2005年01月24日(月) 15時27分-K
前回までのあらすじ
親の仇を倒すために、剣術修行の諸国放浪をしていた稀近(まれちか)は、行く先々でなぞの組織の刺客たちと遭遇していた。しかし、彼らを倒しながら、確実に剣士として稀近は成長していくのであった。そんな折、伊賀に立ち寄った稀近は、なぞの忍術使いにより絶体絶命の窮地に立たされたのであった。
「はーはっはっはっは。我が奥義、『分け身の術』が貴様にやぶれるかな?」
「く、くそ、いったいどれが本物なんだ」
正眼の構えで立つ稀近の周りには、幾つもの忍者の姿が見える。それが同時に動くと、森の中で視界も悪いため、幾つの像が見えているのかすらもわからない。もちろん、そのほとんどすべては残像にすぎないのだ。どうにかしてこの技を見破らなければ。
「そーら。ぼけっとしてるんじゃないぞ」
スッと、背筋に悪寒が走る感覚がした。後ろに気配するので、刀を体の正中線に立て、振り返りながら飛び下がる。しかし、見えたのは、日の光が刀に反射した、一瞬の閃きだけだ。刀の先が頬をかする。一瞬遅れていたら頚動脈だ。手の甲で顔をぬぐうと、袖まで赤く染まる。
「俺の一の太刀が皮一枚とは、なかなかいい反応をするじゃないか。だが、つぎはどうかな?」
このままではだめだ、やられる。
背後で、地面を強く蹴る音がした。ぎりぎりまで集中していたからこそ、そのかすかな音に気づき、瞬間的に反応できて、振り返った。しかし、相手はほとんど体当たりするように飛び込んできており、こちらはのけぞりながら振り返っているため体勢が悪い。受けが間に合わない。終わった、と稀近は思った。体がこわばる。幾つもの死線を潜り抜け、死の恐怖などとっくに克服したと考えていたにもかかわらず。しかるべき痛みが感じられるのを彼は待った。
しかしそれはなかなか来なかった。いったいこれはどういうことだ?稀近は異常に気がついた。周りから音が消えていた。そして、今まで速すぎてほとんど見えなかった忍者の動きが、まるで油の中を泳いでいるように、ゆっくり見えたのだった。これはいったいどうしたことだ、と稀近は考えた。
そのときだった。心の中に直接呼びかけてくるような声が、響いてきたのだ。
(稀近よ、よく聞け)
(この声は。お師匠!)
ふと、上を見上げると、青空に懐かしい師匠の顔がうっすら浮かぶような気がした。前にも経験があるのですぐにわかったが、これは遠くにいる師匠が直接心に語りかけているのだ。
(今、おぬしは人間の限界に挑戦しようとしているのじゃ。人間は普段、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、の五感によってこの世界を認識しておる。じゃが、極限状況に追い詰められた人間は、その状況を正確に認識するため、視覚以外の感覚を締め出し、そしてその視覚を極限まで張り詰めさせる。その際、恐るべき集中力を発揮させることになる。それがお前が今見ているその景色じゃ)
なるほど。人が死ぬ寸前に走馬灯を見る、という話を聞いたことがあるが、瞬間的に一体どれほどのものが見えるのかといぶかしんでいたが、それもこの時間の引き延ばしで納得ができるのかもしれない。しかし今はそんなのんきなことを考えている暇はない。
(行け、稀近、人間の潜在能力の力を見せ付けてやれ)
「な~る~ほ~ど~、こ~ん~な~お~そ~い~う~ご~き~だ~っ~た~ら~か~ん~た~ん~に~よ~け~ら~れ~る~ぜ~、っ~て、あ~れ~、お~れ~の~う~ご~き~も~お~そ~く~な~っ~て~、(ズッバシューッ)うわあ~ち~が~で~た~、こ~れ~じゃ~は~な~し~が~ぜ~ん~ぜ~ん~ち~が~う~じ~ゃ~ね~か~!~!~」
そのとき、敵の忍者の唇がゆっくりと、次のような言葉を言うように動くのが見えた。
「な~に~わ~け~の~わ~か~ら~ん~こ~と~を~い~っ~と~る~ん~だ~、け~っ~と~う~の~さ~い~ちゅ~う~に~、こ~わ~く~て~き~で~も~く~る~っ~た~か~!~?~」
ズバァァァッシューーーーーーーーーーーー