2006年12月05日(火) 02時57分-T.S
今日は恋人達にとって待ちに待ったクリスマス。美由紀もそのうちの1人であった。
街中では1ヶ月前からツリーにイルミネーションが輝き、いっそう雰囲気を強くさせていた。美由紀はマンションに住んでいるため派手なイルミネーションはできないが、それでも部屋の片隅には30cmほどのツリーがあり夜には明かりが灯る。
「今夜が楽しみ」
今夜は恋人の拓也と食事をする約束をしていたのだ。今年のクリスマスはあいにく平日と重なり、社会人にとっては出勤する日である。さすがにクリスマスだからといって有休をとるといった者はいないだろう。広告代理店に働く拓也も例外ではなく、今日は大事な取引先のプレゼンだとかで朝早く出かけていった。
「クリスマスくらい休んでくれれば良いのに・・・」
美由紀は鏡に向かって呟く。
それでも、なんがかんだで嬉しくてしかたない美由紀。
美由紀は大手化粧品会社に働いていて、今夜は有休をとっていた。最近、2人の仕事が忙しくて帰る時間も遅くバラバラなことから会話はあまりしていなかった。
「もう、付き合ってから4年よね。確か告白したのもちょうどクリスマスだったっけ」
美由紀は思い出すように、誰もいないはずの部屋に語りかける。
その時、携帯電話がなった。
「もしもし。あ、里子。13時に駅前だよね。分かっているよ・・・うん。分かった。それじゃ後でね」
携帯電話をゆっくりとたたむ。今日は拓也の約束の時間まで大学時代の友人の片山里子と会うことになっていた。
美由紀は時計を見た。
「もう出かけてもいい頃ね」
そういうとベージュのコートを羽織り、マフラーをした。つけっぱなしのテレビをリモコンで消そうとした時、ちょうど天気予報がやっていて、今日は寒くなり雪が降る可能性があるという。それを確認したが「まぁ大丈夫よね」とテレビを消した。そして、待ち合わせの駅へと出て行った。
駅前では、恋人を待つ人たちの姿がちらほら見かける。
「なんだ、なんだ。昼間っからいちゃいちゃする気か。いいね~」
美由紀は少し苦笑いする。
あたりを見渡すとまだ里子は来ていない様だ。腕時計を確認すると13時5分前だった。
「美由紀。こっちこっち」
里子が手を振って走ってくるのが見えた。
「ごめん待った。」
「ううん。今来たとこだよ。久しぶりだね」
「ねぇ。どうする?ちょっと遅いけど食事でもしない」
「私もまだ食べてないの」
「じゃ決まりね。この先にいいお店があるのよ」
2人は思い出話をしながらそのお店へと向かった。
向かった先は、結構洒落たオムライスのお店だった。
店に入ると奥の席に案内されて、メニューを開いた。やっぱり店の一番人気はオムライスみたいで美由紀はそれを注文した。里子はきのこたっぷりクリームスパゲティーを注文した。聞くと里子はよくこのお店にくるらしい。
「しかし、本当に久しぶり」
「本当だよね。美由紀は仕事が忙しいから、なかなか会えなかったのよね。どう?拓也さんとはうまくいっているの」
「うん。まぁね。そっちこそ、就職した思えばすぐ結婚しちゃってさ。ビックリだよ」
里子は2年前に結婚をしているのだ。銀行に就職した後、同じ職場の片山融と付き合い、1年の時を経て結婚。今は1児の母なのである。
「結婚式以来だよね。赤ちゃんはどうなの」
美由紀がそういうと店員がメニューを運んできた。里子は水を少し飲みスパゲティーに手を伸ばす。
「もう大変よ。夜中突然泣いたりさ。でも可愛いよ」
「いいな。羨ましい」
「美由紀だって拓也さんとはもう4年くらいじゃない。そろそろ結婚も考えないと。やっぱり女は結婚してなんぼよ」
「そういうもんかな」
美由紀はオムライスを頬張る。
「そうよ。こないだ、あの久我夏美ちゃんも結婚したらしいよ」
「うそ。あのこが?だって私は仕事に生きるって・・・。あの眼鏡の無愛想な」
久我は大学時代同じ学科だった人で、どんなことでも笑わないことから冷徹女という呼び名がついた。学生のときも一切恋愛なんて興味なさそうで、いつも無愛想に過ごしていた。美由紀はそんな久我とは数えるほどしか話したことなく、そんな彼女が結婚なんてありえないと思った。
「それも、相手はIT関連の社長だって」
「へ~あの久我さんが・・・以外だね」
美由紀が苦笑いしたものの、内心焦る気持ちがあった。
