2006年11月27日(月) 18時48分-川口翔輔
イントロ
あのとき、彼らは、そして僕らは、21世紀へ。だれかれとなく、新世紀、その変化にかけた、甘い希望。湧き上がる、矛先の定まらない情熱。しかし、一方でその近づく足音を聞くにつれ、いつの間にか芽吹き、健やかに育ちゆく絶望、変化への諦念。
その混沌。
そこから生まれた音楽。
僕らはずっとそれを聴いてきた。
2006年、暮れ、でも、まだいけると思うぜ。まだ間に合う。あのときから、ただ少し時間が経っただけだ。あの混沌を忘れない。新世紀。今こそが、新世紀だったって、なんか、さっき急に思った。
あのとき、そうだ、彼らが想い、歌った場所に、僕らは今、いるんだった。
「なんにもなかった」って、過去に収めてしまうのは早い。混沌を、諦めない、譲らない。だって、まだ僕らがいるのはどうしようもないと思う。
31.
「いつかの日のために、エネルギーを節約しようと思っていた」
「そうして心を砕いた」
「うん。いつの間にか目的がすり替わってしまっていた。それに気付かなかった」
僕は黙った。もっと他に言わないといけないことがあったように思ったけど、どうにも出てこない。僕にはもっと、彼と、話さないといけないことがたくさんある。この沈黙をもったいないと思う。
もうすぐ夜が明ける。いままでに明けなかった夜がないことを思うと、この夜も結局は特別でなく明けてしまうのだろう。実際、彼の顔も、輪郭を取り戻しつつある。彼の黒い目を見る前に、もっと多くを片付けないといけない。空気は相変わらず乾いて冷たい。波の音と風の音がする。あと、車の音がする。ずっと見なかった海を、僕はいま見ている。その黒い海のずっと向こうに、しんとした街の灯を見ている。
寒い。ずっと、コートのポケットに手を突っ込んだまま、こうして彼と向かい合って座り、もう何時間になるだろう。つま先は冷え切って動かないし、腰も痛い。頭も疲れている。マフラーに口元まで埋めてしまうと、自分の吐息の温もりに、そのまま寝入ってしまいそうになる。いけない、と思う。もう何時間になるかではなく、あと、どれだけこうしていられるかを僕は思わないといけない。咳払いとともに首をもたげる。風が吹く。潮の香りをかぐ。頬が寒い。でもまだ彼の目を見ないうちに、夜の魔力のあるうちに、話さなくてはならない。もうすぐ夜が明ける。冷たい空気を一気に鼻腔へと吸い込み、ぎゅっと目を閉じて開く。ふっと白い息を吐く。どうしてか、僕にはそれがとてもきれいに見えたのだけれど、それが消える間も、僕には惜しい。
「僕は、どれだけ浅いにしても、まだ底を見ていないと思う」
「うん」
「それなのに、節約なんかに努めたのは、どうしてだったろうかと思う」
「それは、もういい」
「うん、もういいのかもしれない。でも、心を砕いたことだ」
「それより、砕いた心を、どうする」
そして、その一瞬、この目の痛みはなんだろうかと思う。光だ。僕は了解する。これは夜明けだ。無数の光線が世界の輪郭を乱暴に、しかし緻密に描き出していく。望まない温もりに、僕は異物感を抱く。ほとんど水平に飛んでくる光線の束を挟んだ向かいで、彼の黒い目が僕を見ていた。それと感じながら、僕はそれを無視して再びマフラーの中に埋まった。暖かくて、本当に眠ってしまいそうだった。
彼は、大儀そうに立ち上がって、そのまま行ってしまう。踵を擦る無機的な足音が遠のく。疲れて、もうなにも考えられない。ただ、もう少しこうしていて、それから帰ろうとだけ思い、全部を投げ出した。
ピーチソーダの細やかな泡が弾ける音を、ずっと耳に聞いていた。
32.
