽のように聞こえるだけだ。
 皆、わかっている、いや、知っているのだ。
 それを、クレンタがボソリと代弁する。
「――あないな人が父親で、なしてなぁ・・・ほんま、羨ましいわ」
 羨ましいわ、という呟きは消え入りそうだった。鼻をすする音や、目をこすって息を吐く音がちらほらと耳に入る。
「家庭の事情だよ」
 そっと、キセロがそう呟いた。その声に、もはや先ほどまでの怒りは微塵も無い。
「・・・せやな」
 エリン・ギー劇団にいる人々のほとんどは、いわゆる『人間』ではない。ハーフ、アマニタ、ハーフ・アマニタが大半を占めている。無論、人間もいるが、それでも特殊な経歴でここに来たものばかりだ。
 そして彼らは、身内が――『家族』がいない。偶然彼らに出会って、一緒に旅をしているのでなければ。
 そんな彼らにとっては、このエリン・ギー劇団で共に過ごす人々こそが、家族なのである。
 だからこその、この反応である。
 その原因はもう少し前、インディカム・ルベスケンス騎士団長との別れ際のことである。彼は言った。
 ――ひとつ伺いたいのだが、この中に黒髪の北方民族風の傭兵らしき男はいなかっただろうか、と。
 理由を尋ねると、彼は苦笑いをしながらこう答えた。
 ――いやなに、息子が帰ってきたらしいのだが(と、ここでエリン・ギー劇団の団員が「いいことじゃないか」と口々に言った)・・・ああ、ありがとう。だが、噂で聞いただけだ。それにあの子は・・・家には戻らないだろうから。それで君達が旅をしていると聞いて、ひょっとして一緒にいるのではないかと思ってね。いや、つまらないことを聞いたな。すまなかった。
 そこですかさずクレンタが要らぬ口を開いた――何で戻らんてわかんのや?
 騎士団長の男は言った。
 ――あそこはあの子にとっては、“家”なんかじゃないんだろうな。
 独り言のような、寂しい呟き。
 慌ててキセロがクレンタの頭を押さえつけ、何度も詫びの言葉を口にしたが、当のルベスケンスはさほど気にしていなかった。
 ――謝る必要は無い。あの子は滅多に戻っては来ないが、それでも家族のことを思っている、優しい子なんだよ。
 と、ここでクレンタが頭を下げさせられたまま言った。「それ、噂に聞く“親バカ”ってヤツやね」
 結局、このやりとりは笑いで何ということも無い、ただの会話のようになったのである。
 だが、劇団員にとっては――
「さあ!」
 パンパン、とクレンタが手を叩き、叫んだ。
「さあ、さあ! いつまでもこないなトコでしょんぼりしとられへんわ! せやろ? 何たって今夜は・・・リッチ&ゴージャスに『食べ歩き』やねんで!!」
 おお、っと一斉に歓喜の声が上がる。それを見てから、クレンタが破顔一笑して言う。
「それにやな、親が恋しい言うんなら、ワテがなったる! さあ、遠慮せずにワテの腕の中に飛び込んで――」
   スパコン!
「さ、バカは放って置いて、行きましょうか、皆さん」
「団長を置いて行くなや!」
 変人同士の集まりで、時には寂しくなるけれど、何といっても我らは同志、みなが一緒に暮らせるように、この身を張って示しましょう♪
 ――そんな調子っぱずれの曲を歌いながら、奇妙な一団が道を進んでいく。笑いながら。
 そしてその奇妙な一団は、薄暗い夜の中を明るく突き進んでいた。これから先に、巻き込まれる事件のことなど知る由も無く。


<オマケ・2>
 エリン・ギー劇団の人々に食事に誘われた時、ミセナはどう断ればよいものかと迷った。
 理由は簡単、もう食事を済ませてしまったからである。
 しかし、彼らは“特殊”な――ある意味、ミセナに近い人々である。まだアマニタである正体を知られていないミセナが無碍に断れば、やはり良くは思われないだろう。
 人間は見た目で判断する――そんなことばかりではないと知っているが、自分がそう思われるのは嫌だった。しかし、たった今、アマニタ集団である魔衆と一戦を交えたばかりだ。身分を明かすわけにもいかない。
 と、そこに助け舟が出た。
「あの、ごめんなさい。実を言うと、もう食べてきちゃったんです。ね?」
 赤い角のハーフ――ヴェルティナだった。ミセナはそれにつられるように頷いた。
「なんや、団長のお誘いを断るとは・・・なんつって。ええよ、そんなん無理して食べられたら、せっかく温まった懐が寒くなってまうわ」
「俺達がいないと、それだけ食べれる量が増える・・・っていうか団長、最初から俺達が食べに付いて行くとは思ってなかったんでしょ」
「そうでもないで。アンタらがキセロぐらいの大食らい、ちゅう可能性もある」
   バシッ!
「・・・ともかく、食べてすぐに災難でしたね」
「そうですね」
 和やかな会話をするキセロとヴェル。しかし、そんなキセロの脇では頭を抑えてクレンタがうずくまっている。
「ああ、ですがヴェルさん、申し訳ありませんが私達はこれから夕食にさせていただきますので、戻るなら先に。場所は、わかりますか?」
「ええと、テント張ってあるところですよね? はい、大丈夫です。それじゃあ、失礼します」
 ペコリと頭を下げて去ろうとするヴェルに、あっとプルが声をかける。
「ヴェル、もう暗いし、送ろうか?」
「ううん、平気。それを言うならプルだって、一緒にいる人が心配するんじゃないかな」
「けどさ――」
「気にしないで。逆に道に迷ったら大変だから」
 心配そうなプルと、そして劇団員達。だが、ヴェルは何か思いつめたような感情を笑顔の裏で隠しながら、「おやすみなさい」と頭を下げて、歩き始めた。
 プルは知らないから、ヴェルが断れば押し通してまで送ろうとは思わないだろう。
 しかし、状況から察するに、劇団員達は“あの事”を知っている。当然と言えば、当然だ。自分達の身の安全に関わるのだから。
 とはいえ、ヴェルはおそらく、一人になりたいのだろう。少なくとも、ミセナはそう感じ取った。それを尊重したいのはやまやまだが、そういうわけにもいかない。
「それじゃあ、僕が送るよ」
 ミセナは、驚いて立ち止まったヴェルに、ちょっとだけ笑いかけた。
「心配は要らない。プルよりも強いから」
 先に言ってしまえば、何事も起こらなかった。二人はただ、他愛も無いお喋りをしながら無事に劇団のテントに戻った。
 そしてその別れ際。
「あの・・・ミセナさん」
「ミセナでいいよ。どうしたんだ、ヴェル」
 誰もいなかったテントの入り口で、ミセナが立っている。向かい合っているミセナだったが、ヴェルの表情は暗がりに紛れて判断出来ない。
「あの・・・」
「ねえ、ヴェル」
 思い当たることがあって、ヴェルは先手を打った。
「今日のことは気にしちゃいけない。自分のせいで僕らを巻き込んだとか思い込んで、逃げ出す必要なんて無いんだ」
「でも、でもあの人達、ボクが来れば他の人には手出ししないって・・・」
 予感的中だった。
 一緒にいて半日でしかなかったが、ヴェルの性格は大体わかったといっても差し支えないだろう。
 本当にいい子だ――悔しいぐらい。
(悔しい?)
 何が悔しいのか、と、ふとミセナは自問した。何も悔しがることなど無いはずだ。ヴェルは修道女(彼女自身は、修道女の端くれだといっていた)だということもあるだろうが、優しく、思いやりがあって、控え目だが芯の強い少女だった。
 そして、おそらくはプルのことを・・・
 はっとして、軽く頭を振る。今は彼女の性格云々が問題なのではなく、その決心が問題なのだ。
 ミセナは頭を切り替えて素早く返した。
「奴らが、本当にその約束を守ると思うか?」
 ヴェルは黙ったまま答えない。
「それに、もし君がここを離れて独りになった時に襲われたらどうする?」
「・・・でも、誰も傷付かずにすむなら・・・」
「それは、違う」
 しっかり、ヴェルの瞳を覗き込んで、ミセナは続けた。
「ヴェル、君はもっと自信を持て。守ってくれる人がいるなら、甘えたっていいんだ」
「・・・セレフォーラみたいに?」
 役名を出して、ヴェルがはにかんだ。
「あの少女みたいに、とまでは言わないけどね」
 それからミセナは、今日みたいなことがあったら遠慮せずに言うこと、今は王都を離れるよりはここにとどまったほうが安全であるから逃げるなんて思わないこと、をヴェルに約束させた。
 ――本当ならば言うべきこともあったが、あえて伏せておいた。
 彼女がアマニタに狙われる理由――彼女は、自分が植物を生み出す力があるからだ、と言った。間違いではない。たしかに、生命を生み出す力は貴重だ。
 だが、それだけではないだろう。
 ヴェルは、ハーフだ。
 アマニタにとって、ハーフの血は魔力を高めるために必要不可欠だ。
 といっても殺すわけではない。結婚し、子供を生ませるのだ。ハーフの血を継いだ子供は、親のアマニタよりも強力な力を持つ。一族の繁栄と名誉を重んじるアマニタにとって、子供が自分より優秀であるということは、この上なく喜ばしいことだ。
 ヴェルはハーフの少女だ。加えて、稀有な力も持っている。とすれば、結婚相手としてこれ以上相応しい者はいないだろう。
 ただ、そのことはまだ、ミセナには言えなかった。
 ただでさえ責任を感じているヴェルに、追い討ちをかけることになる。今はまず心を落ち着けて、それからいずれ、知ればいいのだから。
「――ああ、もうこんな時間か。長居して、すまなかった」
「いえ、ボクの方こそ、寒いのにずっと外で長話させちゃって・・・」
「気にしなくていいよ。楽しかったし」
 恐縮するヴェルの頭をぽんと小突きながら、ミセナは笑った。
「でももし、お詫びに何かくれるんだったら、ぜひとも劇のチケットをお願いしたいね」
「は、はい。喜んで。あ、ちょっと待っててください」
 冗談のつもりで言ったのだが、ヴェルはすっとテントの中に入って、チケットを二枚持って出て来た。
「これ、今度のお祭りでやるんです。演劇以外にも、手品とか、雑技とか、いろいろやるんです。皆さんとっても頑張ってて、すっごく面白いんです! だから、絶対に来てくださいね!」
「約束するよ」
 クスクスと笑って、ミセナはその場を離れた。あの様子なら、きっと大丈夫だろう。
(祭り、か)
 チケットを手に、少し考え事をする。ふいに、プルは誰と行くんだろうという疑問が出て来る。
 一緒に行けるならば、プルと――いや、やめておこう。所詮は、妄想だ。
 と。
 笑いながら、ミセナの近くを走り過ぎる二人の姿が見えた。
 思わず、足を止めて見据える。二人は、真っ直ぐテントの中に入って行った。
 まさか、また魔衆か――ミセナが回れ右をしたところで、「たっだいまぁ~☆」底抜けに明るい挨拶が聞こえてきた。そして、「おかえり」というヴェルの笑い声も。
(少し神経質すぎたか)
 ほっとしながら、ミセナは自分の宿へと戻って行った。
 一方の、ヴェルの前では二人が、劇が終わった後に何をしていたのか、を身振り手振りで説明していた。
 ――全部、嘘だ。
 彼女達は、当ても無く王都をうろつき回っていたわけでも、閉店間際の店で衝動買いをしていたわけでも、変わった出店で立ち食いをしていたわけでも、無かった。
 そう、ルブロとヴォルヴァの二人は、いかにもありそうなことを言ってはいたが、その実、そんなことなど体験してはいない。
 そして、ヴェルは気付いていない。ルブロとヴォルヴァ、この二人こそが、彼女の行く末を大きく変えてしまうのだということには。
 ルブロとヴォルヴァは、まだ動かない。
 “祭り”が始まるまで――二人は、エリン・ギー劇団の、家族なのである。


