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本日のデートはどっち?! 松阪牛VSカレーパン

2005年12月17日(土) 08時55分-逢風

 

憧れのツヨシとデートすることになった。わたしはうかれていた。

 プランは俺がたてるってツヨシがいうから、どこに行くとか、何をするとか、わたしにはわからない。でも、わたしは彼のそんなゴーインなところに惚れたのだ。待ち合わせ場所は近所の公園だった。期待と不安で眠れぬ夜をすごしたわたしは見事に寝坊した。
 5分ほど遅刻しますとメールを打ち、わたしは目的地に走った。一方のツヨシは10分遅れてやってきた。
「ごめん、待った?」
「ううん、今来たところだよ」
なんて決まり文句を男女逆に唱え合う。今日は、わたしの心には似つかわしくない暗いお天気。わたしのカバンにも折りたたみ傘が入っている。ツヨシは空を見上げると、気に食わないといった表情でちっと舌打ちした。
「降りそうだし、この先の美術館にでも行くか」
 言いながらもう歩き出しているツヨシに、わたしはすぐに従った。

 美術館に向かう道の脇には、たくさんのお店がある。パン屋から、焼きたての香ばしい香りがただよってくる。いいにおい。目の前を歩いてたツヨシが不意に立ち止まった。
「どうしたの?」
「……いや、俺これ好きだからさ。つい」
 ツヨシが見てるのは、お店に貼られたポスターみたい。なになに……。
「あ、わたしも大好き。カレーパン」
「……カレーパン?」
 ツヨシがいぶかしげに振り向く。わたしたちが見ていたのは確かにお店のポスターだった。しかし、ツヨシが見ていたのはレンタルショップの「某人気海外映画のDVDが一週間後にレンタル開始」という内容のポスター。一方、わたしが見ていたのは、その隣のパン屋の「本日カレーパン20円引き!」のポスター。
「…………」
 わたしは恥ずかしくなってうつむいた。ツヨシは特に突っ込みも入れず、わたしを促してまた歩き出した。こういう時、突っ込まれない方が逆にミジメなんだなぁ、とばかげたことをわたしはしみじみと考えていた。

 美術館は思ったよりすいていた。展示されているのは、聞いたことのない外国の画家の油絵。どこかで見たことのあるような絵もあるから、きっと有名な画家なのだろうけど。
 しかし、幼稚園児が紙に色を塗りたくっただけのような絵だ。わたしが評価に困り、何も言えなくなっていると、
「気に入ったな、この絵。構図もうまいけど、このあたりの色使いが斬新でいいよ」
 腕組みしながらうんうんと満足そうにうなずいているツヨシ。ツヨシにはわかるのか、こういうの。でもわたしは眠くなりそう……。
 わりと小さな美術館だったけど、だからこそか、ツヨシは絵を一枚一枚丹念に見て歩いた。さらに、出口のあたりで売っているポストカードを、ツヨシが散々迷って選んでやっと5枚買い終えたときには、かるく12時をまわっていた。
「ここ出たら昼メシ行くか」
 ツヨシの言葉に、ずっと眠気を我慢していたわたしはほっとした。「うん、行こう」とわたしが声をあげるより先に出たのは、「ぐおりゅ~~~っ」というマヌケな腹の虫の声。静かな美術館内に響き渡り、少ないながらも館内にいる人みんながこちらに注目した。
「………………」
 今度こそ突っ込まれるかと思ったが、またもやツヨシは何も言わなかった。

「ここだよ」
「……え? ここ?」
 わたしは仰天した。ツヨシがランチにと連れて行ってくれた場所は、おしゃれなカフェでも定食屋でもなく、ステーキのお店だった。
「ここだと松阪牛ステーキ定食が1500円で食えるんだ」
 ……はぁ?!
「ちょっと待ってよ。確かに松阪牛が1500円なら安いのかもしんないけど、やっぱり安価とは言えないし……。それに、なにもお昼にそんなもの食べなくても……」
「文句言うな! 俺が食いたいんだよ」
 その瞬間、わたしの中でなにかがぷっちーんと大きな音を立てた。
「あっそーですか! じゃあここでバイバイだねっツヨシ君!」

 わたしはそのままパン屋に飛び込んだ。本日20円引きのカレーパンを3つ買って店内の座席に座り、かぶりつく。女心のわからないヤツめ……わたしはこれでおなかいっぱいなんだから。
 わたしはなりふりかまわぬ勢いでカレーパンを食べ続けた。窓の外ではいつの間にか雨が降り始めたらしく、かすかにざあっという音が聴こえる。食いちぎられたパンの欠片は、味を感じさせる間もなく喉の奥に滑り落ちていった。

 木組のお題です。
遅くなってすみません。

最終更新:2013年06月13日 00:11