寒くなってきたね。
僕は今でも、時々、あなたのことを思います。あの、嘘みたいな日のことを。そりゃ、すぐに信じられるようなことじゃなかったよ。顔を合わせる前から、そうと、聞かされていたものだから、いよいよ、疑わしいと思っていた。だって、そんな、人づてに聞くなんて、嘘みたいでしょ。
でもね、やっぱりその上での、あの数ヶ月だから、実際にそうなのだと、本当に思うこともあったよ。そういう前提で思ったこともたくさんあった。でも、本当に、どうしたらいいのか、わからなかった。本当に。
どうすれば、よかったんだろう。今でも、全然わからない。どうすればよかった、か。誰のために?何のために?
これで、よかったと思う日もあるよ。でも、そう思うことは、とっても簡単だと思うんだ。ともすれば、そんな風に思うなんて、都合よくて、ずるくって、無責任なことだって、思うこともある。
でもだからって、もう今の僕は、何も、すべきじゃない。わかっているつもりでいます。
本当に、これでよかったと、思う日があるよ。僕はクズだから。あなたの瞳は、澄んでキラキラだった。自分の醜さを、心から僕は思ったよ。
でも、さ、僕がどんなに思っても、どんなに祈っても、きっと、なんにもならないんだろう。僕がしたこと、しなかったこと。言ったこと、言わなかったこと。誰のために?何のために?ねえ、結局、何にもなくなったんだ。実際に、失ったのか、それともただ初めから何も持っていなかったことに、気付いただけなのか、わからないけど、ふと、見てみたら、なんにもなかったよ。それが、なんだか可笑しくってさ、これが、普通だったんだって、そう言ってみたりした。実際、これが、いつもだったから、ね。いつも、なにもないな、と感じていたよ。可笑しい。
不思議だね。べつに、それは僕でなくてもよかったはずなんだ。よりによって、クズだなんて、ね。それに、僕は、あなたを待ち望んでいたわけじゃないものね。
どういうわけか、あの数ヶ月、そこには、僕と、あなただった。
今でも、僕は時々、あなたのことを思います。「そんなことしても誰も喜ばない」。11月の夜の輝くような冷気を吸い込んで、さっき、僕はこの言葉を思い出しました。
あなたがくれた手紙の封筒に、いま僕はお金を隠して引き出しにしまっています。それに、僕はもうあまりショパンのピアノソナタを聴きません。あのCDは二つに割って、いつも使っていた郵便ポストに捨てました。小汚いロックンロール・ミュージックが、生活に溢れています。
あなたに、言わなかったこと。言えなかったこと。ぼんやりと、考えています。
お体に気を付けて。さようなら。
33.
あのとき、僕らはホームセンターの地下立体駐車場にいた。開店して間もない、午前10時、彼は消火器の設置してある巨大な柱にもたれて、しゃがんでいる。その頭を冷たそうなコンクリートに預けて低い天井を見つめる彼は、その隣で、肌を真っ赤に塗られたまま、じっと静かでいる消火器と、なんだかとても仲睦まじいようである。彼は首をもたげるために小さく口を開けている。消火器の方でも、その黒いくちばしを、虚空へと無感動に開いている、ように見える。あれが、いつか、誰か切迫した表情の人にためらいなく握り締められるところを、僕は想像してみようとしたが、うまくいかなかった。
火の、人に熱いことも、僕はそういえば忘れてしまいそうだった。自分の情けなさに、いつか、マッチの火が柄をつまむ指に触れるまで我慢していたときや、いつか、大きな焚き火にどこまでにじり寄ることができるかを競って遊んだときの記憶から、僕は火の人に苛烈な熱さを肌に呼び起こそうとしてみた。決して人を許さぬあの熱さを。昇る風、震え、乾き、あの痛み、予感、訪れるべき痛みへの期待、畏怖、そして、実際にそれを裏切らないだけの痛み、この肌に、あの火の熱いことを…
車が入ってきた。排ガスを、一種の親しみを以てのどに吸う。上下に巨壁の迫るその間の空間だけが、低いエンジン音に震える。僕は通り過ぎる車のナンバーを目で追った。また視力を失ったみたいだった。
すぐに、エンジン音が止む。車のドアが開く音。人の話し声を、かろうじて聞く。ドアが閉まる音。彼のまつ毛が、瞬きの度に軽やかに上下するのを、僕は見逃したくないと思った。跳ねる小石のような音がおさまって、また、ここに、待たされた車と僕らだけになった。
「少しは、慣れたかい。きっと、みんなそろそろ君をそういう風にみるよ」
そう、言ってみると、どうしてか、うまく唇が動かなくて、彼が確かに聞き取れたかどうか、少し不安になった。彼は頭を垂れて、右手で首を撫でた。そして、再び上げた顔は、笑っている。
「僕が垢抜けでもしたら、こんな世界・一秒で終わるよ」
だいたい、一年前だ。僕は、それほど多く彼の表情を見てきたという気を持たないが、僕の見た中でも、あのとき、そう告白した彼の笑顔、あれは、本当だったと思う。
きっと、だから僕は忘れないのだ。
今日も、世界は終わっていない。たぶん。彼は、まだ、そのままでいるのだ。つまり、ずっと、そのままでいることができずに。
34.