キノコ勇者 35 皆既日食
別に返答を期待したわけではなかった。完全に単なるひとりごとである。しかし答えるものがいた。
「決まっているでしょう。王都マッタンゴーの中心にして王の座する処、王宮ですわ」
がちゃり。
首を拘束される。いや、もう誰だかわかった。振り向いた先に何が待っているかわかった。
勘弁してくださいほんと。
「何を呆けているのです。とっとと歩きなさい」
ぐいぐいと気管を圧迫する首輪。ああ、前にもあったなあこんなこと・・・
悪いときには悪いことが重なる。そんな人生の無情さを味わいながらプルは引きずられていった。


いかにもお嬢様といった少女に鎖を引かれて、王宮の中をとぼとぼ歩く。もはや物理的に抵抗心は奪われていた。はっきり言ってかなりやばい絵になっているのだが誰も少女を見咎めるようなことをしない――というより、ほとんどの人は露骨に目をそらしていた。ついでに言うと、引きずられているプルが勇者の一行の一人であり王の正式な客人として招かれていることに気づく者は誰一人としていなかった。まあこのあたりは存在感というか影が薄いというか・・・
そのまま王宮内のぐねぐねとした廊下を進んで一度外に出ると、そこには馬車が待っていた。少女は優雅な動作でそれに乗り込む。続けてプルも乗ろうとしたのだが
「奴隷の分際で貴人の馬車に乗らんとするとは何事です!
ぴしゃりと締め出される。そして非情にも馬車は動き出した。当然首輪が離されたわけではない。となると必然的に――
「ってちょっと待ってこのままだとやばいっていうかいやあああああ!?」
全力で走る。このままだと首とかいろいろまずいことに!

結論:人間の足は構造上、馬に対抗できない

離宮クレイディアは王都郊外にあり、先々代の王がその森林を愛して作ったものである。あえて華美な装飾は控え、自然との調和を念頭に置かれたそのデザインは一見地味に見えるものの、味わい深い風情と格調を表している。ちなみに総指揮をとった建築家が後年精神を患ってガラスのコップを自らの口にねじ込みわざわざ離宮クレイディアの屋上から飛び降りて自殺したことは、ここで暮らす者にとって禁句中の禁句である。
「到着しましたわよ」
馬車から降りながら鎖を引っ張る。ついでにそのままプルを邸内に引きずっていった。
(腕力あるじゃん普通以上に・・・)
怪我はすぐ治っていくがひたすら続いた拷問によってしゃべる気力すらも奪われて、人生かなり投げやりになったプルだった。
「いつまで寝ているのですか。早く起きなさい」
「いや・・・無理・・・」
「まったく・・・・惰弱ですこと。いいでしょう。働く前にお茶ぐらいはご馳走して差し上げますわ」
そうやってプルをののしる少女の顔は、心なしか少し赤くなっているように見えた。いや、もちろんプルからは角度的に見えないわけだが。

で、通されたのはやたらと立派な応接間。
「ええと・・・」
居心地が悪い。そりゃあもう場違いオーラが館全体からプルを無言の圧力で責めたてている。
「変わった方ね。お茶などただ飲むだけのものです。何をおどおどしていらっしゃるのかしら?」
そう言う彼女は非のつけどころのないテーブルマナーで紅茶を口に運ぶ。
「君、結局何者なの・・・?」
貴族の子女であることは容易に知れたが、王宮で無茶をやっても見咎められずおまけにこんな超豪邸に住んでいるとなるとそこらの大貴族では済まされない。
「人に名を尋ねるならまず自分から名乗りなさいな。――まあいいでしょう。私の名はスキュアローサ。この国の王女にして第四位王位継承者ですわ」
「なっ・・王女!?」
「なんですかその目は。何か文句でも?」
「いやそんなことはないけど・・・・・ああ、俺はプルっていって」
「存じておりますわ。勇者の一行の方でしょう」
「知ってたの!?」
確信犯かよ!
「例の船にはわたくしも乗っておりましたもの」
「そっかあ。って自己紹介の意味ないじゃないですか」
さすがに王女が相手となるとプルも多少敬語らしきものを使う。
「そんなことはありませんわ。殿方はレディに名乗り出るものです」
「そうなんですか・・・」
「それよりあのときは・・・・その、無事で何よりでしたわ」
「へ?」
「いやその・・・・オーランティアでは、貴方が魔物にさらわれていくのを助けれなかったわけですし・・・」
もごもごと顔を伏せがちにながらつぶやく。
実際にはミセナとファウルがこのじゃじゃ馬王女スキュアローサの魔の手から救い出してくれたのだが。

◆藤枝りあん

 とりあえず、プルはその点については触れない事にしておいた。スキュアローサは何も気付かずに続ける。
「と、ともかく」
 カチャン、とティーカップをソーサーの上に置くと、咳払いをする。
「私、貴方に少しばかり興味を抱きましたの。か、勘違いなさってもらっては困りますわよ! あくまでも貴方に秘められたその力に、ですわ!」
 ほんのりと頬を染めながらスキュアローサは言い切った。
 が、当のプルは、いきなり雪原の真ん中に着の身着のままで取り残されたような絶望感に襲われていた。
「ぇ・・・」
 パクパク、と口だけが空気を求める魚のように動く。
「あの時、私の鎖から逃れたその力・・・解放を司るその力、それを私のためにお使いなさい」
 スキュアローサはプルのそんな様子を気に留めるでもなく、咳払いで言葉を濁しつつ、喋り続ける。
「感謝なさい。貴方のような下賎なる一市民がこの私に仕えられるのですから」
 プルが無反応なのは、もちろんスキュアローサにとってはどうでもいいことだ。
「となれば、私を守るに相応しい殿方になっていただかなければなりません。さあ、行きますわよ」
 再び、ズルズルズル、とプルを引っ張っていくスキュアローサ。
「そうそう、言い忘れておりましたわ」
 もはやプルには聞こえていないだろうが、スキュアローサは言った。
「特別に私の名を呼ぶ事を許します。これからは尊敬の意を込めて、『スキュア』様とお呼びなさい」
 もし、その時のスキュアの様子を見たものがいたならば、おそらく白昼夢を見ているのだと目を疑い、耳を信じなかった事であろう。
 彼女、スキュアは己の名を他者に呼ばせることなど無いに等しかったからだ。
 しかし、それは彼女にとっては決して気まぐれではなかった。
 スキュアはその解放の力に一抹の望みを抱いていたのだ――自分自身を、この狭い世界から解き放ってくれるのではないだろうか、と。
 それはともかくとして、スキュアとプル(今回からは特別に、馬車の外に据えられた手すりにつかまることを許された)が向かった先は、王宮に程近い頑健な造りの建物であった。
 人々は、特に年若い男の子や少年は、そこは強い憧れを抱く場所。
 マッタンゴー王国誇る、ショウルオ騎士団の本部である。

