2005年01月19日(水) 12時09分-K
前回までのあらすじ
親の仇を倒すために、剣術修行の諸国放浪をしていた稀近(まれちか)は、行く先々でなぞの組織の刺客たちと遭遇していた。しかし、彼らを倒しながら、確実に剣士として稀近は成長していくのであった。そんな折、伊賀に立ち寄った稀近は、なぞの忍術使いにより絶体絶命の窮地に立たされたのであった。
「はーはっはっはっは。我が奥義、『分け身の術』が貴様にやぶれるかな?」
「く、くそ、いったいどれが本物なんだ」
正眼の構えで立つ稀近の周りには、幾つもの忍者の姿が見える。それが同時に動くと、森の中で視界も悪いため、幾つの像が見えているのかすらもわからない。もちろん、そのほとんどすべては残像にすぎないのだ。どうにかしてこの技を見破らなければ。
「そーら。ぼけっとしてるんじゃないぞ」
スッと、背筋に悪寒が走る感覚がした。後ろに気配するので、刀を体の正中線に立て、振り返りながら飛び下がる。しかし、見えたのは、日の光が刀に反射した、一瞬の閃きだけだ。刀の先が頬をかする。一瞬遅れていたら頚動脈だ。手の甲で顔をぬぐうと、袖まで赤く染まる。
「俺の一の太刀が皮一枚とは、なかなかいい反応をするじゃないか。だが、つぎはどうかな?」
このままではだめだ、やられる。
そのときだった。心の中に直接呼びかけてくるような声が、響いてきたのだ。
(稀近よ、よく聞け)
(この声は。お師匠!)
ふと、上を見上げると、青空に懐かしい師匠の顔がうっすら浮かぶような気がした。
「そらそら、よそ見していると、首から上と首から下が、さようならしちまうぞ」
どうやら相手には聞こえていないらしいことに、稀近は気づいた。それでは、これは遠くにいるお師匠が、直接私の心に話しかけているのか?
(稀近よ、よく聞くのだ。上辺だけの幻なんぞに惑わされてはいかん。真実を見極めるためには、雑念を振り切って、心の目で見るのじゃ。そして理力じゃ、理力を使え)
(心の目、すなわち心眼!なるほど。しかしいったいどうやって?ぼやぼやしていて、気づいたらすでに俺の体は傷だらけだ。くそっ、こうなったら賭けるしかない)
稀近は、一念発起すると、心をできうる限り静めて、目を軽くつぶった。敵の忍者はそれを見てあざ笑うように言った。
「おいおい、もうあきらめちゃったのか?念仏でも唱えるってんなら、唱え終わるまで待ってくれるなんて思わないほうがいいぜ」
しかし、稀近の心は内側へ内側へと、沈んでいった。外側への一切の知覚の扉を閉じ、今まで閉じていた心の目を開こうとしたのだ。次第に外界の物音は背景に後退し、最後にはほとんど聞こえなくなる。触角もまた然り。世界には自分しかいなくなり、それ以外は静寂の海。すると次第に、心のふたが開けられ、その中にあるものがあふれ出そうとしているのがわかるのだった。
見えた!見えたぞ!心の目によって見える、今この眼前にありありと!いくつもの虚像の中でどれが本物なのかも見えるし、そいつをどうやって倒せばいいかも見えるぞ!俺の一撃を敵が避けようとするが、避けきれずに致命傷を受けてしまうのも、そして奴はあの俺を付け狙う組織の一員であるが、結局その組織の正体も今回はわからずじまいなのもみんな、ちゃんとちゃんと見えるのだ!それだけではない。俺はこの後傷ついた体を引きずりながら、山を降りようとするが、あまりの痛みに気を失ってしまう。俺が気がつくと、そこは小さく粗末な農家の家の中だ。一人の優しい農家の娘が、偶然薪を取りに山に入っていて、助けてくれたのだ。彼女は、俺が回復するまで手厚く看護してくれる。そしていつしか二人の間には、単なる偶然を必然のように感じさせるような思いが、育っていったのであった。しかし、俺にはやらなくてはいけない使命があるのだ。あの憎き父の仇、あの隻眼の男を探し出すまでは、俺は立ち止まるわけには行かないのだ。ごめんよ、お冬、君と俺とは双曲線のように、一度接近することはあっても、最終的には交わることのない運命なのさ。「ああ、なんて好いたらしいお方。なのにあなたは出て行こうとなさる。こんなにお慕い申し上げているのに、こんなに身を焦がしているのに」俺は、未練を残さないように、ある夜こっそり寝床を抜け出し、旅を再開した。まだ、怪我が治りきったとは言いがたいのだが、しかしこれ以上ここに残れば、俺の理性の歯止めがいつまできくかどうかもわからない。俺は敵討ちのための恨みだけで生きている人間なのだ。剣の交わり以外の、人同士の交わりなど、俺には必要ない。いや、そんなもの、してはいけないのだ。俺は明日もわからない、いつ死ぬかもわからない人間だ。いつ死んでもいいようにしていなければ。
俺は町に出た。町にいれば、奴ら、つまり俺を付けねらう奴らに見つかる可能性も高い。怪我が治りきらない俺にとっては危険だといえる。しかし、町に出なければ情報収集もままならないのも確かだ。俺は、まず町外れの茶屋に入った。
そこで俺は、幼馴染のさっちゃんに出会ってしまったのだったグハァァッ
「命の取り合いをしてるって時に、目をつぶってニヤニヤしてんじゃねぇ!!!!」