昨日、僕はうそをついて苦しまなかった。
今日、そうした自分の性根に苦しんだ。
明日、きっと僕はそんなこと忘れて笑うだろう。
でも、また、いつか、そうして忘れてしまったことに、苦しむだろう。
35.JINSEI
なんだ
まるで深い意味が
あるみたいじゃないか。
36.
私は許さない。
果たして、おまえの美しいと思うことは、本当に美しかろうか。おまえの醜いと思うことは、本当に醜かろうか。では、私の醜いと思うおまえは、実は醜くなどないのか?
私は、醜い。おまえは、醜い。醜きおまえ、それでも、おまえは私の前で胸を張る。苦しまず、あるいは苦しもうとも、やはり私の前で朗らかに笑う。ここで私は見ているよ、嵐の当惑と火の憎しみを以て、おまえのその笑顔を。私は許さない。
おまえは恥じぬ。なぜか。彼の、また恥じぬがためか。それとも、すでに「審美の目玉」を潰したのか。あるいは、本当に、おまえは醜くなどないのか?
それを、私は、つよさと呼ぼうか。逞しさと呼ぼうか。してみれば、私はよわい。弱者たる私が、強者たるおまえを許さずとも、何ということはあるまじ。私はそれが悔しくてならぬ。つよく、逞しき、醜きおまえよ、ただ見よ。私の、この実に醜く、よわきことを。私は許さない。
ああしかし、常に私の得んと求めたやさしさは、私に許せと言うだろう。私が身に付けたやさしさは、私の、この牙を折り、この爪を剥ぎ、この「審美の目玉」をえぐり取り、そうして盲になった私の顔に、おまえと同じく、彼と同じく、目尻のだらしなく垂れ下がった、平和な笑顔の仮面を押し付け、ついに私をして、「人間」を名乗らしむだろう。そして私は、いつしか身の醜さに苦しまず、卑しさに苦しまず、よわさに苦しまず、疑わず、友を愛し、我が同胞たる人間と争わず、虚無なることを畏れず、ただひたすら渺然たる無知に驕悍として逞しく遊び暮らすだろう。
そのとき、きっと私は幸せに違いない…
私は醜く、卑しい。卑怯で、よわい。そのために、この口は、私は許されずともかまわない、として、私はおまえを許さない、とは、言われぬ。
なんという不誠実。ただ、言われぬとしても、私は、許さない。
私の涙はなにかのためではない。
私は許さない。
沈黙!!!!
37.
ぶっころすぞ
38.