 ――退屈だった。
 トショカンとかいう、紙が綴じられたモノ(名前はホンだかボンだかわからない代物)がギッチリ詰め込まれた場所で、シャンプはゆらゆらと頭を揺らしていた。
 文字の読み方、文法を驚くべき短時間で習得し(あるいは思い出し)、ずっと古びた本にかかりきりになっているルスラに声をかけるわけにもいかず、かといって出て行くわけにもいかないだろうからだ。
 プルが行方不明になった時から、シャンプはこの本の牢獄に閉じ込められているのだ。無論、トリュフォーの言い付けである。これ以上迷子を増やしたくないのだろう。ごもっともな考えではある。
 しかし、つまらない。
 よく意味のわからない記号の羅列に目を落としても、何も思うことが無いのだ。
 シャンプが退屈で退屈でたまらなくなってきたちょうどその頃、救世主が現れた。シャンプは喜んでその人物の名を呼ぶ。
「トリュさ!」
 正確には、救世主であり、かつ、封印の主でもあるのだろうが、後者の記憶は抹消ということで。
 シャンプにとっては何時間もたった後にようやく現れたトリュフォーだったが、実はものの数分も経っていない。要するに、シャンプにとってはそれだけ暇だったのだ。
 ともかく、トリュフォーは予想通りの状況に苦笑しながら、シャンプを手招きする。駆け寄るシャンプはまるで主を待っていた忠犬のように机の上を飛び越える。
「あんさ、プルっち、見付かっちょ~め?」
「いや」
 首を振るトリュフォー。
「あの野郎、どこほっつき歩いてんだか。やっぱり目を離すべきじゃなかったぜ」
「げっちょめ~、だに知らずんばよか歩かめつよや(そうそう、だから知らない所はいろいろと歩かない方が(いいんだよね?))」
 トリュフォーにとっては意味のわからない言葉を呟いて、シャンプが頷く。
「・・・ま、見かけたら知らせるように伝えたから、そのうち見付かるだろ」
 シャンプのリスニング能力はほぼ完璧だ。古めかしい言い回しは当然のようにわかるし、崩した言葉や最近の言葉もそれなりに理解してくれる。しかし、喋る方はというと――
「ぬま。つぅけ、そげっちゃならんとまぁ(まあね。というか、そうじゃないと(大変だよ))」
「・・・・・・ああ」
 結果として、同意を求めているような感じのシャンプに適当に返事をするトリュフォー。
 トリュフォーは、やれやれだぜ、とこっそり呟いてみせたが、残りの危険因子(つまり、シャンプとルスラ)が何事も無かったことに安心した様子だ。
「――ともかくだ、シャンプ」
 首を捻ったり回したりしながら考え込んでいるシャンプに、トリュフォーが声をかける。
「ちょっとついて来な。どうせヒマなんだろ?」
「おう!」
 それからちらとルスラを見遣ると、彼女は本から顔を上げようともせずに、
「あぁ、行って来い、行って来い。言っておくが、わらわは行かぬぞ」
 とそっけない答えだ。そんな本の虫と化したルスラに返事だけ返しながら、二人は図書館を後にした。
 目指す先は――

 騎士団には現在、12の部隊がある。主に地方に派遣され、駐屯するために番号が振られているのだが、王国に留まる部隊もいる。
 今の所、それは第5部隊だった。
 『黒曜の騎士』として名高い――いや、『兄貴』として、の方が騎士団では有名だ――トリュフォー・ルベスケンスを部隊長に据える、立派な部隊だ。
 ――まぁ、見た目、地味っちゃ地味だけどな。
 心でそう呟いて、第5部隊所属のエリュベスは、ぽつんと取り残された少年に笑いかけた。
「え~と、プル君? だっけ?」
 先程、麗しのスキュア姫に紹介されたプルとかいう少年は、明らかに頭が完全に止まっていた。彼がどんな風にしてここに連れて来られたか、想像に難くない。鎖が外されているだけましというものだろう。
「・・・災難だったね」
 ぽん、と肩に手を置いて笑う。ようやく、プルがガクンと首を落とした。口から魂を吐き出すような音を立てながら、うなだれている。
「まぁ、何はともあれ、ようこそ騎士団へ」
 失恋した友人を慰める仕草でプルの肩を押しながら、エリュベスはとりあえず、広場へと向かうことにした。
 スキュア姫(もちろん、これは一部にしか通じない嫌味だ)の思いつきで困ることになるのは割とよくあることだった。
 今回の彼女の気まぐれはこんなだった――この少年を、一端の護衛に仕立て上げること。
(本気かねぇ?)
 ちらとプル少年を見やって、エリュベスは思う。
 ――うん。たぶん、無理だろ。
 どこからどう見ても、彼は普通の一般人でしかない。騎士団に入るために体を鍛え、知識を吸収した若者ですら、立派な騎士になるにはつらいというのに。
(ともかく・・・どう誤魔化すかな)
 スキュア姫のことだから、またすぐに忘れるんだろ――というか、そうじゃなかったらこっちの身がもたない。
 ひとまずは、彼を特殊新入りとして軽く試験でもして、結果が芳しくない(だろう)から不向きだと伝えるしかないだろう。

「トリュさ、トリュさ! 早ぉしなんせ!」
 外に出られるのがよっぽど嬉しかったのか、シャンプはトリュフォーを軽々と抜き去ってしまっていた。
「お前なぁ! 道わかんねぇだろうが!! そっちじゃねえっつうの!!」
 それからトリュフォーが叫び返して、シャンプがまた戻って来て、指し示された道へダッシュする――それを飽きるほど繰り返してから、ようやく二人は目的地へと辿り着いた。
 ショウルオ騎士団本部。
 石造りのどっしりとした風格ある建物に、魔力の防御が働いている。守るに適した、最後の砦、といったところだろうか。戦時の要――当然、王宮からは然程離れていないのだが、こんなに時間がかかったのは全て、暴走勇者シャンプのせいである。
「うは~でか~すんげぇな~」
 王都見学に来たおのぼりさんよろしく、大口を開けてしきりに驚いているシャンプの姿はどこからどう見ても、田舎から出て来たばかりの少年だ。これを世界の運命を担う勇者であると考えるものはいないだろう。いるとしたら、そいつは余程の奇人だな――トリュフォーはそんな事を考えながら、懐かしい門をくぐった。

 騎士団本部、そこは巨大なコミュニティであると断言しても良い。
 騎士が王国を守るために留まっているのは言うまでも無く、彼らが鍛錬を積む場所であり、騎士団に入隊する新人達を迎える場であり、休息を与える憩いの場であり、趣味に力を発揮する特殊な場所であるのだ。騎士団を利用者と絞った、大規模な複合施設だと思えば差し支えないだろう。
 よって、入る場所が異なっているプルが、トリュフォーとシャンプに会わなかったのは当然の事である、ということをまず念頭に置いてもらいたい。
 ともかく、トリュフォーが通った門は文字通り『騎士団に入る』ための門である。
 その門を過ぎると、少し庭がある。芝生が敷かれ、潅木が茂っているそこでは、いつものように、昼食を取っている騎士やら、帰宅するために私服に戻っている騎士やらがたむろしていた。中には友人を呼んで喋っているものなんかもいる。美しくは無いが、日常的な、心落ち着く庭なのである。
 そんな開放感溢れる場所を、トリュフォーはずんずんと躊躇い無く進んで行った。その後ろを、周囲を興味深そうに眺めながら、シャンプがついて行く。
 そんな二人は、少々騒がしいとはいえ、騎士の人々が無視する存在ではない。当然、全員が社交辞令的に視線を注ぐ。
 騎士団に憧れる少年が連れて来られた――よくある光景ではあるが、ただ一つ違う事があった。それは――
「兄貴ィ!」
 誰かがそう叫び、トリュフォーに駆け寄った。それが合図だったかのように、あちこちで驚きの声や「兄貴!」という呼びかけが起こり、あっという間にトリュフォーとシャンプの周りに騎士の人々が殺到した。
 そう、自称:傭兵のトリュフォーは仮の姿、ショウルオ騎士団第5部隊隊長こそ、彼の本当の姿なのである。そして、黒曜の騎士トリュフォー・ルベスケンスその人が、騎士団に戻って来た。彼の愛称が『兄貴』であることからもうかがえるように、騎士団において彼は人を惹き付ける存在なのだ。もっと簡単に言ってしまえば、先輩後輩を問わず、誰からも好かれるような人気者なのである。
 よって、現在、トリュフォーは騎士団の面々に十重二十重に取り囲まれてしまっているわけで。
「ちょ、ま、お前らな・・・」
 周囲よりも一回り小柄なシャンプが人ごみにまぎれてどこかに行ってしまわないよう、彼の持つ聖魔剣の柄を握り締めたままトリュフォーが顔をしかめた。困ったという表情ではあるが、少し笑ってもいる。
「お帰りなさい、トリュー兄貴!」「やっぱ帰ってきたってホントだったんすね」「おみやげありますか!」「兄貴って・・・うわ、本物だ!」「――!」
 ――一斉に、そんなようなことを口にしている人々。
 が、唐突に、それら黒山の人だかりが二つに割れていった。神話の時代に海を割った聖人がいたが、その人の海を威風堂々と進むその男もまたそのような力を持っているのだろう。
 騎士達は、羨望の眼差しで、男とトリュフォーが対峙するのを見た。実際は、その傍らで水に濡れた子犬のように頭を振っている少年の方をよく見ておくべきだったのだろうが、それでもその二人の男のツーショットは騎士団に所属したといえども早々滅多にお目にかかれるものではない。
 石造りの建物から現れた男が、静かに口を開いた。
「遅かったな」
「私の勝手だろ」
 ぶっきらぼうにそう返事をする『兄貴』の姿と、笑顔の無い男の姿を見比べながら、騎士達は互いに顔を見合わせた。十中八九、親しげな挨拶から会話が始まるものだとばかり思っていたからだ。だが予想に反して、二人はじっと睨み合っているではないか。
 まさかこのまま殴り合いでも始まるのか――そう皆が察した瞬間、すでにそれは現実となっていた。
 トリュフォーのこぶしが、男の腕に当たっていた。腕――そう、彼の攻撃は難なく相手の防御の前に終わったのだ。と、
「このバカ息子が!」
 息をつく間も与えずに、男の鉄拳がトリュフォーに飛んだ。横っ面を強かに殴られて、トリュフォーがバランスを崩してよろめく。慌ててシャンプが立ち上がるのを手で制して、トリュフォーは踏み止まった足に力を込めた。
「親父殿、どうした? 全然力がこもってねぇじゃねえかよ。もうそろそろ年か?」
「口だけは達者だな、この放浪息子。お前の父上がお前と同じ年だった時の一撃、お前にも一度味合わせてやりたいものだ」
「その父親が私と同じ年の時は、いちいち帰還のたびに家に帰って報告してたのかよ」
「騎士たるもの、家族を重んじるのは当たり前のことだ」
 何がどうなってどうすればよいのかわからない周囲を置き去りに、二人はしばらく黙ったまま睨み合っていたが、
「・・・っくくく」
「・・・っははは」
 不意に笑い声が漏れる。
「あっははははは!」
 そして今度は二人同時に笑い出した。力強く握手をしながら、お互いの肩を叩く。
「えぇ? 久しぶりじゃないかトリュフォー、元気だったか?」
「よく言うぜ、殴り合いしてたヤツが元気じゃねぇわけないだろうが」
 一転、うってかわって親しげに笑い出した二人の姿に、ようやく皆が安堵して、一緒につられて笑い始める。
「なま、トリュさ」
「ん」
「おや、君は」
 二人の間に割りいって、シャンプが大声で尋ねた。
「こん人、何か知んねっけどエライヒトでめぇの? なしてドツクよか? 悪いこつか、したんかよぅ?」
 ビシッと指をさされて、男がニッと笑う。他の人が見たら「お前、なんてずうずうしい、いやもう無礼だぞ!」と男の代わりに怒ってくれるだろうというシャンプの態度だったが、男は純朴な少年を初々しい思いで見ているだけだ。
「・・・シャンプ、お前、午前中のこと覚えてるか?」
「ん~」
 考え込んでから、シャンプが答える。
「コクオーコニドエムマッタンゴーつぅずげぇエライヒトに会って、メシ食って、ルスラをホンに置いてここに来ちゃんのめ」
「そこにこのおっさんもいただろうが」
「ぬぃ、おっため」
 おいおい、おっさんはないだろう、と男が笑いながら言う。
「ほら、この金ぴか、覚えねぇか?」
 言われて、シャンプはじっと男を見た。
 少々白いものが混じり始めた観のある髪の毛は濃い茶色、目は灰色で、金色の鎧を身にまとっている。どこで名前を聞いただろうか。
「あ~!! 思い出た!」
 パチッと記憶の欠片がはまった。
「『インジカム・ルベッケンス』つぅ人だもめ!」
「・・・『イン“ディ”カム・ルベ“ス”ケンス』な」
 人呼んで『黄金の騎士』――ショウルオ騎士団団長インディカム・ルベスケンスその人である。偉い人、どころの騒ぎではない。とってもすごく偉い人だ。知らないということは時に恐ろしい。
 納得したように頷いてから、はたとシャンプがまた首をかしげる。
「けんどれ、なしてドツクんよ?」
「ありゃ挨拶だ。本気じゃねぇよ」
「したらば(そうなら(どうして(殴るわけ?)))」
「それは・・・」
 ここで意味のわからないことを言われて、トリュフォーが言葉を切る。
「っはははははは! 成る程成る程」
 助け舟は、インディカムから出た。
「言葉が聞き取りづらいと思っていたが、どうやら勇者殿の言葉は独特のものらしいな」
「そうけ?」
「そうだ・・・まぁともかく」
 気を取り直して、トリュフォーが言う。
「このおっさんは私の親父だ」
「愚息が迷惑をおかけしたこともあるでしょうな、申し訳ない」
「よーよー、こんこそ(いえいえ、こちらこそ)」
 主に迷惑かかるのは私だっつーの、というのは誰かさんの独り言。
「とにかく、行くぞシャンプ。ここに来たのは別に親父殿に顔見せに来たわけじゃねぇんだからな」
「まったく、出かけたら出かけっ放しで連絡もせずに何をしておったんだか」
「任務だっつってるだろ。ほら、行くぞ」
「お、おう」
 それから、トリュフォーはインディカムに耳打ちをする。うむ、とひとつ頷くと、「では、私も行こうか」と彼も後に続く。
 悪ぃが、コイツの剣技を見てやってくれないか――トリュフォーがシャンプに進める気晴らしとはつまり、ルスラに続く『特訓』。勇者である彼の相手となり、かつ、剣を扱える者はそう多くない。彼が自分の父親でもあり、また歴戦の戦士であるインディカム団長にそう頼むのも、無理からぬことである。
 いざ、特訓へ。