昼食を済ませた2人はショッピングにやってきた。ここで美由紀は拓也のプレゼントを買いたいという。しかし、既に買うものは決まっているんだ。それは、つい先日のことだった――
「ほら、早くいかないと会社遅刻するよ」
美由紀が言った。
「わぁ。もうこんな時間だ」
焦る拓也は腕時計をはめている最中だった。
「その時計ずいぶん痛んでるわね」
美由紀の何気ない言葉だった。
「ああ。まぁ随分使っているからな。たまに時間がずれることがあるんだよな」
「そうなんだ」
「あ、遅刻しちゃう。じゃ行ってきます」
拓也はそう言い仕事へ向かった――
そう。あの日からプレゼントは時計にしようと思っていたのだ。美由紀も仕事が忙しかったためなかなか買いにいけず、やっと今日購入できるのだ。
里子にも一緒に見てもらって、拓也に合う時計を選んでもらう。あまりプレゼントはあげる方ではないから、こんなときこそ奮発しようと思った。
結局選んだのは、周りがシルバーの数字の3、6、9、12の部分に小さなダイアモンドが乗っているものにした。シンプルなデザインも気に入ったみたいだ。
美由紀は腕時計をみると既に18時を廻っていた。プレゼントだけではなく、下着や洋服などを見ていたのもあってこんなじかんになっていたのだ。
「それじゃ私待ち合わせしてるから」
「うん。今日は楽しかった。また遊ぼうね」
こうして2人は別れていった。
美由紀は拓也と待ち合わせをしたレストランに向かった。今日のためにと前もって予約をしていた人気ホテルのレストランをとっていたのだ。待ち合わせは19時で少し早めについたが、
席へ案内してくれた。
ここのレストランは16階に位置していて、そこの窓際の席をとっていた。そこから見る夜景はすごく綺麗ですでに街ではイルミネーションが光っている。
「綺麗」
そう言うと携帯電話がなった。相手は拓也でメールだった。
<ごめん。今先方と打ち合わせしていて、もう少しかかりそうだ。先に食べててもいいぞ!>
そう書かれていても、1人注文するわけにもいかず、待つことにした。
レストラン内を見渡すと結構若いカップルもいっぱいいた。彼氏はこのために頑張ったんだなと思う美由紀。
すでに、1時間が過ぎまた拓也からのメールが届く。
<わりぃ。もう少しだから・・・>
<早く来てね。>
そう返信をする。仕事だから仕方ない。そう美由紀は思うしかなかった。
しかし、さすがに2時間が経ち「お客様申し訳ないですが次のお客様が待ってますので」と店員に言われ席を立った。
店の外に出たが、もしかして来るかもと思い近くの座れそうな場所で拓也を待った。
「せっかくのクリスマスなのに・・・・」
美由紀は半分泣きそうな声で呟く。時刻は21時半を過ぎていて、いつの間にか雪が降り出し始めてた。美由紀はぎゅっと拓也のために買ったプレゼントを握った。なんだかすごく寂しくなってついに涙がポツリと落ちていく。
「なんか、前にもこんなことがあった気がする・・・。そうだ。初めて告白されたときも拓也、部活ですごく遅れて・・・。あの時、あったかいココアを私の頬にあてて・・・」
「待った・・・」
そう、このセリフ。・・・と思った瞬間、頭をゆっくりあげると息をハァハァと切らし、額には汗びっしょりの拓也の姿と温かいココアが美由紀の冷え切っていた左頬にあたった。
「ごめん・・・待た・・・せ・・た・・」
呼吸がきちんと整っていないが、拓也は言った。
今度は呼吸を整えて「ごめんな」と言った。
「もう、遅いよ・・・・」
美由紀はもう涙で目がいっぱいだった。そして、拓也が小さな箱をポケットから出し、美由紀の手と渡す。
「空けてみな」
言われるままにあけると、そこには小さいながらも1粒のダイアモンドが輝いたリングが入っている。
「遅れたな・・・4年経ったけど・・・」
その時、初めて告白された記憶が甦る。確かその後のセリフって・・・
「俺の妻にならないか・・・・・」
ずっと待っていた言葉だった。美由紀は涙がとまらなくてそれでも精一杯「うん」と頷いた。
「ごめんな。今日は楽しみにしてたのに・・・。さぁ左手出して」
そう拓也は言い、リングを左薬指にはめた。はめた途端、輝きはいっそう増したような気がした。
「帰ろうか・・・」
「うん・・・」
「ほら、冷えただろ。これでも飲めよ」
そう拓也は言って、まだ温かいココアを渡してくれた。