僕らの最終兵器にして、最強のカード・「人それぞれだよ」、これを、僕はどうしても突破したかった。壁は厚く、強く、また、質の悪いことに柔軟でもある。絶望の果て、何度行き当たろうとも、それは甘く微笑み、誰をも拒まない。そもそもそれは元来、僕にとって都合のいい守護者であるものなのだ。
自分自身の持ちうる最強のカードを破る。その無茶を理解するつもりでいる。それでも、僕はこれを突破して、その先へただ出たいと切に思っていた。あきらめることも、できる。その荊の腕に抱かれ、死ぬまで暖かな夢を見ていたいと、心から思うことがある。
「どうしてそうしない」
いつか、彼はそう言った。まっすぐに、光のように、彼の黒い目が、僕を射た。どうしてそうしないのか?僕は、本当にただ僕でかまわないというのか?あのときの、骨に染み入るような彼の笑顔が、僕の背筋をひどく寒からしめたのを覚えている。その一瞬、殺される、とさえ思った。悪魔を思うほどの、あの笑顔が、毒のように臓物をじわ、と侵すように感じた。
「この、」
僕は混乱し、怯えながら、しかしそれを彼に悟られまいとして、できるだけハード・ボイルドに聞こえるように言った。
「不自由が、嘆いているから。僕が、どこまでいこうと、所詮ただ僕でしか、どうしてもいられない…、僕がいる所にしかいられない…、その程度のことよりもっと…、とにかくイラついて、いまより、つよく…」
僕は試みの失敗を苦く噛み締めた。故意に、長めの瞬きをするうちに、彼の目が僕から外れるのを感じた。降伏のシグナルは受領された。ふと、安易に自分を肯定するより、隙なく否定することに拠って、そして、その否定を飲み込むような何かを以てでない限り、と言えばよかったかもしれないと思ったが、すでに秋を失ったことを、僕は悟っていた。
「人それぞれだよ」。僕は超えられるだろうか。これを突破しようというこの意気を、いつか忘れてしまうかもしれない。もしも忘れてしまったら、それは苦しいのだろうか。また、わからないことがたくさんあることに、行き当たる。いつまでもこうしてはいられないはずだ。とても当たり前の、このことを、僕はなぜかこのとき、思い当たる脈絡もなしに、初めて感動を以て実感した。
次にクラッシュが響いたら、ついに念願のコード・チェンジ。サンダーバードのファットなうねりに合わせて、ブリッジミュートを解く。千切れるようなバッキングを挿んで、リフを打つ。直後、堰を切ったように、最高にセクシーで息の長いスキャットがはじまる。ここから、どうしてもスキャットにならざるを得ない理由を、僕はいつも思う。
最悪に至るには、まだずいぶんある。
ちゃんと人を見下したい。
希少価値なんてクソだ。
39.
「おいおい、
おまえの大切な、大切な、大切な、大切な、
プライドによ、
ちょっとツバ吐いたくらいで、
そんなに怒るなよ、
ベイビー。」
ザ・イエローモンキーの『WELCOME TO MY DOG HOUSE』のような『Love Is Zoophilia』のような『Four
Seasons』のような『NAI』のような『楽園』のような『球根』のような『SO YOUNG』のような『SUCK OF
LIFE』のような『人生の終わり(FOR GRANDMOTHER)』のような『遥かな世界』のような『RAINBOW MAN』のような『Hard
Rain』のような『アバンギャルドで行こうよ』のような『BURN』のような『Sea』のような『シルフスカーフに帽子のマダム』のような、くるりの『街』のような『東京』ような『カレーの歌』のような『HOW
TO GO』のような、山崎まさよし『水のない水槽』のような『Super
Suspicion』のような、ミッシェル・ガン・エレファントの『ブラック・ラブ・ホール』のような『ダニー・ゴー』のような『フリー・デビル・ジャム』のような、スーパーカーの『PLANET』のような『LOVE
FOREVER』のような『LAST
SCENE』のような、三島由紀夫の『翼』のような、宮沢賢治の『よだかの星』のような、夏目漱石の『虞美人草』のような、村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』のような、詩を書こうとして、ここまで書いてみて、やめた。続きは明日にしようと思った。
「黒いサングラスは、
かっこいいからさ。
自惚れるなよ、
おまえが眩しいわけじゃない。
これならもう、
おまえなんか見えないぜ。」
次の日、またこれだけ書き足して、やめた。なかなか楽しかったけど、ここまでだ。無理だった。今度は、あきらめた。いままで、いったい全部で何回あきらめてきたものか、そういえば僕は数えてこなかった。
それとは別に、なんか変な風に可笑しくなった。
40.Smile !