<オマケ>
 王都、某所。
「・・・何の用だ」
「おや、つれないお方だ。わざわざ足を運んで、その言葉とは」
「用件は何だ」
「もう少し友好的に行きましょうよ、オースティヴさま」
「! 私を本名で――」
「それじゃ、もうちょっと仲良くしていただきませんと」
「・・・」
「大丈夫ですよ、誰も聞いていませんって、“ヴィット”さま。それにここじゃ悲鳴も聞こえやしません・・・ああ、驚かせちゃいましたか?」
「いや。もしお前がその気なら好都合だ」
「あはは、いやだな~、返り討ちもカッコ悪いですし、何より自分の得になるところがありませんから。謹んで、ご遠慮させていただきます」
「・・・それで」
「ああ、はいはい、忘れるところでした。こちらの計画は万全、あとは実行に移すのみだ、というのをお偉い様から伝言を頼まれましてね。使いっ走りです」
「(“使いっ走り”だと? ふん、よく言う)」
「それで、です。そちらの状況をついでに聞いてこなければならないので、教えてもらえませんかね」
「・・・ヒカリゴケ祭りの二日目の日中に決行――全て順調だ」
「成る程、一日目はさすがに遊びたいんですね」
「・・・初日と最終日は警備が厳しい。それに白昼堂々となれば、相手の混乱も誘える」
「報告書題名『反乱軍副総長の計画日程のついての言い訳』・・・と。やはり夜のお祭りイベントは外せない」
「何の話だ」
「こっちの内輪話です。お気になさらずに。あと」
「まだあるのか」
「はい、重要なことが――“王子”のことです」
「!!」
「決心、つきましたか?」
「そ、れは・・・あの子は・・・あの時に・・・」
「そうです、かのトラフル騎士団団長を父に、そしてメラノスポルム王の妹姫を母に持った男の子は、あの戦争に巻き込まれて死にました・・・歴史的事実として」
「そうだ。あの子は死んだ。オニドによって、あの誇り高き王の血は失われたのだ!」
「そうですね・・・しかし?」
「・・・」
「しかし、適任者がいる」
「やめろッ!」
「・・・」
「あの子は・・・トリュフォーは、死んだんだ。その名を穢すことは許さん!」
「穢す? まさか。彼は祖国を滅ぼされ、己の身分を知らずにかの王国に仕えていたが、真実を知って立ち上がり、人々を導く、という“英雄”になるんですよ」
「そんなこと、兄は望まん!」
「はぁ・・・オースティヴさま、我が侭もいいかげんになさい。第一、誰のおかげでこの反乱軍――ああ、レジスタンス、でしたっけ?――それを結成出来たと思っているんです? 捨て子だった貴方は、どう足掻いても“トラフル騎士団団長テュフス・テューバーの義弟”・・・旗頭にはなりえないんですよ。それにこの軍事力!」
「・・・」
「メラノスポルム復活を胸に秘めた同志がいくら集おうが、今のマッタンゴー王国の前では灰燼に等しい・・・ふっふ、それを知って『魔の眷属』に取り入ってきたのは貴方の方でしょう? 違いますか」
「・・・」
「返事が無い、ということは黙認ですね」
「・・・」
「覚悟を決めたならば、最後まで貫き通しなさい。今更、醜いですよ。ここで引き返したところで、貴方が支払った代償は戻って来はしません。それに――」
「わかっている・・・もう、戻れはしないことぐらい・・・」
「でしたら」
「だが!」
「・・・」
「だが・・・それでは無関係な人間を巻き込むことに・・・なる」
「(それがどうしたと? やはり人間の考えはわかりませんね)この先にあるのは、戦争ですよ? 大勢死ぬに決まっているでしょう」
「それは・・・」
「それとも・・・まさか本人だったりして」
「!」
「死んだと思われていた男の子は、実は親を殺した宿敵の元で、敵国に忠義を尽くす騎士として育っていた――それがもし本当なら、まさに『事実は小説よりも奇なり』ってやつですね。それに名前も一緒ですし、有り得ないことじゃないですね。ああ、だから彼を巻き込みたくないと――」
「違う」
「そう?」
「・・・ああ」
「・・・ならば、承認してください。あの男・・・『黒曜の騎士トリュフォー・ルベスケンス』を、テュフス・テューバーの息子である、つまり、メラノスポルム王家の正統な血を引く“王子”であると!」
「・・・ぁぁ」
「誓ってもらえますか」
「・・・」
「こっちはそのために、散々苦労して手回ししてきたのですよ? レジスタンスのためだけに」
「(我々のため“だけ”にだと・・・何という見え透いたウソを・・・)」
「まぁ、いいでしょう。何度も言いますが、もうここまで来てしまったのですから、ね。お互いに、もう引けません」
「・・・」
「とりあえず、いい返事がもらえて、よかったですよ。それでは、また」
「(魔衆・・・何を企んでいる? 何を・・・! だが・・・私にはもう、どうすることも・・・)」

<オマケ2>
 騎士団本部の廊下。
「なま、トリュさ」
「ん」
「オヤジ殿さ、強ぇけ?」
「ああ、王国屈指だな。言っとくが――」
「うはぁ! すっげぇ! な・な・戦えんの? オラ、オヤジ殿と戦ってみてぇぞ!!」
「(そういやコイツはそういうヤツだったな)あー、心配しなくても、嫌というほど戦えるから」
「わはぁ~」
「(いや、むしろ闘技場に連れて行くべきだったか? あそこでモンスターと戦わせた方が・・・しかし、剣の基本がまったく出来てない以上、教えた方がスキルアップにもなるだろうし・・・)」
 彼らが城で行方不明となったはずのプルとドッキリ再開を果たすまで、あと数分。
 平和だなぁ。


