2005年11月09日(水) 14時29分-鴉羽黒
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高校に入って驚いたことは色々とあるけれど、その中でも好意的なそれにあたることの一つが、校内に自販機が置いてあるということだった。しかも通常120円のところを100円で売っているのだから2ポイントだ。
「うわ、なによこれ」
けれど、まあうまい話には落とし穴がつき物とでも言えばいいのか、この自販機には色々と問題があった。一つは、動いている時間が昼休みと放課後下校時刻までしかないこと、それと――
「ほとんど売り切れじゃない!」
まあ、そういうことだ。
「今日、日中あったかかったからねー」
「あたたかいのもほとんど売り切れてるわよ!」
「日が暮れ始めてから、急に寒くなったもんねー」
「わたしのレモンティーを返してよ!」
用意した100円玉を握り締めた右手を突きつけて、みーこが理不尽な要求をしてくる。そんなことわたしに言われても困る。ので、
「困るよ」
と主張してみる。でもみーこはなんだかネコの威嚇みたいな声を出してきただけだった。そんなに寒いのだろうか。
「こんな時間まで延長するあの委員会が悪いのよっ!」
「まあまあ。ほら、コーヒーならあるし。あったかいの」
指で示してみせる。自販機は二台あって、そのうち一台のほうの一番下の段の右隅二つ、そこにちょこんと小さいコーヒーの缶が並んでいる。100円を投入されていない自販機は、彼らの下のボタンを光らせていない。つまり、売り切れと表示されていない。
「いらないわよコーヒーなんて。少ないし。甘すぎるし」
わたしはレモンティーだって甘いことに変わりはないんじゃと思ったが、それは黙っておいた。ついでにいうと、二つ並んでいる缶コーヒーの、右側の黒いほうは甘くはない。経験的に知っている。文字通り苦い経験だ。
「…甘くなる予定だったんだけどなぁ」
「ん、なに?」
「ううん、なんでもない」
みーこは眉をひそめたが、それ以上は気にした様子はなかった。いい加減に100円で買えるレモンティーに諦めがついたのか、踵を返して彼女は歩き出した。わたしも彼女にならって、隣を並んで歩く。校門を出たと単に強い風が吹いて、わたしは思わず目を閉じかけた。
「でも、そもそもなんで缶コーヒーなんておいてるのかしらね。あんなの、買ってる人見たことないわよ」
まだ機嫌は直っていないのか、さも缶コーヒーが悪者みたいな言い方をするみーこ。あいまいな笑みを返したわたしは、不意にいつも図書室にいる、どこか少し変わった先輩の姿を思い浮かべた。
「…少なくとも一人は、缶コーヒー買ってる人、いるみたいだけどね」
頭上に疑問符を浮かべたみーこをそのままに、わたしは鞄から板チョコを取り出した。
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最終更新:2013年06月12日 23:49