なんだ
まるで深い意味が
あるみたいじゃないか。
41.notes of age 15
このまま、これは消えないかもしれない。
大人になること、
馬鹿になること。思春期を苦しめるプリミティヴな問いに迷うような、そこまでの考えをしないこと。
精緻で洗練された悟りを得るようになるとは、信ずるに足りない。考えないこと、生活。
利口になること。
笑うこと。
42.(from 27.)
「はやく、叫ばなくちゃ」
「なにを」
「わからない」
「急ぐのか」
「当たり前だ!」
「どんな感情だ」
「憤怒に近い。でもどうしてかわからない。ぱっと4年前の感覚が蘇る」
「それなら急いだ方がいい」
はやくはやく、言葉を探せ。この感じ。あんまり長いのはだめだぞ。はやく探せ。はやく探せ。短くてびりびり響くやつだ。急げ。はやく叫ぶぞ。時間がない。いましかない。この感じを、叫ばないといけない。はやくはやく、言葉を探せ。それを見つけたら、もうこんな頭蓋骨ぶっ飛ばせるはずだ。おい急げ!
!!!!
43.with the BGM:『パール』 byザ・イエローモンキー
三分三十九秒の臨界点。
呪われた孤独。つんざくハウリング。
四千回も聴いたから、結末はわかっている。それなのに、聴くたび、今度こそ越えられそうな気がする。今度こそ言えそうな気がする。同時に、変わらずやってくる無情の夜明けに怯えている。そうしながら、自分のスピードに一つずつ鎧を剥ぎ取られていく。そしてついに、まばゆい絶望の輝きが、醜い体を刺し貫く。
自分の無力に塗り潰されないように、血を吐き散らすように、いまもハイウェイを駆け抜けていく呪いの歌に、自分は違うと、言い切ることができない。
だから絶望をも振り切る本当のスピードが欲しい。
ロックンロールってなんだ。
44.
僕は立ち上がった。もう行くよ、とぽつり言った。いま、東京では雨が降っているらしい。僕に見える限り、どこまでも高く、乾いて青白い空は、錯覚くらい簡単に許してくれそうだ。これで、東京では雨が降っているなんて、信じられないな、と思った。それでもきっと、東京では本当に雨が降っているのだろう。
「爪はどうした」
背中で彼の問いが軽妙に弾けた。僕は小さく伸びをしながら応じる。
「ちゃんと隠した」
停められた自転車のカゴには尽く枯れ葉が入ったままになっている。懐かしいディーゼル排気の匂いをかぐ。こんな、なんでもないようなコンビニの駐車場にいてさえ、記憶も、思い出も、僕を離さない。それが、おまえだ、というように。
「牙は」
「いつも研いでるよ」
彼はまだ座っている。それでも、そんなに居心地がいいという風でもなさそうだ。いつか、鳥は、もう飛ばなくていい世界に行くために、と彼は言った。彼は動かない。また、何かを待つようになったのかもしれない。しかしそれは、もう絶対に僕ではない。そればかり、僕は嫌というほどに感じていた。目は、空をばかり見ている。風もなしに、ここを出られるものなら、と僕は思った。
「目玉は」
「一応、まだ見えると思う」
「そうか。笑顔は」
彼は続けて聞いた。カムフラージュの大切さを、彼は誰より知っていると思う。僕は首だけで振り返り、実際にそうして見せた。
「忘れないよ」
彼も笑った。それが、僕には本物か、知れない。
「信じる奴がいるかな。ナイフも、銃も、見せられるものはない」
「どっちでもいいよ」
鼻で笑うくらいの余裕が欲しかった。本当のスピードが欲しかった。いまよりつよくなりたい。僕は彼を背に歩みだす。
僕らの無力を、誰が本当に知っているだろう?
アウトロ
おいおい、
おまえの大切な、大切な、大切な、大切な、
プライドによ、
ちょっとツバ吐いたくらいで、
そんなに怒るなよ、
ベイビー。
黒いサングラスは、
かっこいいからさ。
自惚れるなよ、
おまえが眩しいわけじゃない。
これならもう、
おまえなんか見えないぜ。
(それでも
最高に愛してるよ、
ベイビー…)
ベリーグッナイ、
ベリーグッバイ。