    ◆37 穂永

「で、まあ、一応聞いておこうと思うんだが……」歩きながら、エリュべスは尋ねた。「武器を使った経験は?」
 ――全く無いです、と言おうとしたが、不意になんだか見栄を張りたい気分になって、プルは答えた。
「弓なら……狐や猪を射たことはあります。あと、剣」
「剣もできるの?」
「いや、その……芝居で」
 エリュべスは黙り込む。そのまま何も言わない。プルは失敗したことに気付く。二人はそれ以上なんの会話も交わさず、訓練場についた。
「あら、新入りさんかしら?」
 訓練場では何人かの騎士が素振りや模擬戦をしていたが、その中でプルたちを出迎えたのは意外にも美少女。装甲は軽めで、武器らしきものは帯びていない。が胸には騎士章が輝いていて、騎士団の一員であると分かった。
「いや、そうじゃないんだが、ちょっと訳ありで。プルアロータス君、か……彼女はサキュラといって、僕のいとこだ。そして、第十一副隊長」
「はじめまして。……ええっと、女の人でも騎士になれるんですね。今までに会った騎士の人たちは、みな男性でしたけど」
 聞いてサキュラがとろけるような笑みを浮かべる。プルはどきりとする。エリュべスは顔を引きつらせる。
「じゃ、じゃあ、プルアロータス君!」突然大きな声で、エリュべスが言った。「まずは剣からはじめてみようか!」
 エリュべスの指導に従い、プルが斬り・突き・払いなどの一連の動作を披露する。
 ――なるほど、分かった。
 エリュべスにはすぐわかった。プルの剣は一見剣術らしいが、実はただ剣術らしく剣を振り回しているだけである。素人目には分からないかもしれないが、騎士団に属するどんな弱い騎士でも彼が隙だらけであると気付くだろう。
「うん、いいよ、じゃあ次は弓を射てもらおう」
 プルは訓練用の模造剣をエリュべスに返し、弓矢を受け取る。それからエリュべスとサキュラがプルを訓練場の付属施設のアーチェリーレンジ(弓場)に案内した。プルは黙って的に向かう。こちらは剣術とは正反対で、田舎で獣を射たことがあるだけに一定の技量があったが、構えはまるで様になっていなかった。十本の矢をうち、命中五本、うち中心近くに当たったものが二本。
 サキュラがすっと進み出て、プルの腕を取り腰に触って、構えを矯正する。プルは一瞬どぎまぎしたが、やがて落ち着きを取り戻すと、もう一度仕切りなおす。今度は命中七本、中心に三本。
「少しうちやすくなったでしょ?」とサキュラが笑った。
「はい、ありがとうございます」
「弓の腕はなかなかだね」とエリュべス。
「が、それだけを売りにするにはまだ不足じゃな」
 重々しい声が響いて、訓練場に一人の車椅子に乗った老人が入ってくる。すでにかなり高齢だが、顔立ちは整い、威厳さえ感じさせる。「足萎えの騎士」コルヌ副騎士団長である(「足萎えの騎士」は蔑称であると同時に畏敬をこめて呼ばれる名でもあった。過度に慎重と言われる彼だが、なんと防衛戦で敗北したことがないのだ!)。
「焦ることはないよ、若者。時間は無限にあり、鍛錬すれば腕は自ずから磨かれる。剣に関しては、まずは基本を身に付けることじゃな。まあ、ゆっくりと」
「はい」とプルはうなずいて答えた。
「……さて、では今日もはじめるとするかの」
 ――何をはじめるのだろう、と首をかしげて、プルははっと気付いた。訓練場の空気が一様に緊張しているのだ。それこそ、プルにも分かるほど。
「僕たちは少し離れよう。怪我をするから」とエリュべス。プルは訳がわからぬながら、手を引かれて隅に寄る。コルヌ副団長は訓練場のほぼ中心に進んだ。
「何をはじめるんですか?」とプルが聞いた。
「副隊長車がかり」とエリュべス。「副団長に傷をつけられたら隊長昇格なんだ。ちょうど、前の第七隊長が病気で辞職したんでね」
 見れば、十二人の騎士が車椅子のコルヌを取り囲んでいる。
「そんな無茶な!」とプル。「あの人は足も不自由で、おまけにお年寄りなのに……」
「ま、見てなって」
 長い髭をはやした壮年の男と、体格の大きな若い騎士が同時に打ちかかる。髭の騎士は長槍、大柄な騎士は両手剣を持っている。
 コルヌの眼が光った。
 同時に老人は剣を抜いた。その瞬間、髭の騎士の長槍が真っ二つに折れて飛ぶ。次の瞬間、胸元に迫った大柄な騎士の剣を弾き飛ばす。手元に残った木の棒でなお突きかかる髭の騎士。だが、老人はその柄を掴むと、掛け声も上げずに髭の騎士を持ち上げ、投げ捨てた。
「次!」
 老人の声とともに、またしても二人の騎士が斬りかかる――が、老人に触れることすらかなわない。老人の剣先が触れれば彼らの得物は真っ二つに飛び、老人に掴まれれば高々と持ち上げられ投げ捨てられた。老人はそれを、座ったまま行っていたのである。また一人。今度は三人。さらに二人。とうとう残っているのは四人だけになった。
 この四人の顔ぶれと言えば、第五副隊長のクロット、第七副隊長のレンス・ティロピラス、第八副隊長のクリス・スパーラ、そして第十一隊長のサキュラである。
 まずクリスが弓を引いて矢を放った。ところが老人は素手でこの矢を掴み、ダーツのように投げ返した。クリスの弓より強い勢いで矢は飛び、クリスは地を転がって避けた。同時にレンスがフレイルを手に突っ込んだ。間合いを自在に操ることができる、剛柔兼ね備えた武器だが、やはり数回打ち合ううちにコルヌに掴み取られ、投げ捨てられた。次にサキュラが飛び込み、袖の中から暗器を出した。槍のようで槍でなく、針のようで針でない。これは東方の武器で、かの地では峨嵋刺と呼ばれている。細く長いその武器は一見貧弱だが、鋭いことは限りなく、尖端には毒が塗ってあり、実際には悪辣きわまる武器である。
 ところがこれさえもコルヌには通じず、サキュラは高速で動き武器を突き出すが、老人は腰や首をひねるだけでたやすくかわしてしまう。サキュラが正面にまわった瞬間、コルヌはたいへんな勢いで掌を突き出し、彼女を一撃で倒した。最後にクロットがハルバードで打ちかかったが、老人の剣に受け止められ、数秒の力比べのあと、はね返されて地に転がった。
「ふう」とコルヌは一息。「みな腕を上げたな。次は誰かにやられるかもしれんのう」
 プルが唖然として見守っていたことは、言うまでも無い。
「見ての通りさ」とエリュべスが耳打ちした。
「あの老人に傷をつけられるのは、それこそ隊長方だけね」と、いつの間にか近くに来ていたサキュラが言った。「倒せる人となると……団長と国王陛下、あとはティロピラス公爵くらいよ」
「研鑚の成果じゃよ、腕を磨くことじゃ」とコルヌも声をかけてきた。「……ところで、噂をすれば」
 コルヌが入り口の一つを見た。副隊長たち、プルとエリュべスもそちらを向く。
「あっ……」とプルが声を上げた。
 入ってきたのは騎士団長、それにトリュフォーとシャンプだ。クロットとエリュべスが駆け寄る。が、それより早くサキュラが両手を広げ、走り寄りながら声を上げた。
「トリューお兄様……!」
 どすっ。
 次の瞬間、サキュラの身体はボールのように宙を舞った。トリュフォーに蹴り上げられたのである。彼女を無視して、トリュフォーはクロット、エリュべスの二人と会話を始めた。
「不在の間、手間かけさせちまって悪りぃな」
「全くですぞ」とクロット。「あなたの仕事を肩代わりする我々の身になっていただきたい。第三隊をご覧なさい、フラムルどのが執務を一人でこなしているおかげで、あそこに所属する騎士たちは何の不安もなく武術・兵学の研鑚に打ち込めるではありませんか」
「隊長が何もしねぇ第二隊よりマシと思いなって」
「……決してエオルスどのの真似はなさいませんように。フラムルどのやダーマどのを見習っていただきたい」
「あー分かってる。あいつらは立派な連中さ。……エリュべス、おめぇにも苦労をかけた」
「や、兄貴、気にしないで下さいよ」とエリュべスがフォローする。
「ちょっと、トリュー!」ここでトリュフォーに憤然とした声がかかる。声をかけたのはサキュラの遺体――いや実際には死んでいるわけではないが――の隣に立つプルアロータスだ。
「おう、なんでおめぇがここに」
「そんなことはどうでもいいよ。でもさ、今のはあんまりでしょ」
「今のって何だ」
「確かに男女の間のことは難しく、いくら切なる思いだって、受け入れられないことだってあるだろうさ」
「いや、何言ってるのか分かんねぇ」
「――だからって、好意を持ってくれてる女の人をいきなり蹴飛ばすなんて酷いじゃないか!」
 ようやく納得したトリュフォーは、エリュべスのほうを向いて聞いた。
「言ってねぇのか」
「はい」
 それからまたプルを見た、プルはなお罵っている。
「だいたい、騎士の本分は女性や子供を守ることなんじゃ」
「――そいつは男だぜ」
 恍惚とした表情を浮かべて気絶しているサキュラ。その横に立っているプルの頭の上には、花が咲いて風に揺れていた。

