2005年02月14日(月) 13時04分-K
窓から見た世界
ここはとある町。高層ビルが立ち並ぶわけでもなく、かといって田園ひろがる田舎なわけでもない、ごく普通の平々凡々な町である。
そんな平凡な町の、ごく普通の家のひとつで、取り立てて変わったところのない少年が、実にいつもどおりの朝を向かえ、平穏無事に目覚めようとしていたのであった。
「フゥァーア、おはよう」
彼の名は太郎、超がつくくらい普通な少年である。
彼はいつも朝起きると、まずカーテンを開け、そしてその日の天気を確かめるのであった。
この日もいつものように、太郎はカーテンを開いた。
「今日の天気はどうだろうな」
窓の向こうは一面の雪景色である。
「わぁ、雪だ雪だ、よおし、みんなと雪合戦だ」
そういうと太郎は、急いで着替えて、玄関まで走っていった。
「いってきまぁす」
そういって玄関を勢いよくあける。すると、
「わぁ、なんだこれ」
そこにひろがっていたのは先ほどの、一面の銀世界ではなく、握りこぶし代の雹が降り注ぐ地獄絵図であった。とても表を出歩けるような状態ではない。
太郎はしぶしぶ自分の部屋へ戻っていった。
「おかしいな、確かに窓からは、雪が降っているように見えたんだけどな」
もう一度窓を見てみると、やはり雹が降っている。
次の日
「ふぅぁぁぁあ、おはよう」
太郎は目を覚ますと、またいつものようにカーテンを開ける。
「わぁ、今日は晴れだ、今日こそ外で遊ぶぞ」
太郎は急いで着替えて、玄関へ走る。そして玄関のドアを開くと
「ま、まただぁ」
今度は、晴天どころか嵐になっていて、横殴りの雨が家の中にまで入ってくる。瓦やバス停の標識やカーネル・サンダースがごろごろ転がっていく。
太郎はまたもしょんぼりしながら、自分の部屋にこもるのであった。
「おかしいな、確かに窓からは晴れに見えたんだけどな。でも、いったいなんで……」
そのとき
「ふふふ、その疑問、私がお答えしよう」
どこからともなく、不気味にエコーのかかった声が響いてきた。
「だ、誰?」
「とう!!」
パリーーーーン!!!
突然、黒いスーツに身を包んだ紳士が体を丸めながら、窓ガラスを破って部屋の中に三回転半で着地をした。当然窓からは猛烈な風雨が部屋に流れ込んでくる。また、ガラスの破片も床一面に散乱してしまった。しかしその男は何食わぬ顔でネクタイをまっすぐにすると、少年のほうに視線を移した。
「お、おじさん誰?」
太郎はあまりのことにそう聞くだけで精一杯だ。
「そんなことはこの際どうでもよい、今問題なのは、どうして窓から見た天気と実際の天気が一致しないのか、ということではないのかね」
「た、確かにそうだけど」
「そうだろう、その問題を私が解決してやろうというのだ。そもそもの間違いは、お前が窓から見た景色などという不確かな情報を信じたことなのだ。そんなものは信頼できない。天気を知りたければわが○×新聞の天気欄を見なさい。これこそ信頼できる情報というものだ」
混線する日本語
「よお、奇遇だな、こんなところで会うなんて」
「おお、なにしてんの、こんなとこで」
「ちょっと用事でね。あっ、そうだ、あの頼んどいた文章、期日までにおくってくれるよな」
「あぁ、あれね。えーとね、たぶんおくれるとおもうよ」
「じゃあ、いいや。結構心配してたんだぞ」
「うん、ちょっとだけおくれる」
「ちょっとだけ?それって、ぜんぶはおくれないってこと?」
「そんなにはおくれないとはおもうんだが」
「でも期日までにはおくれるんだろ」
「あぁ、期日にはおくれるとおもう」
「ちょちょちょちょっと待て、お前の言ってる『おくれる』ってのは、もしかして『おくれない』って意味じゃねえのか」
「なに言ってんだ。『おくれる』は『おくれる』に決まってんじゃねえか」