    *

 そうだ、騎士団は女人禁制。女性がいるわけがない。いるわけがないのにいたということは、つまり、まあ、そういうことなのだ。
「悪かったね、言ってなくて」とエリュべスが苦笑しながら言った。「第十一隊は内偵・工作を得意とする部隊で、普段から変装してる連中が多いんだ。あいつはまあ、アレがお気に入りらしいけど。……いやお気に入りっていうか、ひょっとすると真性かも」
 眼下の訓練場で、シャンプと騎士団長が戦っていた。つまり、模擬戦訓練をしていた。騎士たちはその光景に見入っていた。団長が押されているのなど初めて見るのだ。ましてその相手の剣術は、素人の技もいいところで、プルの技と大差ないのだ。
 ――勇者の力とはこれほどのものか。
 多くの騎士がこのように思い、舌を巻いていた。
「……じゃ、どうして最初にそう教えてくれなかったんですか? エリュべスさん、あの人のことを”彼女”って」
「最初”彼”って言おうとしたんだ、そのときあいつが僕のほうを凄い勢いで睨んだのに気付いたかい? どうしようもないじゃないか、あいつは僕より強いんだから。僕はあの暗器で刺殺されるのはご免だぜ?」
 プルは沈黙する。エリュべスは最後に言う。
「あいつの本名はファギィだ。でも絶対にこの名前で呼ぶなよ、死にたくなかったら」

    *

 再びプルとエリュべスは訓練場に降りてきた。シャンプとインディカムが所狭しとばかりに激しく打ち合っている。コルヌやトリュフォーがシャンプに動きを指導している。プルたち二人は訓練場の片隅に移動し、稽古を再開した。素振りをしていると、トリュフォーがやって来た。
「よぉ、調子はどうよ?」
「よく分からないな、上達してるの、俺?」とプル。
「そんな一時間やそこらでは上達しねぇさ」
「いや、兄……隊長、少しずつ良くなってはいますよ」とエリュべスがフォローする。
「そいつは結構。……結構なところ悪ぃんだが」とトリュフォーはシャンプたちに眼をやり、「どうも邪魔みたいだから、よそでやってくれねぇか」
 ――かくして訓練場を追い出されたプルとエリュべスは、アーチェリーレンジに入った。仕方ないので弓の練習のほうをしようというわけだ。ここではレンスとクリス、そして女性(ああ変態がもう一人、とプルは思った)が鍛錬をしていた。
「これはレーエさん、いらっしゃってましたか」とエリュべスが声をかけた。
「こんにちは、エリュべスさん。兄がお世話になってます。そちらは?」
 エリュべスが簡潔に紹介する。プルは「どうも」と言って頭を下げる。レーエも「はじめまして」と挨拶を返した。それからプルは的に向かう。
「クリス副隊長」とエリュべスが呼びかけた。「もしよろしければ、彼の弓術を見てあげてくれませんか」
「いいとも」とクリスは応じて、弓を置き、的から下がり、プルの後ろに来て、構えを見た。
 プルが弓を引く。
「少し右肩が上がり過ぎてるな。弓はもう少し上げたほうがいい……そう」プルが矢を放つと、的の真中から拳一つほど右に命中した。「うん、いい感じだ」
 プルは手ごたえを感じて、クリスの言葉を頭に置きながら次の矢を放つ。またも真中近くに命中。次こそ真中を射てやろうと矢を放つと、今度は的から外れてしまった。
「力が入りすぎだよ」とエリュべス。
 しかしプルの矢はそれからは順調に的に当たるようになった。クリスはうなずいて、エリュべスたちと世間話を始めた。
「エリュべス、トリュフォー隊長は弓術大会には出るのか?」
「さあどうでしょう。時間があれば出るかもしれませんが」とエリュべス。「アエルグ隊長はどうです?」
「それは出るとも、第八隊のための大会みたいなものだから。もちろん俺も出る。君自身はどうだ?」
「出たいと思ってますけどね。騎士団からは五人しか出られないですから、選ばれなければどうにもなりません。今回、出るつもりでいる方は何人いるんですか?」
「ふむ。隊長と俺と、あと弓の上手と言えばエオルス隊長だが、あの人は出そうにない。そうだ、ダーマ隊長は出るかもしれないな(ここでレーエが思い切り矢を外した)――レンス、君はどうする」
「出られるなら出たいけど」矢をうちながら、レンスは答えた。「五人に選ばれるかどうかより、もっと重大な問題があるからなあ。噂は聞いただろ、親父がまたぞろ例の病気をぶり返したって」
「ああ……」クリスはレンスの矢を見た。誤ることなく的の中心近くに突き立っている。
「そうなりゃ、俺は団長に従って遠征さ。親父の奴には、息子の俺が灸を据えてやらにゃならん」また矢を放つ。今度も中心近くだ。
「お父さん……ご病気なんですか?」とプルが恐る恐る尋ねた。まったく善意の質問だが、予想外の質問でもあった。レンスは思わず笑い出し、ために矢を外してしまった。
「あー、心配無用、死に至る病じゃないな、多分。怪我はするだろうけど」とレンスは答えた。「あんたはどうだ、プルアロータス君。大会には出ないのか?」
「一般の人も出られる?」プルは矢を放つ。端のほうだが、的には当たった。
「出られるよ」とエリュべス。「と言ってもまあ、優勝するのは大抵騎士団員だけどね。最近は三年連続でアエルグ隊長が優勝だ」
「じゃあ出たいです。優勝とか考えてるわけじゃないですが」
 ――そうだ、彼女なら、その隊長から名誉を奪えるかもしれない。ふと、プルはそう思った。
「あの」とレーエ。「私も出たいんですけど」
 聞いてクリスははっと顔を上げた。レーエの矢はほとんど的の中心近くに集まっている。ただクリスたちは気付かなかったものの、一本だけ的を外した矢があったが。
「ええ、そう、もちろん構わないとも。隊長から優勝を奪うのはレーエさんかもしれないな」とクリス。「それじゃあレーエさんと……プルアロータス君だったか? あとで第八隊の執務室へ来てくれ。推薦状を書くから」
「推薦状って?」とプルが尋ねる。
「一般参加には予選があるが、騎士団の推薦状があれば免除される。――予選は今日だから、そもそも君は受けることができないよ」
 ――じゃあミセナは参加できないか。残念。

    *

「これはなんの騒ぎなんだ?」
 再び王都に来ていたミセナは、人だかりの中で劇団のビラを配っていたヴェルに鉢合わせて、尋ねた。
「弓術大会の予選だそうですよ。祭り初日の晩に行われる、」とヴェル。「優勝者には帽子一杯の金貨と最高級の弓、矢を五十本が景品としてついてくるとか。王都ヒカリタケ祭りの恒例行事だそうです」
「ふうむ」とミセナは再び人だかりを見た。なるほど弓術大会か。それは、出たい。景品などに興味は無いが、腕を見せたいという自然な欲求がある。「出てみようかな」
「そうですか! 予選合格をお祈りします。こっちに並べばいいみたいですよ」
 とヴェルはミセナを行列の最後尾に案内した。……ふと気付くと、並んでいるのはいかつい男どもばかりである。
「なんだ、嬢ちゃんは? 見物ならもう少し下がりな」ミセナのすぐ前の、ひげ面の大男が言った。
「いや、僕は予選参加に来たんだが」
「なに? 嬢ちゃんがか? あっはは!」と男は嘲る。これに同調して、ほかの参加者までが笑い出した。「王国内外の名人が集まってくるのに、女の子の出番はないぜ」
 ヴェルが言い返そうとした。が、ミセナは彼女を抑えて、男に向かって微笑した。
「いえ、その高名な参加者の腕がどれほどか、できるだけ間近で見たいだけのことだ。なにも腕を競おうというつもりはない」
 男は鼻で笑って前を向いた。しばらくしてその男に順番がまわってくる。予選運営の係と思われる騎士が説明した。
「五本射ていただき、三本当たれば合格となります」
「おう」
 男は身体よりも長い大弓を満月のように引き絞り、じっくり構えて矢を放った。大言に相違なく、男は的の真中を射当てた。その後も男は充分に時間を取り、五本全て、真中から拳一つの範囲に収まっていた。居並ぶ野次馬や、参加者たちまでが歓声を上げる。騎士が合格おめでとうございますと声をかけ、書類を渡す。男がどうだとばかりふり返る。ミセナは微笑を浮かべるばかり。
「お手並み、とくと拝見した。では僕の弓をご覧に入れよう。見るほどのものではないだろうけど」
 ミセナは一歩進む。騎士が先ほどと同じ説明をする。ミセナはうなずくと、弓を無造作に構え、ろくに狙いもつけずに矢を放つ。矢は的の上端に当たる。背後の男たちが冷笑した。ヴェルははらはらしていた。
 続いて第二矢。第一の矢から真下、やや中心に近いところ。第三の矢は真中に命中。ここに至って男たちがどよめいた。真中に当たったから驚いたのではない。これまでの三本の矢が、真っ直ぐ縦に並んでいたからだ。
 第四の矢は真中からやや下に当たり、第五の矢は的の下端に命中。背後で男たちが目を丸くしている。五本の矢は真っ直ぐ並び、寸分も横にずれていないばかりか、それぞれの間隔も全く同じだったのだ。運営係の騎士もさすがに度肝を抜かれ、やや呆然のていであったが、気を取り直して合格おめでとうございますと言い、ミセナに書類を渡した。
 ミセナは騎士に礼を言うと、くるりと振り向いた。列を離れると、ヴェルが飛びついてきた。
「凄いです、ミセナさん!」
「いや、まだ未熟だよ」
 それからその場を立ち去ろうとすると、先ほどの男がぬっと現れた。ミセナとヴェルが不快な表情を浮かべる。
「何か?」
「いやっ、そのぅ……」男は目をそらしたが、またミセナを見て、言った。「先ほどは失礼した。お詫びを言いたい」
 二人の表情が和らぐ。
「いやこちらこそ、大人気なかった」とミセナ。「わざわざ技量を見せびらかすなんて、良い趣味とは言えない」
「俺の名はレピダス・レンティナだ。弓術大会で会おう」
「私はミセナ・クロカータという。良い勝負を」
 ミセナは右手を差し出した。レピダスはそれを握ったが、ミセナの握力の強さに内心驚愕した。

    *

 六勝四敗。シャンプの、騎士団長との対戦成績だ。
 模擬戦を始めると、大抵最初はシャンプが勢いに乗って押しまくることになる。そのまま押し切ってしまう場合も多いが、ほんの少しでも隙を見せると、団長はそれに乗じて猛反撃を加え、一気に形勢をひっくり返すのである。
「つまりは剣術だ」とインディカム団長は言った。「能力に任せて剣を振り回すだけでもその強さだ。剣を操るすべさえ学べば、鬼に金棒だと思わんかね」
 ――というわけで、シャンプはインディカムとコルヌの二人がかりでみっちり剣術を仕込まれる仕儀となったのである。

    *

 翌朝。
「はっ!」
「ぬん!」
 掛け声とともに、インディカムとコルヌが前後より突きかかった。シャンプは鋭く振り向き、コルヌの剣を受け跳ね上げると、再び振り向いてインディカムの槍を掴んだ。そのまま一歩前進し、インディカムの腹に蹴りを入れる。インディカムがよろめいた隙に、コルヌと三合に渡って打ち合い、その剣を跳ね飛ばす。ついで体勢を立て直したインディカムに再び顔を向け、剣閃激しく打ち合う。シャンプは微塵も隙を見せず、インディカムは防御にまわり、あっという間に押し切られる。
「参った、勇者。大したものだな」とインディカムは言った。「もう二人がかりでもかなわんとは」
「えっへへ」とシャンプが笑う。「おらもだいぶ、強くなた気がするだよ」
 それを見て、プルは思った。
 ――やっぱり才能の差だ。
 一日で大幅に剣術の腕を進歩させたシャンプに比べ、自分はといえばエリュべスがゆっくり攻撃してくるのに合わせて剣を舞わし、形を作るので精一杯だというのに。
「こら、よそ見している余裕があるの?」
「あ、はい!」
 エリュべスの攻めに合わせてプルが形を作る。エリュべスが構えを崩すとプルが攻めの形を作る。まだ到底実戦のレベルではない。
 ――俺、少しでも強くなったのかなあ?
 どうも否定的な気分になるが、シャンプを羨ましがっても仕方が無い。
 と、そのとき、サキュラが訓練場に駆け込んできた。
「ティロピラス公爵、謀反なさいました! 騎士団の隊長・副隊長は全員ただちに王前へお越しになってください!」
 インディカムは答えた。
「よし、参ろう」
 それからシャンプに向かって、
「勇者、わしが教えるべきことはもう何もない。形に縛られることなく、思うままに戦うが良いだろう。君の未来に栄光あらんことを」
「ありがとごぜました、ダンチョー」

    *

 王前にはすでに騎士団、魔術師団、それに高位文官の面々が集まっていた。
「諸君はもう聞いたと思うが」王が重々しく口を開く。「ティロピラス公爵がまたしても謀反を起こした。彼に王国転覆の野望や、そのための計略があるとも思えぬが、その戦術の巧みさ、兵士の精強さは、侮るべからざるものがある。よって叛乱が飛び火しないうちに、これを鎮圧したいと思う」
 面々が一様に険しい表情を浮かべる。王が続ける。
「インディカム・ルベスケンス騎士団長を、討伐軍の総帥に任ずる。騎士団の第一・第六・第七・第十二部隊は団長に従って征北せよ。――騎士団長、ついては先鋒の将を選ぶがよい」
 インディカムが未だ発言しないうちに、レンス・ティロピラス第七副隊長が進み出て、自薦した。
「俺に先鋒を命じてください。両親は古くより陛下に従い、多大な恩を受けたにも関わらず、幾度にも渡って謀反してきました。今、各地で情勢の不穏が囁かれています。両親は王を助けてこれを制圧すべきであるのに、かえって自ら叛逆の先陣となるとは許しがたいことです。親の誤りを正すのは子の務め。どうか俺に先鋒を!」
 王は横目でインディカムを見た。インディカムは小さくうなずく。王は言った。
「よろしい。ではレンス・ティロピラスを第七隊長に昇進させ、討伐軍の先鋒を命ずる。副隊長の人選はレンスの随意にせよ。――では討伐軍に編制された部隊は直ちに準備をし、正午を以って進発すること」
「はっ」とインディカムが応じる。
「必ず父を捕えてみせます」とレンスが言う。

 かくしてヒカリタケ祭り前日の正午、沿道の観衆に見送られながら、騎士団は美々しく出撃した。若く美男子で知られるレンスがまず先に立ち、続いてルベスケンス団長が威風堂々と馬を進めていく。沿道から黄色い声が飛ぶ。さながら祭りの前夜祭の如き様相である。
「親父殿!」
 見送りの集団の中から、トリュフォーが叫んだ。インディカムがそちらを見る。フラヴィダムとレーエもそこにいた。
「公爵は手ごわいぜ。注意しな!」
「そんなことはお前の倍も分かっておるわ。幾度奴とともに、あるいは奴と戦ったと思っておる。隣にあっては頼れる戦友、前に置いては戦慄すべき敵」
「――楽しそうだな」
「はっ! わしも奴も、勇者と同じだ。強い奴と戦いたい、この戦いはそれだけの目的で行われるのだ」
 そこでシャンプが声を出した。
「その人がそんなに強えなら、おらも戦ってみてぇべ!」
「おう勇者、いずれその機会はきっとあるとも! フラヴィダム、留守は任せたぞ! トリュフォー、レーエを頼む!」
「父上、道中お気をつけて」フラヴィダムが呼ばわる。
「どうかご無事で、父さん」レーエも声をかける。
 インディカムはにっこと笑って、子供たちに手を振ると、馬をさらに進めた。


  38(バーネット)

 早朝の蒼天高くに向け大地よりいくつもの『種』が撃ち上げられる。それは上空に上がるにつれ次第に速度を落とし、そしてほぼ空中で停止したところでその殻を破り――しかし本来見せるべき炎の花弁を開くことなくわずかな煙と破裂音だけを残して散っていく。
 普段ならば安眠妨害もいいところのそれも、今日この日だけは全ての者に嬉々として受け入れられた。なぜならそれが合図でありそして景気づけでもあることを皆が理解しているからである。そして

 晴れ渡る空の下、王都最大のイベントの一つ、ヒカリタケ祭りの幕が開く。


 古今東西、祭りというのは人が集まるものである。大きな祭りというのはもっと集まるものである。そして最大級の祭りというのはそれはもう凄い人数が集まるものなのである。
 人が集まればそこにはお金も集まる。商いにて生計を立てている者がこれを見逃すはずはない。それは半分は慈善事業で出来ているようなエリンギー一座――あるいは現クレンタ一座――であっても例外ではないのである。

「うわー……、いっぱいいる……」
 野外に準備された劇場の裏側からヴェルティナはこっそりと観客席を見渡していた。彼女の口から思わず漏れた言葉通り、これまた臨時に作られた観客席は見事なまでに埋まっていた。満員、大入りというやつである。
 エリンギー一座の公演は実はこのヒカリタケ祭りにおける名物の一つと言ってよいほどの知名度を誇っているのである。無論、この祭りに参加している劇団は他にも存在する。だが、それでもこうして中央広場で堂々と公園が出来るということがエリンギー一座の人気と実力のほど如実に示しているといえるだろう。
 しかし、新入りであるヴェルティナはそのあたりのことも、自分がこれから出る劇の重大さも全く分かっていなかったりする。実際、他の団員たちはいつもより気合が入っているのだが、まだ知り合って月日の浅いヴェルティナがそれに気付くことはなかった。もっとも気付いたところで余計に緊張するだけなので、それはそれでよかったのかもしれないが。
 しばらく客席を見ていたが、急に怖くなって少しだけ出していた顔を引っ込め、ヴェルティナは大きく息を吸い、一拍置いた後ゆっくりと吐き出した。
「……うん、いままでどおりやれば大丈夫」
 そして不安と緊張を和らげるために手元にある台本にもう一度目を通し始めた。
 エリンギー一座の第一回目の公演が始まるまであと少しである。