「いやいや、そうじゃない。俺が言いたいのはだな、俺の『おくれる』は『おくることができる』という意味で、お前の『おくれる』は『おそくなる』という意味じゃないか、ということだ」
「よく意味がわからないが」
「ああもう、いい加減にしろ。最初の質問に戻るぞ。文章を期日までにおくることができるのかできないのか」
「だから、おくれるって言ってるじゃねえか」
「ちがーう。おくることができる、もしくは、おくることができない。このどちらかの答え以外回答とは認めない!」
「期日までにおくることはできない」
「はぁはぁはぁ、ようやくここまで来た。つまりお前は『送ることが遅れる』すなわち『送れない』ってことだな、って面倒くさいな日本語ってのは」
「じゃぁ、そういうことで」
「おい、どこ行くんだよ。結局いつになったら約束の文章、上げられんだよ。おい待てよ」
「いってえな、手首思い切りつかむなよ」
「いつごろだったら、完成できそうなんだよ」
「まあまあ、はなせばわかるよ」
「はなしたら、お前逃げるだろ」
「はなしたって逃げねえよ、お前が手首捕まえてんだから」
「そんなことはなしてんじゃねえ」
「とりあえず、はなすからはなせよ」
「お前がはなしたらはなすよ」
「はなしてくれなくちゃ、痛くてはなせねえよ」
「はなしても逃げないんだな」
「にげないからはなせっていってんだろ」
「わかったよ、離したから話せよ」
「いってえ、跡ついてんじゃねえか」
「で、いつまでなら完成しそうなんだよ」
「今月中には何とかしようと考えてんだが」
「ほんとお前、いい加減な男だな。いい加減にしろよ」
「お前はそういうけど、俺だって、几帳面なとこあるんだぜ」
「うそつけ!お前のどこが几帳面だ」
「うん、まぁ、うそなんだけどな」
「ほらみろ、バレバレなうそつくんじゃねえ」
「お前さっきから、いい加減はだめだと言ったかと思えば、いい加減にしろと言うし、うそつけと言ってから、舌の根も乾かぬうちにうそつくなと言うし、いい加減なのはお前じゃねえか」
「いい加減なのは俺じゃなくて言語のほうだ。
そういやぁ、お前、中学のころから、言葉をいやに気にするやつだったな。俺がエイズウィルスをエイズ菌って言い間違えただけで、食って掛かってきたりして」
「当たり前だ。エイズだったから良いとして、インフルエンザだったら、インフルエンザウィルスとインフルエンザ菌ってのはまったく別個なものとして、ちゃんと存在してんだぞ」
「ははは、わかったわかったよ。しかしお前、あのころからほんと変わってないよな」
「ふーん、そんなに変わってないか?」
「うん、ぜんぜん変わってないよ」
「そういうお前は変わってるな」
「ハァ?」
「だから、お前は俺のこと変わってないって言うから、そういうお前は変わってるなと思って」
「えっ、それって、少し変じゃないか、『変わってない』の反対は『変わった』であって」
「それはおかしいだろ。『変わった』の反対は『変わってなかった』だろ」
「待て待て、俺が言いたいのはな。おまえは以前から変わってて、その変わってることがずっと変わってないなと」
「それはおかしい。それじゃ矛盾だ。変わってるのが変わってないなんて無意味だ」
「いやね、だからそうじゃなくてね」
「まぁ、そんなにこだわるなよ」
「こだわってるのは俺じゃねえよ」
「お前、ほんとに変わってるな」
「む、むぅ。
そういやぁ、お前、なんだか旅行を計画してるんじゃなかったっけ」
「あぁ、ちょっとな」
「ちゃんと原稿書いてからにしてくれよな、頼むぜ」
「大丈夫、安心しろって」
「いくときはいってな」
「ああ、いくときはいくに決まってるよ」
「いやそうじゃなくてな、俺がいっている『いくときはいって』はな」
「いっている、といったって、俺たちは立ち話してるんだから、どこにもいくことはできねえよ」
「だからぁ、そうじゃなくてぇ……
(永遠に、そして延々と続く)