「あ゛~~~~……」
 所変わって、ここは騎士団訓練場。
 普段ならば屈強な騎士たちが黙々と──まあ、そうでない者もいるが──訓練を繰り返している、ある意味騎士団の聖域とも言える場所である。やけに汗臭い聖域ではあるが、それはともかく。
 本来ならば騎士あるいは高官以外が立ち入ることを禁じられている場所なのだが、祭りの日となれば話は変わる。
 ただの訓練場とはいえ、こういった機会でもなければ見ることができないとなるとなんとなく見たくなるのが人情というものである。そういうわけで、一般公開された訓練場には毎年の例に漏れずそれなりの人数が出入りしていた。騎士団の人間たちはこんなところを見て何が面白いのかと思うようだが、毎年続けば慣れてしまうもので、気にすることもないかという気持ちで見物客を案内したりしているのである。
 そんな訓練場の一角に何かを囲むように大きな人だかりができていた。
 人だかりといっても何かを囃し立てているわけではなく、むしろ時折歓声が聞こえる以外はいたって静かであった。というか余計な喋りを許さないような、そんな雰囲気がそこには溢れていた。静寂の合間からは何かが勢いよく風を切る音や木を穿つ乾いた音が聞こえてくる。
「う゛~~~~、あ゛~~~~………」
 静かだがしかし目に見えない熱気を帯びているその場所──つまり弓術大会第一回戦の会場たるアーチェリーレンジを囲む人の輪から少しはなれたところで、いつものメンバープラスアルファの中でプルは己の浅はかさを呪いながらぐったりとうなだれていた。
 ちょっと面白そうだという理由で参加しただけであったし、一回戦で負けるのも予想はしていた。要は軽い気持ちで出ただけである。しかしこの大会、どうやらプルが想像していたものとは異なりかなり真面目なものであったらしい。
 実際のところ、このような大きな武術大会はただの娯楽としての面以外にも、騎士団の能力の誇示や王都以外の場所から実力のある者を探し出し、その者を騎士へと登用するという側面も持っている。無論単純に賞金が目当てというものも多いが、どちらにしろだいたいの参加者はかなり真剣だったりするのである。
 そんな中に何も知らない小心者ののほほん少年が混じったらどうなるか。
「うぅ…………」
 明らかに一般人とは違う雰囲気を持った人たちに囲まれ──ちなみにプルの両隣はやけに筋骨隆々とした人たちだった──、何十何百という真剣な目に囲まれて、萎縮しまくったり離宮で感じたのとはまた別の場違いオーラにグサグサと苛まれたりとそれはもう大変だったのだ。そしてそのダメージはいまだ回復せず、そのためプルはこうしてぐったりとしているのである。
 ちなみに一回戦の内容は十本撃ってどれだけ的の中心近くに当てられるかを競うものである。なお彼の名誉のために詳しい結果は伏せておく、が強いて言うならば、五人いたプルのブロックの中で的を外したのは一人だけであった、ということぐらいであろうか。
 壁を背にして力なく座り込んでいるプルにそれぞれが声をかける。
「大ぇ丈夫だべか、プルっち?」
 プルが出ると知って応援、というか見物をしに来たシャンプが心配そうに言った。
「ふん、身の程とやらをもっとわきまえるのじゃな」
 同じく見物に来たルスラが淡々と言い捨てた。
「元気を出してください、プルアロータスさん。これからもっと努力をすればきっとうまくなれますよ。筋がいいとか悪いとかなんてたいした問題じゃありませんから」
 会場まで同行したレーエが微妙なものを含んだ励ましを送り、
「いや、君の場合はまず別の方向への努力がいるような気がするな。でもまあそんなに悪くは無かったよ、プルアロータス」
 最後に会場で偶然にも出会ったミセナが冷静に指摘した。
「あはは……。ありがと、みんな」
 四者四様の言葉を受けて少しは立ち直り、プルは何とか曖昧な笑みを作る。そして何も言わないのもなんだと思ったのでとりあえず思いついた話題を振った。
「それにしてもさ、レーエさんや騎士団の人たちも凄いけどミセナもやっぱり凄いなあ。なんか余裕って感じだったし」
「ええ、本当に。私なんかじゃとてもかないませんし、騎士団の方々とも互角以上に戦えそうですね」
「いやいや、そう言うあなただってちゃんと残っているではないですか」
「そこの能無しと違ってな」
「……まあ事実だけどさ」
 それにしたって能無しは無いだろうとプルはちょっといじけた。
「それよか、マツリさ行くべ。マツリマツリ!」
 いや、シャンプ、それよかも無いでしょ。と心の中でさらにいじけるプル。
「そうじゃな。この負け犬のために時間を割くよりそのほうがはるかに有意義じゃ」
「うぅ……、何もそこまで……」
「……しかしまあ、いつまでもここにいたら邪魔になりそうだ。それに二回戦以降は明日のようだし」
「ほれ、急がんか。マツリが我らを待っておるのじゃ!」
「はいはい。あ、レーエさんはどうしますか?」
「私はもう少し残っていきます。騎士団の方々はまだ残っていますし、その……、応援したい方が……」
「いいからさっさと立て、そして歩け、この腑抜け」
 なぜか躊躇いがちなレーエの言葉を横からルスラがぶった切った。しかも顔がマジだった。見た目は子供なのに結構怖い。
「わ、分かったってば。レーエさん、それじゃ」
「この場合は、また明日、でいいのかな」
「ええ。お疲れ様でした、皆さん」
「遅い! わらわは先に行っておるぞ!!」
「あ、オラも!」
「あ、もー。二人とも待ってってば」
 そして、周りの迷惑など何も考えず出口へ向かって突進していく危険人物二人組を止めるべく、プルとついでにミセナもまた走り出したのであった。


「おつかれはん、なかなかの演技だったでぇ」
「そんなことないですよ。ボクなんかまだまだ」
「や~、ヴェルはホントにいい娘やなあ。どや、このままワイらの家族に、というかむしろワイの嫁に──」
 スパーン! という音とともに団長の頭が大きく揺れる。
 繰り広げられるいつもの光景を見て、あぶれ者の一座の面々と半獣人の少女はいつものように笑った。

「はふひ、はひほうはへ。ふふっひ」
「食いながら喋らないでよ、シャンプ。いつもだって何言ってるのか分かりづらいのに。ってルスラ、一人でふらふらしない!」
「……君も案外大変なんだな」
 祭りを楽しむ聖魔剣の勇者一行とまだ若い魔王の一人は何も知らずに小さく笑った。

「準備が整ったようです」
「ご苦労。さて、どうなるかな」
 陰謀と策略を張り巡らす魔衆の首領は遥か彼方の地で不敵に笑った。

「あはっ。祭っていうのも悪くないわね、ヴォルヴァ」
「ルブロ、口付近に糖分が付着。──なお忠告、これ以上の時間の浪費は作戦行動に支障をきたす恐れあり」
「わーかってるって。でもどーせやるのは明日なんだし今日ぐらい楽しみましょーよ♪」
 祭りの喧騒の中で、呪われた異端の双子の姉は怪しくそして楽しそうに嗤った。

「全員集まったか?」
「ああ、すぐに配置につかせる。ここまで来て失敗はさせん」
 王都の影に潜む復讐者たちはその悲願の達成を目前にしても、笑い声一つもらすことなく昼の影の中に再び消えていった。

 そしてここ王城前にも笑わない男が一人。
「何考えてやがんだ、フラヴィダム……」

 そして全ては動き出す。一度動けば二度と止まらず、まして巻き戻すことなど不可能で。
 残った猶予はあと一日。残された平和はあと一日。
 後の歴史書にも大きく記述されることとなる悲劇の大騒乱の幕開けまで、残りあと一日である。

39
皆既日食

迷った。
なんかもう最近ついてないなあっていうかこないだもお城で迷ったばっかじゃん俺。
祭りの喧騒に飲まれてぐちゃぐちゃにされていいかげん消化されつつあるような少年プルは、再び長いため息を吐くのだった。

ことの起こりはヒカリタケ祭り恒例の大パレードの接近である。毎年ヒカリタケ祭りの夜には王家に雇われた専門の栽培家の手によって育てられた巨大ヒカリタケ――なんと高さ6メルテル・幅4メルテル以上が最低条件――を載せた御輿を中心にした5つのパレードが街を練り歩く。淡く輝く胞子が夜空に舞う光景はこの上なく幻想的で、見る者を魅了せずにはいられない。最終日には特製強化剤が巨大ヒカリタケに叩き込まれ、おびただしい光の胞子を祭りの夜空に撒き散らす。ちなみにその次の朝、ヒカリタケは枯死する。
原因は暴走したシャンプだった。ヒカリタケの御輿を近くで見ようと押し寄せる群集に混じって、悲しいかな田舎モノのサガによりシャンプは野獣となって突撃した。(ちなみに止めようとしたプルは引きずられるどころか弾き飛ばされて宙を舞った)すでにはぐれかかっていたルスラの上に着地したプルは怒り狂ったルスラの手によってさらに遠くへ弾き飛ばされた。なんとか助けようとしたミセナもまた群集に飲み込まれ、一瞬でその姿を消した。
そして彼は一人になった。

どこを見ても人、人、人――神様、これだけいるならその中に一人ぐらい知り合いを混ぜてくれてもいいじゃないですか!
ヒカリタケはもうだいぶ遠くまでいったので多少は楽になったが、それでもまわりは押し合いへし合い潰し合いである。そしてたかが一般人であるプルにその流れを変えるほどの力はなかった。
「あっちからきたぞ!!!」
うおおおおおおおっと群集の流れが変わる。
「ぎゃああああああああああああああああ!」
びっくりして転んでしまったプルは、祭りの喧騒の中に消えていった。



 こんなところに乱入。エラー出そうだったから・・・
つか、このあり得ない長さって何よ。物語としてはあんまり進展してないし。もう知らん。(R)

乱入Ⅱ。*でくくった部分。ファリンの顔を見ればエオルスには魔衆と分かってしまうでしょうから、こんな感じでいかがですか。穂永。

謎の首輪お嬢様の正体がついに明らかに!(皆既日食)

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい(R)

バトルしてねえ(汗)。いや、コルヌやサキュラはしてるけど。
長さのわりに物語としては進展してません。騎士団の顔見せ(しかも比較的どうでもよさそうな連中)に終始してます。ぐはあ。
あ、そうそう。レーエが登場してますが、プルは彼女のことを男性だと思い込んでます。このことを使って何かイベントがあるといいですな。穂永。

orz ヤッチャッタ…(R)
ついで(?)に、サキュラの台詞を一部変更。
「トリュフォーさん」→「トリューお兄様」になりました。
「私に弟はいねぇよ」(トリュフォー談)とのことなので、『兄貴』の変化形かと。どーでもいいですが、兄貴をつける時は『トリュー兄貴』となります。トリュフォー兄貴だと長いからね。そんだけ(R)

バーネットさんがヒカリタケ祭りから書き始めていたので、その前に団長の出撃場面を追加しておきました。穂永。

穂永さんの素早いフォローに感謝を。すっかり忘れてました……。あとミセナと握手してた人にも。出番なくしちゃってごめんよ。(バーネット)

さあ、迷いましたぞ、迷いましたぞ!これから誰に会うのかプル少年!?(皆既日食)

最終更新:2013年06月17日 18:50